第10回 座・高円寺 ドキュメンタリーフェスティバル コンペティション部門の結果(審査員の講評を加えました)


2月6日から11日まで、座・高円寺で開催されていたドキュメンタリーフェスティバル。11日にはコンペティション部門の入賞5作品が上映された。

『キルギス共和国ナリン : 冬』 監督・構成:桑山篤
『Danchi Woman』 監督:杉本曉子
『つれ潮』 撮影・録音・編集:山内光枝
『ラーマのつぶやき 〜この社会の片隅で〜』 撮影・ディレクター:松原 翔
『ヤメ暴〜漂流する暴力団離脱者たち’18』 ディレクター:下野賢志

ラインナップの作品ついてはこちらから。

表彰式の模様。

上映後の審査の結果、

ヤメ暴〜漂流する暴力団離脱者たち’18』 ディレクター:下野賢志

2018年/69分/Blu-ray/カラー/CBCテレビ
ディレクター:下野賢志/ ナレーション:國村隼/ 撮影:安田耕治/ 音声:村上康平/ プロデューサー:大園康志 放送日:2018年11月25日

が選ばれた。受賞の挨拶をするCBCの下野賢志ディレクター。

なお、この番組は系列のTBSで表彰式当日2月11日の深夜2:05から放送された。

http://www.tbs.co.jp/tv/20190211_039A.html

コンペティション部門の受賞者。左から『キルギス共和国ナリン:冬』(2015年/122分/カラー/キルギスタン)の桑山篤さん、『Danchi Woman』(2017年/66分/カラー/Blu-ray)の監督、杉本曉子さん、『つれ潮』(2018年/90分/カラー/Blu-ray)の撮影・録音・編集:山内光枝さん。ETV特集『ラーマのつぶやき ~この社会の片隅で~』(2018年/59分/カラー/DVD/NHK)の撮影・ディレクター 松原 翔さん、『ヤメ暴~漂流する暴力団離脱者たち’18〜』(2018年/69分/Blu-ray/カラー/CBCテレビ)ディレクター:下野賢志さん。

 

審査員の講評は以下の通り。

足立正生さん(映画監督)

ドキュメンタリーがこういうことでいいのか、総論的な疑問を持っていたりするんでけども、このドキュメンタリーフェスティバルの「テレビ番組」と「自主制作のドキュメンタリー」でふるいわけないというスタンス、その基本的な姿勢は全員同じです。

そのうえで、僕が推薦したのは『ラーマのつぶやき』でした。これも教育番組としては、同時代の人あるいは若い人たちにぜひ観て欲しい番組です。じじいや大人の我々としては、じゃあその上でどうするのかということで、みんなが非常にいい意見を言いました。ラーマたちはシリア難民の中ではエリート中のエリートであって、あと二万人の難民認定を受けれないであくせくしている人たちがいることは忘れてはならないということ。そしてこの作品は、ラーマたちの家族の問題というよりは、家族を取り巻く日本のことが全面的に浮かび上がっているじゃないかというのが、非常に評価の高い点だったんですね。僕はそれに賛成です。

もうひとつ、推薦するのに『やめ暴』です。まさにほんとのヤクザなら刺青をしてヤクザの事務所から親分に対する忠義を教え込まれて、みんなそれなりに悪いこともするけど、大人になっていく。しかしこの番組に出てくるのは、そういう火遊びもしたこともない、ヤクザというよりも、落伍者という印象がありました。そのことを考えると僕なんかもいろんな例を出しながら話しましたけど…それはもう長くなるので省略しましょう。つまり、われわれも彼らに似たような存在で、そういうことを反映しながらみんなと楽しく議論させていただきました。

秋山珠子さん(立教大学アジア地域研究所研究員・字幕翻訳者)

『つれ潮』は、水上と水中を行き来するカメラというのが、このテーマ自体になっている。この被写体と撮り手のシームレスな関係というか、もう未文化とも言えるような一体となったような世界観というのがこの水上と水中を同じひとつのカメラで行き来して、しかも音も非常にきれいにつないであるというところが私は並大抵のことではない、繊細さがあり、そこに作者の手続きがあったんだろうなということを感じました。未文化の視点というのを映像と音であますところなく表現していたのではないかと感じました。

と同時に、海はそうやって複数のものを結びつけるものでありながら、さまざまな境界線が張り巡らされている場所でもあると思います。対馬であれば、それは国境そのもの。実際に明治期から要塞があったりとか、今も陸上自衛隊とか航空自衛隊の基地があるというような状況。今は韓国からの観光客がきてグローバル化していて、そこに展開していることも多くあるんじゃないかと思うんです。この映画はそういった境界線という観点はあまり感じるところはあまりなかった。フィクショナルともいえるような、こういった美しいシームレスな関係性の中に、そういったリアルな境界線のことが、もう少し垣間見えるならば、よりそのフィクショナルな美しさも際立つのではないかという気が少ししました。

海外で学位を取られたり、あるいは現代美術とドキュメンタリーという境界を行き来する作者ならではの新たな境界線の描き方というのが今後あり得るのではと期待しています。

松江哲明さん(映画監督)

『ラーマのつぶやき』という作品は冒頭から被写体である少女が自撮り棒を持って、同級生と話しているところから始まります。そのシーンを観ながら、ドキュメンタリーが、撮影と編集を含めてデジタル化が進んでもう20年になり、僕自身ドキュメンタリー作り始めたときやはりフィルムでなければいけないとか、監督自身がカメラを回すってことが主流ではなくて亜流だったんですけど、そういったことがなくなってきたんだなという風に思いました。

今回、監督自身がカメラをまわすという作品が多かったんですけれども、監督自身がカメラをまわすと、やはり現場で撮れたものと編集されたものがダイレクトにつながっている作品が多いなと思いました。僕はそれはいい部分もあり、また作品が編集でまたもう一回生まれ変わる機会がなくなってしまってるのもあるんじゃないかなとも思いました。

例えば、『キルギス』のポストダイレクトシネマというか、こう現場にいく迫力がすごく伝わってくるもの、これはやはり監督自身が行く強みだなと思ったり、例えば『ラーマ』も監督自身が行くから、こう被写体との関係性の作り方というのが従来の取材というよりも人間関係を撮らしていただくというふうに見えた。それがすごく今のドキュメンタリーなんだなと僕は思いました。

結果、大賞が『ヤメ暴』になったのは、作り方自体がオーソドックスというか、カットとカットをつなぐことであったりとか、あと取材力と構成力と演出力がやはり強烈だなと思って、『ヤメ暴』がひとつ抜けた理由はそこだったのかなと、審査会が終わった後に感じました。

今回5作品観させていただいて、作品を通して、いま自分自身が生きている社会が見える、今どんな世界で生きているんだろうっていうことが感じられました。現実を撮っているから、自分の現実と地続きで作品を通しながら自分が生きている世界を見ることができる。5作品を審査という形で観させていただいて、とてもすごく刺激になりました。また審査会自体がものすごく面白かった。ドキュメンタリーを見る面白さだけでなく、語る面白さというのを久しぶりに味わわせていただきました。

 

橋本佳子さん(映像プロデューサー)

大賞になった『ヤメ暴』もそうですけど、長時間まったく飽きることなく、もっと長くてもいいと思うくらい、『キルギス』に心をとても動かされました。小さなエピソードがいくつもいくつも積み重なっていくというスタイルをとっていまして、とくにそのエピソードの中に多くなドラマがあるわけでもないし、じゃあそのことが何か発展していって、最後にどうなるのかというでもないんですね。でもその小さなエピソードを見つめる視点がすごくしっかりしていて、どのエピソードも観るものに発見を与えてくれる。そして実はそのエピソード自体が巧みな編集によって構成されている。そんなやうまさと目の付け所が大きく心に残りました。長いので、観る前にすごく心配してたんですけども、もっと長くてもいいと思うくらいでした。
『Danchi Woman』ですけども、ひとつの団地のなかで、二人の女性をずっと長い間見つめてたんだということが後になって分かるんですけれども、それだからこそ撮れるそれぞれ二人の女性、そしての女性の抱えてきたいろんな人生ですとか、そういうものが全部その小さな団地の中だけで見えてしまう。そしてそこから、女性たちを通した日本の社会の変遷ですとか、今の日本の状況なんかも見えてくる。私はあの二人、とくにメインに切り出されていた二人の女性の姿ですとか、声ですとか、そういうことがやっぱり忘れがたく残って、いろんなことを考えさせられました。

 

佐藤信さん(劇作家・演出家・「座・高円寺」芸術監督)

『キルギス』について触れておきたいと思います。非常に長大な作品で、取材も長期に渡っていると思うんですけれども、なによりもやはり監督が撮影を兼ねていらっしゃるんですが、最後のポストプロダクションが非常にうまくいっている。押し付けがましさがない。つまり作家が観るものと大衆のあいだに入り込んでこない。非常に豊かな時間を与えてくれるという作品で印象に残りました。作品中に登場する羊飼いのちょっと年長の人とそれから若い子と出てくるんですが、その年長の人が、「ぼくらは記録映画に撮られてあっちに行くんだ」というのですが、その時のあっちというのは、もし私たちだとしたなら、一体何を彼らと話せるだろうかということを深く感じました。そういう時間、そういうカットがたくさん含まれている素晴らしい作品だと思いました。
『つれ潮』、『Danchi Woman』については女性作家が女性を見つめた作品です。今女性っていうのはほんとに生き方が根本的に変わっているわけですよね。生まれてから歩む人生が全く違う。これは、もちろん男性もそうなんだけど、男性はそういってもやはりある程度、たとえば昭和に生まれた人と平成に生まれた人の人生の歩み方、各年代で考えると全く違うということはないと思います。でも、多分昭和生まれの女性が平成の中に生まれたとしたら、すごい混乱すると思うんです。そういったまったく価値観が全く違ってるところでどう相手に寄り添うかという意味では、これからを考えさせる視点を与えていただいた作品だと思いました。

 

座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル 第10回 コンペティション部門

http://zkdf.net/competition/