求人業界大手マイナビが運営する総合転職情報サイト『マイナビ転職』と、動画による効果的な価値創出を追求するリチカが新たに立ち上げたサービス・『求人ハイライトムービー』。昨今の求人市場の動向もさらいながら、サービスの独自性とローンチに込めた担当者の思いを聞いた。

取材・文・構成:徳永

 

いま、求人に動画が求められる理由

近年、求人市場の各プロセスにおける動画コンテンツの活用が拡大している。
例えば、プロモーションビデオさながらに映像と音楽を巧みに組み合わせ、企業の魅力やプロダクト・サービスをスタイリッシュにまとめあげるブランデイング色の強い採用動画。または、企業のトップや社員の生の声を取り上げ、活字よりダイレクトに社風を訴えるインタビュー動画。近年新卒採用を中心に広がりを見せる説明会動画や、面接段階におけるオンライン面接も、コロナ禍を通してより一般的なものになったと言えるだろう。

マイナビ転職』と株式会社リチカが手がける『求人ハイライトムービー』は、『マイナビ転職』のページ内に30秒の求人動画広告を掲載できるサービスだ。昨年8月のローンチから5ヶ月間ですでに約350件の契約受注を記録するなどの反響を呼んでいる。

動画の作成にあたり、求人企業は通常の求人広告用の原稿を用意するのみ。手軽さに加えてコストも安価でありながら、高クオリティでキャッチーな動画を作成・掲載できる。

気鋭の動画コミュニケーション開発ツールを展開するリチカと、国内最大級の総合転職情報サイト『マイナビ転職』がタッグを組み、本サービスを生み出すに至るまでの道のりはどのようなものだったのだろうか。企画を推進した株式会社リチカのビジネスプロデューサー・妹尾浩充さんに伺った。

妹尾 もとは弊社からマイナビさんに、求人情報をシンプルにまとめたムービーを『マイナビ転職』で活用できないかと提案したことが発端でした。
『マイナビ転職』は、求人情報のテキストと静止画が中心の読み物ベースのサイト。求人情報を読み進めるという行為は、求職者が企業や職種に興味を持ち理解を深めていこうとする段階でならまだしも、まだ情報収集段階にいる求職者への訴求力はどうしても弱い。彼らの目に留まるためには、ファーストタッチで求人のポイントや企業の紹介を端的に伝えることが必要であると考え、弊社の『リチカ クラウドスタジオ』を活用した求人広告オプションの提案を持ちかけたのです。


妹尾浩充さん(株式会社リチカ / ビジネスプロデューサー)

リチカ クラウドスタジオ』とは、株式会社リチカの展開する動画コミュニケーション開発ツールである。利用者は既存の動画フォーマットから好みのものを選び、そこに表示させたいテキストや写真をドラッグアンドドロップ、あとは「動画生成」を押すだけで動画が完成。動画の知識がなくても、WEBに接続したPCさえあれば、企業の担当者自身が簡単に動画を作成できる。完成品はSNSや動画広告、幅広いマーケティングの用途で展開することが可能だ。


リチカ クラウドスタジオ

妹尾 マイナビさんからは以前より、動画を活用したサービスを模索する中でコストやスケジュール面での課題を感じているとのお話を伺っていました。『リチカ クラウドスタジオ』を用いれば、マイナビさんが求人広告作成のために準備する求人情報をベースに動画を作成することが可能なので、求人企業にとってのコストやスケジュールの課題感を解消できるはずだと考えたのです。
それでいて、マイナビさんにとっても負担するリソースは今までと同程度で済む。

「簡単」なだけじゃない。

既存の素材を吟味・最適化し、最小限の負担で動画が作成できる。『リチカ クラウドスタジオ』の持つ特性が求人広告市場の需要にマッチしたのだ。
しかし、様々な動画サービスが乱立する現在、動画作成時の手軽さを謳うサービスは少なくない。『求人ハイライトムービー』ならではの特色は他にもあるのだろうか。

妹尾 一番の特色は自動化とクリエイティビティの両立でしょうか。『求人ハイライトムービー』はフォーマットによる半自動的な動画生成を行ないますが、求人原稿をもとにした大事なポイントの抽出や、動画の構成は弊社のクリエイターが担っています。
求人に動画を用いる例はこれまでにもいくつかありますが、『リチカ クラウドスタジオ』は単に動画を簡単に作ることを目的にしたサービスではないのです。企業さまの抱えている課題感、KPIに対してどれだけの価値を与えられるかということを念頭に置き、手がけるサービスもそこから逆算して、最適な形で動画を提供するような設計となっています。
『求人ハイライトムービー』でも、動画を用いて『マイナビ転職』の販売する求人広告に付加価値を持たせることが目標です。完成イメージと仕上がりの齟齬をなくすため、サービス検討段階では5種類の完成品サンプルの中から最適なものを選んでもらうようにし、求人企業の負担軽減のため追加リソースを要求せず既存のフローの中からの素材を調達できるようにしました。これらの設計も最終的な目標に起因します。
例えば、海外へ発注するなど安価であることだけを追求したとしても、コストやスケジュール感の面で受注の寡多の変動に柔軟に対応することができなくなってしまうなどの問題が起こるケースもあります。
また、完全なAI自動編集などを用いて手軽さのみを目的としてしまうと、最終的な仕上がりが期待に沿わないこともあるでしょう。
簡略化するところは理にかなっているし、一方でクライアントが求めるものをベストな形で組み込むことも追求している。両方のいいとこどりを、『リチカ クラウドスタジオ』を使うことでできているのかなと思います。


『マイナビ転職』内、マイナビTVキャリア>おしごとサロン>求人のおススメポイントが30秒でわかる求人ハイライトムービーへ進むと動画の一覧ページが表示される

実際にサービスを導入した企業からはどのような反応があるのか。
『マイナビ転職』の担当者・佐々木さんにもお話を伺った。

佐々木 サービスを販売する中で、こんな低価格でこんなにしっかりした動画ができるのかと驚かれる方もいます。動画制作にはコストがかかるという認識はまだ根強いのです。
他にも、厳密な効果測定は今後行なっていくものの、導入していただいた一部の企業さまからは「求職者の質が上がった」「採用要件にマッチしたターゲットからの応募が増えた」「求人情報を理解した上での応募者が多かった」とのご感想もいただきました。

『マイナビ転職』が動画を用いたサービスを手がけるのは今回が初めてではない。

佐々木 弊社の新卒を対象としたサービスでは10年間ほど動画の活用を行なっています。『マイナビ転職』でも4、5年前から動画活用を始めていましたが、あくまでWEBセミナーや会社説明会での使用に留まっており、求人広告におけるさらなる動画活用の広がりを模索していました。
求人企業に取材を申し込み、会社の雰囲気を動画に収めるような動画サービスを展開したこともあったのですが、どうしてもコストが上がってしまう点や、企業側に時間や手続きで労力を要求せざるを得ない点から、注目度はあったものの多くの企業さまにはマッチしないという課題に直面してしまいました。
そのような中でリチカさんから『求人ハイライトムービー』のお話をいただきました。

動画に手を出せなかった企業にこそ使ってほしい

5Gの本格導入を目前に据える今、求職者にとってテキストよりもハードルが低く、印象にも残りやすい動画広告が効果的であることは求人企業からしても明らか。しかし、コスト感やスケジュールでの課題感を覚え、導入に踏み切れない中小企業は多い。

佐々木 採用広報や動画活用が重要であることはわかってるのに、コストが合わない、勇気がない、数多くある求人情報の中で目立てるか不安を感じている企業さまの背中を押せるサービスを作りたかったのです。現に『求人ハイライトムービー』を契約して下さった企業さまの多くが、これまで動画サービスには手を出せていなかった中小企業の方々です。求人費用をそこまでかけられない企業さまによって成り立っているのが求人広告業界。どうしたらそこに刺さるかは常に考えていたことでした。
『求人ハイライトムービー』は、低コストながら伝えたいことをピンポイントで訴求できる求人ツールであり、かつ、リチカさんによる動画のクオリティは高いものです。ブランディング色の強い求人動画広告と比べ、その点で差別化もできているのかなと思います。


マイナビ転職
https://tenshoku.mynavi.jp/

『求人ハイライトムービー』には動画が一覧で表示されているページからの導線と、求人原稿内から動画へ飛べる導線という2つの入り口が設けてられている。意外なことに、双方のクリック率は同程度だという。

佐々木 『求人ハイライトムービー』には2つの役割があります。ひとつは動画を見て興味を持ってもらい、求人ページに誘導すること。もうひとつは、応募前最後の意思決定の時に見返してもらうことです。
『マイナビ転職』に登録している求職者は6〜7割が在職中の方。転職活動に費やせる時間に制限がある人も多く、実は応募までのハードルというのは非常に高いのです。応募の前に興味を持った企業をリストアップし、そこから本当に注力したい企業を選んで応募に進むという手順を踏む方も多い。
まずは通勤時間やお昼時に手早く動画で求人情報をチェック。ある程度志望企業が絞られてきた段階でもう一度動画を見ることで、手短に求人の特徴を復習し、より理解を深めてもらうような利用をしてもらえればと考えています。

最初の興味喚起と最後の応募までの意思決定。その両方でサービスが活用されていると言えるだろう。

当たり前になっていく動画のこれから

日々変化していく求人市場のニーズに答えるように生まれた『求人ハイライトムービー』。昨年から続く新型コロナウィルスの蔓延という事態も、求人市場にも大きな変革をもたらしたという。

佐々木 コロナ禍における求人業界の一番大きな変化は、選考の方法と基準に現れているように思います。今までは、まず人事担当が対面で面接、次に現場担当が面接して、というフローが主流でしたが、現在では対面で面接をする意味を考え直す企業さまが増えました。最終面接以前はオンラインでいいと判断する企業さまも多いです。
また、求職者アンケートを見ると、彼らが企業を選ぶ時の基準も変わってきているということがわかりました。例えば、コロナ対策が求人原稿に記載されているか気になる。また、面接に進むための連絡段階で「オンラインでもいいよ」と言われないと不安を感じる、などの声がありました。
つまり今の求職者は、いかに従業員のことを大事に思ってくれるかということをとても重要視しているのです。

実は、コロナ禍になってから求職者の動きは活発化している。生活が制限され、実際に企業に足を運ぶことができない状況で、より良い企業を求める彼らにとって、効率よく求人情報に触れられる『求人ハイライトムービー』はありがたい存在だ。
コロナ禍で選考フローが変化した今、オンライン主体の選考前にしっかりと企業のことを知ってもらいたい企業側にとってもそれは同様である。

今後の展望を妹尾さんに伺った。

妹尾 以前は大手しかできなかった動画による訴求という手段が、これから中小企業にとっても手の届くものになっていきます。そうすると、動画であること自体は価値がなくなり、そこをスタートラインとして中身で何を訴求するかという部分に企業としての個性が出るような時代になるのだろうと考えています。どれだけかっこよくて、いいねがつくような動画であっても、伝わらなければ価値あるコンテンツとは言えないと我々は考えます。コミュニケーションの様々なフェーズにおいて、どのような価値を提供できるか。さらに深めていきたいですね。

『求人ハイライトムービー』サンプル動画