動画性能においてこれまで高い評価を得てきたGHシリーズが、この度GH7として大幅に進化した。結果として、GH7はマイクロフォーサーズ動画機の完成形に近いと言っても良いスペックとなっている。公式映像作品『A Wave in Time』の制作事例を通して、その魅力に迫ってみたい。

映像・文●Osamu Hasegawa/構成●編集部 萩原



GH7の主な進化点

パナソニック LUMIX GH7
オープン価格(実売274,230円)ボディのみ

パナソニックMFT規格のフラグシップモデル。ProRes RAWの内部記録をはじめ、S5 IIから採用された像面位相差AFにも対応。AF被写体検出も進化している。XLRアダプターを使用すればカメラ内で32bitフロート収録にも対応する。また、アドビFrame.ioとの連携も強化。

SPEC●レンズマウント:マイクロフォーサーズ/撮像素子:4/3型 裏面照射型CMOSセンサー(総画素数 約2,650万画素、有効画素 2,520万画素)/ラチチュード:13+ストップ(センサー出力60fps以下)、12+ストップ(センサー出力61fps以上) (V-Log)/手ブレ補正方式:撮像素子シフト方式、5軸補正、Dual I.S. 2対応/モニター:  3.0型約184万ドットモニター(アスペクト比3:2)/記録メディア:CFexpress Type Bカード・SDXCカード/外形寸法:W約138×H約100×D約99mm/重量:約721g(本体のみ)

GH7 公式PV『A Wave in Time


パナソニック公式映像として公開されたOsamu Hasegawaさんによる映像作品。GH7で搭載された新機能を駆使して、作り上げられた1本。


GH7 公式PV BTS『BTS of “A Wave in Time”


Osamu Hasegawaさんが作品制作を通じて感じたGH7の魅力について、本編の映像も交えながらインタビュー形式で語るBTS映像。


圧倒的なRAW映像のクオリティ

今回のGH7で最も特筆すべきアップデートは、ボディ内部でRAW動画が記録できるようになったことだ。前モデルのGH6でもATOMOSやブラックマジックデザインの外部レコーダーを使用すればRAW記録は可能だったが、それはマイクロフォーサーズ(以下MFT)の利点であるシステム全体での小型軽量性という大きな特徴が失われることと引き換えの拡張システムだった。

GH7で実現したボディ内RAW記録とは、具体的にはProRes RAWで最大5.8K/30p(4:3センサーフルエリア)、5.7K/30p(17:9)といった6K近い解像度から、C4Kでは60pで記録できる。それぞれノーマルのProRes RAWと、より高ビットレートのProRes RAW HQが選択可能だ。

今回の作品のようにフッテージ数の多い撮影の場合は、ビットレートが控えめなノーマルのProRes RAWがおすすめだ。12bit ProRes RAWの動画では、①10bit Logとは一線を画したシームレスで美しいグラデーション(バンディングのなさ)、②色補正耐性/カラーグレーディングの自由度、③マスク処理の正確性、④ノイズ処理耐性を体感できる。

①に関しては、例えば日没前後や日の出前後の時間帯に、青系とオレンジ系の色が空に共存している際に、12bit RAWでは本当に美しいと思えるシームレスなグラデーションが描ける。また、青一色と思える空においても、青の明暗のグラデーションが美しく描き出されることで、空の青というのが同色の面ではないということを体感できる。このカメラのRAW映像で美しい空のグラデーションをはじめて確認した時、私は大正〜昭和戦前期に活躍した浮世絵版画家の川瀬巴水の作品を見ているかのように感じた。

もうひとつ12bit RAWと10bit Logで大きく違いが出るのが水面の描写だ。12bitでは色がしっかりと乗るが、10bitでは濁った色が強く出てしまう。隅田川の早朝の川面には、空の青から朝陽の方角の淡い色のグラデーションと川辺のビルが鮮やかに映し出されていた。夕景の海辺の磯の水たまりも、しっかり夕日の色が入っていた。

5.7K ProRes RAWで記録。10bit Logではここまで美しい水面のリフレクションやなめらかなグラデーションは出せない。

水たまりに鮮やかな夕日の色が反映されているのは、RAW素材のカラーグレーディングならではの画質。10bitでは、ここまで色が出てこない。

日の出が始まりかけている。朝日が昇る周辺がオレンジになり始め、遠くの周辺はまだ薄暗く青い空が残っている。色相環上の補色の関係がシームレスなグラデーションで繋がっている。10bit Logでは多少バンディングが発生してしまう状況だ。



ダイナミックレンジ・ブースト×RAW映像のクオリティ

RAWのグラデーションの美しさについて触れたが、グラデーションには2種類ある。かみ砕いて言うと、「色のグラデーション」と「明暗差のグラデーション」だ。後者のグラデーションが美しく描ける理由として、GH7ではRAW以外にも理由がある。それは「ダイナミックレンジ・ブースト」の効果だ。

これは動画記録においてリアルタイムHDR合成処理をしているようなもので、マイクロフォーサーズながらフルサイズ機と合わせて使用しても遜色ない13+stopのダイナミックレンジが得られる。GH6ではこの機能はV-Log時にISO2,000スタートという条件つきの機能だったが、GH7からはベース感度(V-LogではISO500)から自動的に作動するようになった(ON/OFFの操作は不要)。このダイナミックレンジ・ブーストとボディ内RAW記録の掛け合わせによって、明暗差のあるグラデーションを積極的に狙うことができたし、実際の撮影結果として満足のいく美しい表現が得られたと感じている。

外部レコーダーの接続なしに、内部スロットのCFexpres s TypeBに直接RAW動画記録ができることのメリットは大きい。外部レコーダーがなければ手持ち撮影でトリッキーなカメラワークができるし、トップヘビーになると手ブレが助長されがちだがそれも解消される。さらにHDMI端子まわりのパッキンが閉じられているので、雨や風の強い日でも本来の防塵防滴の効果を発揮できる。また外部レコーダー用のバッテリーも減るので、移動しながらの撮影においては大幅な負担軽減となる。

作品制作を通じて見つけたGH7とレンズの組み合わせ

ProRes RAW記録は、5.8Kと5.7Kはノンクロップだが、フレームレートは30pまでとなる。一方で60pまで記録可能なC4Kにおいてはpixel by pixelとなり、約1.4倍程度クロップされる。例えば、LEICA 10-25mm F1.7レンズは35mm換算で約28-70mmのレンズ画角となる。実はこれが人物撮影で使用する場合には実にちょうどいい焦点距離となることが分かった。

また、クロップで特に画角的に問題になるのは超広角域だが、今回はLAOWA 6mm T2.1 Zero-D MFT Cineという小型シネマレンズを使用した。このレンズにはシネレンズ仕様ではない普及版も発売されており、GH7の4K/60p RAWでは35mm換算で約17mm相当のレンズ画角として使用できるのでとてもおすすめだ。

おすすめの理由は画角のみでなく、このレンズは中心はF2相当(T2.1)の明るいレンズだが、周辺にかけてそれなりに大きく減光が見られる。しかし、この減光は周辺のみが急激に減光するのではなく比較的中心域から減光がはじまっているおかげで、雲のないフラットな青空を写したときに単調になりがちなトーンを立体感のあるグラデーションの空にしてくれて、RAW記録と合わせることで、とても美しい空の描写となる。レンズの特徴とカメラの特徴を合わせることで、その組み合わせでしか得られない描写を発見できるのはとても得した気分だ。

像面位相差方式となったGH7のAFは、速くて正確だった。これまでGHシリーズと明るいMFレンズの組み合わせを使うことが多かった筆者だが、純正のAFレンズを積極的に使っていきたいと思った。広角から標準域においては、LEICA 10-25mm F1.7というユニークな焦点距離のレンズが今回の撮影では大活躍した。また、中望遠域においてLEICA NOCTICRON 42.5mm F1.2の美しさに改めて感心させられた。人物撮影の場合、今後はこの2本が私の撮影の中心的なレンズになりそうだ。

像面位相差AFに加え、認識対象の被写体選択肢も増え(左参照)、より一層精緻なオートフォーカスになった。乗り物の場合は認識させたい面を2種類の選択肢の中から選ぶことで高い精度となっている。これくらい小さくてもAFで認識対象「車」→「正面」が機能し、対象を追従し続けた。

公式PVの中で使用した主なレンズ



LAOWA 6mm T2.1 Zero-D MFT Cine
4K/60p RAW収録時35mm判換算で約17mm。ワイドな画角はもちろん周辺減光がレンズ中心部から始まるため、フラットになりがちな青空に程よいグラデーションがかかる。


  

LEICA DG VARIO-SUMMILUX 10-25mm / F1.7 ASPH.
4K/60p撮影時、35mm換算で約28-70mm。広角から標準域の人物撮影で使い勝手がよかった。

LEICA DG NOCTICRON 42.5mmF1.2 ASPH. / POWER O.I.S.
作品のなかでは主に中望遠域でのポートレートショットに使用。描写力の高さに改めて感心。




32bitフロート録音と像面位相差AFの組み合わせ

別売のXLR2マイクロホンアダプターをホットシュー接続で使用することで、32bit フロート録音が可能となる。また周波数としては、最大96kHzのハイレゾ録音が可能だ。これが像面位相差AFと組み合わされることにより、これまでは複数人で協力しないと難しいと思えたショットがワンマンで可能だった。すなわち、音声の入力レベルを気にすることなくカメラワークに集中することができた。しかもRAWの圧倒的な映像美のアウトプットと組み合わされることで、ひとりでできることの幅と達成できるクオリティの両方が劇的に向上すると感じた。これは、予算の限られた少人数制作においては、カメラの進化が制作の現場において大きなイノベーションになると実感したシーンだった。

人物被写体との距離が変化したり、背中からぐるりと回り込んでもAFは終始正確に追従した。LEICA NOCTICRON 42.5mm F1.2の描き出す美しいく滑らかな描写とRAW画質・グレーディング耐性が、本格的なシネマ機材と比べても遜色ない世界観へと連れて行ってくれると感じた。ジンバルはDJI RS3を使用。シングルハンドのジンバルとカメラとラベリアマイクを組み合わせることで、これまでカメラマン、フォーカスプラー、音声録音/ブームマイク担当と、少なくとも3名の技術者が必要だったところ、ワンマンで済んでしまうことになった。ラベリアマイクセットは、ゼンハイザーAVX-MKE2。レシーバーが非常に小型で、ジンバル使用時のバランス的にも問題ない。

XLRアダプターも進化!

XLRマイクロホンアダプター「DMW-XLR2」。XLR端子を2ch備え、コールドシューに取り付けることでカメラ本体で32bitフロート収録が可能になる。


像面位相差AFに加えて被写体認識も進化

GH6ではコントラストAFだったが、GH7には像面位相差AFが採用された。さらに被写体認識の選択肢も増え、追従する部位の選択も可能になった。


さらに強化された手ブレ補正

既にGH6からとても強力な手ブレ補正を搭載していたが、GH7ではそれがさらに進化した。数値的にはボディ内だけでも最大7.5段の手ブレ補正を実現しているが、単に数値では表せない面においても実は大きく進化している。

望遠側においては、レンズ内手ブレ補正のある純正レンズと通信制御することでさらに2軸の補正が強化され、広角側においては、電子手ブレ補正をONにすることによって、歩き撮りの際に画面周辺に起こりがちな歪みをリアルタイムに内部処理で解消してくれるので、ものすごく自然で滑らかな歩き撮りが実現できる。これは本当に感動の域と言ってもおおげさではない。

後者については、RAWやバリアブルフレームレートでは作動しない点は注意が必要だが、通常の4K/120pとの組み合わせでは作動するので、歩き撮りだけにとどまらず、よりクリエイティブな使い方の提案として、24pベースで20%のスローモーションと合わせて使うことで自由アングルのスライダーやジンバルショットが手持ちで撮れてしまう感動を味わえる。

写真クオリティの高さ →タイムラプスの美しさ

映像用途においては、タイムラプス撮影の観点から写真のクオリティにも常に着目している。その点、GH7の写真画質は1枚の写真として見てもとても美しいと感じた。特に都心から1時間半の湿度もそれなりにある海辺の星景写真のタイムラプスがノイズも少なく天の川がしっかりと撮影できたのには感動した。

タイムラプス用に撮影した写真の一コマ。

総評

GH7は、32bitフロート録音がアダプター経由でカメラ内記録できることとオートフォーカスが像面位相差になったことで、ドキュメンタリー撮影ではミラーレス/コンパクトシネマ機において最強となったのは間違いない。しかし、LEICA NOCTICRONと合わせたときの描写やRAW映像の品質とグレーディング耐性の高さなどを感じた今、演出系の映像においてもプロユースのカメラとして胸を張って使用できるクオリティのカメラだとつくづく実感した。





VIDEO SALON 2024年8月号より転載