パナソニックLUMIX S1Hのある現場から〜曽根隼人さんの場合(前編)


S1Hはシネマカメラとして見れば、非常にコストパフォーマンスが高く、なおかつ小型軽量である。そんなS1Hをディレクターであり、プロデューサー、ビデオグラファーとしてTVドラマ、MV、WEB CM動画など幅広く手がける曽根さんに少人数のスタッフ体制によるマルチカメラのシチュエーションで試してもらった。

 

取材・文●山崎ヒロト(Heatin’ System)協力●パナソニック株式会社

 

 

anre*f /『aether』MV

SEKAI NO OWARI、米津玄師、ももいろクローバーZのバックダンサー、振り付け師としても活躍するKAi MiWAさんのダンスパフォーマンスを撮影。音楽、衣装もこの撮影のために制作した。

音楽:anre*f (菅原一樹 / anre*f Inc. )/ダンス:KAi MiWA/企画・監督・撮影:曽根隼人(4thFILM)/撮影・照明:山崎悠次/衣装:中村実樹 (room6)/ヘアメイク:村井政章/制作:今井太郎、佐原孝兵

 

 

一眼だがシネマカメラクオリティ
今まで諦めていた撮影がS1Hで可能に

 

まず、S1Hの率直なファーストインプレッションを教えてください

小型なのにルックに対してのパフォーマンスが高い、これがS1Hの一番の強みだと思いました。僕らの世代(※編注 曽根さんは1986年生まれ)のビデオグラファーたちは、一眼動画の第一世代で、ラージセンサーのカメラを武器にしてきた背景があって、従来までのベテランカメラマンがあまり使わなかった被写界深度が浅いカメラをぶん回しても画をきれいに撮れることがキャリアの突破口だったんです。S1Hはフルサイズ一眼でありながら、ルックをかなりシネマカメラに寄せてきた。パナソニックがいよいよ勝負しにきた、という印象を持ちましたね。

 

今回はマルチカメラ撮影でS1Hを試してもらいましたが、なぜマルチなのでしょうか?

一眼だけどシネマカメラクオリティ。それならシネマカメラ1台の代わりに、S1Hを3台揃えるのはどうだろう? という趣旨です。シネマカメラ1台の値段はおよそ100〜200万円。この予算があればS1Hを2〜3台用意できます。例えば、MVのようにマルチカメラで回さないといけない現場でも、予算的な制約によってシネマカメラを複数台用意することは困難です。ここで意外と重要なのが色合わせの問題。シネマカメラと一眼を併用する場合、たとえ同じメーカーのカメラを使っても完全に色を合わせるのにはかなり時間がかかります。ルックのレベルをより良くする時間は惜しまないけど、色を合わせるだけの作業に時間をかけたくない…これがクリエイターの本音だと思います。当たり前ですけど、3台のS1Hを同じ画づくり、同じ設定で撮れば色は合うので、ルックにより注力できるのが大きな魅力です。あと、シネマカメラに比べてS1Hは小型でRoninなどのジンバルと相性が良いので、メインカメラの特機のバリエーションが増えて、なおかつ付け替えがラク…というか、この場合は3台ともメインカメラだから、セッティングの時間をかなり短縮できます。

 

3台をそれぞれどのように使い分けましたか?

ダンスの映像で、かつ曲がアップテンポになる部分があるので、そこは細かくカットを割って、ダイナミックにカットを変えたかったんです。三脚でフィックスしたヒキの画、手持ちのヨリ、スタビライザーによる前後移動、さらに上空の軽量クレーンによる真俯瞰からの上下の動き…このバリエーションがほしかった。軽量クレーンにはサイズと重量の制限があるので、普段これを使うときは他の一眼を使っていたんですが、そうなると8bit収録が限界じゃないですか。なので、僕の中では真俯瞰をどこか諦めている節があって、映像の質を落としてクレーンか、ドローンでやるか、その二択でしたけど、S1Hは10bit収録できるので、軽量クレーンならではの真俯瞰のダイナミックな動きと映像のクオリティを両立できる。新しい選択肢が生まれた気がします。

 

クレーン、ジンバル、手持ち&フィックス撮影の3台体制で運用

 

アナモフィックレンズも導入


CMやMVでの使用例が増えているアナモフィックレンズを導入。ATLASレンズのOrionシリーズはコストパフォーマンスが高く、人気を集めている。今回はEFマウントのものをマウントアダプターを介してS1Hに装着。東洋レンタルから40、65、100mmの3本をお借りした。リグに乗せて手持ちと三脚に据えて、フィックスの画も撮影。

 

▲ATLAS Lens Orion 100mm T/2.0アナモフィックレンズ

▲シグマ35mm F1.2 DG DN

▲ATLAS Lens Orion 100mm T/2.0アナモフィックレンズ

▲ATLAS Lens Orion 40mm T/2.0アナモフィックレンズ

 

長さ8mの軽量クレーンQUICKRANE



カメラマンの大橋次郎さんが開発したカーボン製アームの軽量クレーン・QUICKRANE。今回の撮影では8mを使用。この長さのクレーンだと大掛かりになるものが多かったが、一人でもオペレーションできる。ヘッド部分にRonin-Sが取り付けてあり、付属ケーブルでRonin-Sのグリップを手元に延長し、パン・チルトの操作も可能。小型モニターで映像を見ながら操作できる。3kgまでの重量を搭載でき、S1Hとの相性もよい(01TECH取り扱い)。

 

ジンバルに載せて遊動的に

3台目はRonin-Mに搭載し、ヨリとヒキの画を遊動的に移動撮影。

 

 

 

現場で感じたS1Hならではの強み

現場で気づいたS1Hならではの魅力は?

HDMI端子と干渉しないモニターは使いやすかったですね。他の一眼はケーブルに引っかかってモニターが動かせないことも多いですが、それが解消されていました。重さに関しては、ミラーレス機にしては少し重量を感じましたが、僕は普段からシネマカメラを手持ちで回しているので、まったく気にならなかったです。MVは撮り始めたら3〜5分は回し続けます。けど、シネマカメラ×ジンバルは重すぎて、正直1分半ぐらいが限界(笑)。逆に軽すぎると手の微振動を拾って気持ち悪い手ブレ感が映像に出るんですけど、S1Hはそれに反応しないちょうど良い重量で、現場でも使いやすい重さでした。

 

LUT適用後の最終形に近いルックを現場で見られるビューアシスト機能はいかがでしたか?

Logで収録すれば現場で満足して、あとはカラーグレーディングで…と思って、実際グレーディングしてみると上手くいかないってことが多い。Logはあくまでデータとしてのレンジが残っているだけなので、ライティングの陰影感や明暗のバランスは現場でしっかり作らないとダメなんです。あまり知られていないテクニックですけど、Logで撮る時はLUTを2回当てるほうが良くて、ひとつはLogの眠たい画をノーマライズさせて“普通の見た目”にするインプットLUT、もうひとつはそこに演出を加えるアウトプットLUTですね。例えば、REC709に戻すLUTを当てた後にフィルムっぽい質感のLUTを当てる、とか。ふたつ当てたらギトギトにコントラストがつくので、最終的にフィルムっぽく仕上げようとすると、ライティングがものすごくシビアになってくる。今回はS1Hのビューアシスト機能とSHOGUN INFERNOでふたつのLUTを当てましたが、現場で最終的なルックのイメージに近づけられるのが良かったです。

 

今回はナイト撮影で光源も限られていたのでデュアルネイティブISOが活きたと思います。

一眼ではレンズ交換の際に煩わしいのでNDフィルターを極力使いたくないし、ダイナミックレンジを活かせない標準感度以外の感度で撮りたくないです。S1HはISO640と4000のデュアル(V-Log撮影時)で、今回の作品ではヨリのカットは深度を浅くするために開放気味にして640、ジンバルの画はパンフォーカス気味で4000にしたんですけど、これがすごく助かった。撮影場所の森はかなり広範囲でしたけど、HMIみたいなデカい照明は持っていけなくて、すべてLEDのみのライティングでしたが、640と4000があれば全然ライティングできちゃう。S1Hの暗所撮影の強さを感じました。

 

撮影現場で役立ったS1Hの機能


今回の撮影ではパナソニックで配布している「VARICAM LUTライブラリ(※)」を当てて撮影。さらにアトモスSHOGUN INFERNOでDaVinci Reso lve内蔵のFilmLooksのLUTを当てて、最終形に近いルックを現場で見られた。S1Hで外部LUTを読み込むためにはWEBサイトからダウンロードしたものをSDカードのルートディレクトリに入れて、8文字以内の英数字にリネームする必要がある。今回は「Fasion2」というLUTを使用した。

 

暗所の撮影ではデュアルネイティブISOが活躍した。2系統のベース感度を自由に切り替えでき、標準感度(ダイナミックレンジが一番広く撮れる感度)はISO640と4000。暗所に強く、ノイズを抑えた撮影が可能になっている。

 

今回、アナモフィックレンズを使用したため、他のレンズも2.35:1のシネスコのアスペクト比に揃えた。「動画フレーム表示設定」を使うと、様々なアスペクト比で画角を見られる。

 

 

MVを彩る小道具たち


LEDライトはビバホーム(ホームセンター)で6000円で購入し、ヨドバシカメラで購入した照明用フィルム(POLY COLOURカラーフィルター #57)を貼り付けた。スモークマシンも導入し、神秘的な雰囲気を演出した。

 

※「VARICAM LUTライブラリ」のWEBはパナソニックがハリウッドのカラリストと開発した35種類のLUTをダウンロードできるhttps://pro-av.panasonic.net/jp/cinema_camera_varicam_eva/support/lut/

 

VIDEOSALON 2020年1月号より転載