【レビュー】ProRes 422 HQでの収録が可能なDJI Mavic 3 CineはInspire 2にどこまで迫れるか?


DJIの折りたたみドローンのフラッグシップ機Mavic 3。そのラインナップのひとつにProRes 422 HQが撮影できるMavic 3 Cineがある。通常版ではH.264、H.265収録のみとなるが、ProRes 422 HQ収録はレンズ交換式ドローンInspire 2にどこまで迫ることができるのか?

レポート●稲田悠樹(コマンドディー)

 

先に公開したMavic 3のレビューに続き、自腹で購入したMavic 3 Cineが届いたのでレビューをしていきたい。通常のMavic 3とCineの違いは、「AppleProRes422HQでの撮影が可能」「ドローン本体に1TBのSSDが内蔵」「RC Proという高輝度ディスプレイ搭載した送信機が同梱(通常の送信機は付属しない)」「オプション品がふたつ増えて、NDフィルター64/128/256/512のセットとSSDのデータ転送用に10Gbps 高速データ転送ケーブルも付属」という点だ。

 

価格としては、DJI Mavic 3 Fly More コンボが341,000円。DJI Mavic 3 Cine Premium コンボが583,000円と差額が、242,000円となる。ちなみにRC Proは単体でも販売されており132,000円。

 

Apple ProRes 422 HQについて

Mavic 3 Cineモデルでは、Apple ProRes 422 HQコーデックに対応し、最大ビットレート3772Mbpsを実現している。

ProRes 422 HQで録画する際は、「設定」→「カメラ」の項目に「ProRes」が追加で表示されるので、そちらを選択すればOK。収録先は内蔵のSSDしか選択できず、microSDを挿入していても両方に収録することはできない。

 

 

映像の質について

Inspire 2で撮影した映像からの切り出し
Mavic 3 Cineで撮影した映像の切り出し

Inspire 2のProRes 422 HQとの比較。できるだけ条件をそろえるために、Mavic 3 Cineの広角は24㎜なので、Inspire 2も同じX5s(マイクロフォーサーズ)で、かつ換算24㎜のレンズ(オリンパスM.ZUIKO DIGITAL ED 12mm F2.0)で撮影した。

●撮影データのサンプルはこちら

Mavic 3 Cine(ProRes 422 HQ)/Inspire 2(ProRes 422HQ)/Mavic 3(H.265)

当然大きな違いを感じることはなく、Inspire 2からMavic 3へ乗り換えが確定した。強いていうならInspire 2はレンズを交換することができるため、好みのレンズの質感を求めることや、焦点距離が選べるという点では優位性がある。ただし空撮で求められがちな広い絵は24㎜で充分こと足りる場面がほどんどではないだろうか? Mavic3では、換算24㎜+Proresでは撮影できないが162mm INSPIRE2では、レンズ交換(私はオリンパスM.ZUIKOシリーズ)によって換算24/50/90mm が利用できるので、Mavic 3で24mmを利用しInspire 2で50もしくは90mmを利用するというボディ2つ体制で現場で即座に入れ替え可能という使い分けをしていくことになりそうだ。

 

内蔵SSDとデータ転送について

上記のデータを記録するためにドローンの本体内部に1TBのSSDが内蔵されている。これは5.1K/50fpsでProRes 422 HQで10秒Recした場合は、データは約3GBになるので、1TBの内蔵SSDでは55分ほど録画できることになる。内蔵のSSDからデータを抜き出すには、同梱されている10Gbps 高速データ転送ケーブルにてPCと接続すると外部SSDとして認識されデータをコピーすることが可能。転送速度については、7.4GBのデータが約10秒で転送できた。ただし毎回ドローン本体の電源を入れてPCと接続するのが面倒と感じる人もいるかもしれない。

個人的には内蔵SSDの容量が1TBあり、H.264やH.265にて記録する場合のストレージとしてはなかなかの大容量となるため、そもそもmicroSDカードを使わないという選択肢もありではないかと思った。忘れもの対策になるし、microSDカードに比べてPCへの転送速度も早いので、カット数が多い場合は、ドローンの電源入れる手間と転送速度を天秤にかけて、転送速度で時短になる気がする。

 

 

液晶一体型送信機RC Proについて

Mavic2シリーズのときにも用意されていた高輝度スクリーン一体型送信機のスマートコントローラーが、バージョンアップしRC Proと名前が変わって同梱されている。

次世代プロセッサーを搭載しており、旧型のDJIスマート送信機と比較して、DJI RC ProのCPU性能は4倍に、GPU性能は7倍にそれぞれ増加し、タッチの反応やレスポンスなど使い勝手が段違いに良くなっている。ちなみにシステムのベースはAndroid10になっており、ブラウザのfirefoxも入っている。

また、高輝度スクリーン(1000nit)のため野外でも明るく見ることができる(この点は旧型スマートコントローラと同じ)。さらにシステムのパフォーマンスが向上し、消費電力は少なくなっているので、長時間使用することができ、伝送システムの性能も全体的に改善されている。

 

端子については、Mini-HDMIポート(4K映像出力対応)×1、microSDカードスロット×1、USB Type-C ポート(映像出力、外付けmicroSDカード、充電に対応)×1を搭載している。

 

使用感としてはスティックが通常の送信機よりバネが軽く感じる部分はあるものの、画面も内蔵されグリップ感もよく使いやすい。また一番のメリットと感じている点は、Mini-HDMIで出力できるため、クライアントモニターに出しながら撮影できることだ。

また、通常の送信機と違い、ボタンが増えており、真ん中右側の「5Dボタン」で上下左右押し込みの5つショートカットを割り振ることができる。私は以下の画像のように割り振ったのたが、それにより液晶をタップすることなく変更ができるため、わざわざいくつか画面をタップせずにシュートカットできるのが便利だ。

今の段階では、違いを感じることは無かったのだが、映像伝送に関しても通常の送信機よりもアップグレードされており、最大ダウンロードビットレートが通常の送信機RC-N1送信機では、5.5 MB/s、DJI RC Proでは、15 MB/s、映像の遅延についてもRC-N1では、130 ms、DJI RC Pro 120 msとRC Proのほうが遅延や質においてスペック上は強化されている。

 

充電について

RC Proの充電については、USB-Cに対応しているのだが、充電器によって充電時間が変わってくる。完全に充電するには、12V充電器を使用する場合は2時間、15V充電器を使用する場合は1時間半かかる。ちなみに、充電器が二股で充電可能で、バッテリーを充電しながら送信機も充電できるのだが、その場合は、電圧が低く急速充電にはならない。急速充電を行う場合は、バッテリー自体を充電するケーブルにて送信機を充電すると急速充電となる。

ちなみに付属している充電器は、スマホやタブレットなどで小型かつ高速充電が可能で人気が出てきている、窒化ガリウム(GaN)の技術の充電器となっており、コンパクトなサイズのまま充電速度が向上しており、65Wで充電が可能。

 

まとめ

今までInspire 2にX5sを搭載し、マイクロフォーサーズ及びProRes 422 HQの組み合わせが、たったこれだけの機材で安定して撮影することができるなんて、なんて時代なんだと思わざるを得ない。圧倒的に荷物が減りつつ、24、162mmの焦点距離をボタンひとつで切り替えることができるなんて信じられない。

Mavic 3とRC Proがジャストで入ったLoweProのケース(クアッドガード TX ケース)と比較

 

比較したようにInspire 2とは、レンズを選べるかどうか違いはあるとしても、Mavic 3 CineのProRes 422 HQはダイナミックレンジも広いし、ディティールも後処理の自由度も格段に上がり、もう充分すぎる仕上がりになっている。

 

今回Cineについてレビューをしたが、全体を通して、個人的にMavic 3で最も気に入ったポイントとしては、162mmの望遠レンズだ。望遠撮影の場合は、センサーサイズが1/2インチとなり、ProRes 422 HQでの撮影もできなくなる。そして、4K/30fpsのH.264もしくはH.265での撮影になってしまうというデメリットがあるのだが、今まで観たことのない画が撮れる。個人的にはこれのためだけにMavic 3を導入してもいいぐらいの気分だ。質よりも観たことのない画に惚れ込んでしまった。

 

Mavic 3CineでProRes 422 HQと望遠162mmを撮影した映像サンプル

機材は充分すぎるほど進化してしまったので、後はいい絵を撮る自分の腕だけの世界だ。

あ…3年後は8K RAWですか、DJIさん?

 

 

稲田悠樹
コマンドディー代表。空撮業務を行う傍ら、初心者向けドローン情報サイトDRATIONを運営。その他様々な雑誌等にドローンに関わる記事・情報を提供。企業へのドローン導入に関するアドバイスも行なっている。 熊本地震では、災害ボランティアとして活躍する一方で、被災地現場でのドローン空撮で自治体とも連携。WEB●https://command-d.com/

 

●DJI Mavic 3製品の詳細

https://www.dji.com/jp/mavic-3

vsw