主人公の故郷である熊本で、リアルなドキュメントの要素も盛り込み撮影風景のなかに彼女たちがいることを感じさせる映像
シンガーソングライター笹川美和さんに「見慣れたまち」という曲を提供していただき、それをベースにしたMV部門。4人の中学生の卒業式後の帰り道。ひとりの女の子は春から上京する。4Kの解像度を生かした抑制がきいたロングの映像が風景と人とを馴染ませる。この映像の美しさとカメラワーク、自然な演出には驚かされた。
聞き手・構成●編集部 一柳
MV部門グランプリ
「笹川美和 見慣れたまち」(4K)―白鳥勇輝さん
—白鳥さんの経歴を教えてください。
日本大学芸術学部の映画学科を卒業して、フリーランスで活動して今33歳になります。27、28歳くらいから自分でカメラを回して小さい作品のディレクションをやらせてもらえるようになって、今はドキュメンタリーの映像とか、地方の観光映像、MV、ファッション系と幅広くやっています。
—応募のきっかけは?
笹川美和さんのファンで、大学時代は笹川さんの曲で自主映画作ったりしてたんです。たまたまTwitterで笹川さんの曲を題材にしたMVのコンテストがあることを知り、曲もいいし、撮りたいテーマだったので自然に企画が生まれてきました。主人公の彼女、さんはたまたまドキュメントで追いかけていて、地元の熊本から東京に出てこようかというタイミングだった。ならば熊本で撮れるといいんじゃないかと思いつきました。本当はもっと大人の話かもしれないけど、故郷を離れるということでは曲の歌詞ともリンクしていますし。
—彼女たちは本当に友達どうしなんですね。
親御さん含めてご協力いただきました。街の景色も基本的には彼女たちの通学路。一度私だけでロケハンに行って、彼女たちと一緒にブラブラして、撮影場所を決めていきました。やはり行かないと画のイメージが湧いてこないので。
次はもう本番でカメラマンと朝早くに行って、なんとなく撮影場所とアングルを決めていきました。
—ロケハン後に絵コンテは?
尺と歌詞に合わせて、このカットは何秒ぐらい必要かなという感じでざっくり作りました。人を撮るというよりも、景色の中に人がリアルに存在しているような、かつ劇的になりすぎずというバランスのアングルを目指しました。何もない場所でも、女子中学生というアイコンがあれば絵になります。
iPad上の絵コンテの一部
iPad上の絵コンテの一部。歌詞に合わせて画を決めていったので、編集ではそれほど苦労しなかったという。暗転してからの東京のシーンは実際に主人公が上京してから東京で撮影した
—4Kは意識しましたか?
そこまで意識はしてなかったのですが、カメラ自体はブラックマジックデザインの12Kのカメラで収録は6Kで最終的に4Kで書き出しました。あまりにパキッとしてしまうと、この景色と合わないかなと思い、レンズだけは昔のスーパー16mm用のズームレンズを使っています。4Kなんだけど、にじんでいるというか、ちょっと鈍いようなところがあります。それはカメラマンからの提案ですね。当初は単焦点を揃えようかと思ったのですが、スタッフも少ないので、ズームレンズ1本にしたかったということもあります。
—現場のスタッフは?
私とカメラマン、熊本出身で撮影した町の隣町に住んでるヘアメイクの知り合いに来てもらって、あとはもうひとり友達に運転手などをしてもらいました。
—演出はどこまで?
あくまで自然に動いてもらって、要所要所でなんとなくこういう動きをしてと指示しました。仲良し四人組だったんで自然に固くなくできていましたね。カメラがわりと遠くから撮っているということもありますが。
土手の上での影送りのシーンでは、主人公がひとりだけふと我に返るといういうところは一応お芝居っぽく撮りたいと思って、カメラはパンをしているのですが、少し斜めに行きつつ、でも止めるとドヤ顔っぽくてわざとらしいので動かしています。そういうカメラワークは電車の中のシーン含めて意外と多いですね。
—演出とカメラが絡み合って巧みですが、でもリアルです。
本当の友達どうしであり、しかも翌日には本当に主人公の彼女は東京に旅立つということもあって、駅で別れる時は本当に泣いていたんです。撮影は鉄道会社に許可をとってやっていたので、時間がなかったのですが。曲のテーマでもありますが、彼女たちが10年くらいたって振り返って見た時に何か感じてくれるような。彼女たちのために作ったと言ってもいいかもしれません。(審査員による作品評価のポイントをまとめた「総集編」をケーブル4Kにて放送中。白鳥さんの作品も掲載。https://www.cable4k.jp/timetable/)
撮影現場の様子
カメラマンは学生自体から組んでいる友人に依頼した。スタッフはメイクさんを入れて4人。使用したカメラはBlackmagic URSA Mini Pro 12K、レンズはカールツァイスのスーパー16mm用ズームレンズ1本。(撮影:Hiroaki Takeda)