4月19日発売されたNIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR。便利な高倍率ズームレンズというのは、その数字からも分かる。写真撮影に適している印象もあるが、果たして動画撮影でもその実力を発揮できるのか。写真家で映像クリエイターの正垣琢磨さんにレポートしていただいた。

文・正垣琢磨/構成・編集部片柳

正垣琢磨
京都府宇治市生まれ。京都在住。武蔵野美術大学在学中、ミラノ工科大学へ留学。卒業後は某デザイン事務所にて、内装設計業務に従事。その後、家業である通販会社で勤務する傍ら、個人的な活動として写真撮影や映像制作を行う。

NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR


222,200円(参考価格:ニコンダイレクト)

NIKKOR Z レンズ初の28mmから400mmの幅広い焦点距離をカバーする高倍率ズームレンズ。400mmまでの超望遠ながらも、質量わずか約725gのクラス最軽量となる小型・軽量設計を実現。

正垣さんが今回撮影した映像

なぜ高倍率ズームレンズを選ぶのか

平日は会社員として勤めるかたわら、休日に写真撮影や映像制作をして楽しんでいます。いつもは地元民だからこそ撮れる何気ない京都の風景を撮影し、SNSに投稿して楽しんでいます。写真を始めて約5年、映像を始めて約2年。今では映像制作に掛ける時間のほうが多く、クライアントワークも行なっています。

今回は4月19日に発売されたNIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VRをニコンさんからお借りしたので、Z8に装着して動画用途として実際に使用。良かった点や気になった点をお伝えできればと思います。

まず、高倍率ズームレンズと聞いて思い浮かべるのが、旅など少しでも荷物を減らし、一本のレンズでなんでも撮影するスチール用に開発された暗めのズームレンズというイメージ。動画用途としてはどうなんだろうかと不安を持って使用させていただきました。しかし、結論から言うと、私のような旅系・風景系のビデオグラファーには特におすすめできるレンズなのではないかと思い至りました。

私は主に観光・旅系で風景や料理、建築などジャンルを問わず撮影するので、レンズを2〜3本、もしくはキャリーケースに大量に忍ばせて持ち歩くことが多く、その都度レンズ交換をして撮影をしていました。

なぜ、わざわざレンズの交換をしていたかというと、各シーンにおいて、自分が納得するベストな焦点距離のレンズで撮影することで、高画質な一番いい画が撮れると漠然と考えていたからでした。しかし、そのために撮影のタイミングを逃したり、そもそも撮影をあきらめなければならないケースも多く、帰宅してから編集しようとしても、素材不足で困るという状況がしばしばあります。

そろそろこの撮影スタイルも体力的に厳しく、何とかできないかと悩んでいたところに、この便利ズームが発表されたので、もしかしたら僕のようなスタイルで撮影を楽しんでいる層には響くのではないかと考え、私の地元である宇治の風景を撮影してきましたので、その使用感をお伝えします。まずはレンズの特性を紹介していきます。

使ってわかった4つのポイント

1.小型軽量なので長時間の持ち運びがしやすい

携帯性に優れた小型・軽量設計により、カバンやリュックに入れて簡単に持ち運ぶことができます。また、荷物が多くなってしまう旅先でも身軽に動き回りやすく、シャッターチャンスに出会った際にはバッグから素早く取り出して、快適に撮影を行えました。


2.約14.2倍高倍率ズームレンズ

「今日こそはレンズ交換せず、単焦点一本でスナップするぞ」と意気込んでも、カバンには他の画角のレンズを忍ばせ、欲張っていろんな焦点距離で撮影すべく取っ替え引っ替えレンズ交換をしていました。70-200mmのズームレンズまでも引っ張り出す時も。これは個人的な感覚の話ではありますが、レンズをいちいち変えて撮影することは視点の迷いが生まれ、統一感のない素材を量産することが多いような気がしています。

NIKKOR Z 28-400mm f/4-8VRでは、このサイズで広角28mmから超望遠400mmまでの焦点距離域をカバーしているため、基本的にこの一本でほぼ全ての画角を網羅していると言えるでしょう。風景、乗り物、スポーツ、動物、花、スナップまで、日常のあらゆるシーンをこの一本で完結できます。もちろん描写の好みは別の話ですが、まずは撮りたい焦点距離で撮れること。そこが重要ではないでしょうか。


3.ズームリングにロックスイッチ

持ち運びの際やカバンへの収納時に不用意にレンズがのびることを防ぐためズームロックスイッチが採用されているのも嬉しいポイントです。また、ズームリングに焦点距離目盛が記載されているので直感的に焦点距離が調整でき、とても便利に使えます。

4.広角端(28mm時)では最短撮影距離0.2mまで近接撮影が可能

このレンズの特徴として驚かされたのが広角端28mmで0.2mまで近づけること。広角端で近接撮影することで被写体を強調してダイナミックな効果が得られます。頻度は多くないですが、最短撮影距離が短いに越したことはないと思います。

実際に使用してよかった点と注意点

他にはない唯一無二の性能

ニコンの最新技術だからこそ可能にしたレンズなのかもしれませんが、今回の撮影で高倍率ズームへの偏見が払拭されました。気にしていたAFについても問題ない速度で反応。小型軽量や驚くべき近接性能・高倍率ズームと他のレンズにはない唯一無二な存在だと思います。

写りに関しては、とても素直な写りをするレンズだと感じました。NIKKOR Z 50mm f/1.2 Sなどの単焦点レンズのようなドラマティックで官能的な写りを求めてはいけませんが、自然で美しく、ボケも遊べるいいレンズだと思います。

個人的には高倍率ズームでの撮影体験がとても新鮮で、今まで諦めていたようなシーンも思い通りの画角で撮影することができました。なによりレンズ交換の手間と時間が省け、撮影自体を楽しめる。そんなレンズでした。

しかし焦点距離200mmあたりからF8になるので、高画素機だと特に注意が必要です。ただ編集でノイズ処理もできるので、頑張ればなんとかなる問題でもあります。

もう一点気になるところとして、AFとMFの切替ボタンがないことです。オートフォーカスもマニュアルフォーカスもどちらも使用したい場合、レンズ自体にフォーカス切替ボタンがないため、AFとMFの変更が面倒で、スムーズな撮影が難しい可能性があります。またピントリングも幅もかなり小さく、MFでの使用には工夫が必要かなと思いました。ただこれも慣れの問題。個人的にはすぐに慣れたので、大きな不満には感じませんでした。

NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VRでリール動画制作

強力な手ブレ補正機能により望遠圧縮効果を狙った手持ちでの撮影も問題なく可能。宇治平等院の有名な藤棚を、望遠ズームで圧縮効果を狙って撮影。200mm付近でF8まで絞られるが、背景を整理すればボケも滑らかで綺麗に描写した。
(左)望遠端の最短距離で撮影することで大きな背景ボケを作ることが可能。ここも強力な手ブレ補正とフォーカス性能で、ピン浅でも手持ち撮影が難なく行える。(右)葉っぱ一枚一枚を綺麗に解像。「本当に高倍率ズームなのかと疑いました」と正垣さん。
コントラストの強いシーンで、暗部からハイライトまでのダイナミックレンジも広く、シャドー部にも豊かな色が乗っている。正垣さんも「自然な色合いで、いかにもニコンらしい美しい描写をするレンズだと感じました」と評した。

●Instagram

https://www.instagram.com/reel/C6DCtv4vDVI/

総括

レンズ一本で撮影に臨む場合はベスト

「旅先にて、レンズ一本でなんでも撮影したい」という方におすすめできるレンズです。朝はのんびり目を覚まし、日中に観光や撮影をすませ、夕方にはお酒を飲みながら、撮影した写真や動画を見返して過ごす。そんな楽しみ方のできるレンズになっています。カメラを始めたばかりの方や、これから本格的に始めたいけど明確な撮影目的がない。写真と映像、どちらもチャレンジしたいといった方には特にピッタリです。

レンズの暗さはやはり気になりますが、それと引き換えに得たサイズや軽さ、幅広い焦点距離の価値はとても大きいと思います。

撮影後のデータを確認したところ、コントラストもしっかりありますし、明るいシーンではしっかり解像していました。その点はやはりニコンの最新レンズだなあと感動。旅行用にレンズを一本選ぶなら、このNIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VRは最有力レンズになるかもしれません。



VIDEO SALON 2024年6月号より転載