DJIから初の360°カメラ「Osmo 360」が登場した。8K撮影やD-Log対応など、プロ向け機能を備えながら、コンパクトな筐体で手軽にVR映像制作が可能だ。今回はVRディレクター・渡邊氏に、人気360°カメラ「Insta360 X5」と比較しつつ、実際の使用感やD-Log撮影時の画質を検証してもらった。

レポート●渡邊 徹(Concent, Inc.)
クリエイティブディレクター/VRディレクター 全天球映像作家「渡邊課」課長 XRや生成AIなどの先端技術を活用した施策を多数手がけ、自らVRカメラを持って現場で奔走。ユーザー中心の視点で、最適なコミュニケーション施策を考えるアイデアマン。現在はURSA CINE Immersiveを使った、Apple Vision Pro向けのイマーシブ映像をプロトタイプ中。YouTubeでは「VR映像作家 渡邊課 課長」として、XR映像技術の「ひらく化」に勤しんでいる。所属しているコンセントではイマーシブ映像制作に力を入れており、VisionProの体験会も実施中。https://www.concentinc.jp/solution/immersive-content-service/
VRディレクターの渡邊です。10年ほど実写のVRの映像制作をしてきました。現在はVisionPro向けの映像コンテンツを制作しています。そんな筆者ですが過去、Insta360やKandao、GoProのVRカメラなどさまざまなVRカメラを触ってきた知見から今回のOsmo 360をレビューしていきます。また、Insta360 X5で同シチュエーションを撮影しながら比較検証していきます。
筆者として注目しているのは、やはり10-bit & D-Log M カラーモードです。DJIはドローンやアクションカメラも同じカラーマネジメントシステムで運用しており、ポスプロ界隈では他のカメラとのカラーマッチもしやすいと話題だったので、そこら辺もDJI StudioとDaVinciResolveでのカラコレを比較しながら見ていきたいと思います。
スペック比較は以下の通り。

ほぼ同スペックではありますが、Insta360でLog撮影をしようと思うと5.7Kまでしかできないので厳密な比較をすることができず、色の扱い周りの比較を中心に行ってみました。
結論から言ってしまうと、D-Log M 10bitでの撮影、かなり良かったです!
真夏の海で撮影をした際の海の青の階調も自然で、かつ明度差がかなりある日陰とビーチのコントラストも色が潰れることもなくトーンジャンプや白飛びがなく、かなりナチュラルに階調が出ている印象でした。では早速みていきましょう。
デザインと携帯性

サイズ感はかなりコンパクトな印象を受けました。デザインも余計なものが一切なくシンプルで好印象です。Osmo磁気クイックリリースもワンタッチで着脱できて、スピーディにサッっとセットアップできるのもよかったです。
●Osmo 360バッテリー延長ロッド


本体のバッテリーが1950mAhくらい。このロッドが2000mAhということで、およそ丸々一回分の給電ができるということになります。 これで一日撮りまくってもバッテリーは保つと思います。また、このOsmo360バッテリー延長ロッドの下にもネジ穴が切ってあるので、ライブの撮影時でもバッテリー駆動で長時間撮影できるのは嬉しいですね。 ちなみに、バッテリー延長ロッドはマグネットクイックリリースにくっつけるだけでボタン類も使えるようになります。
●タッチパネル

タッチパネルの比率が横位置で最初は触りにくいなと思いました。理由としては、過去に出ていたカメラが縦長のものが多かったのでそれに慣れていたというのはあります。実際縦幅が足りないので、ISOやシャッタースピードをいじる際には少し触りにくいです。とはいえ、VRゴーグルで見る際のファーストビュー表示を思えば横位置の方がいいのかもしれません。アプリケーションはDJIを使ってきた人なら馴染みのあるUI設計になっており使いやすいと思います。

ちなみに、アドバンストモードをオンにすると、D-Log MにLUTを当てた表示にすることができます。また、ヒストグラムや露出オーバー警告も表示をオンオフすることができます。

画質と撮影性能
撮影性能についてみていきたいと思います。今回は、ピーカン照りの海、夜の渋谷、ライブ撮影の現場でテストを行いました。
まずは海から。

筆者は奄美大島に住んでおりまして、真夏の日差しが眩しいシチュエーションで撮影をしてきました。まずは結果はこちらです。今回は色味を確認したいと思ったので。双方LOG撮影を試みました。
※X5はLOG撮影をする際には5.7Kになります
まずは、DJI OSMO 360の絵がこちらです。
続いて、X5の絵がこちらです。
それぞれのstudioでLUTを当てて色味の調整をしました。DJI OSMO360のD-LOG Mの方が圧倒的に色味が自然だなと個人的に感じました。青の階調にしても影の中の植物の色味にしてもInsta360のパキッとした色味よりは柔らかい印象でトーンジャンプも少ない印象です。特に暗部の色味は綺麗だなと素直に思いました。
また、DJI Studioで触っている際も、10bitで収録をしているからというのもあり調整幅が大きいように感じました。Insta360 X5に関しては、スライダーをいじっていると結構潰れたりトーンが飛んだり、色温度をいじる際にも結構いろんなところが引っ張られてしまう印象がありますが。DJIの方だと自然に変化する印象がありました。
●DJI Studioの画面

●Insta360 Studioの画面

●DJI Studioの画面

●Insta360 Studioの画面

緑や青の階調がニュートラルで触りやすいのがD-Log Mの方でした。過剰に青くなりすぎず緑も自然な色合いに仕上げることができました。参考までにフルオートで撮影した双方の映像です。
●OSMO360 フルオート
●Insta360 X5 フルオート
●DJI Studioの画面

ちなみに、近景遠景を同居させることはなかなか難しく、カメラから15cmくらいの距離感でしたが流石にピントが来ないようです。近距離の撮影をする際はお気をつけください。絞りが固定で、基本無限遠の考え方のカメラではあるので、極端な近距離は苦手なようです。
渋谷夜景撮影編

夜の渋谷のセンター街でネオン光る街中でテストを行いました。フリッカーが出ないようにシャッターは1/100設定で撮影しています。
※X5はLOG撮影をする際には5.7Kになります。また、X5はナイトショットの場合は5.7Kを推奨しています
※OSMO 360もスーパーナイトモードが実装されているがこの撮影時には未実装だったため別のサンプルで試します
結果がこちらです。
●DJI Osmo 360 8K30fps D-Log M 10bit
こちらがD-Log M撮影ままの状態。

こちらがD-Log Mを適用後、コントラストなどを調整したもの。人肌の印象などは階調もしっかり出ていて自然。看板のLEDもトーンジャンプせずにしっかりと階調が出ています。

●Insta360 X5 5.7K I-Log HDR
こちらがInsta360 X5で撮影したもの。暗部を持ち上げようとすると若干無理が出るのと、人の肌などは周辺の光に引っ張られたりトーンジャンプしていて持ち上げるとかなり荒れてしまう印象です。


最後に夜景のディテールを寄ってみたものを撮ってみました。
●Osmo 360
看板のイラストのディテールや、ネオン感なども階調がトーンジャンプせずにしっかりと記録されている印象です。

●Insta360 X5
夜景などは5.7K推奨のためディテールのところは若干甘めになります。光周りがOSMOと比べると若干トーンジャンプしたり色味をいじると破綻してしまうようになってしまうところがありました。全体はビビッド目に出る印象で、スマホで見る分にはそこまで気にならないかもしれませんが、VisionProなどでみた際には差が出てくる部分であります。

ライブ撮影インプレッション:現場でのリアルな使用感

今回、8月18日に2周年ライブを控える5人組のライブアイドル「LiVS」というグループの定期公演にお邪魔して撮影をさせてもらいました。
撮影時は基本フルマニュアル設定で、ISO、シャッタースピード、色温度などをモニターを見ながら設定して撮影してます。バッテリーの保ちもメーカー公式発表だと、8K/30fpsで100分連続撮影ができると言われており、今回フル尺での撮影はしていないものの、丸一日持ち歩いてそのままライブ現場に入っての30分くらい撮影したが全くバッテリーに関しては余裕のある設計だと思いました。
ステージ上に設置しての撮影の場合はバッテリー切れの心配もあるため、給電しながらの撮影が望ましい場合があります。これはメーカー推奨かわかりませんが、個人的な見解から熱落ちを防ぐ意味もあってバッテリー抜きで給電しながら撮影できると良いなと思って試したところ、バッテリー抜きでUSB給電で普通に立ち上がり撮影ができる仕様でした。横の蓋周りは外してしまい、L字のタイプCケーブルで給電しながらの撮影は現場ではかなり重宝する気がします。
D-Logの色再現性:ポスプロでの注
DJI Studioの残念な点を一点上げるとすると、書き出し形式がmp4のみという点です。ポスプロ工程で渡すなら、ProResへの信頼度はみなさん高いかなと思っております。特にライブ物や音を合わせたりする必要があるものに関しては、必ず編集工程が必要になりますからProResで渡せるとみんな安心感があるというところはあります。
ただ、収録元のサイズを考えると果たして……というのはInsta360StudioやKandao Studioでも思うところです。
今回、DaVinciを使ってカラコレを試みました。DJI StudioでLutを当てずにそのまま出したものと、DJI Studioでカラコレをしたものとを比較したところ、ほぼ色情報の劣化なくDaVinciに渡せていました。なので、DJI Studioで気軽に出したものと、しっかりDaVinciでカラレコしたものとはほぼ同じような色味のものを作ることができます。もちろん、DJI Studioでやる場合はスコープ類は出せないので、見た目で判断になりますが、DaVinciのポスプロ作業へ合流はしやすいなと思いました。
DJIのサイトにD-Log M to REC.709のLUTは配布されてます!


上がDJI StudioでLUTを当てて書き出したもの、下がDJI StudioでLUTを当てずに書き出したものに、DaVinciでLUTを当てたものです。ほぼ同じ色を再現することができました。ポスプロで色味をいじりたい人はLUTを当てずに持ち込めばmp4でも10bitのカラースペースを活かせました。
Vision Proでの視聴体験:VRの没入感を検証
Vision Proは現在市販で手に入れやすい(値段は高いが)ゴーグルとしては最高峰の解像度感を誇っています。VRの映像でいちばんの敵は「ノイズ」です。フレームレートや色味よりもノイズが出ていることで、空間が死んでしまいます。VRは空間を見るデバイスと言っても過言ではないので、そこが死んでしまうということは映像の内容以前の問題です。
その点を今回ゴーグルで見てみたところ、DJI Studioにある書き出し時の「ノイズ低減」はかなり有効だと感じました。粒状のノイズが軽減されるのとディテール自体もそこまで落ちることはありませんでした。よほど気になる場合以外は基本オンしておいても良いのではないかと考えます。




VisionProで見たときに全体的にチラチラするノイズも出ないのでその場にいる臨場感が素晴らしいなーと感じました。夜景に関しては若干エッジが甘くなるところはありますが。
今までのVRカメラの中でも色味もノイズへのアプローチも良い印象と素直な色味というのを感じました。
まとめ
今までたくさんのVRカメラを使ってきました。その点から言うと、今回のDJI Osmo 360は本格的に色をいじりたい人にも、気軽に使いたい人にもどちらにもおすすめできるカメラだと言えます。カラコレのことがよく分からないという方も、DJI Studioで触れる範囲でもかなり綺麗に撮影ができると思います。また、ProResには対応していないものの、10bitのカラースペースにより、mp4でDaVinci Resolveに渡したとしても、色味をほぼ劣化を感じさせずにいじることができます。その点からしてもプロも初心者も使いやすいカメラだと思います。
色味に関しては、Insta360 X5と今回比較しましたが、KANDAOやGoProその他のカメラたちの色のクセが強すぎる点に関しては、確実にOsmo 360の方が触りやすい素直な色味だと思いました。解像度感やStudioでのノイズ軽減に関しても優秀で、Vision Proで見た時も今までのカメラよりも臨場感を強く感じれるほどでした。また、ライブ撮影の現場ではバッテリーを外しての給電でも動いたので、それによる長時間撮影も期待できそうです! 1時間くらいは平気で動いてました。値段も他と比べて正直安い。すごいです、このカメラ鞄に常に忍ばせておこうと思います。
●製品の詳細はこちら
https://www.dji.com/jp/360
DJI JAPAN株式会社
https://www.dji.com/jp