DJIから先頃発売されたシングルハンドタイプのジンバル・スタビライザーRONIN-Sは、デジタル一眼での動画撮影に最適な一台で、一眼タイプの動画機としては突出した性能を持つパナソニックのGH5S/GH5との相性もバッチリだ。GH5S/GH5のUSB-C端子とRONIN-Sをケーブルで結ぶことで可能となるフォローフォーカスやモーションラプス等のこだわりの機能が実装されている。特にGH5Sはボディ内手ブレ補正が搭載されていない分、外部スタビライザーの効果はより一層大きい。そこで今回はGH5S(ビデオ撮影)およびGH5(タイムラプス撮影)とRONIN-Sと組み合わせることで、どのようなカメラワークが可能となり表現の自由度がどこまで高まるのか、実際の映像作品を作りながらその可能性を探ってみた。
レポート●Osamu Hasegawa/記事協力●パナソニック株式会社、DJI JAPAN株式会社
※RONIN-Sの基本的な機能については、こちらの記事にて詳述しています。
GH5/5S×RONIN-Sで撮影した作品
Dancing travel around Tokyo – feat. Kozue Kawabe
ジンバルはブレ補正のための機材というだけでなく、カメラワークや表現の拡張ツール
今回も『ビデオSALON 2018年4月号』付録「GH5&GH5S ムービースタイルBOOK」の作例映像でご登場頂いたコンテンポラリー・ダンサーの河邉こずえさんとのコラボレーション作品として、即興的なダンスと旅をテーマに、機動力のある撮影機材の組み合わせならではの作品づくりを試みた。
まず大前提として、ジンバル・スタビライザーというものに対する考え方を「カメラの手ブレ補正機材」という視点から、「カメラワークや表現の拡張ツール」という見方へとシフトさせよう。この認識を持っているかどうかで、この製品のポテンシャルを最大化できるか、一般的な手ブレ補正機材という最小限の使い方に留まってしまうかが決まる。RONIN-Sというモノをカメラを乗せた自分の拡張アームだと考えよう。長く伸ばすこともできるし、手首のスナップやひねりを加えることもできる。目標は、頭の中で機能を考えてからスイッチを押すのではなく、RONIN-Sを自分の身体化し、反射的に操作することができるようになることだ。
多彩なカメラ・ポジションやアングルが可能になる
RONIN-Sを使えば様々なカメラポジションでダイナミックかつスムーズなカメラワークが可能になる。GH5Sとの組み合わせで特に優位な点としては、一脚をつけて体からカメラを離した状態でのロー・ポジションとハイ・ポジションでの撮影、および俯瞰ショットの際での横開きのバリアングル液晶を活用したモニタリングのしやすさだ。また、ハイ・ポジション時にはカメラ・ボディとレンズがともに軽量なGH5Sは優位になる。理由としては、重量のあるカメラやレンズを乗せた場合、一脚も太く頑丈で重いものを使用する必要があり、支える全体重量が重くなるほど腕や体でサポートしながら移動する際に不安定になるからだ。実際に撮影したハイポジションとローポジションのショットでは、付属の純正ミニ三脚をマンフロットの一脚に付け替えているが、一脚を取り付けることでローポジでは腰を大きくかがめなくて済むためカメラワークが安定し、ハイポジでは高さをかせぐことが出来る。俯瞰ショットでは、回転しながら被写体に向かって下がっていくカメラワークを試みた。被写体との距離が変化する状況だったが、LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mmでオートフォーカスを使用したところうまく追従した。
GH5Sの高感度・デュアルネイティブISOは、ジンバルでの移動撮影にメリット大
幅広く自由に動くことのできるジンバルでのカメラワークとGH5Sの相性の良いところは、実は意外なところにも潜んでいる。GH5Sの基準感度はISO400と2500のデュアルネイティブISOとなっており、ISO400とISO2500の2点がS/Nが最も良い。したがって、通常動画ではノイズ量が増してくるISO3200ではまったくクリーンな画となっており、ISO6400でも通常使用して問題ないクオリティだ。
ここで、ジンバルのカメラワークでのネックとなる露出について考えてみたい。屋外の日光の下から屋根のある場所との行き来や、窓の中と外の行き来などを含むカメラワークでは、明るいエリアで適正露出を合わせると暗いエリアでは黒ツブレ気味の画になってしまい、暗いほうに合わせると明るいエリアでは白トビした画になってしまう。
そこで提案したいのが、NDフィルターや可変NDを使用して明るいほうに適正露出を合わせておき、ISOオート設定にしたうえで上限を6400に設定し、移動撮影をする。そうすると移動先が屋根の下などで暗くなっても、カメラの露出はISOが感度を上げることでスムーズかつ迅速に追従してくれる。こうすることで、オートISOでリアルタイムに露出調整をしつつ、デュアルネイティブISOや画素ピッチ等の仕組みでノイズはあまり増えることなく、無段階可変NDフィルターを内蔵したような仕組みを疑似的に作ることが出来る。したがってシャッター速度や絞りの値を維持できるのも大きなメリットだ。なお露出設定については、V-Logの場合は+2/3ストップ程度の明るめ設定で撮影し、ポスト処理で調整するのが良い(ETTR = Exposing to the rightという考え方)。
⬆この2:03〜2:09のような日陰と日向とを横断するような場合は、GH5Sなら明るいエリアで露出設定を合わせておき、暗いエリアに移動した際の露出変化への対応はオートISOで対応可能だ。
GH5SとLEICAシリーズのレンズとの組み合わせは、夜の移動撮影の強い味方
ジンバル撮影でもうひとつネックになる点が、固定ライティングが難しい点が挙げられる。移動距離が多い場合はスタンド固定でのライティングが難しい。そんな場合も、GH5Sの高感度性能とLEICAシリーズの明るい単焦点レンズを使用すれば多少人工的な光が周囲にある環境であればライティングなしで高画質な画が得られる。
LEICAズームレンズ8-18mm F2.8-4.0と12-60mm F2.8-4.0は、バランス調整なしで交換可能
ジンバルを用いた撮影では、通常レンズを交換するごとにジンバルの物理バランスを調整しなければならない。これは実際大きな手間で、周囲のスタッフや出演者を待たせてしまうかもしれないし、決定的な瞬間を逃してしまうかもしれない。しかし、パナソニックのレンズ同士の中にはほぼ同じ質量のレンズも多くあり、それらのレンズ同士を入れ替えて使用する場合はRONIN-Sの物理バランスを調整し直さなくてもバランスがとれる。そのもっとも素晴らしい組み合わせとして、LEICA 8-18mm F2.8-4.0と同12-60mm F2.8-4.0のズームレンズの組み合わせが挙げられる。この2つのレンズは質量が5gしか変わらず、焦点距離的にも超広角域~中望遠までをカバーするこの2つのレンズがあれば、ジンバルで操作可能なカメラワークのほとんどをカバーすることができると言っても過言ではない。実際ジンバルで操作可能なのは、マイクロフォーサーズの60mmくらいまでだ。
これらのレンズはズームすると絞り値がF2.8~F4.0の間で変化するが、ズームの前後でそのまま露出を維持して撮り続けたい時は、前述のGH5SのオートISOの考え方をここでも応用すれば、シャッター速度は固定で明るさをキープしてくれる。GH5SならF4でも昼間は室内撮りまでカバーできる。ちなみに12-60mm F2.8-4.0のレンズでめいっぱいズームすることが想定される場合は、あらかじめカメラのジンバルに載せる位置をセンターバランスよりほんの少し後方にずらして設定しておくとめいっぱいズームした際に前重になりにくい。
人物でのヨリのショット。超広角で人物に寄ると、広げた手(手前・横)と体(奥・中央)との距離感をより大きく感じることができ、RONIN-Sによる動きのあるカメラワークと相まって、より一層ダイナミックな映像を描き出すことができる。
ワイドレンズのパース感とRONIN-Sの移動撮影を組み合わせて、被写体に寄ったり引いたりする移動やハイ/ローのカメラポジション移動を行うことで同じ焦点距離のレンズのままでも映像が躍動的になる。このようなジンバル製品が出る前までは、なめらかでダイナミックな寄り/引き、高/低のモーションを描くのは簡単ではなかった。また、顔・瞳認識AFもきちんと動作していた。被写体の背面に回り込んだ時にも人物の胴体を認識するように切り替わって、焦点を維持できるようになったのも大きい。
RONIN-Sの注目機能!ロール回転のモーション
RONIN-Sの注目の機能として、ジョイスティック操作でのロール回転の動きが挙げられる。単にロール回転させるだけでも面白いが、被写体となる人物もそれに巡行もしくは逆光するようなひねりの動きを入れてもらったり、細長いトンネルのようなロケーションでの移動しながらのロール回転は、吸い込まれるような画が撮れて面白い。
⬆ロール回転で被写体に迫っていくカット(6:46〜6:49)
人物撮りでRONIN-Sのフォローフォーカスを使うなら、LEICA 25mm F1.4がオススメ
RONIN-Sのもうひとつの注目の機能としては、RONIN-S本体に実装されているフォーカスホイールを使ってのマニュアル・フォローフォーカス機能だ。この機能には明るめの単焦点レンズが向いていると思う。ズームレンズの場合、通常のマニュアルフォーカス時にフォーカスリングを回す速度に応じてフォーカスの移動幅が変化するタイプのレンズが多い。そのような場合は、RONIN-Sでのフォーカスの追従難易度がかなり高くなる。したがって、フォーカスの移動幅がフォーカスリングの回転速度に応じて変化しないタイプの単焦点レンズが使いやすい。その中でも、それなりに被写界深度が浅くピントの山を把握しやすい明るいレンズであること、同じくピントの山を把握するためにはワイドすぎないことが条件となり、さらにあまり望遠寄りだと被写体が前後した時の焦点の追従が難しいことやそもそもジンバルでのオペレート自体が難しので、筆者の中では総合的にLEICA 25mm F1.4がマニュアルでのフォローフォーカス用ベストレンズとなった。
「ハイパーラプス」でタイムラプスをよりダイナミックに・・・
移動しながらタイムラプス撮影をし、連続写真として連結された映像が「ハイパーラプス」と呼ばれるもので、引き込まれるようなダイナミック感と爽快な心地よさが特徴だ。ハイパーラプスの心地よさに慣れてしまうと、通常のタイムラプスが退屈にさえ感じてしまうくらいインパクトと爽快さを併せ持つ表現技法だ。
RONIN-Sでは、モーションラプスという機能が実装されている。アプリでコントロールする機能だが、フォローフォーカス機能同様USB-Cで接続・認識されるRONIN-SとGH5/GH5Sではこの機能が可能となる。モーションラプスでは、スタートポイントのカメラアングルとエンドポイントのカメラアングルを設定し、①インターバル(シャッター間隔)、②コンテント・デュレーション(動画として繋げたときの尺)、③フレームレート、以上の3つを設定する。すると、何枚の写真をどのくらいの時間をかけて撮影するかが自動計算され表示される。
これを三脚に載せてスタートさせれば、モーションタイムラプスができる。この設定で歩きながら撮影すればハイパーラプスとなる。ハイパーラプスでダイナミックに吸い込まれるような質感を出すには、超広角レンズを使用し、なおかつ足元付近の地面や周辺のオブジェクトにモーションブラ―をかけると良い。つまり、中心が解像していて周辺が流れている状態だ。それをやるには昼間でもシャッター速度を遅め設定して歩きながら撮る必要があり、超広角レンズでNDフィルターの装着可能なレンズを使用する必要があるが、超広角レンズでフィルター装着可能なレンズは意外と少なく、LEICA 8-18mm F2.8-4.0はハイパーラプス撮影においてもとても重宝する1本となる。また、歩き撮り写真で周辺にモーションブラ―がかかるくらいのシャッター速度での撮影にあたっては、ボディ内手ブレ補正の効くGH5だと安心感がある。さらに編集時にクロップ・ズームをかけることでいわゆるドリーズーム効果をつくり出すことができるが、画素数の多いGH5のフル画素で撮影しておくと、解像度を落とさずに編集時にドリーズーム効果をつけることができる。
⬆3点間のモーション・タイムラプスの例( 05:06~05:14 のカット)RONIN-Sを三脚の上に載せて、
⬆ハイパーラプスの例。 4:29〜4:31のカットは、モーションラプス機能で左に90°
※ハイパーラプスの基本的な技術解説については、下記に詳述。『ナイトタイムラプス撮影テクニック』竹本宗一郎(著)玄光社
GH5S/GH5×RONIN-Sがクリエイターにもたらしてくれること
この手の形状のジンバルは両手持ちの大型ジンバルの廉価版とイメージしがちだが、RONIN-Sはそうした認識を見事に覆し、この形状・サイズゆえに可能となるユニークな機能やカメラワークがある。また、GH5Sも4K/60pや4K/30p 4:2:2 10bit、デュアルネイティブISOなどシネマカメラ譲りのスペックを搭載しつつも小型軽量な革新的なカメラだ。GH5S/GH5とRONIN-Sのセットアップは、使い手の技術とアイディア次第でベーシックな機能を超えた応用的な表現がたくさん可能にしてくれる。大型の機材セットにはなかなかそれが難しい。したがって大型の機材に対する妥協のセットアップとしてではなく、積極的な意味でこのコンパクト・高性能な機材セットをチョイスする価値があると思う。なぜなら、私たちクリエイターは機材の機能そのもので仕事をしているわけではなく、ユニークネスやオリジナリティをいかに発揮するかという部分に情熱を注いでいるからだ。
●製品情報
パナソニックGH5
https://panasonic.jp/cmj/dc/g_series/gh5/
パナソニックGH5S
https://panasonic.jp/dc/g_series/products/gh5s.html
DJI RONIN-S