2016年『父を探して』で、アカデミー賞⻑編アニメーション賞に南米ではじめてノミネートされたブラジル人監督アレ・アブレウ。新たに手がけるのは、共通する目的のために協力し合うことになった二人組の冒険譚。アニメーションを通して投げかけられる人類への問いとはなにか? 映画の公開に合わせ来日したアブレウ監督に作品へ思いを聞いた。

取材・文●編集部 伊藤

 

【12月1日公開】映画『ペルリンプスと秘密の森』

 

 

監督:アレ・アブレウ

1971年3月6日、サンパウロ生まれ。13歳のときにサンパウロ市内にあるMuseum of Image and Sound(MiS)のアニメーション教室に通い始める。1990年代、2本の短編アニメーションを制作し、イラストや広告など多くのプロジェクトに携わった後、初の長編映画『Garoto Cósmico(宇宙の少年)』を制作。映画『父を探して(原題:少年と世界)』で、2014 年アヌシー国際アニメーション映画祭最高賞クリスタル・アワード、2016年アニー賞長編インディペンデント作品賞を受賞。2016 年、南米の長編アニメ作品としてはじめてアカデミー賞長編アニメ賞にノミネート。

鮮やかな色彩で描かれる幻想的な風景

――映画を見て鮮やかな色彩が非常に印象的でした。まずは全体のワークフローについて教えてください。

最初にストーリーとストーリーボードを両方平行して作りました。特にストーリーについては文字や言葉ではなく絵を描くことでビジュアル的に表現しています。

その次の段階でレイアウトに入りますが、いわゆる普通のレイアウトのように細かくどこに何があるかではなく、画面の中のどの部分でその人物が動くかや、その動きを大まかに決めます。背景を描く時は、にじみの表現をランダムに描いて最終的に重ねています。そのため細かいところを作っていくにあたって、筋になる部分だけ決めておけば、後の作業を自由に進めやすいんです。この進め方は今回の作品ならではの進め方で、前作の『父を探して』とは異なるワークフローで進めています。

その後にアニメーションの作業に入ります。TVPaintやPhotosop など複数のアプリを使ってアニメーションを作っています。最終的にコンポジットに入り、光や風に揺れている花といったエフェクトを最終的につけます。

カマドドリのシーンを一緒に制作したサンドロ・クレウゾさんというクリエイターは、Toon Boomという別のソフトを使っています。重要なのは、アニメーターが仕事を進めやすい方法で描いていくということです。

ブラジルではレイアウトのあたりから並行して音声関連の作業を始めてしまいます。音声は、最初にまず声を入れて、その後中盤から後半にかけて効果音や音楽を作っています。

――この作品はこれまでとは異なるワークフローで進めたということでしたが、それはなぜでしょうか?

映画に対して最適だと思い、この手法を選びました。前作『父を探して』の場合は、レイアウトの段階で画面を作りこんだうえでデジタルのアニメーションも入れ込んだので、そこで出来上がってしまうという形でした。

しかし今回は、ぼかしの表現を多用しているので、最初に細かいことたくさん決めてしまうと、後に自由度がなくなってしまうという問題が発生します。それを解決するために、このようなワークフローを選択しています。

また、普通はレイアウトを作って、それをまた次の工程の別の人たちが仕事をするための指示を出しますが、自分で作画をしてアニメーションを作ることも多く、一人で作業を進めることが多いですね。

 

――カマドドリのシーンは一連の展開が圧巻でした。あのシーンはどのように構成を考えられたのでしょうか?

回想シーンは昔のことを思い出している風景や思い出している様子、今まであったいろいろな経験がパッパッと出てくるようなイメージで作りました。

 

作品をより印象強いものにするアンドレ・ホソイの音楽

――この作品は音楽の印象も強いですが、アンドレ・ホソイさんとはどのように劇伴をつくっていったのでしょうか?

彼はバルバトゥッキスというボディーパーカッションのバンドをやっていて、僕とは幼馴染みで小さい頃からの友人です。『父を探して』の時にも参加してもらっています。

アンドレは制作の中盤から参加して作曲をしてくれました。自分はそれを聞いた時の感動をそのまま映画にも表現しています。曲を聞いて、自分を昔に戻してくれる感覚や、あるいはもっと前に進ませてくれる高揚感など、いろいろな感情を受け取ることができて、自分はそれを返すというような気持ちで音楽を映画に反映しています。

――そもそも依頼する時は、どういう形でリクエストしたのでしょうか?

この映画は子供時代を扱っていて、突然それがガラッと変わる瞬間も描いています。そのため、音楽は最近のサイケデリックロックにインスピレーションを受けています。例えばデンマークのMEWというバンドや、ブラジルのBOOGARINS、ノルウェーのGold Celeste、オーストラリアのPONDなどです。それをアンドレに聞いてもらって、参考にしてもらいました。

サイケデリックロックは綺麗な和音だけではなく、不協和音的な響きをもつメジャーセブンスというコードを多用していて、そこが今回の作品のコンセプトにすごく合うなと感じました。綺麗なだけではなくて、あえて歪んだようにも聞こえるような音の印象がすごく気に入って、そのコードをよく使っているサイケデリックロックを参考にしています。

 

ファンタジーチックな世界観のなかにこめられた監督の思い

――作品を見ていると、当初はファンタジー要素が色濃い印象でしたが、そこには戦争や異なる背景をもつ人々のぶつかり合いなどに対するメッセージを強く感じました。監督ご自身はどういう思いを込められているのでしょうか。

自分の映画の作り方というのは、最初はとにかく間口を広くみんなに見てもらいやすい雰囲気にしておいて、一度観客を取り込んでしまおうという考え方をしています。なので、最初はファンタジーだけど、だんだんと重いテーマやコンセプトも入ってくる。そういう形をとっています。

「入り口は低く広くて、誰でも招き入れるが、出口は高く浄化されていなければならない」という宮崎駿監督の言葉がありますが、自分もそれに影響を受けていて、そういうことを意識して作品を作っています。

――以前の記者会見の中で、商業映画が同じことを繰り返しているのに作り手としても視聴者としても飽きているというようなお話もありましたが、普段どのようなことを考えながら作品づくりをしていますか?

『ペルリンプスと秘密の森』は子供の遊びのような感覚で、自分が作りたいもの、やりたいものをそのまま作品にしています。映画自体が自分を導いて、「こういう風に作ってくれ」といわれたままに作っているような気持ちです。

商業的な映画は売れるものを作っていかなくてはならいということに縛られていますが、自分たちのやっていることはインディペンデントなものなので、自分がこうやりたいというアートとしてのロジックがあります。

そのためストーリーもとても自由に作っています。例えば今回は、男の子が森の中から外へ出ていくというぱっと浮かんだイメージからスタートしています。そこからはゲームのように、その子がどこから来たのか、これからどこ行くのか、そこはどういうところなのかということなど、他の要素を組み立てながらストーリーができあがりました。

 

12/1(金) YEBISU GARDEN CINEMAほかロードショー

▼あらすじ 

テクノロジーを駆使する太陽の王国のクラエと、自然との結びつきを大切にする月の王国ブルーオの二人の秘密エージェントは、巨人によってその存在を脅かされる魔法の森に派遣されている。森を守る唯一の方法は、光としてこの森に入り込んだ「ペルリンプス」を見つけること。敵対していた二人は共通する目的のために協力し合うことにする。しかし平和をもたらすといわれる謎の生物「ペルリンプス」を探すうちに、物語は思いがけない結末にたどり着く。そこに隠された人類への問いかけとは?

▼DATA

映画『ペルリンプスと秘密の森』(12月1日公開

脚本・編集・監督:アレ・アブレウ(『父を探して』)
音楽:アンドレ・ホソイ/オ・グリーヴォ

2022年 ブラジル /原題:Perlimps/スコープサイズ/80分/日本語字幕 星加久実

後援:駐日ブラジル大使館 配給:チャイルド・フィルム/ニューディア― (c) Buriti Filmes, 2022

公式HP :https://child-film.com/perlimps/