音質重視の音響機器メーカーのゼンハイザーからデジタル無線マイクProfile Wireless が登場した。とにかく巨大な充電ケースなのだが、そこに隠された画期的な機能と性能をレビューしたい。結論を先に書けば、『とにかく使いやすく高音質。これだけあればロケはバッチリ』である。


桜風 涼(はるかぜすずし)
1965年生 慶応義塾大学卒 日本アカデミー賞協会会員 日本シナリオ作家協会会員 日本児童文芸家協会会員 映像・録音MAの会社・株式会社ナベックスを経営。録音技師。童話アニメーションでソネット・クリエーターガレージの最優秀賞。 劇場映画「ベースボールキッズ」で2003年文部科学省選定作品。テレビ番組、Vシネなどで活躍中。


2.4GHz帯のデジタル無線マイクに突如登場
外見やスペックでは分からぬ使いやすいマイクだ

ハンドマイクにもなり、様々なギミックを搭載したゼンハイザー Profile Wireless 2-channel all-in-one microphone system




プロ用音響機器の老舗として有名なゼンハイザーから、画期的なデジタル無線マイクが登場した。Profile Wirelessである。メーカーによると『2チャンネルのオールインワンワイヤレスマイクシステムで、フリーランスのクリエイターやビデオグラファー向けに設計されており、簡単な操作で高品質のオーディオをキャプチャすることができる』とのことだ。

2.4GHz帯のデジタル無線マイクは、年末から1月にかけてDJI Mic mini、Hollyland LARK M2S などが発売され、どれを買うべきかお悩みの読者諸兄も多いのではないだろうか。そういった競合ひしめくデジタル無線マイクに殴り込んできたとも言える、この製品は、映画やテレビで録音技師をやっている筆者の目にどう映ったのか、ひとつひとつ解説してみたい。

まず、驚かされるのは、いわゆる充電ケースの巨大だということだ。メーカーではCharging barと称している。BOXというよりもBARであることは事実だ。寸法152✕55✕45mm、重量270gと他社製品が持ち運びを重視して小型化されている昨今としては、びっくりするほど大きい。しかし、このCharging barには多くのギミックが搭載されていて、それが撮影現場で非常に画期的な使い勝手をもたらしてくれる。


Charging bar送受信機を収納&充電できるだけでなく、このまま運用可能である。モニターの右にある電源をボタンを押すと送受信機の電源が入り、このままマイクとして使える。また、レベルメーターを軽くダブルタップすると録音も開始!




まず、送受信機の充電を行うための内蔵バッテリーを搭載している。この点は他社製品と変わらない。しかし、Charging bar は、無線マイクを操作する母艦としての機能を持っている。他社製品では、充電ケースの蓋を開けて、送受信機を取り出して撮影に臨むことになり、充電ボックス自体は使われることなく、送受信機の収納&充電だけの用途だ。

ところがCharging barは、送信機と受信機を入れたまま運用ができる。まぁ、これはある意味で特殊な用途ではあるのだが、実はカメラ用のマイクとしてだけでなく、パソコンにUSB-Cケーブルで繋いで卓上マイクにしたり、送受信機を収納したまま送受信機の設定変更を行ったりと、実に活用範囲が広い。



まるでスパイセットのようなCharging bar
ボタンひとつで送受信機が飛び出してくる

文字で書いても分かりにくいかもしれない。そこで、実際に使っている過程を通して解説しよう。まず、Charging barの先端にはふたつの送信機が収納されており、barの左右にあるボタンを押すと、マイクがbarから飛び出してくる。その状態で送信機の電源が自動的にオンになる。同様に、barの反対側には受信機が収納されていて、同じくボタンを押すと受信機が飛び出してくる。もちろん、それで電源もONになる。


背面のボタンを押すと受信機が飛び出してきて電源も入る。送信機も同じようにボタンを押すと飛び出してきて、そのまま運用開始することができる。




逆に送信機や受信機をbarに入れると『カチッ』とロックされて、同時に電源もオフになる。まぁ、ケースからの出し入れで電源の入り切りが行われるのは他社製品でも同じなのだが、蓋を開けるというような動作は必要ないし、ボタンで飛び出してくるというギミックは、非常に男心をくすぐられた。


Bar先端にはふたつの送信機マイクが収納されている。側面にあるボタンで飛び出してくる。押し込むとカッチと音がして収納しロックされる。




一方barの側面には電源ボタンがあり、これを押すと送受信機を収納したまま両方の電源が入る。つまり、この状態だとbar全体が(巨大だが)マイクロホンとして動作する。三脚ネジ穴もあるので、卓上三脚などに乗せれば卓上マイクとして使える。受信機の音声出力端子やUSB-C 端子はbarの底面からアクセス可能で、音声ケーブルやUSB-Cケーブルを接続可能だ。


側面には各種アダプターが収納されている。USB-C、Lightning、三脚ネジ穴付きシューアダプターだ。




さらに、bar側面には各種アダプターが収納されている。Android スマホやパソコンにダイレクトに受信機を接続するUSB-CアダプターとiPhone 用のLightning アダプター、そして受信機をカメラシューに取り付けるためにシューアダプター(三脚ネジ穴付き)が用意されている。他社製品でもシューに取り付けられるのは当然なのだが、三脚等に取り付けられるのは、ある意味で画期的だと言える。映画ではカメラ周囲にさまざまなものを取り付けるので、三脚穴があるとかなり便利だ。受信機をカメラに取り付ける用途も、当然必要ではあるが、映画やテレビのようにレコーダーで音を受ける場合には、レコーダーにはシューがないため、クランプを使い三脚ネジで固定できるのは非常にありがたい。また、送信機も三脚ネジ穴があり、同様に固定できるのも、非常にありがたい。他社製品では、なかなか、ここまで気を配った製品はない。



タッチパネルによる操作は非常に快適
自動バックアップ録音システムを搭載

この製品の使い勝手の良さは、全ての設定を受信機のタッチパネルだけで行えることにあると思う。非常に小さなパネルなのだが、スワイプとタップ、ダブルタップ、ホールドで操作する。といっても、実際にはパネル中央から左へスワイプするとマイク1の設定、右へスワイプするとマイク2の設定、下へスワイプすると受信機の設定とシンプルで直感的だ。

さらに、マイク1のレベルメーターをダブルタップすると送信機内レコーダーが録音を開始し、もう一度ダブルタップすると録音が停止する。マイク2も同様で、ダブルタップで録音ができる。ふたつの送信機は別々に録音可能で、内部には16GBの内蔵ストレージがあり、最大で30時間分の録音が可能だ。


送受信機の状態確認と操作はすべて受信機のタッチパネルで行う。非常にシンプルで扱いやすい。慌ただしい現場でも確実に設定ができるだろう。




非常に使いやすいのは、受信機で全ての操作ができるということだ。各マイク(送信機)のボリュームも受信機で簡単に変更できるし、バッテリーの状態、録音の状態、録音レベルというように、すべて受信機で確認できる。

このあたりDJI Mic2 に類似するが、Prolife Wirelessは非常にシンプルに設計されており、音声技術に不慣れであっても、失敗することなく運用できるだろう。

一方、2.4GHz帯の送受信機の鬼門ともいせるのが電波が途切れる可能性が否定できないことだ。そのために、高度な電波管理機能を搭載して安定性や伝達距離を伸ばしている製品が多い。それでもWi-Fiなどの影響が懸念される。そういったことで送信機にレコーダーを搭載している製品に人気がある。このProfile Wireless は手動録音モードと、電波が不安定になると自動的に録音する自動バックアップが搭載されている。非常に画期的な機能だ。



ノイズリダクションは非搭載
内蔵マイクの音質は素晴らしい

昨今の流行りとも言えるノイズリダクションは搭載されていない。この点は残念でもあるが、実のところ筆者は、自動車の走行中のVlog 以外ではノイズリダクションを使うことはない。ノイズリダクションというのは、実は非常に難しく、話者の声質と環境音の大きさに応じて効き具合を調整する必要がある。無線マイクのノイズリダクションは、強弱の2つから選ぶものが主流なのだが、効き過ぎたり不足だったりと、最適な音質になる場面はそれほど多くない。筆者の場合、前述の激しい周辺ノイズがある状況ではマイクのノイズリダクションを使うことがあるが、それ以外では滅多に使わない。逆に、使いたくない状況下なのに、ボタンに触れてしまってノイズリダクションが入ってしまう事故が起きる。無線マイクのノイズリダクションは声質を大きく損なうことが多い。これを編集時に自然な声に戻すことは不可能なので、筆者は事故扱いにしている。

この製品は、そういう意味で過度なノイズリダクションによる事故が起きることがないので、映画や要人へのインタビューなど失敗できない場面では、逆に安心できるマイクだと思う。


サイズがDJI Mic2 と同等だが27g と軽い。外部マイク端子も備えており、汎用のラベリアマイクが使用可能だ。ノイズリダクションは非搭載だが、内蔵マイクは非常に高音質だ。




さて、実際の音質だが、流石に音響メーカーの老舗だけあって非常に良い。内部では48KHz 24bit で処理されており、ノイズレベルを示すS/N 比は78.5dB と超低ノイズだ。また、音割れに対しては高度なリミッターが搭載されており、大声で割れるようなこともない。一方で、早めにリミッターがかかり始めるようなので、実際の運用では低ノイズである特性を活かして、低めのマイクボリュームで使うのがいいだろう。

さらに、送信機には外部マイク端子が搭載されているので、いわゆるピンマイクを使い、映画のように衣服にマイクを忍ばせる運用にも対応している。送信機のサイズは、昨今のボタンサイズとまでは言わないが、軽量でコンパクトに作られている。



送信機のスペック

項目詳細
サイズ42 x 33 x 21mm
重量27g
バッテリー稼働時間最大14時間
遅延量8ms
録音状態では7時間





内蔵マイクの周波数特性だが、ゼンハイザーらしく全体にフラットで自然な音質でありながら高音部を持ち上げた味付け。つまりプロが使うMKH416(映画用のショットガンマイク)と似た味付けになっている。指向性はポーラーパターンにあるように全指向性(無指向性)のオムニマイクである。非常に扱いやすいマイクだと言える。

一方、前述したがリミッターがかかるので、このマイクの特性を引き出すには低めのレベルで使うのがベターだと思う。

いずれにせよ、上記のような音響特性を公開してくれているのは、プロの我々には非常にありがたい。音質の良し悪しの9割はマイクセッティングにかかっているので、良い音で録音したい場合、マイク特性に合わせた運用が必要となり、プロはこれらのスペックを元にセッティングする。具体的には送信機(マイク)を襟元ではなく、心臓くらいの距離まで離した方が音質は上がる(マイクが近いと低音が増強されて音が篭る)。



ハンドマイク時のジャマーと送信機単体用のウィンドジャマーが付属
送信機の取り付けはクリップ、三脚ネジ、強力磁石の3タイプ

この製品は、ハンドマイクとしても使えるのが特徴だ。Charging barに送信機をセットした状態で、スポンジでできたジャマーを被せてハンドマイクとして運用できる。音響メーカーだけあって、高性能なジャマーだ。付属のソフトケースに入れて持ち運ぶのだが、このジャマーを取り付けた状態で収納する。

また、送信機用のウィンドジャマー(ファータイプ)も付属しており、これは送信機のマイク部分で仕込んで90度捻って固定する。運用中に外れてしまうことはないだろう。このジャマーも高性能で、多少の風に吹かれても大丈夫だ。


ウインドジャマーはマイク部分に押し込み捻ってロック。脱落の危険性はほぼないだろう。



Charging bar の裏面にはマイク用の強力磁石が収納されている。無線マイクの磁石を剥がすのはけっこう大変なのだが、この製品ではマイクに付けたままbarの収納部にはめて、マイクを横にズラすことで簡単に外して収納できる。画期的だ。




一方、送信機の取り付けは、クリップ、三脚ネジ、強力磁石の3つの方法だ。面白いのは磁石だ。他社製品の場合、送信機用の磁石は送信機に付けっぱなしにして使うか、クリップ運用時には磁石を外してどこかに保管することになる。筆者の場合、外した磁石がどこかに隠れてしまって、探すのに苦労するということが幾度となく経験している。というのは、外した磁石が、何か他のものにくっ付いてしまって、見当たらなくなるのだ。

ところが、この製品の場合、磁石はCharging barの側面に収納されていて、使う時だけ取り外す。この運用は非常に合理的かつ便利だった。



まとめ

最初に結論を書いたように、『とにかく使いやすく高音質。これだけあればロケはバッチリ』だ。

運用時間は14時間(録音すると7時間)と申し分ない。Charging barには送受信機の2回満タン分のバッテリーが内蔵されており、空の状態で受信機は2時間、送信機は1.5時間で充電される。



●ゼンハイザーProfile Wirelessの製品情報