レトロ通販のデジタルアーカイブ作業現場を取材する②放送用ビデオと近年の家庭用/業務用編


レトロ通販のデジタルアーカイブ作業現場を取材する②放送用ビデオ編

レトロ通販(レトロエンタープライズ)取材の後編。前編はこちらから。

2インチから1インチ、そしてデジタルベータカムへ

放送用ビデオの歴史は2インチのオープンリールテープから始まる。本格的な放送品質のVTRは1956年に、AMPEX(アンペックス)により開発された。実はこのことはビデオSALON.Webで触れている。浜町にある東京テレビセンター(浜町スタジオ)のロビーにAMPEXの2インチVTRがあり、そのことをレポートしている(2014年。こちらを参照)。東京テレビセンターはその後、事業譲渡され、行き先を失ったこのAMPEXの2インチVTRは、なんとレトロ通販に引き取られていた!(それは取材時は別フロアにあり、機材に埋もれていて写真に撮れない状態だった)。

1980年代になると放送局のマスターは2インチから1インチになっていく。1インチで残されているものは数多いそうだ。レトロ通販でも、ソニーのBVH-3000、BVH-2000が非常に美しい状態で使われていた。中央がBVH-2000。手動ローディングの送出用VTR。1インチVTRは1995年くらいまで使われていた。

その後、デジタルビデオ化され、D1(コンポーネントデジタル)、D2(コンポジットデジタル)が使われるようになっていく。ソニーのD1のデッキ。

同じくソニーのD2デッキ(一番下)。

対抗するかのようにパナソニックもD3というビデオ規格を1/2インチカセットの規格として作るが、共同開発したNHKくらいにしか納入されず、民放ではほとんど採用されなかった。

1993年に開発されたデジタルベータカム(デジベ)は、テレビ局の取材がほとんどベータカム(ベーカム)、ベータカムSPになりデファクトスタンダードになった後、そのデジタル版、そして送出用VTRとして商品化された。ベーカムは当然アナログだが、デジベはデジタルであり、記録信号は別物。ただしカセットの大きさはベーカムと同じだった。デジベのデッキで型番にAがついているものは、ベータカム、ベータカムSPテープの再生もできる。

放送局にはまだD2のテープも残っており、そのファイル化が進められている。在京キー局はもっとも着手するのが早かったが、その後、準キー局、地方局と作業していくので、作業は途切れなく続くことになる。そのうち最後のテープフォーマットであるHDCAMのファイル化の作業が始まるのではないかと見られている。

DVCAMやS-VHS、ベータ、ディスクプレーヤーなど

デジタルファイル化は放送局だけでなく、街場のビデオ業者や個人でも以前から問題になってきた(デジタル化はもう一度終わっているかもしれない)。

放送用デッキが並んだ横のラックには、DVCAMやDVCPROなどの業務用ビデオ系、近年の家庭用ビデオ(VHS、ベータ)、そしてLDやVHDなどのディスクプレーヤーがびっちりと並んでいた。

1970年代、1980年代の物を見た後だと、1990年代のデッキ類が新しく見えてしまう。

 

実は本末転倒だったビデオの歴史

レトロ通販はこういったアーカイブは事業としてやっているわけだが、神山さんは昔の映像に惹かれていて、それを残したいという個人的な思いも強いようだ。一通り機材類を見せていただいた後、お話を伺った。

ーー駆け足で振り返ってみると、ビデオの歴史があまりに急速に進みすぎてしまったことに気づかされますね。変遷をたどってみると、統一1型の1970年からは50年、8ミリビデオの1985年からは35年しか経っていない。人の一生からするとそれほど長いスパンではない。レトロ通販にファイル化の仕事が回ってくるということはそれだけそれが一般の環境では再生できなくなってしまっていることですよね。

写真の場合、フィルムはフォーマットが変わっていないので、今でも現像できるし、フィルムをデジタル化するサービスがあります。いつでもその時に戻れるんです。でも、ビデオはもうHi8でさえ、再生できなくなりつつあります。子供が生まれたときに撮り始めて、結婚する頃には見られないということも起きてるんです。写真や映像を撮るもっとも大切な意義は「記録して残す」ということだったはずで、ビデオに関しては、機材の進化を追い求めるあまり、本末転倒なことになってしまっています。テレビ番組の録画なんてたいしたことじゃなくて、家族の記録、子供の成長記録は残せるようにすべきでしょう。記録を残すという発想がメーカーになかったんじゃないでしょうか? 結果からしたら、メーカーの詐欺じゃないですか?

ーーうーん、ビデオ機器の進化の歴史を追ってきたビデオSALONはその片棒を担いだことになってしまうので、そう言われると耳が痛いです。メーカーは詐欺のつもりはまったくないと思いますし、我々も先のことは見えなかったわけで(言い訳してます)、しかし結果的に思ったよりも早いスピードで昔のビデオの再生は難しくなってきたことは確かです。映像の場合は、手遅れにならないうちに新しいメディアに移し替えていかないとなりません。

メーカーはせめてアーカイブするサービスをやるべきだと思いますよ。

ーー神山さんの娘さんのビデオは?

うちの娘は長女が今26歳で、生まれたときはHi8、次女は22歳でミニDVだったんです。それくらいの差でフォーマットが変わってしまう。しかも二人とも平成生まれで、こういうことになる。そのHi8は今、デジタル8ビデオウォークマンで再生できますが、逆に言うと、もうこれくらいしか残っていません。

いっとき世の中がデジタルになったときに、当時はミニDVが一番綺麗に残せたので、全部ミニDVにしたのですが、全部で15本くらいあったテープが散逸してしまっていますね。

ーーそれ、医者の不養生ってやつじゃないですか(笑)。

8ミリフィルムもミニDVにしていますが、HDにするときれいなので、もう1回やり直したいんです。前の世代のフィルムはやり直しができますが、ビデオのほうが大変になってきている。

ーーみなさん、どうしているんでしょうか? でも、実はユーザー側の意識も時代でかなり変わっているのかもしれません。

そうですね。写真のネガが大量に出てきたという人に、業者に頼めばそれくらいの量なら3万円くらいでデジタイズしてくれますよと助言しても、3万円という金額に悩み、アルバムがあるからネガは捨てることにするわ、と言われる。断捨離が流行った影響なのか、最近そういうことが増えてきました。映像を残すことの大切さ、そういう気持ちが失われているのかもしれません。ハードウェアに価値があるのではなくて、撮られた映像に価値があるのに。

私は映像アーカイブを仕事にしているので貴重だと思っていますが、普通の人はそれを実感しないのでしょうか。我々は昭和30年代、40年代の映像は見慣れていますが、たまに昭和5年くらいのフィルムがくることがあって、見てみると、村の御田植祭のようなものをプロのカメラマンを呼んでしっかり撮っているんですね。それをみるとタイムマシンに乗ったような気持ちになります。

ーー昔の映像に対する思いは強いですか?

うちの親父が家族を撮るために8ミリシネをやっていたんです。当時の子供は表で野球をして遊ぶような時代でしたが、僕は小学生の頃から家に帰って8ミリのフィルム編集をやっていました。自分が生まれていない時代の映像があると興奮するんです。なんででしょうね。

ビデオというのは、時間が経って見せることに価値があったはずなんです。撮ったものをすぐに見て笑いあっているようなのは子供だましですよ。フィルムやビデオの本当の目的は記録して残すことにあります。でも今はデジタルで湯水のように撮れるどころか、ライブストリーミングもできる。メンタリティは変わっていきますね。

ーーだからといって、過去の映像の価値が下がるわけではないわけで、映像記録を大切にしない気持ちが蔓延していくのは怖いですね。いろいろ考えさせられました。本日はありがとうございました。

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