取材・文/編集部 一柳

地域の映像制作を盛り上げたい

今月号の特集で観光系リール事例で登場した鈴木秀翔さんは、2022年10月号の特集「地方×映像がニッポンを元気にする!」が映像制作を始めたころに大変参考になったと語ってくれた。この号以降、各地域で個人のビデオグラファーがフォトグラファーやデザイナーと同様に活躍できることを継続的にフォローしたいと思い、地方のクリエイターを毎号紹介してきたが、ソニーのCREATORS’ CAMPの活動はまさにその思いをワークショップの形で実践しているものだ。

6回目の今回は初の九州開催で熊本市が選ばれた。熊本在住のクリエイターとして本誌で紹介した中川典彌氏も講師として参加する。

このイベントでは、参加者が実際にその場所の自治体や観光施設などのプロモーションムービーをチームで作成する。第一線で活躍するクリエイターから制作ノウハウを学びながら、集まった仲間と切磋琢磨しながら1本の作品を仕上げることで、各自の実力を向上させることができるというもの。と同時に、ご協力いただく自治体には映像プロモーションの魅力や、少人数のビデオグラファースタイルでの制作でも効果的な映像を作ることができることを実際に経験してもらうことにも意義があると思う。

今回、熊本市観光政策課からのオファーがどういう形で実現されたかを時間軸で追ってみたい。

講師陣とチーム編成

1チーム4人で、講師がひとり、ソニー側のスタッフがひとり加わる。地元熊本からの参加者は各チームに分けられ、世代もバラバラになるようにチーム構成された。講師はレギュラーとなるUssiy、DIN、Kai Yoshihara、Y2、Ryo Ohkawara、SHOTROK、ENDA各氏に加え、熊本で活動するクリエイター中川典彌氏(合計8名)。 

使用機材

撮影機材はソニーマーケティング側で準備していた。映像制作に特化したカメラのCinema Line FX30をベースに、ジンバル、三脚、フィルターなどを用意して、協賛メーカーから借りているものもあった。一方、編集システムは参加者が自前のものを持参。ほとんどの人はMacBook Proを持ち込み、各自が編集ソフトを立ち上げて素材を確認していた。

カメラFX30
レンズFE PZ 16-35mm F4 G、FE 70-200mm F2.8 GM OSS II、FE 35mm F1.4 G
マイクECM-VG1、ECM-W3、ECM-L1、ECM-M10
マットボックス・NDTILTA Mirage Matte Box
ジンバルDJI RS4 Proコンボ
三脚Libec NX-100MC


DAY 1/企画を考え、撮影内容を決める

熊本市のプレゼン資料より
熊本市のプレゼン資料より

実際に自治体からの依頼を元に、各チームが映像を企画して作っていくのがこのCREATORS’ CAMPの特徴。今回の熊本市観光政策課からのオファーは上の通り。1〜3分の短尺で、課題としては、熊本城の復旧の過程を伝えるプロモーションができていないこと、水の都であることがブランド化できていないことなどが示され、その課題に対して国内旅行者やインバウンドに対してアピールするようなムービーを求められた。


オファーを元に各チームで企画を検討していく。短尺とはいえ、2泊3日で1本を仕上げなければならないのは、実際の仕事としてもあり得ないスピード感だ。しかも初めて会った人とチームを組んでとなると果たしてうまいくのか先は見えない。取材先などは熊本市側がすでにリストアップし、インタビュー先なども事前に話をつけていたが、どの時間帯にどのチームが取材にいくのかは、撮影工程表で取りまとめ、それを元にアポイントをとるという大変な作業を熊本市側の職員が担っていた。

各班の撮影場所と撮影時間を調整する。


DAY1/明日使う機材を検証する

カメラを扱ったことがないという人はほとんどいないようだったが、ジンバルや三脚の扱いなどを確かめる人は多かった。機材管理については、今後レンタル会社から借りることも想定した予行演習にもなる。カメラのFX30の推奨設定はルールを設けているわけではないが、AF設定のトランジション設定や乗り移り感度などまで案内されていた。特に失敗すると致命的になる音声周りの設定は、XLRハンドルユニットの設定を写真付きで紹介していた。



DAY 2 /2日目の日中に取材・撮影、夜間に編集作業を行う

各チームにカメラが2台、ジンバル、マイク類、三脚が貸し出され、前日に決めた予定どおり撮影していくのだが、当日は雨で予定が変更になるチームも。雨を予想してレインカバーも用意された。作品を作るだけでなく、講師から「自分だったらこう撮る」といったレクチャーもところどころ挟まり、厳しいスケジュールながらも和やかな雰囲気で撮影が進んでいく。


DAY 2 ・DAY 3/
2日目の夜と3日目の午前中に編集の続きを行い仕上げに向かう

編集は2日目の夜から3日目の午前にかけて。こちらは自身の機材を持ち込み編集するのだが、ざっと見た限り大半がDaVinci Resolve、1チームがPremiere Proだった。テロップ、BGMを入れるだけでなく、どのチームも丁寧にグレーディングしていたのが印象に残った。DaVinciの操作パネルを持ち込んでいる人も。また各チームに1台ずつASUSの液晶ディスプレイProArtモニターが貸与され使用できるようになっていた。


DAY3/上映して審査員からの講評

最終日の午後に8チームの作品が上映され、8人の講師と熊本市側の担当者の藤本さんが審査を行なった。カメラがFX30で揃っていてクオリティが高いこともあるが、どのチームの作品も特に映像のレベルが高いだけでなく、グレーディングがなされてルックが作られていたのは驚きだった。制作の時間が限られる中、どのチームも途中で空中分解することなく、作品のコンセプトを明確に言語化(説明)できていた。

採点は講師は自分のチームの採点は行わず、ひとりあたり100点満点で合計800点満点。その内訳は、映像美(映像表現力)、企画構成、自治体PR動画としての質の高さ、自治体の魅力の発信力という4項目で、25点x8名で200点ずつ。

上位3作品は、以下のCREATORS’ CAMPのサイトで視聴可能なだけでなく、熊本市のYouTubeでも見られる可能性があるという。

最後に挨拶をする熊本市観光政策課の藤本さん。


最も高く評価された作品は唯一の「縦型」だった

撮影当日が雨予報であることを逆手にとって、水の都であることを、雨とも関連付けてアピールした縦型ムービー。熊本を訪れた観光客が見知らぬ男に導かれて魔法にかかったように様々な場所を訪ずれ、楽しい体験をしていき、男が消えた後に「雨でも楽しい熊本市」と締めくくられる。

2泊3日で企画からスタートしてプロモーションムービーを仕上げるという実験形式のワークショップ。地元のクリエイターにとって貴重な機会になっただけでなく、熊本以外の地域から来てその課題を把握するというのも、実際の仕事に生かせる良いトレーニングになるのではないだろうか。



ソニー CREATORS’ CAMP