TASCAM DR-701Dレポート❶〜HDMI接続でカメラと同期する映像制作のためのPCM音声レコーダー


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Report◎大須賀 淳
1月21日追記情報あり

PCMレコーダーでの別録音が抱える問題

この何年か、非圧縮で高音質な音声収録が行える「PCMレコーダー」の分野は、ブームと言えるレベルの盛り上がりとなっている。手のひらに収まるコンパクトなものから、多数のマイクを接続できるプロ仕様のものまで各社から様々なモデルがリリースされており、映像制作のジャンルにおいては、特に画質の高品位さに比べて音声関連の機能が弱いデジタル一眼カメラとの組み合わせで使われるようになり、小規模な収録環境のクオリティを劇的なまでに向上させた。

一方、デジタル一眼との組み合わせでは主に二つの弱点も存在する。一つは、別々の機器で収録された映像と音声を(主に映像側者の音声を目印にして)編集ソフト上で合わせる必要がある手間。そしてもう一つは、両者を頭でピッタリあわせても、時間を追うごとにごく微細なズレが積み重なり大きなズレになるという問題だ。特に後者は修正に手間を要し、現場で悩みのタネになっていた。DR-701Dでは「HDMI端子を用いる」という新たな手法でそれらの解決が図られている。

HDMI経由でカメラの「ワードクロック」に同期

DR-701Dは、カメラとHDMIで接続することで2種類の「時間基準」を共有することができる。まず一つ目は、ビデオユーザーにもお馴染みの「タイムコード」。カメラ側がタイムコードに対応していれば録画の開始・停止にDR-701Dを連動させることができ、編集時はタイムコードを基準にして位置を簡単に合わせることが可能となる。今回検証したパナソニックGH4、ソニーα7SⅡ、キヤノンEOS5DマークⅢ、7DマークⅡといった一眼各機では開始・停止の連動を確認することができた。
PCMレコーダーはデジタル一眼カメラと組み合わせることが多いと思うが、ソニーα、EOSなどは連続記録は約29分と言う制限があり、それ以上の長回しができるのは、GH4などパナソニック系のみ。音ズレ解消という点では、GH4ユーザーや家庭用ビデオカメラユーザーが一番重宝するだろう。
以下はGH4のHDMI、タイムコード関連のメニュー。HDMIタイムコード出力をONにする。
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また、ソニーα7S II(下の写真)、キヤノンEOS 5D Mark III、EOS 7D Mark IIなどタイムコード機能のあるデジタル一眼とREC連動、タイムコード連携ができることを確認した。
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DR-701D本体にはBNC端子のタイムコード入力もついているので、業務用ビデオカメラなど対応するカメラはそちらでの同期も可能だ。これで「頭合わせ」の問題はかなり解消される。
さて、残る「ズレの拡大」だが、これは実はタイムコードではなく「ワードクロック」というもののズレが原因となっている。ワードクロックはデジタル音声を記録する際の「号令」のような信号で、例えばサンプリング周波数48KHzで録音する場合は、1秒間に4万8000回の号令が発せられ、それを基準にデジタル記録が行われているのだ。ワードクロックがズレるとノイズなどにつながり、件の音声ズレもこれが原因で発生する。プロ向けの音響機器同士をデジタル接続する際は必ずどちらかを「マスター」に設定し、同じワードクロックを基準に動作させるのが鉄則だ。カメラとDR-701DをHDMIで接続すると、カメラのワードクロックをマスターにしてDR-701Dを駆動できるのだ。これはタイムコードとは別の機能なので、タイムコード機能のない家庭用ビデオカメラや、HDMIの機器制御(録画の連動)に対応していない機種でも恩恵が受けられる。

タイムコード非同期でも「ズレなし」で収録可能

そこで、あえてタイムコード機能もなく、HDMI連動に非対応であるキヤノンG10との組み合わせで検証してみよう。まずはDR-701DとG10をHDMI接続せずに同じ音声を同時記録したところ、30分の時点で約14ミリ秒(29・97fps時で1/2フレーム程度)のズレが生じた。この値もレコーダーによってかなり開きがあるのだが、DR-701Dは「従来の方法」でもかなり高い精度と言える。
次にHDMI接続時を検証してみよう。G10のHDMI出力からDR-701Dの入力に接続すると「HDMI CONNECTED LOCK to HDMI」の表示が出て、この段階でDR-701DはG10のワードクロックで動作するようになる。記録開始の連動はできないので非接続時と同じく手動で両者のボタンを押して開始・停止し、同様の方法でズレを計測したところ、数サンプル(1サンプルは1/4万8000秒)という驚異的な結果となった。計測の誤差を考えると「ズレはない」と言って差し支えないレベルだろう。
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▲ズレの計測は、Premiere Proに読み込み、「オーディオサンプル表示」(サンプリング周波数48kHz時で1/48,000秒の精度)で行なった。ずれたように見えるのはむしろカメラ側の録音機能が原因の可能性も大きく、事実上「完璧」と言える精度が確認された。
なお、HDMIをワードクロックマスターにした場合はいくつかの制約が生じる。まず、DR-701Dで記録するサンプリング周波数がカメラと同じ(多くの場合、48kHz)に固定される。最高192kHzまでのハイレゾ収録性能を活かせないのは少し惜しいが、大抵のケースでは問題になることはないだろう。
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▲DR-701DのHDMI INにカメラを接続した際、サンプリング周波数が一致していないと、変更する旨の警告が表示される。カメラ側のサンプリング周波数は「48kHz」のケースが一番多い。
そしてもう一つ、カメラマイクで拾った音声はDR-701Dでモニター(リアルタイムで聴くだけ)は可能だが、録音はできないという仕様。カメラマイクの音声は映像のファイルに記録されるので実用上問題ないが、録音結果と取り違えて混乱しないように気をつけよう。
また、DR-701DのHDMIからはカメラの映像と音声をスルー出力でき、音声には701Dの音声もエンベデッドできるが、こちらは映像が最大1920×1080の30pまでとなる。
(1月21日追記: 現在リリースされているファームウェアV1.02以降では1920×1080/60pに対応している)
いずれにしても、編集時に手動で少しずつズレれを修正する必要がなくなった恩恵のほうがはるかに大きいと言えるだろう。

ハイレゾ録音も可能な充実仕様

順番が前後するが、DR-701Dのレコーダーとしての特徴にも触れておこう。本体にはXLRとフォン兼用のコンボジャックを4つ備え、最大4本のマイク/ライン音声信号を個別に録りつつ、それらのステレオ2ミックスを別途録音できる。これは前身のDR- 70Dにはなかった機能で、全体の確認や仮編集用の素材として大変重宝するだろう。
また、記録できる最大のサンプリング周波数が、2トラック時には192kHz(DR- 70Dでは96kHz)にアップしたのも嬉しいポイント。小規模な楽器編成やオーケストラのワンポイントステレオ録音なら「ハイレゾ」品質の音楽コンテンツ作成にも対応できる。DR-701D同士をHDMI同士でカスケード接続しての同期使用も可能なので、一定規模の会社で複数台購入して、普段はそれぞれの現場で単体使用し、チャンネル数の多い音声収録が必要な現場では複数を同期使用といった、便利な運用も可能になる。
前モデル同様、本体にステレオマイクも内蔵されており、音質の決め手となるマイクプリアンプは、よりグレードの高いパーツにリニューアルされている。
ファンタム電源は48/24Vを切り替え可能で、ダイナミックマイク接続時にもかなり高いゲインが得られるので、所有するマイクをフルに活かした収録が可能だろう。
「群雄割拠」とも言えるPCMレコーダー市場だが、特にイベント・セミナー撮影など長尺の案件が多い方には大きな魅力のある一台だと言える。
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▲筐体にはマグネシウム合金を採用。前面にステレオマイクを内蔵し、本体のみでも手軽に録音可能。
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▲前面から単3電池4本を挿入。その上にSDカードスロットがある。
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▲ゲイン調整は4つのノブ。その右のプッシュダイヤルはメニュー設定用。赤いハンドル部分にカメラストラップなどをかけて、首や肩から下げた状態で操作することもできる。
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▲HDMIやカメラ用入出力端子などカメラとのやり取りの端子は左側に配置されている。
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▲XLR/TRS端子だけでなく、ステレオミニマイク端子もある。
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▲初期設定では、CH3/4に内蔵マイクが設定されている。チャンネルごとにゲインを設定できる。
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▲各チャンネルごとにリミッター、ローカットフィルターを設定可能。
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▲6トラックで録音する場合は96kHz/24bitまで、2トラック録音時は192kHz/24bitまで対応している。こういったメニューは全部で18ページあるが、ダイヤルの回転・プッシュで素早く設定できる。
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▲HDMI経由のカメラマイク音声は「モニター」することはできるが、録音できないので注意が必要だ。
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▲マイクへのファンタム電源は一般的な48Vに加えて24Vも選択でき、入力ごとにオン/オフ切り替えが可能。エレクトレットコンデンサーマイク用のプラグインパワーも供給できるので、幅広いマイクを活用した収録が行える。
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▲タイムコードでの連動ができない機種でも、位置合わせ用の音声信号を出力する「SLATE TONE」を使うと、容易に映像と音声を合わせることができる。

アクセサリー【AK-DR70C】について

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DR-701Dと従来モデルD70用のアクセサリーパック。カメラのアクセサリーシューへのマウントを可能にするシューアダプター、3.5mmステレオミニジャックケーブルが2本、そして内蔵マイク用のウィンドジャマーがセットになっている。EOS 5D Mark IIIにシューアダプターを利用して装着するとこういったバランス。
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