みなさん、はじめまして。もしくはお久しぶりです。ライターの宏哉です。
私は『タイムコード・ラボ』という屋号を掲げて、テレビ制作やイベント配信、ビデオパッケージ制作などの映像技術の分野で、カメラマンやスイッチャー業を生業とする個人事業主です。みなさんは日頃の撮影において「タイムコード」をどれほど意識していますか? しっかりと撮影内容や撮影体制に応じて「タイムコード」の設定を使い分けていますか?
今回は筆者の撮影現場でのタイムコードの扱いについて簡単に紹介していきます。
レポート◉宏哉(タイムコード・ラボ)
遡ること30年…
まずは、少し昔話をしよう。私が30年ほど前にアマチュア映像を始めたころは 8mmテープに記録する Hi8 方式のビデオカメラが主流で、タイムコード(以下、TC)を記録できるカメラは一部の上位機種だけだった。私は高校生になってから映像編集を始めたのだが、当時アマチュアにはノンリニア編集は高嶺の花で、編集とは基本的にはテープからテープにダビング作業を繰り返して行うリニア編集だった。
当時の私の映像制作環境は、ビデオカメラ ソニーCCD-TR3300とソニーCCD-TR705。編集時は再生機はTR3300、録画機は簡易編集対応の少しだけ上等な S-VHSデッキソニーSLV-RS1、そこにRoland ビデオくん編集スタジオというパソコンを使ったリニア編集機の組み合わせで編集をしていた。ちなみに、初めてビデオサロンに私の投稿記事が載ったのもこの頃だ。
この時、再生機側の素材テープにTCが記録されているか否かで、編集の精度が左右された。ノンリニア編集全盛の今では信じられない話だろうが、映像素材にTCが記録されていない場合、当時のアマチュアクラスの機材ではIN/OUT点が数フレームズレるのは当たり前だった。それがTCの認識により、1フレーム程度にまでズレが収束できたのだ(ズレの程度は機種の組み合わせや LANCプロトコルの制御精度にも左右された)。
私の環境の場合、TR705ではTCが記録できず、TR3300 では TCを記録/再生でき、またTR3300はTCを後から重畳できる機能(RCタイムコード打ち込み)が搭載されていたので TR705 で撮影したTCなしの素材は、いったん TR3300 で TCを後付けしてから編集に掛けてた。
こうした経験により少年宏哉はタイムコードの大切さを痛感し、以来タイムコードを撮影の際に強く意識するようになったのだ。
▲1998年ごろの編集環境
▲1999年ごろの編集環境
タイムコードは映像制作の大切な裏方
さて、一気に話を今に戻そう。映像制作においてタイムコード(TC)は、映像の絶対番地だ。時間軸でデータを扱う映像制作では何時何分何秒何フレームにどういった映像が映っているのかというのは、重要な情報であり、制作をスムーズに進めていく上での陰の立役者だと言っても良い。
TCがないと、複数のカメラで撮影した映像や音声の同時性を把握するのが難しかったり、クライアントとメールのやりとりで修正箇所などを確認するのが困難になる。TCは撮影の現場から編集・完パケまで、常に映像制作を裏で支えているのだ。
▲キヤノンXF605 のタイムコード設定画面。
ドロップフレーム/ノンドロップフレーム
まずは、DF か NDF にするかを考えよう。映像のTCにはタイムコードのカウントを部分的にスキップするドロップフレーム(DF)方式と、スキップせず普通に数え上げていくノンドロップフレーム(NDF)方式の2つが存在する。
▲GH6のタイムコード設定メニュー。DF(ドロップフレーム)かNDF(ノンドロップフレーム)かを選択。
少しでも説明を分かりやすくするために、TCの下2桁を「フレーム」と呼称し、映像としてのフレームの事は「コマ」と呼称することにする。
世間一般的な感覚でいうと、01フレームの次は02フレームでその次は03フレームとTCを数えていくのが当たり前だと思うが、テレビ映像の世界ではそうはならなかった。秒間30コマであるテレビ映像の場合、TCは、28フレーム・29フレームの次は00フレームではなく、02フレームになる。つまり2フレーム分のカウントをスキップしている。これをドロップフレーム方式という(正確な規格は後述)。
細かな技術的な説明は割愛するが、モノクロ放送からカラー放送になる際、アメリカや日本で採用されたテレビジョン放送方式の NTSC では、モノクロ⇔カラー放送の間で互換性を持たせるために、1コマのあたりの時間が 1/30秒より少しだけ長くなってしまった。そのため 1秒単位で見ると30コマではなく、29.97コマ分までしか収まらないという考えで、フレームレートの設定でよく目にする29.97fpsという表記がされるようになったのだ。
29.97コマというのは、時間を基準にして「1秒経過の時点で成立するコマの数が 29.97枚相当だよ」というだけで、逆に「30コマをちゃんと成立させるためには 1.001秒掛かるよ」と言い換えることができる。考える上で重要なのは、この30コマを成立させるためには 1.001秒掛かるという点で、これは当然コマ数が増えていくと、掛かる時間も長くなってくる。
例えば、1時間は3600秒なので、30コマ/秒で刻んだ場合は 108000コマになる訳だが、29.97コマ/秒であるNTSCで108000コマを再生すると1時間と約 3.6秒 掛かってしまう。
仮に分かりやすく、1時間ちょうどのテレビ番組があったとして、編集した映像を108000コマで作ってしまうと約3.6秒分に相当する最後の108コマ分が番組時間内に入りきらず、恐らくエンドのスタッフロールの途中でカットになってしまう。
こういう事態を避けるために、ドロップフレーム方式をタイムコード規格(SMPTEタイムコード/IEC 60461)に設け、毎時 00分 10分 20分 30分 40分 50分のタイミングを除いて1分ごとに最初の 00フレームと01フレームのTCカウントをスキップしてTCと実時間を合わせるという帳尻合わせを行うことにしたのだ。
つまり、ドロップフレームというのは厳密な放送時間(実時間)が関係するテレビ映像制作のための規格なのである。
反対に、実時間に縛られない配信動画や映像パッケージ、イベント映像制作などではTCをスキップしないノンドロップフレーム方式が選択される。ちなみにテレビ映像であってもコマーシャルだけはノンドロップフレームで制作が行われており、これは映像の長さが15秒や30秒と短くて実時間とのズレをほとんど考慮する必要がないからである。
読者の皆さんが、撮影時にカメラ設定で DF か NDF かどちらを選択するかは、テレビ用の映像を撮るか否かという判断基準で問題ないだろう。
ただし、複数のカメラや別途音声レコーダーなどをTCを使って同期させる場合は、DF か NDF のどちらかに統一しておかないと、のちのち面倒なことになる可能性が大きいので、その点は撮影収録計画の最初から DF か NDF かを定めておいたほうが良い。
レックラン/フリーラン
次に、REC RUN(レックラン)か FREE RUN(フリーラン) かの選択を考えよう。
レックランはカメラを録画状態にしている間だけTCがカウントアップされていく方式で、フリーランはカメラの電源のON/OFFや録画状態に関係なくTCの初期値を設定した直後から常にカウントアップされつづけているタイムコード方式だ。
▲GH6のタイムコードのカウントアップ方式選択メニュー。
レックランとフリーランの使い分けだが、複数のカメラや録音機器を同期させて使う場合や、現場で収録した時刻が重要な場合はフリーランに設定する。それ以外であればレックランで良いだろう。
▲E放送用ENGカメラの場合は、タイムコードの設定はメニューに入らずに独立したスイッチやボタンで設定が行える。
複数のカメラやレコーダーを使用するマルチデバイス収録の現場では、フリーランを使用する。
最初に各機器のTC設定をフリーランにする。フリーランにした機器の一台を親機として任意のTC初期値を設定する。その親機を使って、各機器にTCの外部同期(スレーブ)を行う。スレーブは、各機器に備わっているタイムコード IN/OUT の端子から有線接続して行う。親機からTC信号の入力を受けると、子機側はその信号を基準にTCを回しはじめる。そのようにして同期したらスレーブに使ったケーブルは抜いても大丈夫だ。あとは、各機の内部クロックでそのTCを継続してカウントし続ける。
▲タイムコード端子同士を繋いでTCをスレーブする。
このようにしてTC同期を取ることで複数のカメラや録音機器をカットごとに回したり止めたりを繰り返しても、どのファイル、もしくはどのタイミングが同じ瞬間なのかをTCを参照して把握できるようになり、編集での同期合わせがスムーズに行える。
ただし、一般的には各機器にTCの外部入力/出力機能(端子)が備わっていないと、この方法は使えない。
▲ENGカメラのタイムコード入出力端子とGenLock端子。
▲ハンドヘルドカメラのタイムコード端子とGenLock端子。
しかし現在はこうしたタイムコード入力非搭載機器のタイムコード同期問題を解決してくれる救世主的な製品が発売されているので、それは後ほど紹介したい。
また、フリーランを用いるもう一つの現場が、報道やドキュメンタリーの現場だ。この場合はカメラが一台であってもフリーランでTCを走らせることが通例だ。報道などでは目の前のイベントが何時何分何秒に発生したかを記録しておくことは事実確認の要素として重要であり、映像素材の価値を高める。そのため、報道で使うENGカメラのTCは常に時計と同じ時間を刻むように設定する。
報道撮影の現場では、カメラマンの後ろにつく報道VEさんがカメラに表示されているTC見ながら、何時何分ごろに何を撮影したかキャプションカードに書き入れていく。そして本局に入った素材は、そのキャプションに書かれたタイムをもとに該当カットを編集マンが探し、短時間で確実にニュース映像として繋いでいくのだ。
また、映画やドラマでもフリーランでリアルタイム表示にし、その時刻に一致している手元の時計などを見て、OKテイクなどのタイムを台本に記入していく使い方もある。
このようにレックランとフリーランの使い分けは、同時性や時刻管理が重要か否かで使い分けることになる。タイムコードの設定は意図を持ってしっかりと使い分けることで、素材の管理や編集工程がスムーズになることが分かる。
しかし、その恩恵を受けるために、TCケーブルを機器同士で繋いだりするのは現場を煩雑にすることにもなる。また、エントリー機や民生機器ではフリーラン設定も外部入力も搭載されていない…というのがほとんどだろう。そこで、そうしたタイムコード同期をワイヤレス化し、民生カメラでもTCを同期させてマルチカメラ構成に組み込めてしまう、タイムコード関連製品を紹介したい。
(編集部注:タイムコード関連製品についてはビデオサロン2023年10月号発売のタイミングで誌面とWEB同時公開します)