映像制作技術会社、株式会社スパイス(SPICE)のDIT・カラリストの三浦徹さんに、発売されたばかりのBlackmagic URSA Cine 12K LFを検証していただいた。ふだんからALEXA 35をはじめ、各社のシネマカメラをお使いの三浦さんにこのカメラの使い所、魅力、今後のシネマカメラの動向をどう考えているのかを話していただくうちに、ブラックマジックデザインがこのカメラで目指していること、そして、これからシネマカメラがどうなっていくのかが見えてきた。
まとめ⚫︎編集部 一柳
350%拡大しても解像度が担保されていることに驚く
今回、Blackmagic URSA Cine 12K LFをある撮影にテスト導入してみました。その現場はスタジオでのグループ撮影だったのですが、カメラはFX6を12台入れて同時に回すというもので、Blackmagic URSA Cine 12K LFは引きで全体を押さえたのですが、編集時に240%とか350%拡大しても他のカメラと遜色ないクオリティなんです。最終は4Kの仕上げで350%まで拡大しても解像度が担保されていることにまず驚きましたね。
たとえばミュージックビデオのダンスシーンなどでは、メンバーの数が多いとそれぞれのメンバーを捉えなければならないのが大変なのですが、そういう撮影では、この12Kを利用して絞りを16くらいまで閉めてパンフォーカスにして撮っておけば、監督の欲しいサイズ、顔の寄りやダンスの足元など、パーツを切り出すことができてしまう。このカメラの登場でミュージックビデオの撮影方法が変わるんじゃないかと思いました。
ただ、この使い方をする時に気をつけるのは、レンズのディストーションです。ワイドだと端の方の人物はどうしても歪んでしまうので、できるだけ標準のレンズでなるべくディストーションがない状態で撮っておくことでしょう。
12Kなんて要らないんじゃないかという意見は多いと思うのですが、こういう使い方ができるとなるとその概念が覆されると思うんです。
12Kでも4Kでも画角が変わらないのはメリット
あとこのカメラのメリットは、4Kにした時に画角が変わらないことですね。これはシネマカメラとしては珍しくて、通常はブローアップされてしまいます。このカメラは12Kのセンサーの画角で4Kを撮ることができる。12Kの解像度感とか粒子感がそのまま残って、小さくなる感じなので、さらにクリアな印象になります。
Blackmagic URSA Cine 12K LFとARRI ALEXA 35で街並みを撮影して比較してみたのですが、こういうときに雲の階調のディテールがARRIと他のカメラで違うことが多くて、白のグレーディングに差が出て、いつもALEXA 35がいいねということになるのですが、URSA Cine 12K LFとはラチチュードがまったく一緒でした。クリップしなくて、ALEXA 35とほぼ同じなんです。ちょっと違うなと思ったのは、電線とか看板のシャープネスで、URSA Cine 12K LFのほうが情報がありました。それはALEXA 35が4.6Kだからということもあるかもしれません。そのくらいしか違いを見いだせませんでした。だから、クルマとか化粧品のボトルとかの商品を高精細に見せたいという場合は、このカメラはダントツに良いと思います。
各社のカメラと比較してみると、唯一、気になったのが収録したあとのデータを見ると、輝度レベル25-30%あたりのところでグリーンやマゼンタのノイズが少しあることです。グレーディングでいじっていったときや合成するときに、そこは気になるかもしれません。DaVinci Resolveでノイズリダクションをかければ回避できるレベルかと思います。
ALEXA 35と階調が同じ。さらにARRIのLUTを当てるとかなり近づく
階調がALEXA 35とほぼ同じと言いましたが、URSA Cine 12K LFにブラックマジック推奨のLUTよりもALEXA用のLUTを当てると、さらに合わせやすくなります。DaVinci Resolveの中に入っているARRIのLog CからREC.709にするLUTを選択するだけで、ARRIに近いルックになります。ここからサチュレーションなどを微調整していくだけでいい。撮ってみて驚いたのは、白ホリでデジタル撮影をするとチープで立体感が感じられなかったりするのですが、このカメラは色が立体的に感じられます。引きの絵であってもとても高精細です。
12Kだと後処理が大変じゃないかという心配もありますが、Blackmagic Media Moduleをカメラから抜き出して、オフロードの専用デッキ、Blackmagic Media Dockで入れると10Gイーサネットにつながって、これまでの感覚だと4、5時間かかるファイルが30分くらいで行ける感じです。さらに素材のなかにPROXYファイルが同時生成されているので、オフラインのデータをDITが作成する必要がないし、12Kの素材は使わずにPROXYで編集してOKなものを持ってくるということをすればかなり手間が省けます。
ラージセンサー時代、レンズが足りなくなる
カメラはもう各社がRAW(Log)で撮ることによってカメラの特性の違いみたいなのがどんどんなくなってきている時代ですよね。カメラもどんどん小さくなっていき、とんがった癖がなくなってきています。あとは解像度だったり、コストパフォーマンスだったりという違いになってくる。
今回のBlackmagic URSA Cine 12K LFのセンサーサイズはフルフレームで、シネマカメラでは、RED V-RAPTORとか、ARRI ALEXA LF、ALEXA Mini LFといったラージフォーマットと呼ばれるサイズです。今後、ブラックマジックデザインからは、Blackmagic URSA Cine 17K 65という65mmセンサーのシネマカメラも出てきますし、富士フイルムがGFXシリーズのセンサーをベースにしたシネマカメラを昨年のInter BEEで開発発表して、ARRIもALEXA 265を発表していますから、今後フルフレーム以上のシネマカメラが増えていくと思われます。アナモフィックレンズもそうなのですが、そういったカメラやレンズで撮ると明らかに映像が違っていて、独特な力があります。逆に言うと、若い人がそれほど経験を積まなくてもカメラとレンズを選んだだけで、よく見えてしまう答えがすぐに手に入ってしまう時代になりそうです。
ただ業界で運用するにあたって問題になってくるのがフルフレーム以上をカバーするレンズが足りないことだと思うんです。実は日本には、ハッセルブラッド用のレンズとかマミヤのレンズなど状態のよいものが中古として、しかも格安で存在しているのですが、それが海外でリハウジングされてムービーカメラ用として使われています。海外に流出する前にそれらを確保して、リハウジングするということに日本国内で早めに着手したほうが良いように思います。それから、ニコンがREDを買収しましたが、ニコンとかシグマがラージセンサー用のシネマレンズを出せば、世界中のシネマトグラファーが大喜びすると思いますね。一眼でムービーが撮れるようになったとき以来の大きなムーブメントが起きるのではないでしょうか?
全体にラージセンサー、高解像度化の流れですが、シネマトグラファーはシャープネスもきちんと確保しながらも、どれだけ柔らかく立体的で奥行き感のある映像にするかということを常に考えています。それは決して全体に柔かい画ということではなくて、シャープでメリハリもありながら、全体的にいかに柔らかく見せるかということであり、そのためにラージセンサーと高解像度を使うという方向になっていくと思います。
