聞き手:編集部. 一柳
――VIDEO SALONでは、Yahoo! JAPAN クリエイターズプログラムの頃から、金川さんにはお世話になり連載をしながら、それをベースに書籍まで作ってきましたが、現在そのプラットフォームが「Yahoo!ニュース ドキュメンタリー」に生まれ変わりました。過去の作品の大半は引き続きこちらで見ることができます。そもそもYahoo! JAPANクリエイターズプログラムが始まったのはいつでしょうか? ここまでの流れを金川さんとしてはどう捉えているのか、総括して振り返っていただけますでしょうか?
LINEヤフー株式会社 Yahoo!ニュース ドキュメンタリー チーフ・プロデューサー金川雄策さん
公式にお伝えしているYahoo! JAPAN クリエイターズプログラムのスタートは2018年11月でした。私が入社したのが2017年10月だったのですが、その頃、インターネット界隈では「動画元年」と言われていました。いろんな動画関連のサービスが立ち上がり、ドキュメンタリーにおいても次々とメディアが立ち上がっていた時期でした。
ただ一時期話題になったとしても、その後の数年間で続けていけなくなって形を変えたり、なくなってしまうということが起きました。そんななかで生き残ってきたというのは、素晴らしいことだと捉えています。クリエイターの方々がいいものを作りたいと願い、私たちもそれをユーザーに届けたいと思い、その双方の頑張りが大変な状況の中でも生き残ってこられた理由ではないかと受け止めています。
Yahoo!(現LINEヤフー)だから残ったということもちろんあると思います。ただ、Yahoo!にしても営利企業ですし、WEBメディアは本当に決断が早く、新しいサービスが生まれは消えていくというサイクルがあり、そんななかで残ってきたというのは、ただただ運が良かったのかもしれませんが、作品一つ一つがしっかりとしたクオリティで作られていて、それを見た人たちが評価してくれたからだと思います。
ネクストステップにチャレンジする
――今回『Yahoo!ニュース ドキュメンタリー』が開設されて、第一弾としてフジテレビ「ザ・ノンフィクション」との連携が発表されました。すでにザ・ノンフィクションからも10分くらいの動画が公開されています。この立ち上げの経緯を教えてください。
スタートして最初の3年くらいは新しい挑戦が続いていき、ドキュメンタリーのポテンシャルは認知されたのですが、5、6年もたつと、天井が見えてきました。もちろん、より短い尺のMicroDocsとか、ドキュメンタリー作品を学校の教材として使うなど新しい展開、いろいろなチャレンジはあったのですが、メディアとしての形はある程度定まってきていて、ある意味、完成形になりつつあったと思います。
「本来やりたかったことはなんだっけ」と思ったときに、もっと多くの人にドキュメンタリーの魅力を知っていただき、見られる場所を用意し、もっとドキュメンタリー業界自体が盛り上がっていくハブになりたいということでした。
ここで違うやり方、違う戦略をとってみないと、わたしたちが思い描いていた社会にはならないだろうと判断して、ネクストステップにチャレンジしようということになりました。
テレビ局とインターネットメディア
――連携するコンテンツパートナーが、フジテレビの「ザ・ノンフィクション」です。WEBのドキュメンタリーはより短いもので、テレビドキュメンタリーとは違うものが立ち上がっていくのかという期待がかつてはあったと思うのですが、そこは方向転換している部分はありますか?
方向転換ではないと思っています。というのは、このプラットフォームで30分のものを見せようということでなく、テレビ局の皆さんに対しても、10分とか3分といったスタンスで勝負してみませんか、一緒に作っていきましょうというお願いをしています。我々はインターネットのメディアであり、そこで見ていただくという形は従来通りです。そんなに長いものをユーザーが今の段階では求めていないというところもあるでしょう。
テレビ局側からは、誰もが番組をすぐに作れるわけではなく、企画があってやりたいと思っているディレクターが番組の一歩手前のところでトライできる場所として使っていけないかというお話もありました。
ここがトライする場所として機能していくとしたら、ドキュメンタリーの業界全体で考えたときに非常によい影響につながっていく可能性はあるんじゃないかと思っています。
――確かに今までも10分のものを作って、そこをベースにしてテレビ番組になったケースもあったわけで、その流れは変わらないということですね。
はい。その流れは変わらないですね。立ち上げ当初こそ、過去のものを10分にまとめていただいているケースが多いのですが、それでも新しく撮影したものを含めて編集しているケースもあります。テレビ局の中の若い人たちが挑戦できるような場所でありたいと思っていますし、民放キー局だけではなく、地方のテレビ局というのも本当に地に足をつけて取材されている方々がたくさんいらっしゃいます。これまではローカルでしか見られなかったものを、われわれのプラットフォームで全国の方に見ていただくというようなこともぜひやっていきたい。それによって横につながりもできて、作り手同士の交流を生み出したり、いろんな方向で影響を与え合うような形になるんじゃないかなというような期待はしています。
10分という尺は目に見える企画書
これまでのテレビ番組の企画書というはペラ一の紙の企画書だったと思います。それで番組として成立するかを決められてしまいます。すると実績がない若い人は不利なんです。これは投資のようなもので、どうしても実績があって確実に作ってくれる人のほうが安心なのでそちらに投資が集まるのは自然な経済原理だと思うんです。ところが10分の映像で見られる企画書になることで、新たな才能が目に留まるかもしれません。そういう場所として活用してほしいという思いがありました。クリエイターのほうも10分の枠のなかでどんどんトライしていくことで、自分の技術も向上していきます。ドキュメンタリー制作者にとってのエコシステムのひとつとして使ってもらえるような場所になっていくといいんじゃないかと思っています。
クリエイターから切るか、ニュースから切るか
――Yahoo!JAPANクリエイターズプログラムでは制作者の目線が重視されていました。いっぽうでテレビというのは基本的にディレクターが前面に出てこない媒体です。今回のYahoo!ニュース ドキュメンタリーというのは、その名からしてクリエイターというよりも、ニュースそのものに比重が置かれているプラットフォームになったような気がします。クリエイターの立ち位置はどう変わっていきますか?
エキスパート作品については、個人のドキュメンタリークリエイターが制作した作品で、これまでと変わらずクリエイターの名前が出ています。コンテンツパートナーの作品については、テレビ局のアカウントになるので、個人の署名を出すかどうかは会社の自由ということになります。個人の名前が出てくることによって、いろんな変化は起きてくるかもしれないなというのは思いますし、放送だと一瞬のエンドロールで消えてしまうのも、ネットだと確認することができるので、より著名性というのは出てくるんじゃないかなとは思っています。
同じサイトの中にエキスパート作品があり、一方でテレビ局や新聞社の映像もあるということがむしろいいと思っています。テレビ局であっても作り手はひとりのディレクターであり、絶対に何かしらの影響を受けるわけで、そこに文化的な融合が起きるのではないかと期待しています。
――我々はクリエイター向けのメディアなので、クリエイターでの切り口を重視しますが、視聴者の側に立つと、何が語られているかというニュース視点のほうが親切ですね。
テレビ局のものであっても、このディレクターのものに注目してみたいという人が現れてくるといいですし、一方で、題材によって、表現のやり方として、ディレクターの存在を消したほうがいいときもあります。また調査報道のように集団で作っているから実現できるようなものもあります。逆に個人でなければできないドキュメンタリーというものもあります。そこに関しては個人の視点がなければいけないということはないと思うので、いろいろなドキュメンタリーの切り口が存在するという多様性があったほうが、ユーザーにとっては良い体験ができるのではないかと思っています。
――Yahoo!ニュースのなかにドキュメンタリーも統合されたと思うのですが、導線としてはちょっとわかりにくいですね。ブックマークするのはマニアックな人だと思いますし、見てもらうのはトップページで取り上げてもらったり、SNSで拡散することだと思うのですが。
その両方をやっていきたいと思っています。Yahoo!ニュースのなかにはほんとにいろんなサービスがあって、みんな切磋琢磨しています。立ち上げたからそれで終わりということではなく、これからしっかり実績を積み重ねていき、いろいろな場所から導線したいと言ってもらえるように改善をやっていきたい。導線ができたからといってPV数が劇的に上がるということは難しいと思っていて、地道にフォロワーを増やしていき、SNSでも拡散することでファンを増やしていきたいと思っています。
札幌国際短編映画祭との連携
――クリエイターとしてここに投稿したいという人に道はオープンになっているのでしょうか? クリエイターからの自薦窓口というのはありますか?
具体的な窓口を用意し、審査するということは受けていません。ルートとしては札幌国際短編映画祭にMicro Docs 部門を作らせていただいていまして、そこに応募してきた人で、グランプリを獲得された人にはアカウントを開設していただいています。グランプリでなくても、場合によってはお声がけさせていただいています。
映画祭に出していただけると、お声がけもしやすいですし、我々もそういう才能と出会うために、映画祭と一緒になってやっていますので、ぜひ応募していただければと思っています。新しい才能と出会い、その才能が我々のプラットフォームで力をつけていくということが、メディアとして元気がある印ということだと思っています。それはインターネットメディアも雑誌も同じだと思うんです。
新しい才能が参加して、それが既存のクリエイターたちにも刺激になり、全体がブラッシュアップされていくという循環がある環境が理想であり、われわれもそういう場所になっていくことを目標にしています。それを設計して実際作っていくことはすごく大変なことですが、それをしっかりやっていきたい。今回そこにテレビ局という、素晴らしいリソースを持って制作される方々が合わさっていくと、今までにない文化として融合していくんじゃないかとすごく期待しているところです。
ーーコラボレーションの相手先が増えるペースは、どんなふうにイメージしていればいいですか? 1年に数社は増える感じですか?
いえいえ、そういうレベルではないです。大きな広がりを作っていけるかどうかは、この1年にかかっていますから、数社というレベルではなく、一桁違うレベルでコンテンツパートナーを増やしていきたいと思っています。さらに、コンテンツを提供してもらうだけでなく、パートナーと一緒に作っていく作品も生まれるというような、いろいろなコラボレーションが起きていくといいなと思っています。
――それは想像以上でした。楽しみにしています。本日はありがとうございました。
●Yahoo!ニュース ドキュメンタリー https://news.yahoo.co.jp/documentary/
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