レポート●栁下隆之

 

動画を撮影・編集していると、カメラとレンズの高性能化のお陰もあるが「今回は良いのが撮れたな」と自画自賛な瞬間を感じる時がある。とはいえ、編集を進めてみると「音がイマイチ」でゲンナリしてしまうことが多々ある。

特に、折角の超広角レンズなのに、モノラルで録音してしまい「映像のダイナミックさに音が負けてしまう」とか、ボケ味を生かした構図なのに音の芯が録れてなくて「被写体を耳で感じ取れない」とか、いわゆる、映像と音像がマッチしてないというのがそれらの原因だ。過去誌面で「音像」について、モノラル+ステレオをミックスすることで映像にあった音を作り出す手法を紹介したが、この時は所謂マイキングの知識などが要求される内容でハードルが少し高かったように思う。今回テストしたZOOM M3 MicTrackはそうした複雑な操作を可能な限りなくすと同時に、録りっぱなしで後から調整を可能にした画期的な製品である。

 

モノラル+ステレオマイク ≒ M(Mid)S(Side)マイク

M3 MicTrackは一見すると従来のモノラルガンマイクのように見えるが、32bit Float録音が可能なMSマイク一体型リニアPCMレコーダーである。MSとは M(Mid)+S(Side)のことで、Mid=モノラルにSide=ステレオの特性を兼ね備えたマイクのことである。本機では事前に設定した特性で収録できる音とは別に、MS RAWという形式で同時に録音することができる。このMS RAWは指向性を後から変えられるというもので、過去誌面で紹介した同社のH2nにも搭載されている機能だ。

ただ、H2nの時はバンドルソフトのCUBASE LEにプラグインをインストールしてデコードする必要があったり、筆者が使っている編集ソフトFinal Cut ProではDirectionMixerでデコードしてから整音作業が必要になるなど、直感的な作業とは言い難いワークフローだった。本機には専用デコードソフトが用意されたことで、パラメーターを視覚的・直感的に操作することが可能になったので、音の編集に慣れてない人でも、映像と音像のマッチングが容易になった。それに加えて、32bit Floatを採用したことによって、撮影時に余計な手間をかけることなく、高品質な素材を録音できるようになった。MS RAWと今話題の32bit Floatの合わせ技ということで「何やら凄い」と思っていただけただろうか。

 

32bit Floatとは、RAWなのかLogなのか

さて、32bit Floatという録音形式について理解して行こう。何を隠そう筆者もこの記事を書くまでは「なんとなく便利」くらいにしか理解してなかったので、今一度おさらいをしてみたところ、映像のRAWという考え方よりも、Logに近い意味合いで理解したほうがとっつきやすいと感じた。MS RAWと混同しないようにとの事もあるが、超大なダイナミックレンジを持つLogデータと考えておけば、撮影に主眼を置く読者なら考え方が整理しやすいと感じたからだ。

まず、録音レベルの大小をダイナミックレンジ内に納める作業は、カメラの露出を決める作業に似ているのだが、仮に絶対に白飛びも黒潰れもしないカメラがあったとしたら、そもそも露出調整する必要があるだろうか? これはないと言って良いだろう。なぜなら後から中間調に対してコントラストを調整すれば万事解決という話だからだ。32bit Floatで録音された音も、これに近い考え方で、後から自在に整音=コントラスト調整出できると思えば、録りっぱなしで大丈夫だと理解できる。それってRAWなのでは? と気づいた読者の方は鋭いが、マイクを正しく使う作法は従来と変わらない点において、Log撮影のような作法があることを忘れてならない。

被写体に正しくマイクを向けることやその距離に加え、風の吹かれ対策でウインドジャマーを装着するなど、最低限の作法があって初めて成立する部分は、撮る(録る)前の作法がある点においてLog撮影とよく似ている。しかし、最低限の作法さえ守れば、かなり自由度の高い録音ができる点は、録音のハードルを大きく下げた(むしろなくなった)と言っても過言ではない。

例えば、1時間に1本しか走らないローカル列車を撮影するのに、1回目で録音レベルを調整して、1時間後に本番を録るというのはナンセンスだ。しかも、カメラのアングルとワークまで同時にと考えたら、2回目で100%成功するとは言えないということもあるのでゾッとする。そんな時に活きるのだ32bit Float録音だ。

音は編集時の調整に委ねることでカメラ操作に集中できるので、使い始めたら必須ともいえる機能だろう。加えて、今回紹介するM3はデュアルA/Dコンバータ内蔵で、全域において極めて良いS/Nで録音をすることが可能だ。音質と音像を後から自在に調整できる点において、スナップショット的な映像撮影においては、これ一択となるだろう。

 

 

専用ソフトZOOM M3 Edit & Play

PCに取り込んだRAW.WAVファイルが格納されたフォルダを開いて、編集したいファイルをダブルクリックすると、ゲインとステレオが調整できる。再生しながらリアルタイムで確認できるので、目的の音像が作りやすい。レベルメーターのピークを見ながらゲインを調整する。

 

今回の作例では、後の編集作業での負担を減らすために、基本的には24-bitリニアかつノーマライゼーションをONにして書き出した。ノーマライズとは音量のばらつきを整えて、聞き取りやすく調整することで、編集ソフト上で行う作業を事前に済ませることができる。

ちなみに、ノーマライゼーションをONにするとゲイン調整は無効となり、自動的に音のピークは割れずに小さい音が適度に持ち上げった状態になる。それにより聞き取りやすい状態に調整されるというわけだ。

 

この2カットについては、MS RAWの指向性だけ調整して32bit Floatで書き出した後に、タイムライン上で調整した。


24bitでデコードした音声に関しては、タイムライン上では一切調整していないが、充分な音質で視聴することができると思う。音量の大小差のある撮影条件を中心に撮影してみたが、マイクレベルの調整が皆無で一発撮りできてしまったことが何より驚きだった。編集時に音の同期をという一手間はあるが、撮影時の手間が激減したことを考えれば、手放せない道具の一つになるのは間違いないだろう。

 

 

 

GH5IIに装着した状態。ファインダー側への張り出しを最小限にするために、接続端子は横方向へ配置。ファインダーを覗いても、額へ干渉し難い。サイズ感も極力小さく抑えられている印象だ。今回MFTの9mm単焦点(フルサイズ換算18mm)レンズでもテストしたが、マイクが見切れてしまうことはなかった。

 


開始/停止ボタンには周囲に段差があり誤操作防止に役立っている。本体後部のこの位置は、カメラ操作の流れでRECボタンが押せる絶妙な位置に配置されており、操作性が大変良かった。

 

モノラルとステレオの切替ボタンを配置。指向性のパターンもボタン一つで切替られる。※同時記録のWAVファイルに反映されて、MS RAWには反映されない。また、必要がないから当然だが、ゲイン調整のボタンもツマミの一切なく、あるのはヘッドホンの音量調整ボタンのみ。本体後方にはmicroSDカードのスロットを配置して、無駄のないデザインとなっている。

 

ケース一杯に電池が収まっている。最小限の大きさに入手性の良い単三電池を納めることで、可搬性と使い勝手の良さを両立している。

 

屋外での撮影にはウインドジャマーを装着。手元にあったAZDENのSWS-100がピッタリ装着できた。インナースポンジ一体型なので、後方からの吹かれにも強い。

 

レコーダー単体+テーブル三脚。もちろん単体でレコーダーとして活用できる。カメラシューの下には1/4のネジが切ってあるので、テーブル三脚などを使用して設置も可能。

M3だけを持って、動画素材に合わせたい環境音を探しながら、散歩するというのも面白だろう。向ける方向と、モノ・ステレオの切替で音像が変わるという録音の奥深さをを堪能できると思う。

 

 

MS以外のマイクを使いたければF3という選択肢も

MS以外のマイクを使いたければ、F3という機種がラインナップされている。2chのXLR入力端子が有り32bit Float録音が可能。たとえば高性能なステレオXYマイクを装着して、よりダイナミックな音を録音したり、モノラルガンとラベリアマイクの併用や、ガンマイクとボーカルマイクでギターの弾き語りを録音するなど、様々な使い方が想定できる。

仮に、業務用マイクに対応できるXLR入力のアダプターを未だ所有してないのであれば、ZOOM F3を導入する選択肢もあるだろう。カメラへはガイドとしてMIC出力しておけるし、本体には32bit Floatで録音できているので、後の整音作業の手間はあるものの、録音の失敗をなくせる意味で導入メリットは大きい。むしろ、安易に純正やサードパーティのXLRアダプターに手を出すくらいなら、F3を導入した方が撮影時の手間と失敗を減らせるし、価格的にも決して高くはないはずだ。もちろん単体でレコーダーとして使える点において、それ以上の価値があるということにも注目しておきたい。

映像でリッチな描写を狙うなら、音の解像感にも拘ってXYステレオマイクを使いたい所。筆者はこんな時はRODE社のStereo VideoMic Xを使っている。XY一体型でカメラシューにマウントできる手軽さがある。従来なら業務用カメラのXLR入力か、4chのリニアPCMレコーダーと組み合わせていたが、F3との組合せなら圧倒的にコンパクトなセットアップでも高音質な録音が可能になる。勿論、マイクとF3だけで運用する事で、撮影の合間に環境音だけ録音したりと、用途が広がる点も見逃せない。

 

Rigを介してステレオマイクとF3をカメラに搭載。思ったほど大柄にならずにまとめることができた。

 


市販のストロボ用のL字ブラケットで単体運用を想定してセットアップ。撮影中は何かとバタバタして良い環境音が録れないことが多々有るので、時間の空いた時に必要な機材だけで録音できるのは便利。

 

良い映像には良い音を、苦手を克服すると共に、音質・音像にも拘った映像制作に是非トライしてみてほしい。