鬼太鼓に惹かれて移住した佐渡
自分の映像技術を活かしながら佐渡で映画が撮りたい

取材・文/編集部 一柳

 

鶏冠井健人さん https://www.youtube.com/@kaidenkento1213

 

鶏冠井さんの作品より

『Documentary Of Us|岩首鬼太鼓 “鳴り止まぬ” 』

佐渡にある岩首という集落の鬼太鼓を撮影。集落によって固有の流派がある。その集落の一軒一軒で披露される。

 

『Documentary Of Us|“特別な何かではなく”』

鶏冠井さんは佐渡島の営みの何に惹かれるのか、なぜ惹かれるのか、何を見つめているのかを描いたショートフィルム。

 

『Short Film|Lemonade』

夕暮れの堤防での高校生ふたりのやりとりを描いたワンシーンのショートドラマ。鶏冠井さんが撮影、編集、監督。3分48秒。

 

『シン・ゴジラ』で映像を目指す

佐渡の鬼太鼓を撮影したくて、2022年に佐渡に家族で移住した鶏冠井(かいでん)健人さん。きっかけは新潟の大学の教育学部で音楽を学んでいたときに、佐渡島に民俗芸能の実習合宿に行ったこと。そこで佐渡に古くから伝わり、現在も各集落で行われている鬼太鼓を知る。その時に強く惹かれるものはあったが、専門は音楽であり、映像で残したいという気持ちが生まれたわけではなかった。

大学卒業後は新潟で舞台照明音響の会社に就職する。映像の世界への転身を決意したのは2016年公開の『シン・ゴジラ』だった。

「あれを観て自分は子どもの頃に特撮が好きで怪獣とかウルトラマンオタクだったことを思い出したんです。シン・ゴジラの公開が7月29日で、もう8月には映像の仕事ができる会社はないかと探していました。新潟にはないので東京に行くしかないと。そこで東映のポスプロが中途で募集していることを知ってそこに転職できました」

最初はフレームレートの知識すらないし、周りは映像の専門学校を出たスタッフばかりで遅れを感じていたが、映像の基礎を学ぶ時間も与えられたし、なによりもテレビドラマなどの第一線で作品を仕上げている映像のプロと一緒に仕事ができたことが、自分の財産になったという。

 

やっぱり佐渡に行こう

数年でオンラインエディターになり、仕事も軌道に乗っていたが、 やめることになったのはコロナ禍だった。実は、東京に来てからも、鬼太鼓が忘れられなく、毎年春の祭りの時期には佐渡に通っていたが、それもコロナ禍で行けなくなった。2022年にようやく今年の春は行けそうだというタイミングなのに仕事が詰まっていて行けない。そこで3月に辞表を出して、佐渡に向かうことを決意。9月に佐渡に移住する。 

実はポスプロの仕事と並行して、コロナ禍になって仕事がなくなっていたフリーのカメラマンたちの自主制作の集まりに参加するようになっていた。自分は編集は専門だが撮影はミラーレス一眼は持っていてもまったく現場の知識もなかった。その集まりで、現場を経験させてもらい、刺激を受けることで、自分でショートフィルムを撮影して編集するノウハウを得ることができた。

 

佐渡で映画を撮りたい

佐渡では、鬼太鼓をはじめ、佐渡の文化を世界に発信する活動しているさどやニッポン株式会社の相田忠明さんと知り合い、会社に加わることに。鬼太鼓を撮影しながら、地域振興・観光促進のための映像制作を仕事として行なっている。

佐渡に通いながら撮影するのと、佐渡の住人になって撮るのはなにか違いはあるのだろうか?

「通って撮るときはどうしても観光の意識があるので、儀式を撮ってしまうんですよね。住むことによって人の中に入っていけて、人が撮れるようになってきた気がします。まだ集落の人の中には入っていけないところはありますが。佐渡では、祭りが芸能でなくて暮らしに溶け込んでいる。生業の農業や漁業も産業というよりも生活そのもの。そんなところはあまりないです。いずれ佐渡で映画を撮りたいと思っています」

 

撮影機材


▲ソニーのFX3に標準ズームのFE 24-70mm F2.8 GM IIというのが基本セット。純正の音声ハンドルユニットにはガンマイクのゼンハイザーのMKE 600。SmallRigのリグでグリップを固定して、モニターはATOMOSの5インチモニターSHINOBIをハンドルグリップに固定。

▲サブ機のソニーのα1は主に趣味のスチル撮影で使用。Mマウントレンズで風景などをモノクロで撮っている。

 

主な機材リスト

鶏冠井さんの編集環境。編集とグレーディングソフトはDaVinci Resolveで。作業ではカラーグレーディングが一番楽しいがゆえに時間がかかってしまうという。趣味のスチルのほうはあえて色を抜いてモノトーンを追求している。

 

 

VIDEO SALON 2024年3月号より転載