【NEW AGE CREATORS vol.08】平井侑馬(映像作家)〜大切にしているのは、作品にとって適した捉え方で、被写体や空間を魅力的に映すこと


大切にしているのは、作品にとって適した捉え方で、被写体や空間を魅力的に映すこと。

取材●編集部 片柳 文●村松美紀 

PROFILE
ゲーム会社にてグラフィッカーとして勤めたのち、独学で実写映像の道へ。現在はMVやライブ映像のほか、アニメーションなど絵を扱うクリエイティブに携わり、活動のジャンルは多岐にわたる。

 

 

平井侑馬’s PROJECT introduction

演者の様々な姿を魅力的に映すことに注力したMV

『WEEKEND』MV / ジョナゴールド

2023年1月18日(水)にリリースされたジョナゴールドさんのソロアルバム『WEEKEND』の収録曲。MVでは青と緑の部屋の中で元気に歌って踊る姿が印象的だ。ポップな色使いの衣装や小物、ヘアアレンジやネイルの変化が目を引き、ビジュアルへのこだわりが随所に表れている。カット割りの多さと踊るようなカメラワークで全体を通して楽しい映像に仕上がっている。

 

本作は青森で撮影しました。地方での撮影では照明部が呼べないことや適したスタジオがないことが多く、ディレクションに加えて複数の役割を兼任します。今回はマンションの一室をお借りして、ホームセンターでペンキを買って壁を塗ったり、家具屋へ行って美術を揃えたり、手作りで環境を整えました。撮影は、詳細なコンテを用意する案件も多いのですが、今回は内容をあまり固めず臨みました。衣装は4パターン、ヘアメイクをそれぞれ変えて、あとはその場の思いつきです。「自由に音楽を楽しむ」という楽曲のコンセプトに合わせるため、楽器は当て振りでも気にせず、喜怒哀楽、演者の様々な姿を魅力的に映すことに注力しました。詳細を詰めないからこそ引き出せた表情だと思います。

また映像のレイアウトにも規則性は持たせず、マルチ画面を多用し情報量の多さが印象に残る作品を目指しました。晴れ晴れとしたトーンに合わせるためグレーディングは濃く鮮やかに、照明も順光寄りで組みました。ポジフィルムのように見せたかったので、編集時にグレインやハレーションを強めに乗せています。


撮影のために2日で部屋をセットアップ。上がセット前で、下がセット後。

 

 

『Redo』MV / MIGMA SHELTER

超広角を使った手持ち・ジンバルで躍動感を出した作品。室内シーンでは自宅を改造しロケ地に使用。ライティングも自ら行なっている。

 

 

◆平井侑馬とはどんなクリエイター?

映像作家兼イラストレーターというふたつの顔を持つ平井さん。高校を卒業する頃にアニメーションに興味を持ち、絵を描きはじめる。ゲーム会社でグラフィック・絵コンテを担当し、本業の合間に実写の映像にも挑戦。ライブイベントなどの撮影から徐々に活動の幅を広げ、アニメ『ゆるキャン△』のエンディング曲『ふゆびより』のMVの制作依頼を受けたことで意識が変化。「絵は自分さえ動けばいつでもどこでも描くことができる。多くの人のノウハウが必要となる映像制作を20代のうちに学びたいと思った」その後、りんご娘のMV制作をはじめとした青森に関わる案件にも多く携わる。「出身は埼玉ですが、青森は第二の地元のようになってる」と、青森の方の協力的な人柄も活動を後押ししているようだ。

現在の制作の割合は、MV制作が4、ライブ関連が3、企業案件が3。撮影スタイルは様々だが、制作物の質は徹底的にこだわり抜くのが特徴。

またカラーでいうと、変化を与えつつも元の印象は損なわせず、真摯なグレーディングを心がける。「被写体や空間に合ったナチュラルなトーンを意識。作品を自分の色に合わせるのではなく、作品が、それ自身にとって最も望ましい状態であることを目指しています」とのこと。平井さんの映像制作の軸は、被写体が魅力的に見える作品に仕上げることが最優先。ちなみに、イラストレーターという顔もあるため、絵コンテがそれだけで作品と呼べるほどクオリティも高い。

予算や進行の都合上、照明や撮影、ディレクションを兼任することも多く「器用貧乏なところもあるんです」と話すが、自分が作りたいものをアウトプットするために自ら手を動かすというのが平井さん流の映像へのこだわりだ。また、「会社への所属やチームでの活動を行いたい」と新たな道も模索中。「色々な方の力を借りて、より大きく、幅広いものづくりをしたいです」と語った。

 

 

主な機材・ツール

平井さんの作業環境

 

 

VIDEO SALON 2023年4月号より転載

vsw