広告代理店からスタートして社内スタッフを中心に映画制作

取材・文/編集部 一柳



栂岡さんの作品より

『人形師天狗久』〜阿波木偶箱まわし、面劇、阿波人形浄瑠璃〜

出演= 天狗久:麿 赤兒  語り:高泉淳子  阿波木偶箱まわし保存会:中内正子、南 公代 
阿波人形浄瑠璃:勝浦座 面劇:藤間直三 太夫:竹本友和嘉、竹本友廣  三味線:鶴澤友勇、鶴澤友輔
監督・編集=栂岡圭太郎   台本・演出= 鈴木英一   構成・演出=花柳源九郎  音楽=竹花加奈子


香盤表

『人形師天狗久』は41分の映画。3日で撮影した。2日目の香盤表。

絵コンテ



映画の作り方がわからない

栂岡圭太郎さんが代表を務める株式会社オリジナルは古くから徳島市にあり、もともとは交通広告を得意とする広告代理店だったが、今ではグラフィックデザイン、WEB制作、プロモーション企画から映像制作まで幅広く手がけるようになった。単なる映像制作ではなく、毎年のように「映画」に挑んでいるところが面白い。

きっかけは栂岡さんが関わっていた地元の青年会議所で「徳島の観光に繋がる映画を作れ」という使命を受けたことだったという。一眼カメラで動画を作れることはわかっていたが、 「映画」はどう作ったらいいのかわからない。そんなときにたまたまドローイングアンドマニュアルのワークショップが徳島で開催され、それに参加したことが転機となった。ワークショップで学ぶだけでなく、ドローイングアンドマニュアルのスタッフと一緒になって何作も映画を作り、徳島で開催された徳島国際映画祭に向けて毎年映画をコンスタントに作るようになったことで制作ノウハウを実作で身につけていったのだ。

その過程と作品については、昨年弊社から刊行された書籍「Roots the hood 地域を動かすアイデアとクリエイティブ」に詳しいので、ぜひそれを読んでいただきたいが、栂岡さんの映画への思いはとどまることなく、新たな展開をみせている。

オール徳島スタッフで作れるように

まず栂岡さんのみならずスタッフが成長した。徳島には映画を作れるような専門スタッフはいなかったので、自分たちでやるしかない。広告写真で付き合いのあったフォトグラファーはムービーも回せるようになったし、機材もブラックマジックデザインのシネマカメラなどを揃えた。音声のスタッフはふだんはライブハウスのPAをやっている人を起用。メイクはエステティシャンの人にやってもらうといったように、役者は東京から呼びながらも、制作スタッフはオール徳島で作れるようになった。 

「映画」として作る

映画のテーマも深みを増している。4K・VR徳島映画祭でグランプリを獲得した『人形師天狗久』は実在の人形師に宇野千代が聞き書きした本をベースに作られた、ドキュメンタリーにドラマを組み合わせた作品。天狗久には麿赤兒さん、宇野千代を想定した語りは高泉淳子さんを起用して再現ドラマ的に作成。人形浄瑠璃などは芸団協の全面協力を受けて実際の芸能を撮影している。

映画の舞台は徳島だ。もともと日本遺産という文化庁のプロジェクトで徳島の「藍」が取り上げられたのだが、徳島はこうした阿波藍による経済力をもとに人形浄瑠璃が発展する。その人形浄瑠璃に欠かせないのが人形だった。明治から昭和初期にかけて活躍した人形師の天狗久を主人公に、さらに数体の木偶を操りながら浄瑠璃を語る「箱廻し」、人形ではなく人間が面をつけ、浄瑠璃にあわせて演技をする「面劇」が紹介されていく。

藍をもとに発展、交流して広がっていった徳島の文化だが、実は徳島にいる栂岡さんもそれまであまり知らなかったことだったという。

当時を描くのにロケ場所には苦労しなかった。天狗久が仕事をしていた工房を再現した資料館や藍商人の家が残っているからだ。また吉野川の風景も車を後処理で消せば、ほぼ昔のままだった。しかも制作スタッフは自宅からロケ現場に向かうことができる。

紹介した映画『人形師天狗久』の現場写真。栂岡さんの映画制作スタッフは社内はじめオール徳島で構成される。少人数で仲間内で作っている楽しさがある。カメラはブラックマジックデザインのポケシネで、レンズはスチルでも使ってきたキヤノンEFがメイン。


地域から世界へ発信する

この映画は現在、世界の映画祭に出品しているという。今の日本人が忘れてしまった文化が日本の地域には色濃くあった。そこに光を当てる作品というのは、その地域でしかできない映画だと思う。


阿波箱回しが東京・渋谷で見られるイベントが11月1日、渋谷区伝承ホール寺子屋で予定されています。
『人形師天狗久』も上映される予定です。詳しくはhttps://shibuya-terakoya.comで。



●VIDEO SALON 2024年9月号より転載