ふるいちやすし プロフィール
脚本、監督、撮影、編集、音楽をひとりでこなす映画作家。モナコ国際映画祭:最優秀撮影監督、脚本、音楽、アートフィルム賞。ロンドンフィルムメーカー国際映画祭:最優秀監督賞。アジア国際映画祭:最優秀監督賞。最新作『千年の糸姫/1000 Year Princess 』はアメリカSMGグループから世界配信中。

 

 

ー今回は「JEM自主映画という麻薬」を好評連載中のタイム涼介さんをお迎えてして対談をお届けします。

ふるいちやすし 毎回連載を読ませていただいて、タイムさんは絶対僕とスピリッツが同じだと勝手に思っていまして、今回お会いできて嬉しいです。

タイム涼介 ありがとうございます。書籍になる前の原稿を送っていただき、ふるいちさんが言いたいことは僕が書きたいことと同じだと感じました。映画を作るということに対してのハードルを下げたい、二の足を踏んでいる人の背中を押したいと常々思っていました。

 

自分でやったほうが絶対上手い

ふるいち 僕は今でこそ映像制作の仕事をしていますが、元々音楽家で、タイムさんは漫画家で、異業種から映画に入ってきたということが共通項ですね。デジタル一眼が出て映像の表現力が一気に高まってきたことがきっかけだったんじゃないかと思うのですが?

タイム そうですね。一眼カメラを手に入れたのは撮りはじめてからちょっと後だったのですが、漫画もデジタルで描いていたから、編集ソフトを使えば意外に安く映像編集できると気がついたのがきっかけですかね。

ふるいち あ、僕も同じです。音楽制作用にMacを買い換えたときにiMovieが入っていて、これでどれくらい編集できるんだろうと思った。

映画は、音楽家として映画の音楽を作るということがあって、撮影現場に行ったりしていたのですが、自分でやったほうが絶対に上手いぞと…。

タイム 僕は自分の描いた漫画が映画化されることがあって、現場に見学に行きました。

ー映画の現場を、それぞれ音楽家と原作者という立場で経験したことがきっかけだったんですね。

タイム 漫画を描きながらも映画に対して憧れというか、コンプレックスみたいなものがありました。映画には音楽もあるし、漫画にはない部分も多いから、羨ましいという気持ちで見ていて。原作者として関わるのは嬉しいんだけど、ちょっと部外者という感じもあって、自分で撮りたいなあと思っていました。

でもどうやって作っていったらいいのかまったく分からない。漫画家さんで映画好きな人が映画サークルをやっていてそこに誘っていただいて、撮って編集して完成させるという体験ができたことが貴重でした。漫画でも描き始める人は多いけど、下手でも完成させることがとにかく大切なので。

ふるいち 僕は自分のほうが上手いという不純な動機で始めたのですが、すぐに映像の仕事がくるようになったんです。それから冷や汗もので必死に映像の勉強しました。

ー自分だったらもっとこうできるのにとか、こう撮りたいというのが強い原動力になりますね。

タイム 現場を見て、キレイな人を本当にキレイなままに撮るのは案外難しいなと思って、今でもそこに執着しているところはありますね。漫画でかわいい子を描けと言われれば、どんどんかわいく描けるのですが、映画の場合はそうじゃないということも結構あって、そのあたりは不満がありましたね。

 

 

漫画に対する憧れ

ふるいち タイムさんは先程映画に対してコンプレックスみたいなものがあったと言われてましたが、僕はむしろ漫画家に対してリスペクトしています。映像は、小さい頃から映画は好きで見ていたんですけど、圧倒的に漫画を読んできた。

だから、最初に作った映像は、漫画っぽいねと言われたんです。なるほど自分は漫画から強い影響を受けていると気がついたんです。漫画はフレーミングにしても、コマの形も自由だし、展開がダイナミックじゃないですか。ぺらっとめくったら1ページ全体で表現するということもあるし。そのダイナミズムに嫉妬しますね。

タイム 映像はカットの時間もあるし、前後のつながりもあるので、僕は映画的なカット割りがうまくできなかったんです。どうしたら映画っぽくなるのか悩んでいました。

ふるいち 映画として誰も文句を言わないようなものを作るのもいいですけど、本当に新しい物を作らないと面白くないと思っていて、漫画が持っているダイナミズムを映画で表現するということに、タイムさんは挑戦すべきじゃないですか? そもそも映画の本職の人と競っても勝てないわけだから。

タイム なんとか映画っぽくしようと思ってました。

ふるいち 映画マニアの監督がよくオマージュと言うのですがそれが嫌いで。映画が映画を真似てもそれは自家中毒でしかない。最近見たアニメの『平家物語』にはドキドキさせられたんですけど、アニメのほうが新しい表現が生まれていると思います。だからタイムさんには漫画家としての才能を映画に生かすることを考えるとなにか新しいものが生まれるのではと期待しています。漫画家はそもそも脚本が書けるし、ストーリーとかテンポ感も独特なものを持っているんですから。

タイム 漫画家だと自分のやっている漫画の強みを見落としているかもしれないですね。わりとマンガに慣れすぎているところもあるので。

ふるいち だからこそ漫画家の能力を生かした映画を撮ってほしいですね。

 

 

自主映画は学生だけのものではない

ふるいち 自主映画を作り続けている人は周りに多いですか?

タイム 映像の仕事をしながら自主映画を撮ったり、僕のように他の仕事をしながら映画を撮ったり、映像が好きすぎてお金がなくても自主映画をやっている人もいて。これだけやっている人がいるのに映画祭で学生限定というのがあるのが悔しいんですよね。

ふるいち 日本の映画界が自主映画は商業映画の前のステップだと捉えているからですよね。ぜひ海外の映画祭に出して現地に行ってみてください。日本の映画祭は文化祭みたいで若い人しかいないけど、海外の映画祭はあきらかにプロではない感じのおっさん、おばさんがたくさんいるんですよ! それが経験を積んで演技にしても演出にしてもどんどん磨かれていっている。

タイム 僕も何を目指しているのかと言われるとすぐに答えられないですね。自主で満足しているのかもしれないし。でも商業映画を目指していると言わないと、スタッフも役者さんも不安になって付いてきてくれないという思いもあって。

ータイムさんの連載漫画を読んでいると苦しい部分含め映画を作る過程そのものを楽しんでいる気がします。

タイム たしかに現場の空気を壊したくないし、俳優に無理なことはお願いしたくない。どこかでブレーキをかけているかも知れませんが。現場の雰囲気は笑いが絶えなくて楽しいのですが。

ふるいち 僕は歳も歳だから自分がいい人だと思われなくても良くて、とにかくいい作品ができたらみんな幸せになるって思っていて。たとえ女優に嫌われて終わったとしても、その時は寂しい気持ちにもなるけど、後で彼女のプロフィールに代表作としてその作品が書いてあると、いい作品を作ったという喜びが勝ってしまう。

ー始めたきっかけは近くても今のアプローチがまったく違うというのも自主映画という器の大きさかもしれませんね。本日はありがとうございました。

 

2022年10月31日発売
A5判 216ページ
定価:本体2,300円+税
ISBN 9784768316825
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●VIDEO SALON2022年11月号より転載