「進研ゼミ小学講座」で配信中 SFドラマ『情報発信局「わくわく! 地球調査隊」』は子供向けコンテンツでありながら大人たちが本気になって制作しているドラマ短編シリーズだ。VFX表現も豊富なこの作品は、毎週1本の配信に合わせてどのように制作されているのか。監督の岡 太地さんを中心にスタッフ陣に制作の様子をうかがった。
取材・文◎編集部 伊藤
『情報発信局「わくわく! 地球調査隊」』
「進研ゼミ小学講座」の受講者に向けて毎週月曜日に配信されているSF仕立てのショートドラマ。宇宙空間でエネルギー切れになってしまった宇宙船を動かすため、ふたりのシリ・タガーリ星人が地球で「わくわく」を集める。1話あたりの長さは5~7分ほど。大きく分けてドラマパートと教材紹介パートによって構成されている。
作品を見る
https://sgaku.benesse.ne.jp/sho/all/others/johostation/s3/mv0142.html
お話をうかがったみなさん
企画の経緯
「進研ゼミ小学講座」の受講者に向けて配信中のSFドラマ『情報発信局「わくわく! 地球調査隊」』。もともとベネッセと交流があった監督の岡さんの元に、「子供たちの進研ゼミ小学講座に対する愛着を育て、学びに向かう意欲を高めること」「今後受講者のもとに届く教材の情報を届けること」というふたつの軸で、週1回配信する映像コンテンツを制作してほしいという依頼があったのが企画の発端だったそうだ。
しかし当初想定されていたのは情報バラエティー番組。ストーリーや映画・ドラマ要素を取り入れた映像を得意とする岡さんは先方からの提案に対し別の提案をした。というのも、小学生の息子を見ていると、大人がなんとなくバラエティー番組を見るような感覚で子供たちは映像を視聴しないという実感があったからだ。
なぜSFドラマを作ることに?
ストーリー仕立てによるコンテンツのおもしろさと、5分という尺の短さを活かして、愛着を持ってもらえる作品作りに挑戦させてほしいとクライアントに伝えた岡さん。
「わくわくすること」とセットで学習することで楽しみながら主体的に勉強に取り組めるのではと考え、着目したのが子供たちが夢中になっているウルトラマンのような「SFモノ」。この時点では宇宙から来た異星人ふたりが登場する構想があり、3DCGを担当する増山さんに依頼をし、番組開始前の宣伝映像のために宇宙船の制作に着手していた。
さらに一方的に宣伝するのでなく、ストーリーのなかでなるべく自然に情報を盛り込む構成にしたいと考えたときにしっくりきたのが「他の星からやってきた宇宙人が教材を見てわくわくする」という設定。このようにして作品の根幹となる要素がひとつひとつ見えてきた。
企画がまとまったはいいが発足時とは大幅に異なる内容に、多方面に納得してもらうのは一筋縄ではいかなかったそう。しかし、最終的にはプロデューサーが「子供に楽しんでもらうにはクリエイターが楽しめるものを作らないと」と説得をし、関係者一丸となり企画が本格始動した。
作品のカギとなる宇宙船ができるまで
3DCGを担当した増山さんによると、宇宙船を作ってほしいという依頼を受けた段階で宇宙船の大きさや搭乗人数など、綿密なヒアリングを実施した。複数のラフを提出し方向性を決め、コンセプトアート→3DCGモデル制作といった工程で完成させていった。
意識したのは「大人が見てもかっこいいと思うデザイン」で子供向けコンテンツだという予測を裏切ること。コンセプトアートまでの構想では宇宙船の背面に街があるという設定だったが、変更になり大きなエンジンを置いた。3DCGモデルはおもにCinema 4Dで制作したそう。
視聴者を裏切る展開は物語がどう転ぶかわからないおもしろさにつながる
岡さんによると最初の1、2カ月は反応を見ながら探り探りで全体のストーリーを組み立てていったという。ネックとなったのがコンテンツの性質上、悲劇やピンチといったネガティブな要素を盛り込みづらい点。さらに、紹介する教材が確定した時点から限られた時間でその情報を交えてストーリーを練る必要があり、脚本執筆は撮影直前まで及ぶこともあるそうだ。
転機となるのが作品初の敵キャラが登場する第5話。冒頭からいきなり登場し、主人公ふたりがピンチに陥った。意識したのは物語がどう転んでいくかわからない海外の配信ドラマのようなムード。視聴者を裏切る展開を盛り込むことでフォーマットが定まらないコンテンツがその形を持つ仮定のおもしろさを狙った。
この作品は前述のタブレット端末によってコンテンツを視聴した小学生がコメントをしたり、「わくわくメーター」というスタンプでリアクションを取れるような仕組みになっており、そのリアクションを見ながら次の展開を考えることもあるそうだ。
グリーンバックを使いながらのロケ撮影
撮影現場におじゃましたところ、この日は廃校跡を活用した施設でのロケ撮影が行われていた。カメラはREDのKOMODO 6KとKOMODO-Xの2カメ体制。追加するCGの内容によって2種類のグリーンバックを使い分けており、VFXを担当する松田さんも現場でグリーンバックの準備や後処理をする際の観点から撮影をサポートしていた。
撮影の際は現場で画が決まらない場合のリファレンスやCG処理のイメージ共有のため事前に画コンテを作成しているが、基本的には役者と演技の段取りを確認した後にカメラ位置を決め、ライブ感を重視して撮影を進めている。
ロケの様子
随所でこだわりが光るVFX
作品の見どころでもあるVFXはメイン視聴者である小学生も楽しみにしているようで、喜んでもらうために、ついたくさん盛り込んでしまいたくなるそう。おもに松田さんがAfter Effectsで制作し、場合によっては岡さんがDaVinci ResolveのFusion機能で制作することもあるそうだ。
松田さんがこだわったのはグリーンバックで撮影した素材の「空間づくり」。特に力を入れたという月に向かう宇宙ポット内のシーンはAIを活用して背景を制作しており、その上に光や塵といった細かい質感を持つ層をいくつも重ね、空間の奥行を演出した。松田さんはこの案件を通してAEの各プラグインのレンズフレアの質感をつかむことができ、さらに限られた時間や人数のなかで一定のクオリティでできるという手応えを感じたという。
VFXで力を入れたシーン
Blackmagic Cloudでの共同編集
毎週配信という今作品のタイトな制作ペースの実現に欠かせないのが、Blackmagic Cloudの存在だ。大まかなワークフローとしては、撮影後に佐野さんがオフライン編集したものをクライアントにチェックしてもらいつつ、松田さんが教材パートの編集に着手。教材パートが終わり次第、必要な箇所にVFXの作業へ。その後、クライアントからの修正に対応し、奥田さんと岡さんがカラーグレーディングを進め、MAをして納品となる。
Blackmagic Cloudを使用することでDaVinci Resolveのプロジェクトを複数人で共有し、共同編集することが可能となり、上記のような作業を短期間で進めることができた。さらにタイムライン上に直接メモを残すコメント機能もあり、スムーズな連携につながったという。急な修正が入った際でも、これだけの人数がいれば誰かがすぐに対応に当たることができるという利点もあったようだ。
制作中のコミュニケーションはLINEグループで取り合っており、編集の際はLINE電話を1日6時間ほどつなぎっぱなしで作業をすることもあるそう。
岡さんは「それぞれ別の場所にいる人間同士がひとつの会社にいるようなスピード感でグループワークができるのはものすごい技術革新だなと思っています。仮に自分にVFXの技術があったとしてもこの作業を全部ひとりでやるのは不可能でした」と振り返る。
DaVinci Resolveの編集画面
ルビ入力は「Furigana Studio」を使用
編集作業のなかで苦労したのというのが、字幕をつける上での漢字へのルビ対応。小学生向けコンテンツという特性上、学年ごとの学習範囲に合わせて漢字やカタカナのルビを振らなければならず、慣れない作業に苦戦したそうだ。
そんななか見つけたのが「Furigana Studio」というサービス。srtファイルを読み込むことで、漢字に自動的にふりがなを振ることができる。実は、「Furigana Studio」のプログラマーにサービスを利用していることを伝えた際、意気投合し、最終的には今回の案件用にルビのプログラムを組んでもらったという。字幕作業は岡さんと佐野さんが担当した。
Furigana Studio
https://furigana.studio/
ショートドラマが持つ力
最後に監督であり企画者でもある岡さんにショートドラマで映像を見せることの効果についてたずねてみた。まず挙げられるのは、連続で見せていくことで視聴者がある程度の時間コンテンツに触れ、作品への愛着が生まれることだという。
さらに次のような答えも返ってきた。「ショートドラマを通してストーリーの浮き沈みを体験しながら一緒に作品の世界を旅していくことによって、視聴者も発信側も一体となった感情が作れるという面もあります。伝えたい情報を受け取ってもらうためだけに作る映像とは異なり、視聴者と一緒に作品の柱にあるおもしろさや楽しみを共有できるところにすごく価値があると思っています」
岡さんはよりドラマ制作に注力するために、これまで一緒に映像制作をしてきた仲間たちと最近法人を立ち上げたそうで、「配信プラットフォームでのドラマ制作を目指して力をつけていきたい」と今後の意気込みも語ってくれた。
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