DJIから登場したDJI Air 3S。待望の1型センサーを搭載し、4K/120fpsのスロー撮影にも対応。さらに障害物センサーにLiDARを採用するなど注目の新製品をドローンカメラマンの稲田悠樹さんが発売前の実機をテストしてくれた。過去のDJIドローンをすべて使ってきた稲田さんの目にAir 3Sはどう映るのか?
テスト・文●稲田悠樹(コマンドディー)
2023年11月末にDJI Air 3が発表され、今年はマイナーアップデート版のAir 3Sが登場しました。今回はAir 3と3Sの変更点と、カメラ性能について詳しくレビューしていきます。
映像の作例がこちらです。元のデータの状態をみていただくために、D-Log MをRec.709に変換して、露出を少し調整したぐらいです。この記事では映像の元データの質について比較してちょっと深掘りしたいと思います。
ちなみに、昨年のAir 3のレビュー前編後編で基本的な性能に関しては、解説しておりますので、以下の前編・後編を参考にしていただいて、今回は変更点についてレビューしていきます。
前編:https://videosalon.jp/report/dji-mini4pro_air3-2/
後編:https://videosalon.jp/report/dji-mini4pro_air3/
同梱品について
DJI Air3S FLY MORE COMBOを今回お借りしました。今やFLY MORE COMBOが標準となってる感もあり、これさえあれば空撮に必要なものは一式揃ってしまいます。本体、バッテリー3本、バッテリーハブ、モニター付き送信機、NDフィルター、キャリーバッグ、予備プロペラが同梱されています。
Air 3とAir 3Sのメインとなる変更点は、カメラ性能と障害物センサーですので、それぞれ詳しく解説していきます。
カメラの進化点
それは広角カメラのセンサーサイズが1インチCMOSになったという点です。実は、前回のAir 3の際カメラ性能に関しては、少し残念というレビューをしました。というのが、メインの広角カメラのセンサーサイズが1/1.3型 CMOSだったため、Mini 3や4と大差ない写りだと感じたためです。
しかし今回Air 3Sでは、しっかりと広角カメラ(24mm)は1インチCMOS、中望遠カメラ(70mm)は1/1.3インチCMOSとなっています。
センサーのサイズおよびレンズの数でMiniとAirとMavicが棲み分けされています。
詳しくはこちらの表を参照してください。
Mini 4 Pro | Air 3S | Mavic 3 Pro | ||
本体性能について | 重量(バッテリー込み) | 290g(インテリジェントフライトバッテリープラス使用時) | 724g | 958g |
本体重量(バッテリーなし) | 171g | 477g | 623g | |
バッテリー重量 | 121g(インテリジェントフライトバッテリープラス) | 247g | 335g | |
送信機(モニター付き)重量 | 421g(DJI RC2) | 421g(DJI RC2) | 390g(DJI RC) | |
本体、バッテリー3本、送信機の合計重量 | 949g | 1639g | 2018g | |
サイズ (L×W×H) | 折りたたみ時: 148×94×64 mm 展開時: 298×373×101 mm | 折りたたんだ状態:214.19×100.63×89.17 mm 展開した状態:266.11×325.47×106.00 mm | 折りたたみ時:231.1×98×95.4 mm 展開時:347.5×290.8×107.7 mm | |
最大飛行時間 | 45分 (インテリジェントフライトバッテリープラス使用時) | 45分 | 43分 | |
最大風圧抵抗 | 10.7 m/s | 12 m/s | 12 m/s | |
最大伝送距離(日本) | 10 km | 10 km | 8Km | |
内部ストレージ | 2GB | 42GB | 8GB | |
映像伝送システム | O4 | O4 | O3+ | |
カメラ・映像性能について | 広角カメラ | 焦点距離: 24 mm 絞り: f/1.7 センサー:1/1.3-inch CMOS 有効画素数: 48 MP | 焦点距離: 24 mm 絞り: f/1.8 センサー:1インチCMOS 有効画素数:50 MP | 焦点距離: 24 mm 絞り: f/2.8-11 センサー:4/3型CMOS 有効画素数:20 MP |
中望遠カメラ | なし | 換算:70 mm 絞り:f/2.8 センサー:1/1.3インチCMOS 有効画素数:48 MP | 焦点距離:70mm 絞り:f/2.8 1/1.3インチ CMOS 有効画素数:48 MP | |
望遠カメラ | なし | なし | 焦点距離:166 mm 絞り:f/3.4 センサー:1/2インチ CMOS 有効画素数:12 MP | |
ISO感度(動画、通常時) | 100-6400 (ノーマル) 100-1600 (D-Log M) 100-1600 (HLG) | 100~12800(ノーマル) 100~3200 (D-Log M) 100~3200 (HLG) | 100〜6400(ノーマル) 400〜1600 (D-Log) 100〜1600 (D-Log M) 100〜1600 (HLG) | |
デュアルネイティブISO | 100、800で切り替え | 100、800で切り替え | 100、800で切り替え | |
動画解像度(広角の場合) | 4K: 3840×2160@24/25/30/48/50/60/100fps FHD: 1920×1080@24/25/30/48/50/60/100/200fps | H.264/H.265 4K:3840×2160(24/25/30/48/50/60/120*fps時) FHD:1920×1080(24/25/30/48/50/60/120*/240*fps時) 2.7K縦向き撮影:1512×2688(24/25/30/48/50/60fps時) | H.264/H.265 5.1K: 5120×2700@24/25/30/48/50 fps DCI 4K: 4096×2160@24/25/30/48/50/60/120* fps 4K: 3840×2160@24/25/30/48/50/60/120* fps FHD: 1920×1080@24/25/30/48/50/60/120*/200* fps | |
動画フォーマット | MP4 (MPEG-4 AVC/H.264, HEVC/H.265) | MP4(MPEG-4 AVC/H.264、HEVC/H.265) | MP4/MOV (MPEG-4 AVC/H.264、HEVC/H.265) | |
最大動画ビットレート | 150 Mbps | 広角・中望遠130 Mbps | 広角200 Mbps、中望遠・望遠160Mbps | |
カラーモード&サンプリング方式 | ・ノーマル: 8-bit 4:2:0 (H.264/H.265) ・HLG/D-Log M: 10-bit 4:2:0 (H.265) | 広角・中望遠 ・ノーマル(FHD/2.7K):8-bit 4:2:0 (H.264) ・ノーマル(FHD/2.7K):10-bit 4:2:0 (H.265) ・HLG/D-Log M (FHD/2.7K):10-bit 4:2:0 (H.264/H.265) ・ノーマル/HLG/D-Log M (4K):10-bit 4:2:0 (H.265) | 広角 ・ノーマル:8-bit 4:2:0 (H.264/H.265) ・D-Log:10-bit 4:2:0 (H.264/H.265) ・HLG/D-Log M:10-bit 4:2:0 (H.265) 中望遠 ・ノーマル:8-bit 4:2:0(H.264/H.265) ・HLG/D-Log M10-bit 4:2:0 (H.265) 望遠カメラ: ・ノーマル8-bit 4:2:0 (H.264/H.265) CIneモデルのみ ProResによって10bit 4:2:2対応 | |
縦向き撮影 | カメラ向き切り替え(4K) | 画素切り出し(2.7K) | なし | |
その他 | 障害物センサー | 全方向デュアルビジョンシステム | 前向きLiDARと機体底部にある赤外線センサーで補完された全方向デュアルビジョンシステム | 全方向デュアルビジョンシステム |
対応送信機 | DJI RC-N2、DJI RC3 | DJI RC-N3、DJI RC2 | DJI RC、DJI RC Pro |
DJIのLog(の表記)について
カメラ性能の補足として、パッと見だと見逃してしまいそうですが、DJI製品には「D-Log M」と「D-Log」の2種類のLogがあります。
D-Log M: カメラセンサーが捉えるダイナミックレンジが適度に広いため、D-Logと比較して、後編集でのカラーグレーディングが比較的容易・効率的に行えます(同時に、カラーグレーディングの幅がD-Logよりも狭まるという意味にもなります)。
D-Log: カメラセンサーが、D-log Mよりも、より広いダイナミックレンジで記録するため、後編集で、より柔軟な編集を行えます。Mavic 3やInspire 3が対応
今回のAir 3Sは、広角・中望遠どちらでもノーマル、HLG、D-Log Mの3種類のカラーモードに対応しており10bit 4:2:0 (H.265)にて撮影が可能です。
昨今DJI ActionやPocketシリーズもこのD-Log Mに対応しているため、アクションカメラもドローンも同じ感覚でノーマライズおよびカラーグレーディングが可能です。
今回DJI Air 3SとMavic 3のデータを比較してみました。センサーが1インチとマイクロフォーサーズ、カラーモードの違いの比較データとして、DJI公式のLUTを当てて比較した動画をアップしています(比較しやすいように同じ露出、状況、データをいじらない状態のデータです)。
Air 3SとMavic 3のデータ比較動画
実際にデータを触ってみたい方は、こちらでダウンロードして見比べてみてください。
DJI Air 3Sのノーマル、D-Log M、HLG、4K120fps、FHD240fps
DJI Mavic 3のノーマル、D-Log M、HLG、D-Log、Proress422HQ(D-Log)のデータをアップロードしています。
▼データダウンロードはこちら
進化した障害物センサーについて
もうひとつ進化した点としては、前方の障害物センサーにLiDAR(ライダー)が搭載されたことです。実際のユーザーの使い勝手としては、今までの障害物センサーと何も設定は変わらないのですが、純粋に認識の性能が上がりました。上記の動画の最後に前進だけ操作して勝手に避けている動画も入れてますので、ご覧ください。
迂回の方法が、標準と高度と選択がありますが、標準に比べて高度の場合は、機体の姿勢の変化が少なくスムーズに飛行しますが、衝突のリスクが高くなるとのことです。
そもそもLiDARとは、光を使って物の距離や形状を測る技術です。レーザーを使って周囲に光を発射し、その光が物体に当たって反射して戻ってくるまでの時間を測ります。このデータをもとに、物体までの距離や形状を正確に知ることができます。最近だと、iPhoneのProシリーズや自動運転車などにも搭載され、周囲の環境を3Dで認識するために使われます。
通常周囲を認識するために、画像や赤外線を利用しますが、その場合、暗い場所や、細い物体の認識が弱いのですが、LiDARの場合暗くても形状が小さくても認識が可能です。よって今まで障害物として認識しにくかった状況での認識精度が上がっています。
内蔵メディアについて
本体に42GBメディアが内蔵されています。ざっくりですが、4K/30fps D-Logで50分強録画できる容量があります。
また、細かな調整してるなと感心したのが、本体とPCをUSB-Cで接続してデータを移行するのですが、以前は本体の電源を入れる必要があったのですが、Air 3Sでは電源を入れずに認識するようになっています。
気になる点
同梱されているNDフィルターがND8/ND32/ND128と極端なので、f1.8が固定のこのカメラには使いづらい場面が出てきそうです。晴天で太陽の方に向いている場合に、ISO100、シャッタースピード1/60でND128を取り付けた状態でも少しハイライトが飛んでいる状況になりました。f値で調整できず、f1.8のみは、明るすぎる印象です。
また、f値が広角・中望遠で異なるので、レンズを切り替える際に露出が異なってしまう点は注意が必要です。飛行中にNDフィルターを取り替えるために一度下ろすのは面倒なので、ISOもしくはシャッタースピードで調整する必要があります。
よって、一度で両方のレンズを利用する場合、シャッタースピードは一定で使いたいので、広角(f1.8)、ISO100でNDを使って、露出を合わせておいて、望遠(f2.8)に切り替えたらISO400に切り替える運用が楽かなと思いました。
物理的なサイズがMavic 3とほぼ同じ。以前のAir 2シリーズの頃は、Mini以上、Mavic未満でしたが、ほぼ同じサイズになっています。よって、性能とサイズの比例関係で選ぶという選択肢としては、悩ましいところです。
HDMIでの映像出力には対応していない。これは送信機の問題なのですが、Mavic 3で利用できるDJI RC ProはHDMI出力が可能なのですが、Air 3シリーズは対応していません。よってHDMI出力が必要な方はMavic 3シリーズをお勧めします。
ただし、DJI公式では明言されていませんが、USB C to HDMIケーブルを使ってモニターに出すことはできました(ただし、アップデート等で使用できなくなる可能性もあります。今段階だと出せました)。
まとめ
DJI Air 3の時はカメラ性能で少しディスってしまいました(Air 3の時にこの性能を願っていた)が、Air 3Sで望んでいた進化を遂げてくれました。
お値段もお手頃で、カメラ性能としても十二分な美しい絵を撮影可能な、コスパの良いドローンと仕上がっています。
もっと荷物を減らしたければ、カメラ性能を少し落としてMiniシリーズ。もっと映像にこだわりたい場合はMavic 3としっかりと3つから選べるDJIドローンの3兄弟が揃いました。皆さんの撮影スタイルに合わせて、空撮ライフを楽しみましょう!
●DJI Air 3Sの製品情報