レポート◉桜風 涼
カメラが小型化しランガン・スタイルの撮影が増えた。これに伴い、録音機材の縮小化も進む。
さらに、インタビューやVlogでのラベリアマイクも、ケーブル式ではなく、マイク内蔵送信機を襟元に着けるのが主流になった。しかし、これまでの送信機はかなり大きく目立っていた。
そこに、SDカードサイズの小型送信機となったDJI Mic Miniが登場した。
小型でマイク内蔵式の無線マイクは各社から発売されているが、もっともヒットしているのはHollyLandのLARK M2だろう。10円玉サイズのマイク内蔵送信機で、受信機もかなり小さい。筆者の経営する制作会社でも2セット(4マイク)を導入し、テレビ番組などで実践投入している。ケーブルレスで演者に取り付けられるメリットはかなり大きく、現場作業が非常に楽になる。そのくらい、ケーブルレスで小さなマイクは多くの現場で望まれているのだ。
そして、今回、ドローンやジンバルで有名なDJIから極小の送信機の無線マイクDJI Mic Miniが登場した。
マイク(送信機)のサイズは26.55×26.06×15.96 mm(長さ×幅×高さ)で、服につけた時に見えるのはSDカードより小さい。そして、重量10g(取り付けマグネットを含めると14.2g)と、HollylandのLARK M2の対抗馬となる。M2に比べると若干大きいのだが、実際の運営ではほとんど差がないサイズと言える。
電波はBluetooth 2.4GHz帯である。
シンプル操作でありながら高度なノイズリダクションを搭載
あらゆる場面で威力を発揮する
テレビ番組でも、最近は音声マンが付かず、カメラマンだけの撮影スタイルが増えた。初めに設定したまま撮影をし続けるランガン(Run & Gun)スタイルだ。カメラやマイクの性能が上がったためにできるようになったのだ。それでも、音声は非常に難しいジャンルで、いくら高性能なマイクを使っても、レベルオーバーやバッテリー管理など、非常に神経を使わされてきた。
ところが、無線マイクのS/N比の向上、レコーダー(カメラ)側のS/N比の向上、さらに編集アプリでの音のグレーディングが容易になり、音もまたランガンスタイルが可能になった。
今回登場したMic Miniはその最先端と言え、初期設定さえ適切であれば、マイク任せで高音質な録音が可能になる。
Mic Miniの特徴は前述のサイズだけでなく、絞り込まれた操作系にある。まず、受信機だが、操作はボリュームノブとボタンひとつだけだ(再リンクボタンもあるが通常は使わない)。ボタンは『電源』『スマホ連携モード』の切り替えに使い、あとは5段階のボリュームを操作するだけでいい。
一方、高度な機能を使い分けるには、スマホで操作することになる。一見、面倒に思えるが実際に使ってみると、非常に軽快にスマホ接続ができるし、設定項目もシンプルだ。
【スマホ操作でできること】
・ノイズリダクションの強弱切り替え(強・ノーマル)
・ステレオ・モノラル・セーフティートラック(ステレオ2chで片方のレベルが低くなるモノラルミックス)
・ローカット(低音カット・風切り音の軽減など)
・自動オフ
・カメラ電源連動オンオフ
・クリップ コントロール(レベルオーバーの回避)
ステレオ・モノラル・セーフティートラックの切り替えは、今やどの無線マイクでも搭載されているが、撮影中、頻繁に切り替えることはない。同じく、電源関係も切り替えることはないだろう。
ローカットも、特に低音を必要とするような撮影でなければ『ローカットは常にオン』とするのがプロの現場では当たり前である。さらに、クリップ コントロール(高度なリミッター)も常時オンだ。
つまり、1日の撮影で初めに設定しておけばOKなものがスマホアプリでの切り替えになっていると言えるだろう。
強弱の切り替え可能なノイズリダクションが搭載された
ノイズリダクションが搭載された無線ラベリアマイクは、各社からいくつか発売されている。筆者が実際に使っているのは、ソニーのECM-W2、前出のHollyLand M2、DJI Mic 2だ。どの製品も、環境ノイズを学習して効果的にノイズ軽減を行なってくれる。ただ、実際には背景ノイズの大きさによってはかなり不自然な声質になってしまうことも事実だ。マイクでノイズリダクションをかけてしまうと編集時に綺麗にするのはほぼ不可能なこともあって、ノイズリダクションを使うかどうかは、現場で聴きながら吟味する必要がある。
ちなみに、筆者はノイズリダクションを搭載したプロ用レコーダーも愛用しているが、SoundDvices社のMixPro-6IIのプロ用ノイズリダクションは1dB単位でノイズを軽減する強さを変えられる。つまり、編集時にノイズリダクションの量を調整するのと同じように現場でコントロールするのだ。こうしないと、ノイズリダクションがかかり過ぎて、不自然な声でオンエアということになってしまう。
さて、今回登場したMic Miniは、強弱の2段階のノイズリダクションが搭載された。もちろん、プロ用レコーダーほどの微調整ではないが、かなり効果的な使い分けに対応してくれている。出荷時は『強』になっているが、これはDJI Mic 2のノイズリダクションと同等だと言える。背景ノイズが大きいと若干不自然にはなるが、かなり強力なノイズ除去を行なってくれる。
一方、今回搭載された『ノーマル』は、控えめなノイズ除去効果になっている。普通の部屋や会議室の健康ノイズ(空調など)は、人の声に対して全く気にならないレベルに抑えてくれる。
筆者の判断としては、通常は『ノーマル』をオンにしておけば、ほとんどの撮影で高音質な人の声を作ってくれる。一方の『強』は電車や自動車の中といった、かなり背景ノイズが大きい時に効果的だと言える。
ただ、どちらにせよ学習型のノイズリダクションなので、たとえ『強』のままでも、背景音が小さければ人の声にほとんど影響を与えない。学習型というのは、人が喋っていない時の背景音を覚えて、人の声が入ってきた時に背景音だけを引き算するものだ。背景音が小さければ引き算する量も小さくなるため人の声が壊れることはない。
一方、背景音が大きい場合には、『強』でも『ノーマル』でも、引き算の量が大きくなり、それだけ人の声が不自然になる。具体的には音の立ち上がり(アタック)と音の減衰時(リリース)が不自然になる。
繰り返しになるが、Mic Miniは2段階のノイズリダクションが搭載されたことにより、よりベターな声質で録音が可能になった。これは大歓迎である。
実際の運用はシンプル
ボリューム切り替えが実に合理的だ
前述したが、受信機の操作はボタンひとつとボリュームだけだ。電源ボタンは電源オンオフとスマホモードの切り替えに使う。スマホモードに移行するには一旦電源を切ってから、ボタンを長押し(6秒)で行う。スマホはDJI Mimo(DJIの標準アプリ)で簡単に行える。接続はBluetoothなので非常に素早く、Mic 2のメニュー操作の煩雑さやわかりにくさに比べると天地の差だ。前述したすべての項目がすべて見えるので、設定確認も変更も確実だ。ただし、電源の入れ直しを伴う。
ノイズリダクションのオンオフは送信機の電源ボタンをタップするだけ。これも非常にシンプルだ。ただし、ノイズリダクションの強弱切り替えはスマホからしかできない。
余談だが、ノイズリダクションのオンオフが送信機側だけでしかできないのは、実用上は困ることがある。演者に付けたままの送信機(マイク)で切り替えるために、カメラマンが演者の元へ走らないと切り替えられないし、演者が間違ってボタンを押してしまうこともある。
ちなみに、HollyLandのM2は、この事故がかなりある。ヘッドホンで聴いていれば気づくのだが、ランガンスタイルで撮っているといつの間にかノイズリダクションが入ってしまって、音質の落ちた音しか記録されていないということもよくある。これは、M2のボタンが簡単に押される軽さとボタン配置に原因がある。
一方、Mic Miniはこの点も考慮されている。ボタンの飛び出し量が少なく、意識的に押し下げなければ、触ったくらいでは切り替わらない。ただし、ノイズリダクションのオンオフ状態は送信機のLEDの色で見分けるのだが、胸元でLEDが光ることがよくない場合もあり、現場では黒テープで隠すこともある。そんな場合でも、オンオフの状態確認は送信機のLEDだけでなく、受信機側のLEDの色でも判別可能だ。
一方、ボリューム調整が非常に楽だ。演者の声の大きさやマイクの取り付け位置によって変えたくなるボリュームは+12dB、+6dB、0dB、-6dB、-12dBの5段階。LARK M2の3段階に比べるとかなり広い調整域と言え、インタビューから楽器演奏、環境音などさまざまな場面で使えると言える。
スマホのダイレクト接続マイクとしても
Osmo Pocket 3にも受信機なしで接続
Mic Miniのもうひとつの特徴は、受信機なしでスマホやDJI製のカメラにダイレクトに接続できることだ。DJI製品としてはPocket 3やAction 4などが対応製品となる。ちなみにPocket 3では、Mic 2とほぼ同等な運用が可能となる。マイク(送信機)のリンクボタンでカメラの録画の開始停止ができ、電源ボタンでノイズリダクションのオンオフができるなど、Mic 2と同じ使い方だと思えばいい。Mic 2に比べても、Mic Miniはかなり小さく、Pocket 3との連携ではこちらを使うべきだと思う。
一方、スマホにも受信機なしでダイレクトに接続できる。汎用のオーディオ機器としてBluetoothで認識される。ただし、マイクとして使えるのは対応した一部のアプリのみで、iOSでは標準のカメラではマイクとして認識されなかった。対応アプリについてはメーカーホームページを参照していただきたい。
音質は必要十分で、電波も強い
収納時も小さくて軽いのが特筆に値する
実際に使ってみた感想としては、音質は実用レベルと評しておく。スペックでは20Hz~20000Hzと非常に幅が広い。ただ、筐体が共鳴するのか若干だが高音でわずかに残響する独特の音質だ。まぁ、これはプロの録音部としての評価であって、もちろん、Vlogや配信番組では問題になることはない。ノイズリダクションの音質については前述の通りで、『ノーマル』で背景が静かなら、いい感じの声で録音可能だ。
送受信機自体のS/N比は70dBと非常に優秀だ。この値が大きいほど、ボリュームを下げて運用ができる。つまり、音割れまでのマージンを大きくすることができる。この値が小さいと、サーというノイズが多くなるため、ボリュームをギリギリまで高くしなければならず事故が起きやすくなる。そういう意味では、Mic Miniは扱いやすいと言えよう。ただし、レコーダー(カメラ)側のS/Nが悪い場合には、ギリギリまでボリュームを上げる必要がある点はご留意いただきたい。
電波はBluetooth2.4GHz帯だ。非常に安定していて、通常の撮影では音が途切れることはないだろう。もちろん、2.4GHz帯なのでチャンネルが埋まっていると接続できないということはあるかもしれない。
現実問題としては、筆者はMic 2やM 2で数多くの現場をこなしてきたが、かつての無線マイクとは比べ物にならないくらい、今のマイクは信頼性が高い。Mic Miniはまだ現場投入していないものの、この点はあまり気にしていない。
一方、付属するウィンドジャマーは2色あり、明るい灰色と黒。これは非常にありがたい。ちなみにLARK M2はマイク(送信機)全体を覆うタイプで、取り付けが面倒だ。一方、Mic Miniははめ込み式で簡単に脱着可能だ。細かいようだが、現場ではこの差が大きくなる。
付属するケースは巾着タイプで、Mic 2のセミハードケースに比べると体感で1/3くらいのサイズに思える。充電ケースはLARK M2よりは大きくMic 2よりは小さい。バッテリーは、ノイズリダクションなしでマイクひとつの場合、送受信機とも11時間程度と、ほぼ一日中の撮影をカバーしてくれるだろう。
Mic 2とMic Miniのどちらを購入するべきかとなると、外部マイクが使えるかどうかも考慮したい。Mic 2はレコーダー並みの調整項目(例えばマイクゲイン)を持っており、さまざまな外部マイク(有線マイク)を最適な状態で無線化できる。音質を上げたいというような場合、高価なラベリアマイクを使うこともできるわけだ。
最後に、Mic Miniの全体評価としては、非常にシンプルな操作系だが、必要充分な性能を備えた、極めて実用的な製品だと言える。まさにランガン・スタイルに適した製品と言える。