批評なのに読んで面白く、たとえダメ出ししていても嫌味がなく、逆に気になって観たくなる……そんな「前田節」とも言える不思議な評論を世に送り出し続けている映画評論家の前田有一氏。2017年3月には初の著書となる「それが映画をダメにする」を出版した前田氏に、評論家になった経緯やそもそもどんな映画が好きなのか? を訊いた。

インタビュー/編集部・佐山(2017年8月28日)

前田有一氏プロフィール◎月刊「ビデオサロン」の連載『それが映画を○○にする~「映画」に学ぶ「映画」のこと~』を2013年2月号から執筆し、2017年1月号まで掲載した48回分の連載をまとめた書籍「それが映画をダメにする」を2017年3月10日に玄光社から出版。8000万ヒットのWEB「前田有一の超映画批評」にて、100%消費者側に立った「批評エンタテイメント」を展開中。

-東京の亀有ご出身ということですが生年月日は?

1972年の11月19日生まれで今年で45歳になります。生まれは浅草なのですが、亀有育ち。「両さん」でおなじみのあの下町気質が好きです。最近はちょいと開けすぎてしまいましたが…。

-前田さんの原稿のドライさはあの風土が生んだのかも。ところで映画評論家になったきっかけは?

2002年頃になりますが、個人のホームページを開いて映画の感想を書いていたんです。その当時、ぬるい印象の評論が多く不満もあったので、自分で書いてしまおうと…。

-ブログみたいなものですね。

当時はブログなんてない時代ですから、HTMLで書いてました。それを「週刊現代」の編集者の方に見つけていただいて、「原稿書かないか」と声を掛けていただいたのがきっかけです。

-今で言うなら有名なブロガーに原稿を依頼するようなもので、先駆けですね。

「手加減しないで書いてくれ」ということだったので、好きに書かせていただきました。その当時が一番多く映画を観ていて、年間600本近く観てました。

-WEBの「超映画批評」はいつから始めたのですか?

それまで書いていたホームページは閉じて2003年に始めましたから、もう14年にもなりますね。

-もともと映画関係や雑誌のお仕事をされていたのですか?

20代のころはセレブ向け高級会員制のスポーツジムのダイエット専門インストラクターをしていました。今でも事務所にベンチなどを置いて、朝4時からトレーニングを続けているんですよ。その後、会社の倒産など社会の濁流に流されまして、多くの職を経験したあと、社会問題等のライターの仕事をするようになりました。

-えっ、そうなんですか!? まったくジャンル違いですね。それじゃ学生時代に映画を作っていたとか…

それもないですね。この仕事をするようになって作る側の知り合いも増えたし、現場に行くことも多いのですが、あくまで自分は「観る」側の人間。観客としての立場から、観客のための評論に徹しています。

-映画を「観る」ようになったきっかけは?

少年時代に観たジョン・ウェインやクリント・イーストウッドなどの西部劇ですね。とにかくカッコよくて、夢や憧れがあった。

-女優系ではないのですね、これも意外。

長澤まさみとか女優ネタを書いているのはむしろ最近のキャラで、昔はそうではなかった(笑)

-これまで観た映画で文句のつけようがなく、脱帽した映画は?

みなさんもきっと見たことがある最近のメジャーな作品の中でいえば『トイ・ストーリー3』ですね。一作目から約15年後の公開で、劇中でも同じ時間が流れている設定。かけがえのない少年時代との決別というテーマを、一作目を見た世代は場合によっては自分の子と見るわけです。リアルタイムの時の流れが相乗効果となる、完璧な物語でした。

-それでは、これまで観た映画の中で好きな映画は?

難しい質問ですね(笑) たくさんありますが、「好き」と聞かれていま思いついたものでは『がんばれベアーズ』です。

-テイタム・オニールの少年野球映画ですね。

スポ根、野球映画、子供映画、どの視点からみてもよく出来てますよね。弱小野球チームの子供たちも、その監督を任された男も酒やタバコに明け暮れたりと、みんなろくでなしばかり。それでも剛腕投手と強打者の入団が希望になり、やがて一丸となるわけです。

これって、今はダメ人間や劣等生に見えたとしても、何かきっかけと希望があれば人は頑張れる。助け合えば力を出せると言っているわけですよね。どんな世代でも、いつ見ても励まされる、素晴らしい映画だと思います。悪ガキたちを、子供だからと美化して描いたり、偽善的なハッピーエンドにしないあたりも反骨心が感じられていいですね。

-私も大好きです。では、この監督の映画なら観たいと思うような方はいますか?

優れた監督さんは多々おりますが、一人だけ現役であげるとするなら、著書の中でも扱いましたがギャスパー・ノエですね。彼の映画は天才肌で才気が溢れていて、野心的で、常に驚きがある。寡作ですが、無理して量産してほしくない。いくらでも待ちたくなる監督ナンバーワンです。

-日本の監督さんではどうですか?

西川美和さんかな。この方も数年に1本の無理ないペースで佳作を発表している。デビュー作から他の女性監督とは一線を画しているなと注目していましたが、今じゃすっかり名監督の仲間入り。男性の心理描写がうまいので、大予算の重厚なサスペンスものなんかをいつか観てみたいですね。

-『STAR WARS』シリーズで好きなエピソードは?

やはり最初の「エピソード4」(『スター・ウォーズ』)です。10億円程度の予算であれこれ工夫をして、今でも通用するスケール感あふれるSFを作り上げた。そこにルーカスはじめ、スタッフたちのあふれんばかりの情熱と作品愛を感じる気がするんですよ。たとえば撮影用のライトセイバーは、撮影所に転がっていた手持ちストロボの持ち手を流用して作ったそうですが、それってまるで元気な小学生が遊びのアイデアを出し合うような自由さ、無邪気さを感じません?

ただ、好きなシーンは別にもあって『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』の中の、クワイ=ガンとオビ・ワン、そしてダース・モールの対決シーン! ダース・モールを演じるレイ・パークはスタントマン出身で動きがキレてるし、ダブルブレードのライトセイバーが登場した時の衝撃は忘れられません。バックに流れるジョン・ウィリアムズ作曲の「Duel Of The Fates」もシリーズ屈指の名曲です。

-最後にヒッチコック映画で一番好きな作品は?

『裏窓』です。

-そう来ましたね。

このころのヒッチコック作品は綺羅星のごとき傑作が信じがたいペースで量産されていて本当に凄まじい。正直どれが一番とは決め難いんですが、『裏窓』は密室劇のような制限だらけの設定と演出で、しかもゆるみがない。巨匠の腕前を堪能するには一番いいかなと。限られた空間に起きた話を、あれだけ盛り上げる。圧巻です。

-ありがとうございました。

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