映像+(EIZO PLUS)
新しい映像が生まれてくる現場 vol.11
『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』
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11月18日(土)新宿バルト9ほか、ロードショー
Ⓒ2016 TWO STRINGS, LLC. All Rights Reserved.
配給:ギャガ
アカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされ、アニー賞、英国アカデミー賞など27もの賞を受賞したストップモーションアニメの傑作『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』。その映像を作り上げた世界トップのアニメ制作集団ライカのスーパーバイザー、ブラッド・シフに制作の舞台裏を聞く。
STORY
母とふたりで暮らすクボは、二本弦の三味線で折り紙に命を与える不思議な力の持ち主。それは闇の魔術を操る祖父・月の帝から受け継いだ能力だという。ある晩、女剣士・闇の姉妹に襲われて母を亡くしたクボは、木彫りのサルと折り紙のサムライをお供に月の帝に会うため旅に出た。
INTERVIEW ── アニメーション・スーパーバイザー ブラッド・シフ
Q:ライカの撮影体制について教えてください。
ブラッド:撮影監督の下に5人のリードカメラマンがいてそれぞれのパートを担当し、シーンごとに照明を組み、アニメーターと一緒にシーンを作り上げていきます。照明は、たとえば洞穴のちらつく炎は照明の前にホイールのような回転機をつけて作り、水のゆらぎにはジェルを使いました。僕はアニメーターとして、ブロッキングというアニメーションと照明との相性を確認する作業部分で関わっています。
Q:圧巻の波、雪はどうやって作ったのでしょうか?
ブラッド:波はアリ・ジョーンズという天才的エフェクト・デザイナーが担当し、最終的にVFXに落とし込みました。ライカの場合、VFXパートはあくまで実写をベースにCGで再現します。波は、ピンアートのように土台に穴を開けてそこに棒を差し、メッシュをかぶせてうねりを作っています。光を反射させたときに効果的な生地を色々試してみたら、黒いゴミ袋が一番よくて。シワや反射が僕たちの目指す世界観にぴったりだったので採用しました。
雪は美術セットにVFXを追加して作り上げていきます。雪埃やサルが駆け下りたときの足跡のつきかた、落雪とか……実際に雪山に行ったり、BBCのフィルムなどで研究してリアルさを追求してはいますが、そのままではなく様式化して表現しています。
Q:こぼれ落ちる涙は、どうやってアニメートされたのでしょう。
ブラッド:いつもはKYゼリーなどでそのまま涙をアニメートしますが、今回はそれだと顔に対して大きくなるので、3Dプリンターで大きいサイズの顔を出力しました。普通の顔と、泣くときのクシュッとなっている顔のふたつを出力して。それで涙のシーンを撮影し、目のまわりの映像だけを切り取って本編映像と入れ替えています。
Q:人形づくりについて教えてください。
ブラッド:ライカでは3Dデータから人形作り、生地のレーザープリント、アーマチュア、関節も作ることができます。クボの手はラブリーでしょう? 過去3作では人形の指はラーメンの麺みたいでアップに耐えられないということで2倍のサイズを作っていたんですが、クボは関節も動くし表現ができるので、それは必要なくなりました。髪は人毛です。束にしてシリコンを1本ずつ塗ってウィッグを作る。それをピンセットでワンショットずつアニメートしていきます。
人形の皮膚は硬いプラスチックです。僕たちは3Dプリンターマテリアルのアメリカ一の上客ですよ。色んな部位や表情を24時間プリントし続けている状態なので。3Dプリンターは粉末積層方式で、粉から取り出した時点では人形は真っ白ですが、スーパーグルー溶液に入れることで硬くなって色味が付きます。『コラライン』では3Dプリントした人形に全部手で色をつけていましたが、前作からカラー出力に変えています。樹脂プリンターほど正確ではありませんが。実は次の作品も既に動いていて、さらに新しいプリンターを使っています。5色+透明が使えるので、未だかつてない表現ができると思います。
Q:ライカにおけるCGと人形アニメーションの境界線とは。
ブラッド:境界線はどんどん曖昧になっています。もちろんCGアニメーションのほうが、限界がないでしょう。彼らは僕たちが物理的にできない、収縮したり伸ばしたりという動きが簡単にできる。でも、アニメーションに関しては、CGはストップモーションアニメに肉薄していないと思います。CGはすごくクリアで滑らかで完璧なものを追求することができるし、中断して一月たってからだってまた作業ができる。それはストップモーションではできないことです。ストップモーションアニメーションはパフォーマンスだから、どうしても不完全な部分がある。だからこそエモーショナルで人間的で、それがストップモーションアニメーションの美しさだと思うんです。すべて手作りだから、そこに実際にものがあるからこそ、人に響くし感じるものが観客にあるのだと思います。
ブラッド・シフ
アニメーション・スーパーバイザー。『セレブリティ・デスマッチ』(98~07)や『Gary & Mike』(01)などテレビを経て『ティム・バートンのコープスブライド』(05)に参加。おもな長編アニメに『コララインとボタンの魔女3D』(09)、『パラノーマン ブライス・ホローの謎』(12)、『ファンタスティックMr.FOX』(09)。
▲波を作るエフェクト・デザイナー。
▲サルの体はアーマチュアの上に生地をかぶせたガラス繊維のコアをつけ、豆が入った袋を肉付けにしている。その上から2wayの毛皮のスーツを着せ、サル特有の柔軟性のある動きを可能にした。
▲キーを握る巨大ドクロの身長はストップモーションアニメ史上最大の4.9メートル。
▲クボは4800万通りの表情を持つ。これらの表情は上下で2分割した顔と目の動きを組み合わせて作り出された。クボの人形の数は30体。3Dプリンタで出力された顔は、色を出し、ヤスリで磨き、コーティングし、磁気をつけ、歯と唇は一つずつ手塗りで10もの工程を経て完成させていく。
▲クボ、サル、クワガタを乗せて冒険に出る落ち葉の船。この船には25万枚もの落ち葉のカラーペーパーを使って作っている。
▲村のミニチュアセット。人形はビスどめで動かすため、このセットの下に入ることができる。
▲家いえの軒下にかかる提灯は、バキュームフォームで作った土台に和紙を溶いたものを塗って作る。
《STAFF》
監督・製作:トラヴィス・ナイト
製作会社:Laika Entertainment
製作:アリアンヌ・サトナー
脚本・筋書き:クリス・バトラー
ストーリー:シャノン・ティンドル、マーク・ハイムズ
アニメーター:ジェイソン・ストールマン、マルコム・レイモント
撮影:フランク・パッシンガム
美術:ネイソン・ロウリー
編集:クリストファー・マーリー
音楽:ダリオ・マリアネッリ
視覚効果:スティーブ・エマーソン
衣裳デザイン:デボラ・クック
索具スーパーバイザー:オリヴァー・ジョーンズ
ラピットプロトタイピングチーフ:ブライアン・マクリーン
人形制作スーパーバイザー:ジョージナ・へインズ
キャラクターデザイン:シャノン・ティンドル
キャラクター彫刻:ケント・メルトン
アニメーション・スーパーバイザー:ブラッド・シフ
コンセプトアート:トレヴァー・ダーマー、オーガスト・ホール、イアン・マクナマラ
《使用機材》
カメラ:CANONのEOS 5D Mark Ⅱ42台、5D Mark Ⅲ93台。3D用カメラは場所をとりすぎるため、1台のカメラで右目と左目でスライドするシステムを自作し、取り付けている。
ソフト:モーションコントール用にKUPER、Dragonframe
《CAST》
アート・パーキンソン(クボ)
シャーリーズ・セロン(サル)
マシュー・マコノヒー(クワガタ)
ジョージ・タケイ(村の人)
ルーニー・マーラ(闇の姉妹)
レイフ・ファインズ(月の帝)