2016年秋に発表された折りたたみドローンDJI Mavic Pro。そのコンパクトさに驚かされたが、今回登場したMavic Airはさらに小型に。ここでは今回はMavic Proと比較することで、Airの魅力に迫ってみる。テスターはプロドローングラファーとしてCM、MV等で幅広く空撮を手がける遠藤祐紀さん。果たして、第一線で活躍するプロの目にMavic Airはどう映るのか?
DJI Mavic Airとは
104,000円
DJIの折りたたみドローンMavicシリーズの新モデル。上位モデルのProよりもさらにコンパクトになったMavic Air。単品で購入してもプロペラガード、予備プロペラ、持ち運びポーチ等が付属する。予備バッテリーやトラベルバッグがセットになったFlymore Comboは129,000円(2018年2月現在)。
iPhone Plusサイズの高機能ドローン
DJI Mavic Airを折りたたんでみると、下の写真のようにiPhone Plusとほぼ同じような面積です(厚みは違いますよ?)。SparkとMavic Proの中間の立ち位置の製品として登場しましたが、充分なクオリティーと、いつでも持ち歩けるコンパクトさを両立したことは驚異的だと思います。
1型CMOSセンサーを積んだPhantom 4 Pro(P4P)を持ち歩ければベストですが、それは到底無理ですし、発売当初、常に持ち歩けそうな気がしたMavic Proでも意外と荷物になってしまいます。しかし、このMavic Airであれば専用のポーチもついて、普段使いのバックパックに忍ばせて、常に持ち歩けそうです。4K収録ができる超コンパクトなドローンをいつでも持ち歩ける…なんて幸せな時代なんでしょう。
細部の描写はMavic Proよりも優れている印象
▲Mavic AirとMavic Proを撮り比べてみた動画。
カメラの画角はP4Pとほぼ同じ24mm(35mm換算)で、Mavic Proの28mmより少し広めですが、一般的な風景をフライトしてみる限りではあまり意識するほどの画角差は感じられませんでした。4K/30p映像のクオリティは、ピクセル等倍で観て判断できる程度の差ではあるものの、グラデーションや細かい描画(絵作りという点で大きな差がある)、圧縮ノイズのチリチリ感の有無など、ビットレート100Mbpsというスペックの恩恵もあってか、Mavic Proよりも細部の描写は優れている印象です。
コンパクトな中間モデルの制約として、フォーカスは固定で操作できない。D-logは未搭載。また、C4K(4096×2160)の撮影解像度には非対応などといった不満はあるものの、いつでも持ち歩けて、撮影のチャンスを逃がさないということを考えると、このクオリティは充分である気がします。
Mavic Proとの主な違い
3方向の障害物検出センサーを搭載
このコンパクトさで前方とMavic Proにはなかった後方に障害物センサーが採用されていて、さらに下方に設置されたビジョンポジショニングシステムと、自動で障害物を回避するAPAS(Advanced Pilot Assistance Systems)が用意されています。今までよりも遥かに複雑なロケーションであっても接触によるクラッシュのリスクを軽減できる可能性を秘めています。とはいえ、横方向の障害物センサーは未搭載ですし、まだまだ発展途上のシステムなので「完璧に避けてくれる」代物ではないことは肝に命じておいて欲しいです。
強風下ではジンバルがガタつくことも
今回テストして気になったのが風がそこそこある状態でのホバリング時や風上への移動時、そして、高速飛行用のスポーツモードで大きく舵を入れた際などジンバル動作範囲の限界点に干渉してしまいカメラの画角が大きくブレてしまうことがありました。もっともMavic Proのスポーツモードでもそういった現象はあったので、このクラスの機体では仕方がないのかも知れませんが、機体と干渉してブレてしまったジンバルが元の位置に戻らないことが気になりました。
今回のテストフライトではカメラの画角が大きく動いてしまうことが多々ありましたが、特に風に耐えて位置固定している際には、機体自体がかなり斜めになっている関係で、風に逆らって移動しようとすると、さらに傾く結果となり、横方向ではFPVモードのようにロール軸が傾き、機首方向への移動ではチルト軸下方に画角が大きく傾いてしまいました。
ジンバルに関しては機体の挙動が大きいのか、そもそもジンバルの可動範囲が狭くなったのか、どうも画角が暴れてしまうようです。Mavic Airは意外に風に強い感じで、Mavic Proよりもよく耐えている印象なのですが、このレポートを書いている時点で複数のMavic Airオーナーから同じ報告が上がっているので初期のバグなのかもしれません。今後のファームウェアで解消することもあり得るので、この症状はしばらく様子を見たいと思います。
1080/120fps撮影で4倍スローモーションに対応
1080/120fpsのハイフレームレート撮影に関しては従来とは違っていて、撮影後に生成されるファイルは最初からスローモーションになっている30fpsのファイルとなります。120fpsが選べるのは1080pと720pの解像度ですが、残念なことに生成されたファイルのビットレートは25Mbps程しかなく、解像感も低くジャギーなども目立ちます。また、各解像度で30fpsまでは画角の変化はありませんが、48fps、50fps、60fpsを選択した場合にはクロップされてしまいます。スロー映像として生成される120fpsではクロップされないのはビットレートが低く設定されているからかもしれません。
レンズフレアは改善されたがホワイトバランスに問題が…
Mavic Proのレンズフレアが汚いのは所有している方はご存知かと思います。レンズフレアとプロペラの影とが交差する時などは、視聴に耐えうるレベルではないのですが、Mavic Airではそれが改善され、Mavic Proで起こるレンズ内で乱反射して浮き上がる模様のようなものは解消されています。
ただ、別の問題が出ていまして、それは本来レンズフレアが出るであろう角度の際にホワイトバランスが大きく崩れてしまうという現象です。ホワイトバランスをオートにしている場合であれば、そういった変化も分かるのですが、今回は5500Kに決め打ちしている場合でも、ある角度になると一瞬大きくマゼンダに色カブりします。
逆光の状態でカメラをチルトアップしてみると、左右のプロペラの影の位置で2度、この現象が起こりました。プロペラの影と干渉することが原因なのかもしれません。逆光時には注意が必要です。
手動操作では難しい自撮りが可能なQuickShot
「モーションコントロール的セルフィードローンシステム」とでも言いましょうか。自撮りもここまで来たかという印象を持ちました。QuickShotは自動追尾機能・アクティブトラックの技術を応用した撮影モードです。被写体を捉えながら斜め後方に飛行する「ドローニー」、周囲を旋回する「サークル」、螺旋状に飛行する「ヘリックス」、真上に上昇する「ロケット」、ブーメランのような軌道で飛ぶ「コメット」、斜め後方に飛行して、360度のリトルプラネット映像になる「アステロイド」の撮影モードが用意されており、撮影・飛行をオートマチックに行なってくれます。
▲QuickShotで撮影した映像。
撮影が完了すると録画がストップして、ドローンがスタート位置に自動で戻ってきます。今までならばパイロットが集中して画角を確保しなければいけなかった難易度の高い撮影も、機体に向かって笑顔を振りまくだけで完成してしまいます。こうしたカメラワークを同じように手動操作で再現しようと思ったらそうそう簡単にはいきませんが、QuickShotであれば何度でも再現できてしまいます。
コントローラーを使わずジェスチャーでドローンを操作するSmart Capture
また、Mavic Airのユニークな機能として、ジェスチャーでコントロールできる「SmartCapture」の機能が搭載されました。アプリでこの機能を立ち上げると、「手のひらを広げて片腕を挙げてください」と表示が出ます。アプリの表示に従って、手のひらを掲げて、腕を上に持ち上げるとドローンが離陸。両手を掲げて両手の間隔を狭めるとドローンが近づき、間隔を広げるとドローンは遠ざかっていきます。そして、ピースサインを出すと静止画を。指でフレームを作るポーズをすると、動画の撮影が開始されます。
▲Smart Captureの操作手順。
風への耐性はMavic ProよりAirのほうが強い
今回のテストでは、Mavic ProよりもMavic Airのほうが風に強いという印象を持ちました。Mavic Proが強い横風の条件下で真っ直ぐに飛ばせなかったり、エルロン(左右)での横移動が遅くなってしまったのに対して、Mavic Airはひじょうに健闘していたと思います。
よく言われる「小さな機体は風に弱い」というのは実は間違いで、実際には風に対する投影面積が小さく質量が中心に集まっている機体が有利で、パワーとレスポンスに優れたモーターと空気力学的に追い込んだ筐体を持つMavic Airはトイドローンのような見た目とは裏腹に素晴らしい風への耐性を見せてくれます。
今回のテスト時は10m/s近い強風が吹き、ホバリング中は忙しなく機体が揺れていました。QuickShotやジェスチャーでの近接運用にはプロペラガードを装着する等の対策をすべきでしょう。とは言え、それによって風に煽られることもあるため、あまりに強風の時は飛ばさないという判断も必要です。
NDフィルターの必要性
今回のテストではNDフィルターは間に合いませんでしたが、絞りが固定(F2.8)ということで、どうしてもシャッタースピードが上がってしまいます。天気が良ければなおのこと、NDフィルターがなければシャッタースピードは2500ぐらいまで上昇します。ご存知だと思いますが、シャッタースピードが上がってしまうと、動きがパラパラとする上に、ジャギーのようなチリチリしたシャープな映像になってしまい、不自然な映像に見えてしまいます。これを防ぐためにも、ND8/ND16/ND32の3種類は用意しておくべきだと思います。
飛行距離と映像ダウンリンクの安定性
Mavic Proの伝送システムOcu Syncと比べてしまうのは酷であると思いますが、Sparkの貧弱な伝送に比べればMavic Airの伝送は雲泥の差で、きっちりフレネルゾーン(電力損失をすることなく電波が届く範囲)を確保できれば、パイロットからの距離250m程度でFPV画面がブラックアウトしたりすることはありませんでした。このサイズのドローンを目視外の数km先までフライトさせるなんていうことは、今まで考えられませんでしたが、今回のテストではギリギリ目視できる500m程まで快適にFPVフライトできました。今後、国土交通省航空局への機体追加申請が完了した後にロングレンジのテストもしてみようと思います。
◉DJI Mavic Airの製品情報
https://www.dji.com/jp/mavic-air
◉この記事はビデオSALON2018年4月号より転載したものです。
Edited by Ryo Hagiwara