手軽に、安く、いい音で録る! インタビュー音声収録術


手軽に、安く、いい音で録る! インタビュー音声収録術

「インタビュー」は、映像コンテンツの中でも、最も広く需要があるジャンルの一つである。そこにおいて主役となるのは、インタビューイ(インタビューの受け手)から発せられる言葉そのもの、つまり音声だ。 今回は、特に1人または少人数で収録する際に役立つ、インタビュー収録術をお届けする。

(このレポートはビデオサロン2017年7月号の特集を再構成したものです。動画の作例は後半にあります)

音声関連の情報はこちらの本にまとまっています。

ビデオグラファーのための 音声収録 & 整音ハンドブック

解説◉大須賀 淳(スタジオねこやなぎ)

【インタビューの3つの難所】

《人の難》
インタビューの受け手は多くの場合が “素人”。リラックスしてもらいつつ、予測の付かない行動によって収録に不具合がでないよう、できるだけの対策を練る。

《場所の難》
インタビュー収録は、訪問先など勝手のわからない場所で行われることが多い。映像のベストアングルを確保しつつ、それを妨げないよう、いかにマイクを適切にセットするかが勝負。

《インタビュアーの難》
実は収録者自身が「やらかして」しまうことも多い。相槌の声が大きくマイクに入ったり、頷きでカメラが揺れてしまうようなことに気をつけよう。

 

インタビューの音声は、同じ音声でも、ナレーションや映画・ドラマのセリフに比べ、「ナマモノ」としての性質が強い。

たとえば多くの場合、対象は喋りのプロではなく、またリテイクが発生するとテンションが変わり内容に影響してしまう可能性も大きい。他の収録以上に、スムーズかつ安定した流れを作るのが内容、質の両方に大きな効果をもたらすのだ。

撮影現場は何かと慌ただしいことも多いが、あらかじめ段取りができていれば落ち着いて臨むことができる。

そして、カメラマンがそのままインタビュアーを務める場合は、相手が話しやすく振る舞うことも大きなポイントだ。相手の発言に自分の声が被らないよう留意しつつ、発言に反応して頷きや表情の変化で応えるのがポイントだ(無反応な相手に話すのはツライ!)。キホンをおさえつつ、それほどコストをかけずにインタビュー収録の音声をレベルアップしてみよう。

【インタビューの下準備】

今回の基本コンセプト
「ワンマンオペ&電車移動」

◎一人で対応でき、電車移動できる範囲の機材

今回は「カメラマンが音声収録まですべてを一人で担当し、電車移動できる範囲の機材」という設定の中で、最大限のパフォーマンスを発揮できるようプランニングした。参考までに、今回使った機材は写真の荷物に収まっているものとビデオ三脚のみ。デジタル一眼との組み合わせなら、超コンパクトながら映像・音声ともに高いクオリティを持った収録を実現できる。

◎カメラは新製品のGH5にXLRアダプター

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カメラは今回はGH5を使用した。本体標準のミニジャックではなく、オプションのXLRマイクロホンアダプター「DMW-XLR1」を装着し、ファンタム電源を使う本格的なマイクも使用可能な状態にした。GH5は最大96kHz、24bitというPCMレコーダー並みの非圧縮音声を記録できるので、そのポテンシャルを最大限に活かせる入力部分のグレードアップは大変意義のある投資と言えるだろう。

▲DMW-XLR1はGH5専用のXLRアダプター。マイクホルダーは別売。2系統のXLR端子はMICとLINEレベルの切り替え、レベル調整はオートとマニュアルのどちらも対応。オープン価格で実勢3.8万円前後。

◎XLRケーブルは3mほどのものを数本用意

本格的なマイクで使用するXLR(キヤノン)ケーブルは、端子が頑丈で断線などがおこりづらい上に、端子がオス・メス一組になっているのでアダプター等を使わずに継ぎ足して延長できる。マイクを最適な位置にセットするために距離をとることも多いので、3m程度のものを数本用意しておくと様々な状況で便利だ。

◎カメラ系の機材を流用して軽量化を図る

マイクホルダーなど音声系のアクセサリーは多くが3/8インチのネジ経だが、数百円程度で入手できる変換アダプターを使って1/4インチに変換すると、三脚をはじめとするカメラ系の器具を流用できるので、荷物の軽量化と経済的側面の両方で大変有効だ。

 

【室内でのインタビュー・対談収録】

1人のインタビューをガンマイクで収録

●最終映像のイメージ
多少の距離をとった状態で望遠寄りに撮影し、人物を強調するスタイルをとる。このセッティングでは、背景と人物の間に空間がある程度広ければ、ボケを表現することができる。

◎ガンマイクにショックマウントは必須

一般的にガンマイクは感度が高いため、使用スタイルによらず「ショックマウント」を装着し、余計な振動が伝わるのを防ぐのが基本。室内で収録の場合は、風を防ぐウィンドスクリーンなどを外してむき出しで使った方がよりクリアに録ることができる(ただしエアコンの風などが当たるのに注意)。

◎カメラの上にガンマイク
映像を優先するとインタビューイとカメラにはある程度の距離ができ、輪郭のぼやけた声しか収録できない。ガンマイクはあくまで横方向の音を拾いにくいというだけで、明瞭に録るには、できるだけマイクと被写体の距離を縮める必要がある。

◎ガンマイクをできるだけ近づける
マイク先端の延長線上にインタビューイの口が来るような角度を保ちながら、画面中に見切れるギリギリの所までマイクを近づける。時間や衣装の都合などでピンマイクの装着が難しい場合、あらかじめ代役で位置を見込んでセットしておけばひじょうにスピーディに収録開始できるのも魅力。

◎マイクスタンドではなく三脚用品を流用
今回はマイク用の収録アイテムとして、SIRUIの三脚T-005と、HAKUBAの延長ポールを用意。大変コンパクトながら、かなり自由なセッティングを作ることのできるスグレモノだ。T-005はそこそこしっかりした自由雲台が付いているので、ポールを装着した上で自由な角度にセットすることが可能だ。

ガンマイクで対談を録る

●最終映像のイメージ複数人での対談や座談会の場合、マイクの向いている方向により声の音量に差が出てしまうので、ヘッドフォンでモニターしつつその時々にメインで話している人のほうに適宜マイクを向けてやるのがベターだ。

◎一脚ポールをブームに!延長ポールを2本継ぎ足して簡易のブームポールを作成。専用品よりは短いものの、狭めの空間では充分な距離をとることができ、かなり軽量なため腕も疲れにくい。慣れれば、ある程度カメラの動作をしながら同時に操作することもできる。

ピンマイクと小型レコーダーで録る

●最終映像のイメージ個々の話者にピンマイクを装着できれば、多少の動きがあっても、マイクと口の距離が変わらない安定した音声を録ることができる。

◎ピンマイクをつけたレコーダー

ピンマイクはワイヤレスでの使用イメージが強いが、そこそこ高価なため複数セット揃えるのが難しかったり、電波の混信や途切れ、音質の低下といったリスクも伴う。そこでおススメしたいのが、小型レコーダーにピンマイクを装着したスタイル。今回使用したズームH1のセットは、マイクを入れても一組1万円程度のリーズナブルさだが、かなりの高音質で録ることが可能だ。

関連記事 ウェアラブルや仕込みで便利に使えるラベリアマイク付きレコーダー タスカムDR-10L

◎操作ロックを忘れずに!

収録中は基本的にレコーダーを「回しっぱなし」にするので、誤って録音停止や電源OFFとならないように操作のロック(H1ではHOLDスイッチ)を実行しておく。

 

◎ピンマイクの装着に注意するマイクのケーブルは衣服の中を通すなどすると、見た目的にもスッキリしやすい。衣服があたったり、女性の場合アクセサリーが揺れる音などは気になるので注意しよう。

◎レコーダーの置き場所

レコーダーは、ジャケットの内ポケットなどに入れたり、ストラップで首からかけて衣服の中に入れる手もあるが、テーブルなどで隠れる場合には直接持ってもらったり、傍らの椅子に置くような対処も行える。

【Point】編集ソフトで映像と音声を合わせる時のコツ

音声のタイムラインは「ミリ秒」表示にする
PCMレコーダーで収録した音声は編集時に音声を基準にして位置合わせしているが、微妙なずれによってやまびこのようになったり、ショワッとした質感が出てしまう場合がある。映像のフレーム単位ではピッタリの位置に合わないも多いので、音声向けの時間単位(オーディオユニット時間の表示)に切り替えた上で、ミリ秒単位で微調整を行おう。

【屋外でインタビューを収録する】

カメラ装着のガンマイクで収録

●最終映像のイメージ道を歩くインタビューイを横から撮影しながらインタビューする、ドキュメントの1コマ的なショット。

◎マイクへの風対策は必須

屋外での撮影でガンマイクを使う場合は、風の対策が欠かせない。マイクに付属する場合も多いスポンジ製のウィンドスクリーンはそれほど効果は強くないが、最低限の対策として装着しておこう。

◎ウィンドジャマーを使おう

毛足の長い「ウィンドジャマー」を使うと、多少の風もうまく拡散されて気になりにくいので、ぜひ準備しておきたい。ウィンドジャマーはスポンジのスクリーンの上に被せることで、マイクにジャストフィットさせることができる。サイズの合わないものを大雑把に被せると、擦れる音が入ることもあるので注意。

◎必ず音声をモニターしながら!

映像のイメージのように近接した体制ならば、周囲があまり静かではない場所でも明瞭に声を録ることができる。野外では突発的なトラブルが起こる可能性があるのでモニターしながらの確認は必須だ。

ワイヤレス+ピンマイクでインタビュー収録

◎ワイヤレスシステム

密着取材などで可能な場合は、インタビューイにワイヤレスピンマイクを装着するのが最も安定して収録できる。

◎ピンマイクにジャマー

ピンマイクにはウレタンのウィンドスクリーンが付属しているが、屋外の場合は、ウィンドジャマーも用意したい(下記「特選 機材カタログ」参照)。

◎アングルの自由度は高いが実は難易度は上がる

近づかなくても良い分だけアングルの自由度は上がるが、そのまま他の人との会話などに入るとバランス良くできなかったり、送信・受信双方の電池残量にも気を配らなくてはならない。余裕を持って準備ができない場合は、ガンマイクのほうが融通がききやすいので、撮影内容によって使い分けよう。

※ちなみに三脚を持っているのはこういう撮影シーンにおける筆者のスタイルです。

屋外で人に話を聞くようなスタイル

◎はっきりマイクを見せるのも効果的

テレビのニュース番組などでもおなじみの、通りがかりの人へのインタビューを行う場合は、インタビュアーがマイクを手持ちして自分、相手と交互に振るのがもっとも収録しやすい。偶然通った不慣れな人も、マイクがあれば「ここに向かって喋れば良い」と無意識に理解できるので、収録もスムーズに運びやすい。

 

◎安価なマイクでも意外に効果は高い

インタビュー用のハンドマイクも存在するがリーズナブルでおススメなのはPAなどで使われるダイナミックタイプのハンドマイク。ガンマイクなどのコンデンサーマイクより感度が低いが、その分周囲の雑音をあまり拾わず、雑踏の中などでもマイクを近づけた相手の声だけをクリアに拾うことができる。写真はベリンガーの廉価なマイクXM8500。ライブのボーカリスト向けに設計されているので、多少のショックにも耐える頑丈な構造になっており、音質も必要充分なものが得られる。

◎波形を見ただけで効果は一目瞭然

同じ場所でGH5の内蔵マイクとXM8500それぞれを使って収録し、声の音量が同程度になるように調整した例。GH5は周囲の雑音に声の波形が埋もれてしまっているが、XM8500のほうは声だけがかなりハッキリと聴こえる状態となっている。製品の元々の「用途」とは異なるが、ひじょうに大きな効果がある。

▲(左)カメラ内蔵マイク (右)ハンドマイク

もし事前に準備できるのなら

●場所
インタビュー収録を行うのに適した場所はあるか。映る範囲だけでなく、機材を設置するスペースも含めて事前確認しよう。

●時間
予定している時間中に、近隣で騒音の出る可能性はないか。チャイムや学校の下校時刻など、予測できる時間帯はなるべく外しておく。

●インタビュー内容
慣れていない人が、突発的な質問に流暢に答えるのは難しい。しどろもどろにならないよう、多少の内容を事前に伝えておこう。

●衣装
特に女性の場合、揺れる音がマイクに入りやすいネックレスや、マイクを装着しづらい構造のワンピースなどをできるだけ避けてもらうとスムーズに運びやすい。

 

 

 

インタビューに役立つ!
特選 機材カタログ

マイクからカメラへ 簡単にケーブルレスにできる
ロード Newsshooter Kit/55,000円

XLRやミニジャックで好きなマイクに接続し、デジタルワイヤレス化できる送受信機のセット。35Hz〜22kHzというCD並みの周波数特性を持ち、ひじょうにクリアなワイヤレス録音環境を構築できる。送信機はレポーター用のダイナミックマイクに直接装着するだけでなく、ファンタム電源が必要なエレクトレットコンデンサーマイクに電源を供給しながら音声を飛ばすことができる。(銀一)

 

ファンタム電源と単3電池の 両方で使えるのが便利
ロード NTG-2/32,800円

リーズナブルな価格ながら放送クオリティの音質を持った、定番の一つとなっているガンマイク。ファンタム電源に加えて単三電池での駆動も可能で、幅広い機器との組み合わせで使用できる。(銀一)

 

 

 

 

1本あると何かと便利
ハクバ 一脚ポール/80 5,616円

330〜810mmの間で伸縮できる、三脚ネジ(1/4インチ)仕様の延長ポール。マイクや小型カメラのセッティング調整に威力を発揮し、常にケースバイケースなインタビュー収録 現場で大変重宝する。

 

 

 

スマートフォンで音声だけを確実に録音することができるマイク
IKマルチメディア iRig Mic Lav 2/オープン価格(1.1万円前後)スマートフォンに接続して確実なボイス収録が行えるラベリアマイク。近年のモバイル機器におけるカメラの高画質化と相まって、新しい形の手軽なインタビュー収録を実現できる。

 

 

 

 

仕込みマイクの定番的存在に
ズーム H1/オープン価格(1万円前後)

本体内蔵、及び外部マイクを接続して柔軟な録音が行える小型PCMレコーダー。単3電池1本で10時間以上の録音が行えるので、ノンストップで安心してインタビュー収録が行える。

 

 

 

 

XLR入力対応で 実売価格が安いのが魅力
タスカム DR-60DMKII/オープン価格(1.9万円前後)

一眼カメラと一体化させて使用できる高機能PCMレコーダー。カメラの機種を選ばず高音質化が可能で、本格的なマイクを使った本体への録音とカメラへの音声収録が同時に可能になる。DR-60MKIIは実売価格が安くてお買い得。HDMIケーブルでカメラと連動するDR-701D(オープン/実勢60,000円前後/写真右)もある。

 

服に合わせて色を選べるウィンドジャマーのセット
ライコート oc-30/2,160円

ピン(ラベリア)マイク向けのウィンドジャマー6個セット。野外収録時の風音防止に威力を発揮し、付属の粘着パッドを使って様々な衣服にノンダメージでの装着が可能になる。(ゼンハイザージャパン)

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音声関連の情報はこちらの本にまとまっています。

ビデオグラファーのための 音声収録 & 整音ハンドブック

 

vsw