【アーカイブ】自分たちで作りあげた赤坂BANZAIスタジオ DIYスタジオのナレーションブースから学ぶ


MAの仕事、特にナレーションを録るような場合はやはりブースが必要。DIYで作っていったBANZAIスタジオのシステムを教えてもらった。

取材・文●編集部 一柳

 

VIDEOSALON 2021年4月号より転載

 

 

男性ナレーションをうまく録れるか?

昨年12月号特集「プライベートスタジオ強化計画」でご紹介した赤坂のマンションにあるポスプロ、BANZAIスタジオ。そのMAルームは絶妙な感じでナレーションブースが併設されていた。大手ポスプロの設備は簡単には真似できないが、DIYで作り上げていったMAルームには参考になるノウハウが詰まっているに違いない。今回の特集に合わせてそのMAルームを再度取材した。

お話を伺ったのは同社のミキサー/サウンドデザイナーの長田浩幸さん。コロナ禍以降、ライブができないかわりに、これまでに撮りためたライブなどを配信したいという需要が増え、MAルームの稼働率が上がっているという。またテレビも過去の映像を使った総集編が多く、しかも過去の素材はラウドネス導入前のものもあり、音の再調整が必要になる。もともとBANZAIスタジオは音楽ライブ関係に強いが、テレビやネットでの番組作業も多くなっている。

BANZAIスタジオがこの赤坂のマンションでDIYスタジオを作って稼働し始めたのは2017年。それまではタワマンの一室を使用したポスプロや各自の自宅で作業していたが、もっと人が出入りしやすい物件を探していたそうだ。今、映像の編集であればどこでも簡単にできるし、ハードウェアや環境に求められている条件のハードルも高くない。しかも編集段階で集まってプレビューすることも多くない。部屋や環境が重要になるのはMAであり、できあがったものをプレビューする場所が欲しいと思っていた。

まずこのマンションは大通りに面していなくて、すぐ前の道も行き止まりなのでクルマはほとんど通らない。都心にあるわりに静かだ。物件としても、大家さんが内装の施工もやっていて、音響の内装工事の内容に興味をもってくれた。そこで設計士と内装業者とBANZAI側スタッフの3者で、できること、できないことを相談しながら、この部屋を作っていったという。もちろん大手の専門の施工業者であれば最初からちゃんとした音の環境ができるが、すでにあるマンションを利用して、試行錯誤して作っていってみたかった。その途中経過で、長田さん自身、学んだことが多いという。

狭い部屋での吸音には限界があるが、拡散して音響をコントロールしているスタジオもある。それを参考にしてスピーカーの間のモニター裏に円柱状の木材を並べたこと によって、130〜140Hzあたりの気になっていたボアボアした印象がなくなった。この帯域は男性ナレーションには重要なところで、ここが耳につくとついEQを調整しすぎるなどして魅力を削いでしまうことに繋がってしまう。女性ナレーションは比較的どこでも綺麗に処理できるが、小さい部屋の場合はボアボアしてしまいがちな男性ナレーションがうまく録れるかがポイントになると言う。

 

MAのメインルーム

▲DAWはProTools | Ultimate HDX SYNC HD HD I/O 8×8×8で、コントローラーはArtisx Mix。プラグインとしては、Waves  : Horizon,SSL4000、Izotope  : postproduction bundle、NugenAudio  : VisLM-H2、Ceremony : Melodyne 5 editorなど。右手にモニターコントローラーのGrace Design : m905、その右にナレーションブースとやりとりするiPad。

▲マイクプリは、Rupert Neve Designs のPortico 5012H。操作しやすいように浮かせて設置。

▲モニタースピーカーはADAM Audio: S2XとGenelec : 8020D(現在はNEUMMANのKH80 DSPに更新)。

▲クライアント側。頭の後ろに自作の木製ブロック拡散板を設置。 

▲ナレーションブースはメインルームを出て廊下を辿っていく。ケーブル類は上のケーブルラックを通している。

 

iPadのFaceTimeで意思疎通をはかる

ここを使った仕事でナレーション録りがあるのは8割ほど。ライブ系の作業以外はほぼ入れるというくらいナレーションの需要は多い。ナレーションブースは部屋を出て廊下を通っていった突き当たりにある。変形スペースなのが音響的に好都合だった。通常のMAルームのようにガラス越しに顔が見られないので、iPadでFaceTimeでお互いの顔が見られるようにした。ちなみにトークバックは2MIXにまぜているので、FaceTimeの音声はOFFにしている。メインブースから映像、音声(2MIXとトークバックを混ぜたもの)、CUE信号が送られ、ナレーションブースからは音声信号が送られる。FaceTimeがなくてもやりとりも収録も可能だが、相手側の様子がわかるだけで、たとえばナレーターさんからすると「今、何待ちなのか」がわかって安心だし、ミキサーさんからはナレーターさんが準備できるのかどうかがよくわかる。意思疎通のための手段として有効だという。

こちらにも音の拡散を狙った音響反射板を左右に設置していて、音響的に対策しているのはもちろん、一番重要なのは快適な環境を整えることだと言う。1〜2時間入りっぱなしということも多いのでエアコンは必須。マイクとの位置関係を考慮して設置し、静音モードで運転することにより、収録に支障ないようにしている。音響面をケアするだけでなく、ナレーターさんが気持ちよく仕事できる環境を整えるということが何よりも求められることなのかもしれない。

 

ナレーションブース

▲ナレーションブース入り口。

▲FaceTimeでメインブースとやりとりするiPad。


▲変形スペースでしかも天井も斜めなので定在波が起こりにくい。

▲ナレーター目線。音の拡散を狙い自作した反響板(左右の丸太)を入れたことで、箱鳴りが格段に抑えられた。

▲ナレーター用のカフボックス、小型ミキサー、ヘッドホン。

▲マイクは定番NEUMANN U87Ai。オーディオテクニカAT4050も用意している。

 

 

VIDEOSALON 2021年4月号より転載

 

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vsw