【新刊MOOK発売特別企画】Dronegraphers〜空撮作品と機材見せてくださいVol.1大河ドラマ『西郷どん』中村 豪さん


 

新刊MOOK『DRONE空撮GUIDEBOOK改訂版2019年』では、ドローンを活用して美しい映像作品を作り上げるユーザーを取材し、撮影した空撮映像をはじめ、空撮での使用機材、制作スタイルについてお話を伺った。初回は大河ドラマ『西郷どん』のオープニング映像を手がけたL.S.W.Fの中村さんを取材した。

取材・文●青山祐介/構成●編集部

 

中村豪(L.S.W.F)
なかむらごう/アートディレクション、映像、写真、デザインなどをトータルに手がけるクリエイティブ集団「L.S.W.F」代表。カテゴリーにとらわれず、ドラマ・CM・雑誌など空撮をする。好きを原動力に活動を拡げるドローングラファー。インテリアデザイナーとしての顔も持つ。

L.S.W.FのWEBサイト●https://www.lswf.co/

大河ドラマで薩摩と奄美大島の自然の魅力をドローンを使って美しく描き出す

末から明治にかけて、日本の近代化を推し進めた立役者のひとりである西郷隆盛の生涯を描いたNHKの大河ドラマ『西郷どん』。このオープニング映像や劇中の空撮カットを撮影したのが、クリエイター集団L.S.W.F代表の中村豪さんだ。

神奈川県鎌倉市出身で、サーフィン歴の長い中村さん。プロサーファーである弟さんとハワイでサーフィンを楽しむ中でドローンの存在を知った。「ちょうどアメリカでドローンが売れ始めた頃で、『兄貴、こいつの時代がくるぞ』と教えられて、すぐに手を出しました」という中村さん。初代のPhantomにGoProを付けて、サーフィン仲間を撮影し始めたのが中村さんのドローン歴の始まりだ。

サーフィンのメッカのひとつともいえる湘南エリアは、同時に流行に敏感な人が多いエリアでもある。中村さんがドローンを飛ばしていると、あたりでサーフィンをしている雑誌の編集者や映像クリエイターが興味を持って、よく声をかけてくるという。「そんなことが縁でイベントを撮ってよといったことから始まって、だんだん雑誌や映像の仕事が来るようになったんです」と中村さん。今では自動車関係の映像や旅行会社の依頼で、海外にも撮影に出かけることが増えている。

現在、中村さんがおもに撮影で使用する機体はDJIのInspire2。機体の操縦とカメラオペレーションを一人でこなすのが中村さんのスタイルだ。「練習は波乗りを撮ることですね。だから練習はもっぱら奄美大島。とにかく広いから」と中村さんは笑う。

普段はドローンで撮影を行なっている中村さんだが、撮影のためにGoProを持って海にも入ることもある。L.S.W.Fという会社名には、陸、空、海という意味が込められていて、映像を通じてあらゆる自然の魅力を表現する集団なのだという。「僕は自然と旅が大好きで、ドローンはその魅力を表現する手段」という中村さんだ。

ドローンで空撮をするうえで、中村さんがいつも心がけていることがある。それはドローンからの映像は、“見えすぎてしまう”ということ。「ドローンで上から撮ると、なんでもかんでも見えすぎてしまいます。それって良し悪しだと思うんです。だから、あえてすべてを見せないで、寸止めしておくようにしています。そんな映像を見た人は想像力をかきたてられる。もっとその映像に興味を持ってくれるのではないかと思うんです」

 

大河ドラマ『西郷どん』オープニング映像

奄美大島の豊かな自然をドローン空撮や水中撮影、題字の制作までワンストップで制作

▲「西郷どん」最終章! 明治編オープニング

 

『西郷どん』のオープニングで、「タイトル映像・題字 L.S.W.F」とクレジットされている通り、オープニング映像は撮影から編集まで中村さんを中心としたL.S.W.Fの手によるものだ。西郷隆盛ゆかりの鹿児島県各地で撮影されたムービーには、ドローンで撮影したカットがふんだんに使われている。

「これまでの“CGの大河”、“書道の大河”というイメージのオープニング映像を変えたいという狙いがあったそうです」という中村さん。それまでに中村さんが撮ってきた映像が、プロデューサーの目に留まったことがきっかけだったという。

オープニング映像は、桜島はもちろん高千穂の峰や雄川の滝といった薩摩地方だけでなく、西郷隆盛が流刑で過ごした奄美大島の宮古崎をはじめとした各地を、CGなどを使うことなく美しく描き出している。放映初期のバージョンは5カ月をかけて13カ所で撮影が行われた。特に奄美大島各地のカットは、現地にも居を構えて暮らす中村さんだけに、知る人ぞ知る場所の美しさを余すことなく描き出している。

こうしたオープニング映像を制作したこともあり、中村さんはドラマ本編の空撮も担当。撮影したカットの中で一番のお気に入りは、奄美大島の浜辺で二階堂ふみさんの演じる西郷隆盛の妻・愛加那が、夕陽を背に島唄を歌う姿をノーズインサークルで捉えたカット。

「もう陽が沈むというギリギリの時間の中で、監督には『おまかせで』と言われる猛烈な緊張の中で、愛加那さんに吸い込まれるようにのめり込んで撮影ができて、一発で決まりました」。

2018年11月からは最終章となる『明治編』バーションとなったオープング映像。西郷隆盛役の鈴木亮平さんと大久保利通役の瑛太さんを高千穂の峰に立たせての撮影は、雲海が出る絶妙のタイミングで、中村さんとしても思い入れのある映像となったという。

 

▲「西郷どん」最終章! 明治編オープニング

 

中村さんが主に撮影に使うInspire 2


▲現場ではいつでもすぐに飛ばせるようにInspire 2は離陸モードにして肩で担ぐ形で持ち歩く。


▲機体やプロポ&モニター用のバッテリーはダカインのカメラバッグに収納。プロサーファーの弟さんがサポートを受けているという。


▲ジンバルカメラはZenmuse X7+DL5050mmF2.8 LS ASPHとZenmuse X5S+DJI15mmf1.7を使用。フィルターはND8とND32を使い分ける。


▲プロポはCendenceを愛用。操作性という点でお気に入りだ。


▲パッチアンテナは機体が1km以上離れるようなときにとても有効だという。


▲純正のハンドホイール2も準備している。


▲監督に映像を見せるなど必要に応じてBlackmagic Video Assist 4Kを使用。


▲海外での充電に重宝するコンパクトな変圧器。

 

大河ドラマのオープニング制作をきっかけにL.S.W.Fを結成

L.S.W.FはLand Sky Water Filmの略。もともとは中村さんをはじめサーフィンを通じて知り合った映像ディレクター、写真家、デザイナー、カリグラファーが集まったクリエイター集団だ。以前も一緒に仕事をしていたが、西郷どんのクリエイティブを手がけるにあたり組織化された。オープニング映像だけでなく題字、ポスターのデザインも手がける。

(C)NHK

 

 

中村さんは建築家・インテリアデザイナーとしての顔も持つ

中村さんはドローンカメラマンであると同時に、おもに店舗や住宅の内装を設計するデザイナーでもある。東京の事務所と鹿児島県の奄美大島の拠点を月に1〜2回は往復して、住宅建設の仕事も行っている。伝統的な餅まきの習慣も残っている奄美大島の上棟式では、美しい奄美大島の海をバックにした住宅の竣工写真や映像の空撮も行なっている。


 

ドラマの本編撮影の様子

『西郷どん』の撮影では「監督さんにもよくしてもらい、とても楽しくやらせてもらいました」と中村さん。ドローンカットはあまり細かく指示されることなく、中村さん自身の感性にまさせて撮影させてもらえる反面、大きなプレッシャーにもなったという。「当初はドローンに懐疑的だった演出のチーフの方も、途中からはドローンを気に入っていただき、本編でも積極的にドローンを使ってもらえるようになりました」と中村さん。


 

 

●12月18日発売の新刊MOOK
ドローン空撮GUIDEBOOK 改訂版2019年より転載

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