富士フイルム X-T3  開発メンバーに訊く


「X-T3の動画は新エンジンで得られたパワーで最大限の画素を読み、高速処理する。いわばフルスイングしています」

 

4K/60p、10bitというX-T3のスペックを見て、富士フイルムの本気度と開発力に驚愕した人は多いだろう。突然、ミラーレス一眼ムービーのトップに躍り出たように見えるが、実は「Xシリーズの動画性能を上げていきたいという思いはずっとあった」と言う。

ミラーレス一眼のX-T1が出たのが2014年。当時はフルHDの60pで読み込んで処理する画素も少なく、他社モデルと比較して劣っていたのは事実で、動画ユーザーに注目されることはなかった。2016年のX-T2に取り組むに当たり、センサーの読み出し速度とプロセッサーの処理速度が上がったことを動画性能向上に振り向け、読み出せる限界の画素からのオーバーサンプリングで4K/30p記録、4KでのHDMI出力、しかもF-Logに対応したことで、一躍注目を集めることになった。

素直に高域まで伸びた高解像でしかも独特なフィルムルックを実現した映像は高く評価された。動画ユーザーが「フィルムシミュレーション」に気づいたのはここからだ。その同じシステム(センサーとエンジン)を使って、動画ユーザーからも声が大きかったボディ内手ブレ補正を入れたX-H1は、富士フイルムの最後の映画フィルムをシミュレートした「ETERNA」(エテルナ)を追加。まさに動画でもフィルムルックのお手本ができたことに我々は感動した。

ミラーレス一眼では後発の富士フイルムは2年ごとにシステムを更新してきたが、今回のX-T3から早くも第4世代に移行している。第1世代からするとX-TRANS CMOS 4センサーで読み出し速度10倍、プロセッサーX-Processor 4で20倍の処理速度を実現した。この性能向上をきちんと動画性能向上に振り向けてくれているところが嬉しいところで、これまで動画ユーザーから言われてきた4K/60p、10bitなどをほぼ達成することができた。一眼ムービーとして、性能的にもっとも競争力のあるカメラのひとつになった。この進化はセンサーの高速読み出し、プロセッサーの高速処理に依っているので、残念ながらH1をファームアップで4K/60p対応、10bit対応にすることは難しい(検証したことはあるが無理だった)と言う。

それだけ一眼のボディサイズで4K/60p、10bitは限界ギリギリに挑んでいるということだ。

センサーとエンジンの進化が着実に動画性能向上につながっている

 

なぜ富士フイルムが「動画」か?

そもそもなぜ富士フイルムが動画にこれだけ力を入れるのかと疑問に思う人がいるかもしれないが、少し俯瞰で業界を見てみるとその疑問は解ける。富士フイルムはビデオカメラこそ出していないが、放送用、映画用としてFUJINON(フジノン)ブランドのレンズを長年供給し続けているので、放送、映画業界とのつながりは深い。その放送用映画用レンズを作っている埼玉県大宮の事業所に、Xシリーズなどのカメラを開発する部隊も集結した。これでユーザーニーズも正確に掴めるようになってきたと言う。

では、ソニーのFS5のように一眼のマウントをベースにしたシネマカメラはあり得るのかというと、可能性はゼロではないが、具体的な計画はないそうだ。まだX-T3でも機能、性能、操作性で対応できていない部分もあり、ミラーレス一眼のラインナップで強化していきたいと言う。

あくまでXシリーズはベースはスチルカメラであり、スチルの延長としてムービーがある。したがって開発陣もコーデックの担当者はほぼ動画専任に近いが、各担当は静止画と動画の両方をカバーする。他社では静止画と動画で処理エンジンが違い、動画には動画のルックを適用するという例もあるが、富士フイルムはそこは共通にすることでメリットを生み出そうとしているようだ。クラシッククロームなどは、動画で使うとやや脱色したトーンがドキュメンタリームービーっぽい効果を出しているし、逆にエテルナは動画用に設計したが、静止画としてロケハンに使ったり、ポートレート写真撮影に使う人も出てきた。お互いに乗り入れる効果が生まれてきている。

 

10bitにこだわり、H.265を採用

これまでGH5/Sでしか実現していなかった動画での10bit記録を、ソニーやキヤノンより先に富士フイルムが実現した。T2からの進化で何を優先するか検討し、4K/60pはもちろん、8bitではなく10bitを目指した。8bitではどうしても階調に限界がある。F-Logでの収録を考えると10bitはどうしても必要。しかしエンジンの性能、熱の問題を考えるとギリギリの線で、記録は4:2:0、出力は4:2:2なら出せるのでやろうと決断した。4:2:2と4:2:0は色差情報に数値的な違いがあるが、人間の知覚的にはほとんど分からないレベル。

それに、4:2:2や10bit というスペック通りの情報をもたないカメラも世の間には存在するが、それらも一定の評価を受けている。重要なのはできるだけ多くの画素を使って処理することでそのほうが最終の結果はよくなる。新エンジンで得られたパワーで最大限の画素を読み、高速処理する、いわばフルスイングしている状態だという。

10bitを実現するために、コーデックにはH.265を採用した。従来のH.264に比べて圧縮の効率は2倍程度良くなる。実は今回のプロセッサー自体、H.265に最適化されているものだという。そのため、逆にH.264ではいくつか制限がある。本来であればH.265のみにしたかったところだが、PCでの再生編集環境など厳しいケースも出てくるので、いくつかの基本的なモードではH.264も選べるようにした。画質を求めるならH.265のほうが有利とのこと。

H.265で注意したいのは、多くの編集ソフトでH.265のファイルのメタデータを正しく認識してくれず、フルレンジとビデオレンジを誤動作すること。後処理で階調を調整すれば済むことだが、現状ではDaVinci Resolve 15(Windows環境)であれば、H.265のファイルを正しく認識してくれる。

 

富士Xムービーの本来の魅力は

実はXシリーズの動画の本来の魅力はこういったスペック以上に、色作り、画作りにあると思う。そこは長年積み重ねてきた知見を反映したフィルムシミュレーションやフィルターの分光特性に反映されているが、ノイズ感も他社と比べてまったく違うと思っていた。それを尋ねると「あえてノイズを消し過ぎないのがポリシー」だという。当然、消したほうがクリーンで綺麗に見えるが、それはいい面もあれば、悪い面もある。ノイズは自然な感じで出したほうが好ましい映像になると言うのだ。このあたりはビデオメーカーと発想が違うところで、それこそが富士Xムービーを選ぶ最大のポイントなのかもしれない。

 

動画ユーザーのメリットを考えて

2018年末に予定されているファームアップも動画機能だ。そのひとつがHLG(ハイブリッドログガンマ)対応。さらにF-Logとフィルムシミュレーションの同時出力ができるようになる。つまりエテルナでカード記録しながら、HDMIでF-Log出力する(ただし4K/30pまで。逆も可)。

ちなみにF-LogからエテルナへのLUTも提供されている。フィルムシミュレーションのノウハウを外に出してしまうことは社内でも議論があったそうだが、F-Logからエテルナに関しては動画ユーザーの使い方を想定すると必要だろうと判断したと言う。

動画ユーザーの声を真摯に耳を傾けてくれる富士フイルムの姿勢に敬意を表したい。

 


▲お話を伺った富士フイルムのX-T3開発メンバー。左から入江公祐氏、田中誠二氏、水田智之氏、西山幸徳氏、渡邊淳氏。ここ数年は動画機能と性能を上げるために、小誌も熟読し、動画はどうあるべきかを研究し、それがT2、H1、T3に反映されている。

 

ビデオSALON2018年11月号より転載