REPORT◉編集部・一柳

「静止画」から「動画」へ!
「カメラ単体」から「周辺機材込みの使いこなし」へ

今なぜ社名変更なのか?

マンフロットといえば、写真用の三脚やライトスタンド、カメラバッグなど周辺アクセサリーメーカーの最大手であり、ビデオユーザーにもお馴染みだが、4月1日に社名変更が発表され、マンフロット株式会社からヴァイテックイメージング株式会社(VITEC IMAGING DISTRIBUTION)となり、新たにバックパックタイプのカメラバッグではシェアナンバーワンのロープロ(Lowepro)とゴリラポッドで有名なJOBYが新たなブランドとして加わった。マンフロットというブランドが浸透しているために、日本ではマンフロット株式会社だったが、実はヴァイテックというグループ(本社は英国)の傘下にあり写真関係のいくつかのブランドを扱っていた。たとえばフィールド系の三脚としては歴史がありプロの写真家に愛用されてされているジッツオ(GITZO)も1990年代に統合され、現在はヴァイテックグループになっているし、ライティングスタンドやクランプなど写真、映画業界で使われているAVENGER、スタジオおよびロケ撮影現場で使用できるライティングコントロール用の機材を出しているLastolite(ラストライト)などもマンフロット株式会社が扱ってきた。

今回、ヴァイテックグループ全体の戦略を見直し、ちょうどロープロ、JOBYという強力なブランドが加わるタイミングで社名変更となった。

【図1】3月1日の記者発表での資料より。マンフロットがヴァイテックイメージングに、ヴァイテックビデオコムがヴァイテックプロダクションソリューションズに社名変更になった。

3つの三脚ブランドは以前から同じグループだった

実は、1990年代から業務用三脚のザハトラー(Sahctler)やヴィンテン(Vinten)もヴァイテックグループにある。日本では諸事情があり、会社として統合されていなかったが、ヴィンテンとザハトラーは2000年代には、ヴァイテックビデオコムとして統合され、展示会などでは同じブースにいくつかのブランドの製品が並ぶようになった。つまりマンフロット、ザハトラー、ヴィンテンという海外のメジャー三脚ブランドはすべてヴァイテックグループに存在するのである。

ヴァイテックはブランドではないので、ヴァイテック商品が存在するわけではない。展示会やウェブサイトなどユーザーとのコミュニケーションでは、各ブランドを前面に打ち出すことになるという。

ヴァイテックグループの新しい方針のもと、現在3つのディビジョンに整理された。まず旧マンフロット(現ヴァイテックイメージング)が扱うのがプロカメラマンやアマチュア、ビデオグラファー向けの製品。今回、ここにロープロとJOBYが加わった(本部はイタリア)。放送、映画業界向けのブランドが集まるヴァイテックビデオコムは、ヴァイテックプロダクションソリューションズに社名変更(本部は英国)。そしてこれから伸びるであろうと思われるビデオグラファー向きのブランド、Small HDやWooden Camera、映像配信系のParalinx、Teradekなどの新興メーカーはヴァイテッククリエイティブソリューションズとなった(本部は米国/日本には法人がなく各ブランドは日本の代理店経由で販売される)。(図1)

※ヴァイテックプロダクションソリューションズについてのインタビューはこちら

激変する市場に対応する

その背景には、写真、ビデオをめぐる市場の激変がある。SNSを中心に静止画、動画が発信されるケースは爆発的に増えているが、カメラ単体での売り上げは落ちている。一方でSNSに投稿されるデータも地域によっては静止画よりも動画のほうが増えている(YouTubeを想起すればわかりやすい)。もちろんスマホでの撮影が増えているのは確実だが、その周辺機器も伸びていることからして、カメラ単体というよりもアクセサリーも含めて使いこなしている人が多い。

映像制作においても、放送局向けは頭打ちになり、それに変わってWEBをベースにして映像を発信するクリエイターが現れ、活況を呈している。特に北米では静止画から動画へという流れが顕著であり、インディペンデント・コンテンツ・クリエイター(ヴァイテックグループではICCという略称で呼んでいる)がデジタル一眼、ウェアラブルカメラ、ドローン、ジンバルを駆使した映像を作り、報酬を得るようになってきた。図2は3月1日、CP+でのヴァイテックイメージングの社名変更の記者会見で示された現在のユーザー分析マップ。かつてはこの円の左半分である、プロフェッショナルとアマチュア(趣味層)という区分けで充分だったが、現在は右半分が大きくなり、特に右上(インディペンデント・コンテンツ・クリエイター)が新興市場として立ち上がっている。

【図2】3月1日の記者発表会の説明より。ヴァイテックイメージングが想定している現在のユーザー層。右上のインディペンデント・コンテンツ・クリエイターが新しい市場として立ち上がってきた。代表的なクリエイターとして、ケイシー・ナイスタット(Casey Neistat)を例に挙げていた。

その特徴はユーザー自らが使い方を考案して情報発信をしているということ。たとえば、JOBYのゴリラポッドなどはテーブル三脚や物に巻きつけてカメラを固定するグッズとして提案されたものだが、ユーザーはフレキシブルに曲がる脚を利用して自撮り用として使い出し、それが広まった。かつてはメーカーが提案して使ってもらうのが普通だったが、今はユーザーやコミュニティが使い方を提案して広める時代に変わっている。そういうこともあり、各ブランドごとにSNSを中心に、よりユーザーに歩み寄っていく戦略を取り始めているという。

▲ ゴリラポッドをこのように使うということはメーカーは想定していなかった。ユーチューバーが始めたことで広まった。

また同じグループになったといえ、各ブランドにはそれぞれファンがついているので、その特徴は大切にする。たとえば今回加わったロープロやJOBYは“アメリカン”な香りがするが、そこは消さないように開発メンバーはそのまま残り、開発もそれぞれの地元で行う。

新しい市場に敏感なのはヴァイテックグループの特徴で、新しい撮影機材に対して、驚くほど早く対応製品が出てくる。特にドローンのバッグなどは、DJIとアライアンスを組んで、いち早くドローン対応バッグを製品化したし、ソニーとの販売協力アライアンスにより、ソニーα7、9シリーズ専用プレート付きのbefreeアドバンスも商品化し、これが販売好調だという。


▲ ソニーα7、9シリーズ専用プレート付き(対応機種:α7II、α7rII、α7rIII、α7sII、α9)のbefreeアドバンス。

カメラバッグなどはロープロ、マンフロットでバッティングするように思えるが、ロープロはその歴史からしてよりアウトドア系に、マンフロットはスタジオ、アーバン系として棲み分けていくことになりそうだ。

工場に投資することで欧州で製造

三脚といえば、日本メーカーも含めて価格競争が厳しいので、開発は日本、欧州で行いながら、中国などで生産するのが一般的になっているが、ヴァイテックグループでは、工場に投資をすることで、高品質なものを効率良く欧州で作るという方向に転換しつつあるという。たとえばマンフロットの旅行用の三脚、befreeアドバンスなどはイタリア生産。また、ヴァイテックプロダクションの画期的な脚、フローテック75はカーボンを特殊加工するために工場に莫大な投資をし、イギリス生産をしているという。つまり大きいグループであることのメリットは、工場に大きな投資ができ、他社が簡単には真似できないものを安定して生産できるということである。

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昨年マンフロットから登場したナイトロテックは、窒素ガス封入したピストン方式でカウンターバランスをとるという画期的な機構であり、ここ何十年も新しい機構の提案がなかったビデオヘッドに新しい風をもたらした。そして昨年のInter BEEに登場し、今年の春から順次出荷が始まっている、ザハトラーとヴィンテンの新しい脚の機構フローテックも革新的だ。伝統あるブランドの伝統と信頼性は維持しながら、新しいものを生み出すという進取の気性はヴァイテックグループに共通のものなのかもしれない。

▲ お話を伺ったヴァイテックイメージング代表取締役社長の新井啓之氏(右)とマーケティング部長の上原康充氏。

●この記事はビデオSALON 2018年8月号 より転載。他にも充実した記事が盛りだくさん!