REPORT◎井上卓郎(Happy Dayz Productions)
協力◎日本サムスン株式会社/ITGマーケティング株式会社
このマニアックでアングラな検証シリーズも3回目。前回(1月)もニコンのフラグシップミラーレスカメラZ 9で行なったがその時はH.265とProRes 422 HQでの検証だったのだが、4月に大型ファームウェアアップデートがあり、ついに内部でRAW映像が収録できるようになった。しかも8Kオーバーの8.3K/60pという、どう見てもデータの大きさと転送速度が要求されそうな検証のやりがいのある仕様だ。
どうやら前回の記事も好評だったらしく第3弾を行う運びとなった(なんとなく来そうな予感はしていたが)。前回、前々回の記事と併せて読んでいただきたい。またZ 9のN-RAWについての詳細な検証も下記の関連記事に書かせていただいたので、今回は収録メディアに関連した検証を行いたい。内容に関しては、今までの記事と被ってしまう部分が多いが復習と思ってお読みいただきたい。
●これまでの記事
【SAMSUNG SSD WORLD】CFexpressカードの代わりに汎用SSDが使えるのか?第2弾【ニコン Z 9編】
https://videosalon.jp/pickup/samsung-ssd_inoue3/
【SAMSUNG SSD WORLD】CFexpressカードの代わりに汎用SSDが使えるのか?キヤノンEOS R5の8K RAW収録で検証
https://videosalon.jp/pickup/samsung-ssd_inoue2/
●関連記事
ニコンZ 9ファームアップで可能になった8K RAW動画のワークフローを検証する
https://videosalon.jp/report/z_9_8kraw/
Z 9 N-RAWの特徴
- 外部レコーダーを使わずに収録ができる
- 多彩な解像度とフレームレートでRAW収録ができる→8.3K、5.3K、4.1K(4K DCI)、3.8K(4K UHD)
- 高画質と標準画質の2つの解像度
- 発熱による記録時間の制限がない(※最長2時間5分で1度停止する)
- RAWファイルと同時にProxyファイルも生成され、編集時のワークフローがスムーズ
気になる収録時間
一番容量の大きい8.3K 60p(高画質)で収録した場合、1TBのメディアで23分21秒、512GBのメディアで11分40秒、325GBのメディアに至っては7分23秒しか収録が出来ない。CFexpressカードも安い物ではない。しかもRAW撮影は記録速度が要求されるため、高温になりやすく容量いっぱいまで記録できずヘタってしまうカードも存在する。画質は最高だがコストパフォーマンスは最悪の部類に入る。
そこでわれらが汎用SSDをCFexpressに変換するコンバーターの登場だ。
念のためお約束のように言っておきますが、
「メーカー保証の対象外になる可能性もあるので自己責任でお願いします」
「ZITAY CFexpress to SSD Converter Adapter CS-305」とSamsungのSSD「980 PRO 2TB」
●「Samsung 980 PRO 2TB」
▲毎回レビューで使用させていただいている安定、安心のSSD。PCIe 4.0 x4対応しているNVMe M.2タイプのSSD。最大転送速度 : 読出7,000MB/秒 書込5,100MB/秒
●「ZITAY CFexpress to SSD Converter Adapter CS-305
▲CFexpress Type Bカードスロット経由でNVMe M.2 SSDを接続するコンバーター。実売2万円前後
●「Nikon Z 9」
▲現時点でミラーレス一眼タイプの動画カメラとしては最高峰の性能を誇る。8.3K/60pのRAW動画を収録できる。
CFexpressカードという規格はPCIeインターフェースが採用されており、現行のCFexpress2.0ではPCIe 3.0(Type Bの場合は2レーン)ベースとなる。Type BのCFexpressの転送速度が2,000MB/s以下なのは、このインターフェース速度の上限のためだ。現在、SSDの主流はTLCタイプのNANDベースだが、スペックに記載されている書き込み性能はSLCキャッシュが有効な場合の速度であることがほとんどで、キャッシュ切れ後は書き込み性能が落ちる仕様となっている。概して低容量のSSDのほうがキャッシュ切れ後の書き込み速度が遅い傾向にあるので、最低でも1TB以上のSSDを選んでおくのが無難だろう。なお、より安価なQLC NANDベースのSSDも出てきているが、キャッシュ切れ後の性能低下幅はTLC NANDのそれよりも大きいので、安定的な書き込み性能が求められる用途では避けたほうがいいだろう。
CFexpressとしてはPCIe 3.0接続のSSDでもいいはずだが、より最新のインターフェースであるPCIe 4.0接続のSSDを検討することにした(下位互換性あり)。今回のテストで使用する「Samsung 980 PRO 2TB」もPCIe 4.0 x4に対応しているSSDだ。
▲ZITAY CS-305に980 PROを組み込む。裏面の蓋を開けSSDをセットする。普通のエンクロージャー(SSDケース)と同じだ。
▲アダプターをスロットに差し込む。Z 9はスロットのカバーを取り外すことができる。ただし、雨の日の運用などは防水性が落ちるので気をつける必要がある。
▲コンバーターのケースをどこに固定するかが今までの最大の悩みであったが、SmallRig Nikon Z 9 専用 L型カメラブラケット 3714に固定すると収まりが良い。配線はちょっと悩みどころではあるがあまり負担のないように取り回すようにしよう。
▲CFexpressカードと同様にカードを初期化する。
さて、下準備が完了したので本題の検証を開始だ。今回のテストはSSD、CFexpressともに最新のファームウェアの入ったものを使用している。特にCFexpressは最新ファームを入れた方が安定性も上がる場合があるので確認をおすすめする。
結論から言うと、とても安定して収録ができた。正直CFexpressカードよりも安定している。ちなみに静止画に関してもコンバータ経由のSSDでも問題なく撮影できる
CFexpressの場合、メーカー推奨のカードでも、「HOT CARD」の警告が出た。途中で停止することはなかったがちょっとヒヤッとした。
▲コンバーターとSSDの組み合わせでは一切警告が出ることはなかった。
連続で3度繰り返し同じテストをしたが、途中で停止することもHOT CARDの表示も出ず安定した収録ができた。またCFexpressカードは取り出すとかなり熱を持っていたが、コンバーターのカード部分はほんのりあったかい程度であり、カメラへの負担は少ないと思われる。ただしSSDを納めたケース部分はそれなりに熱を持っていたので一応低温やけどなどには気をつけたほうが良いかと思われる。
2TBのSSDで収録できる時間は以下の通り。
8.3K (高画質)/60p:45分39秒、30p:1時間16分
8.3K (標準画質)/60p:1時間15分、30p:2時間5分以上
筆者は画質を検証した上で基本的には8.3K/30pで撮影をしているので、2TBあれば収録メディアの心配はない。また比較用にいつも使用していた少しお安めのPCIe 4.0接続のSSDとDelkinのCFexpressカードPOWERは8.3K/60pでは途中で録画が停止してしまった(メーカー推奨のProGrade Cobaltは問題なし)。記録メディア選びはなかなかシビアなようだ。その点でもSamsung 980 PROは安心して使用できる。
コストパフォーマンスと安定性に優れたSamsung 980 PRO
CFexpressと比較してSamsungのSSD 980 PROでの収録はとてもコストパフォーマンスが良い。毎回同じような結論だが、前回の検証後に軒並みCFexpressカードの値上げがあったのでなおさら980 PROのコストパフォーマンスが際立つようになった。またメーカー推奨のProGrade Digital COBALTは最大容量が650GBしかないのも心許ない。CFexpressとしてはコストパフォーマンスの良いAngelbird AV PRO MK2と比較しても半額以下で運用できるのはなかなか心強い。
メーカー | メディア種類 | モデル | 容量 | 実売価格 |
ProGrade Digital |
CFexpressカード |
COBALT |
650GB |
10.6万円 |
Angelbird |
CFexpressカード |
AV PRO MK2 |
2TB |
15.6万円 |
Samsung |
PCIe 4.0 NVMe SSD |
980 PRO |
2TB |
4.6万円+ 2万円(コンバーター代) |
まとめ
8.3K/60pのRAW動画収録はメディアの容量と安定性、そしてコストパフォーマンスのバランスが求められる。SamsungのSSD 980 PROとコンバーターZITAY CS-305の組み合わせた運用はコストパフォーマンス、安定性ともに際立つものとなった。撮影データの高い書き込み速度要求と大容量化が進む今、SSDの活用を選択肢の一つとして考えても良いのではないだろうか。
◉Samsung 980 PRO (2TB)
https://www.amazon.co.jp/dp/
◉ZITAY CFexpress to SSD Converter Adapter CS-305
https://www.zitay.com/Search-cs-305/list-r1.html