大きくわけてレイアウト・プライマリー・セカンダリーの工程がある
3DCG空間内のカメラのアニメーションも含め、作成したモデルを動かす工程になります。また、演出を実現する工程でもあります。段階ごとにレイアウト・プライマリー・セカンダリーに分かれている場合もあり、レイアウトはカメラの動き、プライマリーはベースの動き、 セカンダリーは服やスカートの揺れ、キャラクターの髪の毛など揺れ物の動きにあたります。レイアウトはカメラの動きとなるため自社でやりたいというケースが多く、プライマリー以降のアニメーションだけを依頼されることも多いです。
アニメーションの分野も国内外問わず専門のアニメーターが存在します。大きな案件であれば分業しますが、CM案件などは予算的な問題もあるため、最初から最後までひとりのアニメーターで完遂することもよくあります。
基本的には“演出を実現する”ためのアニメーションをつけていく。アニメーションはグラフエディターを使い、細部の動きを調節する。
ソフトによって得意不得意があり、結果や処理速度に大きな違いがある
爆発や崩壊、水などの流体、動物の毛などを作成する工程としてエフェクトがあります。基本的には物理シミュレーションを行うため、強力なPC処理能力が必要になります。
エフェクトに特化したソフトはHoudiniを含めいろいろありますが、ソフトによって得意不得意があり結果や処理速度に大きな違いがあります。
僕の場合は、いわゆるDCCツール。統合型ですべての工程を網羅しているHoudiniを使ったり、3ds MAXのプラグインを使うことが多いです。Houdini以外にも水に特化したRealFlowなどもあるので、アーティストの好みや習熟度によっていろんなソフトを使い分ける印象がありますね。
現実世界と同様に光と影を作り出し、時間帯や季節、寒暖まで表現できるといい
3DCG空間において、様々な種類のライトを配置し設定する工程です。ソフトによって言い方は変わりますが、アンビエントライト(環境光)、エリアライト(面光源)、スポットライト、ディレクショナルライト(平行光源)、ポイントライトなどの種類があります。VFXや実写合成などCGからのライティングの場合は、IBL(イメージベースドライティング)を多用します。IBLとは、広いレンジを格納できるHDRI画像を現場で撮影し、CG空間のドームライトに貼り付けることでそれをベースに物理的に正しいライティングをしてくれるもので、それなりのものがパッとできあがるため便利です。
ライティングをしっかり行うことで、後のコンポジットの工程が楽になります。現実世界と同様に光と影を作り出し、時間帯や季節、寒暖までをライティングの時点でしっかり表現できるといいんじゃないかと個人的には思いますね。
昔、実際の撮影現場のライティングがどんな意図でやっているのかを全く理解しておらず、現場監督から「こんなのは現実的なライティングじゃない」と言われてしまい、それ以降ライティングへの考え方が変わりました。CGとはいえ、現実のものを仮想空間内でやっているわけなので、実際の撮影現場でのライティング知識はとても大事だと思うようになりましたね。
適切な設定を見つけ出して、最終的なレンダリングを行う
3DCGを静止画、連番画像として書き出すCGソフト最後の工程です。レンダラーによって仕組みが異なるため、表現や計算スピードにもそれぞれ個性があります。最終的にはコンピューター計算なので、様々なレンダリング設定を調整する必要があります。プロジェクトには納期や予算の兼ね合いがあるため、レンダリングに時間をかけられないことが多いからです。また、レンダリングする案件はどうしても最後にしんどい思いをするので、書き出した後に「ここを直したい」と言われた場合はやむを得ずコンポジットで対応することもあります。
Mayaでのレンダリングは標準のArnoldでやることが多いです。例えば、金属質の物であればハイライト部分や反射光などがチラつくため、ディフューズやスペキュラーのサンプル数を上げる必要があります。サンプル数を上げればクオリティはもちろん上がりますが、レンダリング時間も跳ね上がってしまいます。なので、連番で5〜10枚ずつレンダリングをして動きを見つつ、エラーがないかを確認しながらチューニングしていきます。また、サンプル数が低めでも問題ない部分も出てくるので、適切な設定を見つけ出して最終的なレンダリングを行います。
レンダリングの設定画面。Camera(AA)のサンプル数を上げることで関連するパラメータ全体が上がるのでノイズ除去ができる。当然クオリティは上がるが、その分レンダリング時間も大きく跳ね上がる。
素材を重ねることでCGでレンダリングしたエフェクトも馴染んでくる
撮影した素材やレンダリングしたCG素材、実写素材(煙や炎の汎用素材)などを合成する工程になります。基本的には、NukeやFusionなどノードベースのソフトを使用します。汎用素材はCGで作ることも可能ですが、コスト面も鑑みると実写素材でやれるところはやってしまったほうがいいですね。素材を重ねることでCGでレンダリングしたエフェクトも馴染んでくるので、実写素材とサンドイッチしながらやっていく形を取っています。また、バレ消しの工程もコンポジットです。加えて、ワイヤーアクションであればワイヤー消し、グリーンバックで撮影した素材であればスピルを丁寧に抜くキーイング作業なども含まれます。
舞台が1945年という設定のため、現代的な建造物をペイントで消すことで更地にした状態。
コンポジットでは、Nukeなど視覚的に分かりやすいノードベースのコンポジットソフトを使用することが多い。
2DワークのMV制作や編集に寄った作業などでは、レイヤーベースのAfter Effectsを使用することが多い。
家業と事業を両立させる仕事術
宇和島へUターンして味噌屋を継ぐ
VFXの仕事と味噌屋の仕事 半々でどちらも本業というスタイル
僕のキャリアとしてはずっと宇和島にいたわけではなく、15年のうちの12年くらいは東京で仕事をしていました。コロナの緊急事態宣言1回目にあたる2020年の4月の少し前に、宇和島へUターンすることとなりました。
なぜ、宇和島にUターンしたのかというと、長女の小学校入学と次女の幼稚園入園が理由でした。また、実家の家業が味噌屋だったこと、自分が長男だったことなどもあり、歳を重ねて自分だけのことばかりを考えられなくなってきた時期というのもありました。
宇和島にある実家は古くから続くニッチな麦味噌屋さんを営んでいます。正直、継ぐほどの規模でもない家内工業のお味噌屋さんで、地元消費中心のため家族だけでやっている小さなお店になります。味噌を仕込んでいるときは力仕事なので室内はほぼサウナ状態で、空調の聞いた部屋でVFXを作る仕事とは真逆の仕事だと思いますね(笑)。それ以降、VFXの仕事と味噌屋の仕事半々で、どちらも本業というスタイルを確立してやっています。
フリーランスを辞め、会社を設立
自分がもっと歳を重ねたときの姿があまり想像できなかった
自分のやりたいことや、夢を追いかけることにひと段落した時期でもあったので、自身がフリーランスを続けることに対する漠然とした不安を感じるようにもなりました。フリーランスの場合、20〜40代くらいまではもちろん生産性もあるしニーズもあるだろうけど、50代以降になったとき果たしてどうだろうか、プロデューサーも若い人を積極的に使う傾向にあるだろうな、などいろいろと考えるようになりました。シビアにその辺りを年齢で切り分けられたとき、僕がちょうど狭間の年齢になってきたというのも大きかったですね。
また、映像制作と味噌屋の両立が可能なのかを考えたときに、フリーランスだとちょっと難しいんじゃないかと僕の中で思ったんです。リモートワークや新しい働き方に対する不安だったり、自身がフリーランスでいることで外注に出す予算とは違う、内製のスタッフと同じ予算感でやらされてしまったり。当然、専門分野なのでフリーランスに対する一定の理解はあったのですが、今は良くとも自分がもっと歳を重ねたときの姿があまり想像できませんでした。
それで、「フリーランスはここで終わりにしよう」と考え、株式会社KRADLEXを設立し、東京で仕事をしていたときにお世話になったスタジオやプロデューサーから仕事をいただきつつ、味噌屋をやりながら会社を経営するといったスタイルになりました。
専門性の高い分野なので、「フリーランス」には一定の理解があるが、歳を重ねたその先は?
● 30代後半に差し掛かり、将来に対する不安
● リモートワークなど新しい働き方の問題
● 映像制作と味噌屋の両立は可能か
● 契約および作業内容の変化
株式会社を設立
今後フリーランスがどうなるのかと考えた山内さんは、VFXの仕事をしながら家業を継ぎ会社を設立することに。
海外にブランチカンパニーを設立
海外と仕事をすることで抱えていた問題を解決できるのではと考えた
会社設立によって抱えていた不安が劇的に改善したかと問われると、そうでもなかったんです。法人同士になったことで表面上はクライアントとも対等な立場にはなりましたが、予算面やワークフロー、東京と地方での考え方の違い、兼業によるコアタイムの問題など、スタジオとしての力が弱いことで結果的に対等な立場で話をさせてもらえない場面も多々ありました。そこで、「日本ではなく海外と仕事をすることでそれらの問題を解決できるのでは?」と考え、カナダでのブランチカンパニー設立に至りました。
法人同士、表面上は対等な立場だが、スタジオとしての力(資本含む)がないため実質対等とは言い難い状況に。海外進出することで、それらの問題を解決できるのでは?
● 予算面
● ワークフローの問題
● コアタイムの問題
● 東京と地方の差
海外支社を設立
カナダのコアタイムは日本時間の23時以降。「クライアント側からすると、コアタイムに活動してくれる人に発注したいと考えるのは自然なこと。海外が相手であれば、味噌屋との兼業をした上でもコアタイムにVFX関連の活動ができ、対等な立場でのやりとりができると考えました」と山内さん。
A.
元々映画が好きだったんですが、大学も映画とは全く関係のない学科だったので、映画に関する勉強などは全くしていませんでした。進路変更のタイミングで“VFX”という新しいワードが僕の耳にも届くようになり、「この分野なら、もしかしすると映画の仕事に携われるかもしれない」と興味を持ち、VFXの道を志しました。
A.
僕が就職して初めて携わった作品で、一部のライティング・レンダリング・コンポジットを担当しました。総監督が三池崇史監督で、他にも有名な方々が集まって、「子供向け番組だけど子供に媚びない物を作ろう」と、ものすごい熱量でこそこそ皆して悪いことをやっているみたいな作品でした(笑)。特殊なモチベーションで、楽しかった思い出しかないです。
A.
兼業のライフスタイルで活動する上でのデメリットは、当たり前ですが時間の制約を受けることですね。やはりクリエイターとして何かを作る上では、ある程度最初にかけた時間よりもどこかのタイミングでいきなり良いクオリティになっていくことが多いです。ただ、時間の制約ができてしまったことで制作期間の短い案件などはそこまで辿り着けないこともあり、ジレンマを感じることもあります。その代わり、家業の時間も確保するにあたり良くも悪くもすべての仕事を受けられず仕事を取捨選択せざるを得なくなったため、自分の気持ちが乗る案件を優先して受けるようになりました。そういった意味では、とてもポジティブな面がメリットとしてあるなと感じています。
基本的には、午前中に味噌作り、午後からは日によって打ち合わせやPC作業を行い、21時以降に本格的なVFX作業を行うといったスケジュール。繁忙期は朝まで仕事をすることも。