2005年から2006年にかけてビデオサロンに掲載された岡野肇さんの連載の再掲載です。今回はデータベースを見ながら、アイドル歌手の人生に思いをはせてみます。


◆「堀ちえみ」と「岩崎宏美」と「私」の人生
 私のデータベースを見ていると、その歌手や曲の行く末がわかってから、当時を見ることになるわけで、タイムスリップを疑似体験している気分になることがあります。
 今流行りのミュージッククリップと違って当時の歌番組は、「歌うこと」だけではなく、その歌手の近況や、その時代の流行りや出来事を織り交ぜていたわけで、尚更です。
 みなさんは「ラストシングル」という言葉をご存知でしょうか。その歌手が最後に出したシングルレコードのことです。人気絶頂で解散が決まったグループや、華々しい引退を飾った人もいますが、その多くはひっそりと出され、忘れられてゆくのです。
 私のデータベースで「堀ちえみ」さんを検索してみます。そして発売順にソート。そうするとデビュー曲の「潮風の少女(1982.3.21発売)」からラストシングルの「愛を今信じていたい(1987.3.21発売)」までの27曲分が順に表示されました。花の82年組アイドルとして颯爽とデビューした彼女の実質の活動はたった5年間だったことがわかります。その後結婚し子だくさんの家庭を作ることなぞ、このころ誰もわかるはずはありません。しかし、そんな近況も頭に入れて今このラストシングルを聞いていろいろなことを考えてしまいました。
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▲「堀ちえみ」でソートしてみると。
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▲ラストシングルは、「愛を今信じていたい」。作曲者は…。
 この曲の作曲は小室哲哉氏。90年代に入って辣腕プロデューサーとして活躍する彼も80年代にはアイドルを含め、いろいろな歌手に楽曲を提供していました。脱アイドルといったイメージの強い小室氏ですが、中山美穂・小泉今日子といった80年代のアイドルに書いた曲はどれも秀逸な曲ばかり。1アイドルに提供したこの「愛を今信じていたい」は、その後の彼の時代へのプロローグだったのかもしれません。もちろんなかなか秀曲です。
 次に私が中学生の頃からファンだった岩崎宏美さんも、同じように検索・ソートしてみます。デビュー曲の「二重唱(1975.4.25発売)」から最新曲の「ただ・愛のためにだけ(2005.3.24発売)」まで全99曲が並びました。
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▲岩崎宏美でソートしてみる。
 デビュー、そして売れっ子の時代、そして結婚…。また岩崎宏美に戻り「歌姫」としての今。彼女の30年間の記録がどっと表示されました。なんて重いデータベースでしょうか。その1レコードごとに人生があるわけです。彼女だけではなくそこには私の人生も勝手に関連づけされています。もちろん今も歌手「岩崎宏美」のファンであり続けているのですが、このデータベースを見ることでその時その時の彼女に再び憧れている自分がいることに気づきました。
 まだまだこのデータベースには私をドキドキさせてくれるデータがたくさんあります。たった1曲で消えていった人。今はもう伝説になってしまった人。しかしそんな彼女たちの一瞬を閉じ込めたこのデータベースは、検索やソートといった視点でいつでも呼び出せる動く素材なのです。
【2008年12月の後日談】
まさかお話に出てくる堀ちえみさんのラストシングルの作曲者がこんなことになるとは!!
「結果を知ってから過程を見る」不思議さの一つですね。
それと岩崎宏美さん、ますますご活躍ですね。チェコのプラハでレコーディングした
アルバムも出て、先日もプラハで歌っている姿が放映されていました。ちなみに偶然
にも私も2006年プラハを訪れていたので、これもまた「運命?」だと勝手に感じました。
岡野 肇PROFILE
1960年生まれのかに座のB型。
18歳と10カ月で高卒後広島から上京。
伝説の番組「ザ・ベストテン」のドライアイス担当を皮切りに、
美術・録音・照明・VE・撮影・制作・演出と各分野をめまぐるしく駆けめぐり
29歳と11カ月で株式会社まじかるふぇいす(現有限会社)を設立。
現在は特に「音楽とビデオの融合」を目指し、日夜企画書と格闘中の
映像・音楽プロデューサー。趣味はナレーションとデータベース作り。