折りたたみドローンMavicシリーズのフラッグシップモデル2機種が登場! ハッセルブラッドカメラ搭載のProと光学2倍ズームでAF性能も向上したZOOMは映像制作者必携のツールとなるのか? カメラ性能や新機能を中心に検証し、そのフィーリングを空撮のプロフェッショナルがレポートする。

テスト・文●野口克也、遠藤祐紀(HEXaMedia) 構成●編集部

 

今回、Mavic 2 Proには1型CMOSセンサーが搭載され、Mavic 2 Zoomには光学2倍のズームレンズが搭載されました。Proに関していえば「ハッセルブラッド・チューニング」によるカメラジンバルをフロントに抱え、今までドローンに興味のなかったカメラマン達をもざわつかせています。2代目ということもあって様々な点が改良されており、筐体の高級感も相まって、ひじょうに満足のいく仕上がりとなっているように思います。

今までの空撮といえば「絶景を広角で狙う」というようなシンプルなものが主流でしたが、Mavic 2では、シネマチックな撮影手法をソフトウェアの力を借りて簡単に実現することができるようになり、レンズ交換可能な上位機種と綿密に計算されたフライトシーケンスでしか表現のできなかった世界を短時間で作り上げることができます。

 

■新製品Mavic 2シリーズの主な特徴

●飛行性能は共通。違いはカメラ


▲Mavic 2 Proには1型CMOS、ZOOMは1/2.3型CMOSを搭載。Proは絞りをF2.8-F11で調整できるがズームはなし。ZOOMは絞りは操作できないが、光学2倍ズームを備える。

 

●機体とプロポは折りたたみ式


▲機体とプロポはコンパクトに折りたためる。地味な進化だがありがたいのは、プロポのスマホホルダーにくぼみが設けられ、ホームボタンが押しやすくなった。Mavic Air同様にスティックを取り外して収納できる。

 

●空気抵抗をなくし静音性能も向上


▲空気抵抗を少なくし、効率的に飛行できるとともに静音性も考慮してプロペラの形状も見直された。

 

●飛行時間はバッテリー1本で最大31分


▲バッテリーは機体天面に装着する。Pモード(GPS有効の飛行モード)では無風状態で31分の飛行が可能。ホバリングは最大29分。

 

●前後左右に障害物検出センサー


▲前モデルMavic Proでは前方と下方のみの搭載となっていた障害物検出センサーが、Mavic 2 Pro・Zoomともに前後・左右・上下の全方位に搭載された。左右方向は低速飛行のトライポッドモード、自動追尾のアクティブトラック時のみに使用する。また、底面には夜間飛行(※要・航空法申請)の際に使えるLEDライトを搭載。

 

●オプションのバッグにはチャージャーも収まる


▲持ち運び用バッグ(Mavic 2 FlyMoreキット[45,900円])は機体とプロポはもちろん、チャージャーも収納できる。

 

●8GBの内蔵メモリとmicroSDに記録


▲microSDは最大128GB最大UHS-Iスピードクラス3の読み書きスピードのものに対応 。内蔵メモリを8GB備え、カードを忘れても録画できる。

 

やっぱりまずは画質が気になる! 従来機と横並び比較

私は1型CMOSセンサーを搭載しているPhantom 4 Proの素晴らしい画質と、光学ズームがコンパクトに折りたためる機体に搭載されたらどんなに素晴らしいだろうと随分前から夢見てきました。流石にその両方を1つのモデルに集約するのは難しかったのか、DJIはMavic 2をProとZoomの2モデルに分けて発売しました。

前述の通りMavic 2 Zoomは、1/2.3型CMOSと24〜48mm (F2.8〜3.8)のズームレンズを組み合わせていますが、残念ながら初代のMavic Proと同じく絞りは固定となります。実は前モデルにもズーム機能はありましたが、デジタルズームで、なおかつ動きが段階的になるため、録画中のズーム操作は現実的ではありませんでした。しかしMavic 2 Zoomでは収録中でも充分に滑らかなズームが可能ですので、広角から回り込みながらズームで寄っていくという、今まで実機ヘリでしか実現できなかったような空撮ショットも可能となります。また、レンズを付け替えずにHD時は24〜96mmの画角をシミュレーションできるので、上位機種のInspireなどレンズ交換式のドローンで撮影する場合のロケハン用途にも重宝しそうです。

 

 

■部分拡大でディテールを比べてみる(4K/30p撮影時)

露出設定はF2.8、1/1250、ISO100で撮影した。部分拡大は同じ倍率で拡大したもの。Mavic 2 Proには4Kの録画モードが2つあるため両方とも撮影してみた。Mavic 2 Pro以外の機種は階段の段差がきちんと解像していない。Mavic Proも意外と健闘しているように見える。

 

■同じ位置・高度から撮影した時の画角の違い

ドローンを離陸地点から同じ高度・位置で揃えて撮影したもの。Mavic 2 Proの4K撮影の録画モードにはHQとFull FOVの2つのモードがある。撮影データを見たところ、どちらもビットレートは同じく約100Mbpsだった。Mavic 2 ZOOMとMavic Air、Phantom 4 Proは焦点距離は共通だが、画角が微妙に異なる。初代Mavic ProはMavic 2 Proよりは若干広く、その他の機種よりは若干狭い画角になっている。


▲焦点距離(35mm判換算):28mm/画角:55°


▲焦点距離(35mm判換算):28mm/画角:約77°

 


▲焦点距離(35mm判換算):24mm/画角:約83°

 


▲焦点距離(35mm判換算):48mm/画角:約48°

 


▲焦点距離(35mm判換算):26mm/画角:約78.8°

 


▲焦点距離(35mm判換算):24mm/画角:約84°

 


▲焦点距離(35mm判換算):24mm/画角:約85°

 

Mavic 2 ZoomはHDなら画質劣化のない4倍ズームが可能

Mavic 2 ZoomはHD撮影時であれば、光学ズームと画質劣化のないデジタルズームを組み合わせて最大4倍ズームが可能。

 

■【Mavic 2 Pro】絞りによる画質の変化

一方、Mavic 2 Proにはハッセルブラッド L1D-20cカメラが採用され、フロント部には「Hasselblad」のロゴが配されています。初代Mavic Proと比較して面積比で4倍の1型CMOSが採用された上に、絞りはF2.8〜11の間で調整可能となりました。

 

▲Mavic 2 Proでは上位機種のPhantom 4 Proと同様に絞りの操作が可能になっている。左下の木の杭は開放ではボケているが、絞りを閉じていくにつれてくっきりとしてくる。奥の橋はF4〜5.6あたりが解像感が高く、F11になると小絞りボケの影響なのか甘くなって見える。

 

もう一つ注目なのが、10bit収録のDlog-Mに対応したこと。前モデルもLog収録には対応していましたが、小型センサーでビット深度も8bitとなっており、カラーグレーディングで輝度や彩度を調整するとノイズやトーンジャンプが発生しやすいという弱点がありました。今回、同じグレーディングを施した検証結果を見ても、10bitに対応したことで、グレーディング時の調整幅は広がったと言えるでしょう。

 

■【Mavic 2 Pro】10bit収録のDLog-Mのカラーグレーディング時の調整幅はどうか

DLog-MはH.265圧縮時にのみ選択可能


▲Mavic 2 ProでDlog-Mのカラーモードで撮影する場合には、圧縮方式をH.265に設定しておく。H.264時はグレーアウトしていて、選択できない。

 

10bitのDLog-Mと8bitのDLogの波形の違いをみる 


▲Dlog-MとDlogをそれぞれ露出オートで撮影したもの。木陰の木の下で明暗差の大きいシチュエーションで撮影してみた。D-logは全体にアンダー気味の映像が記録された。

 

全く同じグレーディングを施して見た時にどんな違いが出るのか?


▲明暗差の激しいシーンでコントラストと彩度調整の簡単なグレーディングを施し、同じグレーディング設定をDlogにもコピーした例。Dlog-Mは暗部の木も自然に持ち上がるが、Dlogはノイズと偽色が目立つ。左上のフレアはDaVinciのOpenFXで追加したものだが、Dlog-Mは自然にフレアの階調が出るものの、D-logはトーンジャンプしたような見え方になる。

 

 

他のモデルとの画質比較では海外のレビュー動画では解像度が今一歩というような情報がありましたが、各モデルを同じ条件下で比較した結果、最も細部まで表現できているのはMavic 2 Proでした。なぜ相反する結果が出たのか、今回だけのテストでは一概には言えませんが、被写体による得手不得手があるのかもしれません。

画質に関してもう一つ検証してみました。Proは絞りが操作できるということでF値の違いによる画質の変化を見てみました。ボケ味の変化は近くの被写体を撮影した場合は出てくるのですが、空撮では遠景の撮影が多いと思います。小絞りボケの影響かF値が上がると遠景の橋は解像感が甘くなるように感じられました。日中屋外での撮影にはNDフィルターは必須と言えるでしょう。

 

 

■検証・AEの変化は滑らかになったか?

▲従来までのDJI機ではAEの露出が段階的に変化していたが、Mavic 2 Proでカメラをチルトさせて、露出の変化をみてみた。完全オートは滑らか、シャッター優先にすると露出が段階的に変化した。前モデルのMavic Proとも比べてみたが、前モデルでは露出変化への反応が遅く、急激に変化していた露出が滑らかに変化していた。

 

 

 

飛行性能をチェック

実際飛ばしてみて、まず最初に驚くのはホバリング時のプロペラ音がとても静かなこと。ブレード形状の工夫とESCが改良されたことで、羽音は低音へシフトし、Mavic Airのホバリング時と比較してもAirが耳障りに感じる程、穏やかな動作音です。現実のフライト現場では周りへの騒音に配慮しなければならないシーンが多々あるので、この静けさは大変歓迎すべきものですし、確実な進化を感じます。

私的に今回一番感動した機能が、アクティブトラック中にPOIの撮影が可能になったことです。何がすごいのかというと、例えばミュージックビデオの撮影現場などでは被写体をセンタリングしながら曲調に合わせてエモーショナルな軌道を自力で作り出しますが、当然沢山の練習とセンスが必要です。しかし、これを使うと複雑なシーケンスや軌道を、いとも簡単に作り出せてしまいます。自動追尾して被写体を中心に回り込んでいく様は、匠の技に近いものがあります。さらに全方向に障害物検出センサーが搭載されたことで、より複雑なロケーションでも危なげなく確実にトラッキングしてくれます。

もう一つは、フリー・サークル・コースロック・ウェイポイントという4種類のハイパーラプス。シンプルな軌道のタイムラプスに自力でラダーや高度を組み合わせるのは現実問題として至難の技ですが、DJI Goアプリの指示に従って設定するだけで、作品の完成度を上げることができます。あとは地味ですが、底面に追加されたLEDライトがが結構明るく周辺が真っ暗の状態で離陸すると10cm程浮いたところで自動点灯し、約5mまで上昇すると自動的に消灯します。着陸時は、約4mまで下がると点灯して、着陸後にプロペラの停止とともに消灯します。コントローラーからON/OFFできるので、簡易的な照明としても利用できたりします。

これだけの性能を持ったMavic 2ですが、どうしてもモニター環境が貧弱に感じてしまいます。外部モニターに出力する方法を用意してくれれば今のところ文句のつけようがないドローンと言えます。

 

■自動操縦機能を試す

●【Mavic 2 ZOOM】被写体のサイズは変わらず、背景が動くドリーズーム

 

●POIは設定が容易になった

POIは被写体を捉えながら円を描くように周回する飛行モード。以前は高度、半径、中心点をすべて手動で設定していたが、被写体をアプリ画面上で指定するだけで設定可能になった。

●アクティブトラック2の追従性や障害物検出の精度はどうか

アクティブトラックはアプリ上で指定した被写体を自動で追尾する機能。今回のモデルではその追従性能が向上したというので、障害物検出の精度と合わせて、チェックしてみた。

 

●アクティブトラック中のPOIが可能に

アクティブトラックはアプリ上で指定した被写体を自動で追尾する機能。前方の光学センサーも画像解析に用いることで追従性能が向上。被写体を追尾しながらのPOIも可能になった。手動でこれを行うのは至難の技だが、ミュージックビデオ的なカメラワークに使えそうだ。

 

 

●ハイパーラプスは4つのモードを搭載

ハイパーラプスは移動しながらのタイムラプス。機首を自由に動かせる「フリー」、機種固定の「コースロック」、被写体を捉えて周回する「サークル」、登録した地点に沿って飛行する「ウェイポイント」の4つのモードがある。

 

●ビデオSALON2018年11月号より転載

 

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