ビデオサロン編集部は2022年5月27日、無料イベント「クリエイターが実践するGH6活用術」を開催した。3月に発売したミラーレスカメラ「LUMIX GH6」の使用感や活用法について、一線で活躍するプロの立場から指南する主旨。協賛はパナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社およびパナソニック株式会社。登壇者は、YouTubeでVloggerとして活躍している高澤けーすけさんと、映像クリエイターでクリエイティブディレクターのOsamu Hasegawaさん。本記事ではOsamu Hasegawaさんのセミナー「現場目線で語るカメラワークとレンズ選びの秘訣」についてレポートする。

レポート●関根慎一

高澤けーすけさんの講演レポート記事はこちら

 

▲Hasegawaさんが手掛けたGH6公式PV

 

HasegawaさんがGH6で主に使う記録モード

Hasegawaさんが主に使っている記録モードは「4K/60p」「4K/120p」「5.7K/60p」の3つ。それぞれ「編集のしやすさ」「スローモーション撮影時の利便性」「画作りの自由度」を重視したい場合に使い分けている。

4K/60pは800MbpsのAll-Intraで撮影しており、データ量の大きさに対して編集時の動作が軽く、4:2:2 10bitで記録することから、色情報を残しやすい点も編集前提の映像に向いている。

4K/120pでは、さらにハイフレームレート(HFR)とバリアブルフレームレート(VFR)のふたつの設定を使い分ける。前者は音声が同時録音できる点、後者はプレビュー時にそのままスローモーション映像として確認できる点がメリット。

5.7K/60pは、4K納品を前提とした場合に、画質を犠牲にすることなく、後から編集で1.425倍までクロップできる余地がある。あらかじめ画角を広めに撮影しておき、演出意図に沿ってズーム効果をかけたい場合に利用しているという。

 

強力な手ブレ補正とHFRを組み合わせて手持ちでスライダーのようなカメラワークも可能

今回のセミナーでは、Hasegawaさんが撮影したGH6のプロモーションムービーとそのメイキング映像を引用しながら解説を進めている。特に注目したポイントとして「手ブレ補正機構の効き」を挙げた。

「GH6は手ブレ補正がよく効くので、120pで撮影した場合は手持ちでもなめらかなスライダーショットが撮れます。メイキング映像にも少し映っていますが、スライダーやジンバルを使うよりもトリッキーで自由な撮り方ができるのが面白いところだと思います」

現場に持ち出すレンズの組み合わせの考え方

レンズの組み合わせに関する考え方としては、想定シーンによって2本のレンズを選ぶ方針を採っている。Hasegawaさんによると、現行マイクロフォーサーズシステムの利点は、ボディやセンサーサイズよりも、「レンズが大きくならないこと」の方が全体のバランスとして重要な要素だという。

 

▲人物/物を撮影する際のレンズの組み合わせ

 

▲風景を撮影する際のレンズの組み合わせ

具体的な組み合わせを挙げれば、人物や物を被写体とする場合は「LEICA DG VARIO-SUMMILUX 10-25mm F1.7 ASPH.」と「LEICA DG VARIO-SUMMILUX 25-50mm F1.7 ASPH.」、風景を撮影する場合は「LEICA DG VARIO-ELMARIT 8-18mm F2.8-4.0 ASPH.」と「LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm F2.8-4.0 ASPH. POWER O.I.S.」をそれぞれ選んで使っている。

「Gシリーズのレンズは、スペックを考えるとどれもコンパクトで軽量にまとまっていると思います。ただこれは私がフルサイズのシステムに慣れすぎている部分もあるのですが(笑)、やはりシステムとして小型軽量である点はメリットといえるでしょう。例えばジンバルに載せてレンズ交換をしても、ほとんどバランス調整をすることはありません。そういった細かい部分でストレスがない。繊細なカメラワークが必要なときでも、遅滞なくスムーズにできる点で、撮影時の負担が小さく済みます

あえて弱点を述べるならば、焦点距離の短さでしょうか。カメラの機能を活かす観点からいえば、『PIXEL/PIXEL』(ピクセルバイピクセル)を使えば35mm換算で1.425倍されるため、人物/物撮影向けに選んだ2本なら20-70mmと50-142mm、風景向けの2本なら16-50mmと24-170mmで使えるということで、使い勝手を機能でカバーする意味で悪くない選択だと思います」

▲フルサイズ用のレンズをマウントアダプターで装着

 

システムの構造的にボケが出しにくい点については、マウントアダプタを使いフルサイズ向けの単焦点レンズを装着して解決を試みている。

「これらのレンズを使うと被写界深度の浅いボケ感が出ますので、映像にメリハリがつきます。使い勝手についていえば、純正のレンズと同様、ジンバル使用時にもバランスを取る必要がないのも魅力ですね」

 

Siruiのアナモルフィックレンズで撮り下ろした作例

国内では常盤写真用品が取り扱っているSiruiのアナモルフィックレンズを使った作例も披露した。アナモルフィックレンズは、撮影時に横方向を1/2に圧縮して収録し、ポストプロセス時などに元の倍率へ戻すことでシネマスコープ映像を得るための特殊なレンズ。Hasegawaさんはアナモルフィックレンズで得られる描写に魅力を感じると話す。

▲アナモルフィックレンズの特徴について説明する長谷川さん

「独特のボケ味と、点光源から放射される青い帯(ブルーストリーク)が特徴です。映像では圧縮した映像を横に伸ばして戻している仕組み上、玉ボケだけが楕円形になる歪み方をしていて、心地よさを感じる不思議な違和感があります。Siruiのアナモルフィックレンズは手の届く価格帯ですし、1本だけじゃなくシリーズで出ているのがありがたいです」

▲従来のアナモルフィックレンズはシネマカメラ向けに作られたものが多く、個人が所有するような価格帯ではなく大型のレンズが多かったが、Siruiのアナモルフィックレンズは個人所有も可能な価格帯で比較的コンパクト

 

▲今回の撮影で使用したSiruiのアナモルフィックレンズ。Siruiにはスチル用のアナモルフィックレンズもあるが、今回使用したのはシネレンズ使用でフォーカスギアを備えたMarsシリーズ。24/35/50/75mmをラインナップ。

 

作例は完成次第追加します

 

ここではHasegawaさんが実際にアナモルフィックレンズを使って撮影した映像を再生し、特徴的な青い帯や、縦長に滲んだ玉ボケが映る独特な雰囲気を表現していた。

「普段仕事で作っているような映像でも、ひと味違った内容にできるのではないか? 今回はこういう風に撮ってみようか?と、発想のひらめきをサポートしてくれる良いレンズだと思います」

 

このほか、アナモルフィックレンズの弱点である「寄れない」(一例として、最短撮影距離が50mmで0.75m、75mmで0.85m)問題をクローズアップレンズフィルターで緩和するアイデアも披露していた。

▲接写ができないのがアナモルフィックレンズの弱点だが、ケンコー・トキナー MCクローズアップ No.3を使用することで対処した。

HasegawaさんはアナモルフィックレンズなどのマニュアルレンズをGH6に装着して使う用途としては、4K/120pが特に相性が良いとの考えを示している。その理由としては、「合焦時間を伸ばせる」「編集でフォーカス速度を変えられる」「設定によって音声も同時記録できる」という3点を挙げた。

「絞りを開けて、浅い被写界深度でフォーカスを合わせていくと、焦点が合っているように見える時間が等速では一瞬なのですが、これを120pのスローモーション映像とすることで、合焦時間をおよそ5倍に伸ばせます。また、編集でフォーカス速度を変更するというテクニックは、例えばフォーカス移動によって徐々に被写体の全貌が明らかになる演出に使えます。これはワンカットの尺が必要なときなどに便利な技ですね。編集の自由度が上がります。GH6の場合は4K/120pならハイフレームレートで音声が同時に録音できるし、10bit記録にも対応しているので、充分実用に堪えます」

 

▲セミナーの最後には、セミナーの中で説明した撮影テクニックを実演する一幕もあった。

 

セミナー後のフリータイムでは、来場者がHasegawaさんのもとに集まり、セミナーの中で紹介したマウントアダプタの詳細やジンバルコントロールのコツ、GH6と旧モデルとの使い勝手の違いなどを質問している場面もみられた。

 

▲セミナー終了後、Hasegawaさんの周りには来場者が集まり、機材の使い方などをたずねていた

 

●LUMIX GH6の製品情報

https://panasonic.jp/dc/products/g_series/gh6.html