ライトユーザー向け360度全天球VRカメラ~RICOH THETA SC2 & 業務での使用を想定したSC2 for Businessをレビュー


RICOH THETA SC2は、2019年の12月13日に発売された360度全天球VRカメラで、THETAシリーズのライトユーザー向け最新モデルだ。イメージセンサーと画像処理エンジンが刷新され、4K動画の撮影が可能になった。そして、ボディにディスプレイ表示を搭載し、ボタン群の見直しなどもされて、インターフェイスが改善。ユーザーの使い勝手を助けるプリセットも複数搭載されている。加えて、ビジネスユースに最適化したRICOH THETA SC2 for Businessが、3月19日に発売された。本記事では、SC2と新発売のSC2 for Businessについて、レビューしていく。

文◎染瀬 直人

 

初代のTHETA SCは、2016年に発売された。2017年にはTHETA SC Type HATSUNE MIKUという初音ミクの3Dモデルと360度画像の合成を可能にしたコラボモデルも登場している。”SC”という製品名の由来は、発売当時にフラッグシップモデルであったTHETA Sの”S”と、コンシューマー向けの頭文字の”C”から、”SC”というネーミングがなされている。SC2はその後継機である。

現在、THETAシリーズは、高画質を追求するフラッグシップモデルのZ1、 ガジェト志向のユーザー向けにVRを意識した上級モデルのV、シンプルな操作で気軽に使用できるエントリー機のSC2の3機種のラインナップとなっている。(初代SCも併売されているが、在庫がなくなり次第、販売終了予定。)SC2は“すべての人が気軽に360度撮影を楽しめるように”というコンセプトの下に商品企画がおこなわれており、購入しやすい価格設定がなされている。(オープン価格。4/7現在、リコーイメージングストアでは、¥36,800-税込。)

近年、THETAのファンミーティングにおいても、女性ユーザーの増加が見られ、SC2は20~30代の趣味や旅行にアクティブな女性や若いママなどのユーザー層をターゲットに、360度VRカメラの初心者が日々の生活を360度で記録しながら、InstagramなどのSNSに投稿するような使い方が想定されている。

▲THETA SC2は、360度撮影の初心者、女性、ファミリー層向けのエントリー機だ。

 

 

コンパクトな筐体と、操作しやすいインターフェースを実現

SC2の外形は初代SCと同じく45.2×130.6×22.9mm。質量はさらに1gほど軽くなり104gと、”小型・薄型・軽量”を実現している。ポケットやバッグに入れても邪魔にならずに持ち歩けるし、手に馴染む筐体の感触も良好だ。ボデイカラーのバリエーションは、ピンク・ブルー・ベージュ・ホワイトの4色展開となっており、初代SCの落ち着いたグレイッシュトーン対して、SC2は艶やかなネイルカラー仕上げで、側面の部分まで同色の塗装が施されているのも特徴的だ。また、ボディのフロント下部に、初代SCにはなかった状態表示OLEDパネル採用されており、撮影モードやプリセット、無線のON/OFF、電池残量などの最低限の情報が、スマートフォンとの接続なしに確認できるので便利だ。

側面のボタン群も見直され、上から電源ボタン、無線ボタン(無線LANとBluetooth機能)、モードボタンに加えて、セルフタイマーボタンが追加された。セルフタイマー作動時には、ボディのフロントの表示パネルにカウントダウンが大きく示される。360度撮影においては、セルフタイマーを使用する頻度も高いので、これは親切な配慮だ。

バッテリーはリチウムイオンバッテリーが内蔵され、電池寿命は静止画は約260枚、動画はおよそ60分である。ストレージも内蔵で、容量は初代SCの8GBに対し、SC2では14GBに増量されている。音声は1chマイクが内蔵されている。

▲ピンク・ブルー・ベージュ・ホワイトの4色のカラーバリエーション。

▲OLEDの状態表示パネル。


▲側面のボタン群。上から電源ボタン、無線ボタン、モードボタン、セルフタイマーボタン。

▲セルフタイマーのカウントダウンが状態表示パネルに表示される。

 

 

スピーディーな起動と転送

SC2を触ってみて、まず感じることに、起動の速さが挙げられる。Z1やVのようなアンドロイドOSを搭載していない代わりに、電源を入れてから起動までおよそ1.5秒と迅速なので、思い立った時に素早く撮影に入ることができる。

またBluetoothリモコンからの撮影が可能になっているので、スマートフォンが無線LANのインターネットに接続している状態でも、撮影のコントロールや位置情報の送信が出来る。無線LAN接続にすれば、スマートフォンでライブビュー表示や画像データの転送機能まで利用できる。

無線LANの高速データ転送速度も大幅に向上している。これまで天頂補正はデータの転送時点でおこなわれていたが、「天頂補正ON/OFF」を切り替えることができる仕様に変更された。再生時に天頂補正を実行した場合、動画データの無線による転送所用時間が、2K動画の場合は初代SCと比較して、およそ1/4に短縮。4K動画においては撮影終了から転送にかかる時間が、Vと比較して10秒以上早くなっている。(使用環境によって、転送時間は変動する。)

▲モバイルデバイスの基本アプリのカメラ内画像から、転送画面で歯車マークをタップ→転送設定において、動画の天頂補正をOFFにできる。天頂補正をONにしてスマートフォンに転送した動画は、再生時やSNSに投稿する時に天頂補正をOFFをすることは出来ない。

 

 

イメージセンサーと画像処理エンジンが一新

カメラの配置は、THETAシリーズの伝統とも言える二眼屈曲光学系で、開放F値2.0のレンズ2つが、フロントとリア部分に背中合わせに配置されている。

SC2ではイメージセンサー(センサーの画素数は12M×2)と画像処理エンジンが一新され、高速なインターフェースと、4K(3840×1920 29.97fps)動画撮影のリアルタイムステッチを実現した。動画のステッチは撮影時に80cmの地点で、”静的つなぎ処理”をカメラ内でおこなう仕様となっている。一方、静止画の場合には、”動的つなぎ処理”が実行される。動画撮影時には、手ブレ補正機能も実装された。録画時間は、2K撮影時は約5分、4Kの場合は約3分(温度が25度の場合)。合計では4Kで約32分、2Kで約115分となっている。静止画の解像度は、初代SCと同様の5.4K(JPEG:5376×2688)である。

初代SCと比較して、ISOは静止画の場合、ISO100-1600から64-3200に。動画の場合は、ISO100-1600から64-6400までに拡大。シャッタースピードは静止画の場合、1/8000-60minから1/25000-60minに。動画撮影時は、1/8000-1/30secから1/25000-1/30secに拡張されている。

また、SC2では静止画撮影時のHDRのアルゴリズムが見直され、初代SCと比較して、色収差やフリンジ、色飽和を抑えて、ハイライト領域のコントラストが高くチューニングされている。HDR撮影とその処理時間は上位機種のZ1やVには及ばないものの、初代SCと比べて、およそ2倍以上早くなっている。

▲SCの動画ファイルは、デュアルフィッシュアイの未ステッチの状態でカメラ内に記録される。

▲SC2のカメラ内ステッチ済みの動画ファイル。

 

●THETA SC2 4K 29.97fps

エントリー機であるが、上位機種のTHETA VやZ1に並んで、4K動画撮影が可能。VR動画については、高解像度が望まれるが、コンシューマーにとっては現状、4K以下が扱いやすいのも事実だろう。

 

●THETA SC2の手ブレ補正機能をテスト

強力な手ブレ低減効果までは実感できなかったので、現状はアクションカム的な使用より、据え置きの撮影に向いていると思われる。

 

▲HDR画像 比較 THETA SC(左)とTHETA SC2(右)
SC2のHDR処理では、シャープ感が増し、ハイライトから、中間調、シャドウに到るまで、デティールが見事に再現されている。

Post from RICOH THETA. #theta360 – Spherical Image – RICOH THETA

▲SC2でHDR撮影した360度全天球パノラマ(静止画HDR合成)

 

 

初心者ユーザーの撮影を助けるプリセットが搭載

SC2にはAUTO撮影では対応が難しいシチュエーションでも、初心者のユーザーが使いこなせるように、以下の3種類のプリセットが用意されている。

:画面の中で顔の検出をおこない、顔(人物)を画像の中心に配置する。そして、露出補正やノイズリダクションを施すことで、顔を明るく美肌に見せる効果が得られる。顔検出位置が高いポジションにあった場合は、天頂補正の機能はトレードオフとなり、顔を画面中央に配置することが優先される。顔検出ができなかった場合でも、美肌化の画像処理を実行。検出可能な人数は、前後最大8人まで。検出可能な最大距離は85~100cmまでだが、つなぎ目部分では顔検出はできない。

▲モバイル端末のTHETA基本アプリ内の3種類のプリセット表示。

▲プリセット「顔」適⽤前。


▲モバイル端末のTHETA基本アプリで、プリセット「顔」を適用、画面内の人物の顔を認識している状態。

▲プリセット「顔」適用後。筆者が試用した限りでは、複数の人物が画面内にいた場合、全員の顔までは検知されないことがあったので、その点は今後のアップデートで精度が向上されることを期待したい。

 

夜景:低照度の場面において、ノイズを抑えつつ、ハイライト領域のダイナミックレンジを広げて撮影する。併せて、画面内に人物がいる場合、顔検出機能によって、暗くつぶれがちな顔の部分の補正を施した撮影ができる。画像処理は「ノイズ低減(画像合成)」+「DR(ダイナミックレンジ)補正」+「顔検出」の組み合せで構成され、撮影時は三脚の使用が前提となる。

▲プリセット「夜景」適用前

▲プリセット「夜景」適用後。夜間の撮影で付きものの、ノイズ発生や階調不足の問題を、画像処理で解消。人物の顔の補正までカバーできる点が優れている。

 

車窓:車内と窓外のように大きな明暗差がある環境において、AEやAWB、その他の各種画像処理を、フロントとリアのカメラ各々で独立して制御する機能。撮影後は、右側にフロント、左側にリアの画像を並列で配置する。ライブや舞台などのメインの被写体が明るくとび気味に写りがちな場面でも、「ハイライト優先AE」により、適正な露出の撮影を可能にする。

▲プリセット「車窓」適用前。

▲プリセット「車窓」適用後。車内のサイドウィンドウにSC2を近寄せて撮影した作例。プリセット「車窓」適用前のオートの撮影では、人物の顔の露出が潰れがちになるが、適用後ではフロントとリアのカメラそれぞれで、最適化された処理がなされる。明暗差が、はっきりした場面において有効だ。

また、水中撮影(約5~10m)に最適化されたホワイトバランスの設定「水中」が、スマートフォンの基本アプリに新たに追加されている。初代SCと共用の水中ハウジングケースTW-1を使用して、水中で撮影する場合に有用だ。水深20~30m、あるいは被写体が遠い場合は水中のWB補正は、補正しきれずに少し青緑味が残る。

▲モバイル端末の基本アプリに実装された、ホワイトバランスの設定「水中」。

 

 

静止画と360度画像を合成して動画化、より幅広い共有を実現

その他、全機種対応のユニークな機能として、新たに「アニメーションフォト 」が登場した。これはスマートフォンのカメラで静止画を撮影した数秒後に、SC2でも撮影を実行。サムネイルはスマートフォンのカメラで撮影した画像となり、その画像をタップすると、後から撮影されたSC2の360度画像が、アニメーションとして表示されるという機能である。Live Photos(iOS)・動画(Android) として再生ができるから、360度対応のビューワーアプリやプラットフォームを介さなくても、汎用的にコンテンツを共有することが可能になる。静止画と360度画像のコンビネーションを提案するチャレンジングな発想と言えるだろう。現在はリコーが提供しているモバイル端末向けアプリTHETA+アプリで、THETA画像をアニメーションとして書き出した後に、カメラロールからスマートフォンで撮影した画像を選択して出力することになるが、春頃には、THETA基本アプリで静止画と360度全天球画像を同時に撮影し、そこから全天球画像のアニメーションと静止画を合成した「アニメーションフォト」を生成する機能が実装される予定となっている。

またTHETA+の3月18日の最新のアップデートで、動画編集の際に、露出、コントラスト、色温度、ハイライト、シャドウ、明瞭度、彩度の調整まで出来るようになった。


▲ステッチ後の静止画と動画を編集できるモバイル版アプリ〜リコーのTHETA+で静止画を動画化している作業の画面。

 

●スマートフォンで撮影した静止画と360度全天球画像からつくったアニメーションを合成したアニメーションフォト

▲THETA+が、最新のアップデートにより、露出、コントラスト、色温度、ハイライト、シャドウ、明瞭度、彩度の調整が実行できるように機能強化された。

 

 

ビジネスユースのTHETA SC2 for Businessも登場

そして、SC2に加え、不動産や自動車販売業界のニーズを踏まえて企画されたビジネスユースモデル~THETA SC2 for Businessが、新たに発売された。ボディカラーはグレー。(オープン価格。4/7現在、リコーイメージングストアでは、¥39,800税込。)

その内容は上記で紹介したSC2のプリセットの代わりに、室内撮影に特化した「Room」というプリセットが実装されたものになっている。そもそも、360度の全天球撮影においては、画面内にハイエストライトとディーペストシャドウが共存する場面が多々ある。特に室内や車内など、窓外との輝度差が高い状況で撮影すると、明部や暗部の描写が損なわれてしまう。その場合には、HDR(High Dynamic Range)撮影によって、露出の違う複数の画像を合成し、より広いダイナミックレンジを得ることで、白飛び、黒つぶれを防いで、画像の品質を向上させることが出来る。SC2 for Businessでは、常にこのHDR合成機能であるプリセットの「Room」の状態で起動する仕様になっている。

また業務利用の目的の場合、撮影者の存在を消したいというニーズも多い訳だが、そのためには、時間差でフロントとリアのカメラの撮影を実行できるTime Shiftが便利である。「Room」使用時には、このTime Shift機能を利用することが出来る。

▲新発売のTHETA SC2 for Businessは、グレーのボディカラーとなっている。

 

▲THETA SC2 for Businessの状態表示パネルに、Roomのプリセットが選択・表示されている状態。

▲プリセット「Room」適用前。

▲プリセット「Room」適用後。THETA SC2 for Businessの「Room」のプリセットを利用した場合、HDR撮影によって明部や暗部のデティールを取り戻し、併せて、Timeshift撮影やセルフタイマーを利用すれば、撮影者の写り込みを容易に回避することができる。

 

まとめ

THETA SC2は、360度撮影のユーザー層を広げる狙いで商品企画されたエントリー機だ。小型・軽量で、手にした時のフィーリングもよく、ネイルカラーのきれいな発色と相まって、所持する喜びを感じさせるVRカメラである。起動や転送も早いので、気軽に360度のライフログを撮影するのに適したモデルと言える。必要な機能や性能を見極めた上でシンプルに設計されており、シーンごとに最適化した撮影を実現するプリセットも配されていて、コスパが良いモデルと言えるだろう。 360度撮影の初心者、前モデルからの買い替えを考えているユーザー、Z1やVを使っているプロシューマーが、普段遣いに用いるセカンドカメラとして適している。

一方、THETA SC2 for Businessは、これまで、ありそうで無かったビジネスユースに特化した製品だ。中国製の多機能なVRカメラが多数出現した今日において、目的を絞り込んで、差別化を図った実用的な製品といえるだろう。360度撮影において、沢山の物件の撮影を効率良くこなしたい業者の方に、お薦めのモデルである。

 

筆者プロフィール:染瀬直人 

映像作家、写真家、VRコンテンツ・クリエイター
2014年、ソニーイメージングギャラリー銀座にて、VRコンテンツの作品展「TOKYO VIRTUAL REALITY」を開催。YouTube Space Tokyo 360ビデオインストラクター。Google × YouTube × VR SCOUTの世界的プロジェクト”VR CREATOR LAB”でメンターを、また、デジタルハリウッド大学オンラインスクール「実写VR講座」で講師を勤める。「4K・VR徳島映画祭2019」では、アドバイザーを担う。著書に「360度VR動画メイキングワークフロー」(玄光社)など。VRの勉強会「VR未来塾」を主宰。
http://www.naotosomese.com/

vsw