IMAGICAエンタテインメントメディアサービス(以下:Imagica EMS)、日本映画撮影監督協会、日本映画テレビ照明協会は2024年11月25日と26日の2日間、横浜市のFACTORY安善スタジオにおいて、バーチャルプロダクション(以下:VP)の撮影体験イベントを開催した。体験会は撮影監督、照明技師、プロデューサーなどを対象に、スクリーンプロセスの素材撮影からインカメラVFX本番撮影まで、3団体のスタッフがサポートしながら実施された。
VPには複数の手法があるが、近年注目を集めているのが「インカメラVFX」。LEDウォールに3DCGをリアルタイムで投影し、演技と背景を同時に撮影できる。カメラに取り付けたセンサーをもとに画角やカメラアングルもトラッキングすることができ、撮影スタッフや演者も完成後のイメージをつかみながら撮影ができる。
酒井氏は今回の体験会イベント開催の経緯についてこう述べている。
酒井氏「2024年6月に会田さんが初めてVPでの撮影を経験された際、弊社では事前の素材撮影に関する電話でのやり取りや、本番撮影時のアドバイスを行いました。その後、会田さんから評価をいただき、『初めての方でもサポートがあれば撮影できることを撮影部・照明部にも知ってもらいたい』『体験会を開催する場合は協力してほしい』というお話をいただきました。これを受けて、弊社とスタジオで検討し、このイベントの開催が実現しました。VPについて、知識の有無にかかわらず『経験がないためハードルが高い』と感じている撮影部の方々が多いので、実際には『そこまでハードルが高くない』ということを知っていただくための体験会という形にしました。会田さんが撮影された作品の素材と、弊社のインカメラVFXのデモリール用CGアセットを使用して、参加者の方々に自由に撮影を体験していただき、必要に応じて我々がサポートする形式です。未経験者も経験者も参加されるため、参加者同士の交流も期待しています」
実際にVPを撮影で使用した撮影監督の会田氏はその魅力について語る。
「2024年6月に映画でVPを初めて使用しました。店内のシーンと車内のシーンを撮影しましたが、特に車の走行シーンはVPの代表的な使用例です。酒井さんとの打ち合わせを通じて、サポートがあれば比較的容易に撮影できると感じました。従来の牽引撮影では、道路交通法の制約が厳しくなってきているうえ、役者さんへの負担が大きいことが課題でした。NGが出た場合、車を再度周回させる必要があり、時間がかかる割に効果が限定的でした。VPでは役者さんが何度でも演技に挑戦でき、最終的な仕上がりも非常に良好です。これは単なる妥協策ではなく、様々なクリエイティブな要素を付加できる利点があります。映画はもともと現実を忠実に再現することだけを目指しているわけではないため、牽引撮影で現実味が強くなりすぎる場合でも、VPなら作品の世界観に自然に溶け込ませることができます。今後はVPを積極的に選択すべき場面が増えてくるでしょう。今回の体験会では基礎的な内容も含まれていますが、失敗も含めて経験していただき、予期せぬことが起きても対応できるようになってほしいと思います。私たちは教える立場というよりも、共に学び合う姿勢で臨みたいと考えています」
照明技師の宗氏はVPの現状について次のように話した。
「VPは世界的には一般的になってきていますが、日本はやや遅れをとっています。VPの利点は、これまでグリーンバックで撮影していた場面をその場で確認できることです。スタッフにとっても役者さんにとっても作業がしやすく、日本映画でのさらなる普及を期待しています」
日本の映画制作における課題とVPの可能性について
酒井氏「予算やスケジュールの制約のなかで『撮影が難しい場合はグリーンバックで撮影して後から合成しよう』という選択をする際も、VFXの都合上『カメラは動かさないでほしい』と要請されることが頻繁にあります。その結果、撮影部の方々が望むような創造的な撮影ができなくなってしまいます。VPのような形で、カメラワークを付けられる撮影の機会が増えれば、日本国内の作品の質がさらに向上すると考えています」
今回のイベントへの監督の参加状況について聞かれると――
酒井氏「CMディレクターが何人か参加される予定です。映画・ドラマのディレクターの方々にも声をかけましたが、残念ながら都合がつかず参加いただけない状況でした。ただし、CMのディレクターは参加される予定です。また、プロデューサーの方々は比較的幅広く参加されます」
会田氏「VPの採用判断は、やはりプロデューサーが重要な役割を果たします。海外の成功例を見ると、チームで技術、映像表現、予算について学び、映画制作を総合的に理解したうえで、予算と時間の配分を判断しています。日本では、そうした基盤が十分に整っていないと感じてきました。しかし最近になって、急速に見直される方向に向かっています。世界に向けて発信していくために、日本の映像も進歩の波に乗り始めたところです。特にVPへの関心は非常に高まっています。ただし、3D技術のように日本では発展が途中で止まってしまうことがあります。VPに関しては、この発展を途切れさせないためにも、様々な活用方法があることを知っていただきたいと考えています」
宗氏「私たちスタッフとしても、VPについて知識があれば、監督やプロデューサーに提案することができます。企画や脚本の段階から、VPの活用を提案することも可能です」
酒井氏「VPに限った話ではありませんが、プロデューサーの多くはカメラの真横ではなく、離れた位置から全体を見ていることが多いです。実際にVPでカメラ周りでどのような作業が行われているのかを知っていただくことも、VPという手法を選択する際の判断材料になると考えています」
VPにあたり、Imagica EMSのサポート体制について――
スタジオ後方にはUnreal EngineベースのVPプラットフォームDisguiseのオペレーションに加え、リアルタイムでカラーマネジメントを行うブースが設けられていた。VPカラークリエイターが撮影監督と連携して、撮影時の色を決めていく。
酒井氏「VPの特徴として、LEDの色合いが合わないという課題が指摘されてきました。これは世界的にも、カラリストが事前に色を無理に合わせている状況でした。弊社とFACTOY安善スタジオとの連携により、カラーマネジメントである程度色を揃え、準備時間を大幅に短縮するサービスを開発しています。スタジオ費用は国内でもネックになることが多いため、準備期間を削減できればコスト面でもプラスの効果が期待できます。さらに、この体験会ではスタジオのCGアセットを作成しました。CGを作成してスタジオアセット上に配置することで実際の撮影のシミュレーションができるためのデモも行います。必ずしもスタジオに入らなくてもテストが可能であることを体験していただけます」
会田氏「CM含めて、劇場公開される日本映画でもVPの使用は急激に増えています」
宗氏「特に車の撮影でVPの使用が多く、カメラワークやマッチングの面でも進化が見られます」
酒井氏「床の接地面は必ず合成かセット設置が必要です。車の走行シーンの場合、エクステンションCGで後から追加する必要があるため、ローアングルの走りのカットがない場合は『VPかもしれない』と推測できます。また、実際にVP撮影を経験してみると、車の形状の複雑さが際立ちます。その経験を経て、車の映り込みがリアルなものは『VPではないか』と感じるようになりました」
最後に、スタジオ側の展望について藤森氏は次のように語った。
藤森氏「VPの普及を積極的に進めていきたいという強い思いがあります。以前運営していた横浜スーパー・ファクトリーを2年前に閉鎖し、2024年1月に新しいスタジオとしてFACTORY安善スタジオを立ち上げました。前のスタジオの終盤でVPに対応を始め、主にテレビCMで使用され、それなりの手応えがありました。広告制作には繁忙期と閑散期があるため、空き時間には映画やドラマの制作にも積極的に活用していただきたいと考えています」