Insta360 ONE RS 1インチ360度版(以下、1インチ360度版)は、ライカ社と共同開発されたInsta360の360度カメラだ。 2つの1インチ(1.0型)大型イメージセンサーを搭載し、動画の場合、最大6K/30fps、静止画は21MPの360度撮影のスペックを誇る。1インチ360度レンズは、鮮明な描写と低照度下における高画質な360度撮影を実現するために開発された。1インチ360度版では、このレンズに加えて、新たに設計された縦型バッテリーベースとマウントブラケットを組み合わせて使用する。この記事では、注目の撮影性能や使い勝手にフォーカスして、最速レビューをお届けする。
テスト・文●染瀬直人
写真家、映像作家、360度VRコンテンツ・クリエイター。日本大学芸術学部写真学科卒。2014年にソニーイメージングギャラリー銀座にて、作品展「TOKYO VIRTUAL REALITY」を開催。360度作品や、シネマグラフ、タイムラプス、ギガピクセルイメージ作品を発表。VR未来塾を主宰し、360度動画の制作ワークショップなどを開催。Kolor GoPro社認定エキスパート・Autopano Video Pro公認トレーナー。You Tube Space Tokyo 360度VR動画インストラクター。
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概要
Insta ONE Rのシリーズは、中国・深圳のカメラメーカーArashi Vision(Insta360)が手掛ける拡張型・組み立て式のアクションカメラだ。レンズモジュール、コア、バッテリー、マウントブラケットなどの各パーツで構成されており、レンズやアクセサリーの組み合わせを変更できるところに特徴がある。レンズについては、初代ONE Rの発売当初は4K広角レンズ、360度レンズ、少し遅れてライカ社と共同開発した5.3K1インチ広角レンズの3種類がラインナップされていた。それらのレンズを付け替えることで、広角と360度の撮影が可能になるというユニークなシステムだ。その後、ONE Rの後継モデルとして、Insta360 ONE RSが、今年3月に発売。その際には、1/2インチ4,800万画素のイメージセンサーを搭載した4Kブーストレンズが新たに登場し、広角の動画や静止画撮影の画質が向上した。RSのコアにおいては、カメラ内手ブレ補正やオーディオ性能も改善。バッテリーは1445mAhと大容量になって撮影時間が延長され、マウントブラケットも容易に着脱ができるようになり、使い勝手が良くなった。
今回の1インチ360度版は、コンパクトでどこにでも気軽に持ち運べるというコンセプトを継承しながら、コアな360度カメラ愛好家やプロフェッショナルなフォトグラファーやビデオグラファー、制作プロダクションなどがターゲットに想定されている。高価なカメラであっても、より高品質なコンテンツを撮影したという画質にこだわるプレミアムユーザーのニーズに応えるモデルとして、商品企画がおこなわれたのだ。1インチ360度版は、1インチイメージセンサーを搭載したレンズモジュール、ONE RS同様のRSコア、新設計の1350mAhの縦型バッテリーベースと縦型マウントブラケットから構成されている。
▲Insta360 ONE RS 1インチ360度版のセットを開封
▲Insta360 ONE RS 1インチ360度版(右)とInsta360 ONE RSと旧360度レンズ(左)
特徴について
Insta ONE RS 1インチ360度版は、アクションカメラとしての機能性とワンショットで360度をキャプチャーできるという基本テーマのもと、様々なアップデートが為されているが、以下、ポイントを挙げてみた。
・ライカ社と共同開発された光学系
・2眼1インチ(1.0型)のCMOSイメージセンサー
・6K/30fps 360度動画性能
・21MP 静止画性能
・低照度下での撮影性能の向上
・FlowState手ブレ補正
・360度水平維持
・編集ツールの充実
・リフレームの優位性
・交換レンズ等の拡張性(アップグレードが可能、下位互換性)
・IPX3の耐水性
ハードウェアについて
1インチ360度版は、サイズが53.2×49.5×129.3mm、重量が239g。2020年10月に発売になったInsta360 ONE X2(サイズ46.2×11.3×29.8mm、重さ149g)と比較すると、ひと回り大きく、程よく重みがある。ボデイの表面に斜め縞模様のテクスチャが施されて握った感触も良く、コンパクトながら中身が詰まった重厚感を感じるのだ。」
レンズは、絞りがF2.2。焦点距離は6.52mm。
レンズ間の距離は、ONE X2やONE Rシリーズの旧360度レンズよりは離れており、ステッチの安全距離は50cmなので、これ以上、カメラに近づいて撮影することは避けたほうが無難だ。
▲1インチ360度版の筐体
▲自撮り棒、またはスタンド、マウントを用いて設置することもあるから、手持ちでの撮影の頻度は人によると思うが、握った際のフィーリングはとても良い。
▲1インチ360度版のレンズモジュール
▲1インチ360度版のレンズモジュール(右)と旧360度レンズ(左)
コア部分はRやRS同様に、スマホに接続せずとも、カラータッチスクリーンからプレビュー、カメラコントロール、設定、再生が可能だ。タッチスクリーンのFOVプレビュー機能では、リトルプラネットや広角、フッシュアイの視野角に変更してプレビューができ、クイックメニューからはよく使用するプリセットを呼び出して、素早く撮影に対応できるので便利だ。コア部分にはマイクが3つ、スピーカーが1つ配置されている。縦型マウントブラケットの外側から、電源ボタンとシャッターが押せるようになっており、フィーリングは良好だ。
マウントブラケットに装着してロックした場合、IPX3耐水の仕様となり、小雨程度なら保護される。但し、水中では仕様できず、雨天時の激しいスポーツの撮影などには向かない。バッテリーの容量は、1350mAh。6K30fpsにおいての連続撮影時の駆動時間は1時間程度とされており、筆者は猛暑の中、撮影を敢行していたが、試用した限り、動作は安定していた。
新しい縦型バッテリーベースは、レンズに電力を供給する容量が増えており、新しい縦型マウントブラケットに合わせて設計されている。ONE Rの従来の縦型バッテリーベースとは互換性がないので注意したい。
最新にアップデートされたモバイルデバイス用のInsta360アプリは、1インチ360度版に対応しており、カメラコントロール、設定、閲覧、再生、編集をおこなうことができる。
▲1インチ360度版の各パーツ。左から、RSコア、縦型バッテリー、1インチ360度版レンズモジュール、縦型マウントブラケット。
▲RSコアの部分に、microSDカードを装填する。推奨のスペックは、UHS-Iバスインターフェース、動画スピードクラスV30のみサポート、exFATフォーマット、最大容量は1TB。
▲縦型マウントブラケットの底部を開けるとバッテリーのUSB Type-Cケーブルの端子が露出し、充電ができる。底面には、1/4三脚ネジ穴が設けられている。
▲タッチスクリーンで各種設定をおこなうことができる
▲タッチスクリーンの各種表示画面
▲モバイルデバイスのInsta360アプリのカメラコントロールの画面
360度撮影性能について
1インチ360度版の動画解像度は、5888×2944/30fps、6144×3072/25・24fps、 3840×1920/25・24fps、3040×1520/50fpsとなっており、ONE X2やONE RSの360度撮影における最大解像度の5.7Kを上回っている。最大動画ビットレートは、120Mbps。以下、検証動画と静止画を確認してほしい。
シャープな解像感も去ることながら、1インチ360度版は直射日光を受けてのフレアも美しく感じられ、レンズの素性の良さが実感できた。低照度下におけるテストでも、クリアかつシャドウ部のディテールの再現性が優れていた。
Insta360は予てから、手ブレ補正に定評があるが、今回もFlowState手ブレ補正の安定化は強力であった。水平維持テストについては、カメラを自撮り棒に設置してぐるぐると回転させてもしっかりと水平がキープされる技術には驚かされる。手ブレ補正や水平維持の性能については、RSコアに依存するものと思われる。
静止画の解像度は、ONE X2やONE RSの1800万画素を超えて、6528×3264 (2:1)、2100万画素である。PureShotを有効にすることで、ノイズを低減、細部のデティールを保ちながら、ダイナミックレンジが拡張される。1インチ360度版では、自動露出ブラケットを使用して3枚のPureShotの写真を組み合わせ、ハイライトの白飛びをさらに抑えて、ディテールを再現するPureShot HDRを実装している。インタスタグラム映えするような彩度の高い絵造りがInsta360の持ち味だが、DNGファイルを利用すれば好みの色調に加減することが可能だ。Insta360 ONE-X2などに搭載されているナイトショットのモードは、試用時のファームウェアには見当たらなかった。
▲ONE RS 1インチ360度版。6K/30fps
ONE RS 1インチ360度版(低照度性能比較)6K/30fps
Insta360 ONE RS 1インチ360度版 FlowState手ブレ補正。16:9 HDにリフレームして、書き出し。
▲ONE RS 1インチ360度版(タイムラプステスト)
▲ONE RS 1インチ360度版 PureShot写真モード
▲ONE RS 1インチ360度版 PureShot HDR写真モード
まとめ
360度撮影は、以前はパノラマ、昨今ではVRとして認識され、観光や不動産のバーチャルツアーなどはもとより、エンタメの領域まで広く利用されるようになった。コンシューマー向けの一体型VRカメラでは、2019年5月に発売されたリコーのTHETA Z1が1インチ(1.0型)のイメージセンサーを2眼3回屈曲魚眼光学系として実装し、特に静止画の描画性能には評価が高い。今回、動画にも強いInsta360から、1インチ360度版が登場したことで、コンシューマー分野における360度撮影は新たなフェーズを迎えたと言えるだろう。元データの素性が良ければ、リフレームとして2Dの動画に切り出した映像の品質も期待できる。スマートフォンのInsta360アプリのスナップウィザードを利用すると、スワイプやスマホの回転により、直感的にリフレームが可能だ。
編集ラボ(Shot Lab)では、AI自動編集でハイライトシーンを抽出した簡易的な編集を試すことができる。じっくりと編集したい場合は、PCアプリのInsta360 Studio 2022やAdobe Premiere Pro プラグインを利用することになる。
▲モバイルデバイス用のInsta360 アプリのアルバムや編集の画面
▲PCアプリInsta360 Studio 2022のインターフェース
▲Adobe Premiere Proプラグインを利用すれば、シームレスにポスプロ編集へ取り掛かることができる。
Insta 360 ONE RS 1インチ360度版は、販売価格が118,800円(税込)。Insta360の公式ストアや全国の量販店(一部店舗を除く)と各社オンラインショップ、アマゾン、楽天などより購入可能だ。1インチ360度レンズは、ONE RとONE RSのいずれのコアにも対応する。ONE RとONE RSのユーザーも、従来のコアを用いて、新しいレンズにアップグレードさせることが可能だ。(但し、必ず1インチ360度レンズ用のONE RS縦型バッテリーベースと1インチ360度レンズ用のONE RSマウントブラケットを使用して、カメラをセットする必要がある。)ONE RとONE RSユーザー向けに、コアを除いた、1インチ360度レンズ、バッテリー、マウントブラケットがセットになったアップグレードバンドルも、96,600円(税込)で販売される予定だ。
◆製品情報
https://www.insta360.com/jp/product/insta360-oners/1inch-360