学園祭といえば、サークルの出し物だったりゲストのトークやライブが開催されたり、模擬店が出るなど、日頃の勉学はちょっと一休みして楽しみましょうというようなイメージが強いが、テレビ業界を目指す若者が集まる東放学園専門学校の学園祭はそれとは一味違う。学園祭の出し物そのものをテレビ番組のように制作して、それをネット配信するのが「電波祭」。まさに遊びつつももそれが「実習」であり、それが本番になっているのだ。11月4日(土)、5日(日)、それぞれ4時間にわたってYouTubeでライブ配信された模様を、機材目線でレポートしてみる。

1日目の配信

 

2日目の配信

 

某局の24時間テレビのように、5時間のなかにバラエティあり、トークあり、音楽番組ありといった構成で、ぶっつづけでネット配信を行う。

1.バラエティ番組を生放送

学校内にスタジオはいくつかあるが、太田プロの若手芸人を招いて開催されたバラエティ番組「大喜利倶楽部」は、教室のひとつにセットを組んでそこから配信。ディレクター、カメラマン、照明、音声など、すべて学生が務める。

カメラは4台で、進行に合わせて、抜く画角を決めていく。カメラはソニーのXDCAM PMW-400とPXW-X500を光ファイバーカメラアダプターシステムHXCU-FB70/CA-FB70でシステムカメラ化していた。

 

スイッチングやコントロールなどのベースは、この場所には作れないので、玄関を入ってすぐのロビーにテーブルなどを置いて設置。教室からここまでケーブルを引いている。オペレートしているのは2年生で、後ろで見学しているのは1年生。専門学校は2年なので、来年は彼らがオペレートしなければならない。こうした本番実習は貴重な機会になる。

スイッチャーとディレクター。台本を見ながらカメラマンやフロアディレクターに指示を出す。

ソニーの各カメラをコントロール。

タイムキーパー。ネット放送とは言え、時間は厳密に管理する。

テロップはパワーポイントでPCから出力。

すぐとなりのデスクで音響スタッフが音を調整。

 

2.音楽番組を中継する

次に向かったのが学内にあるメインのスタジオ。翌日に行われる「大比良瑞希×東放学園専門学校SPECIAL LIVE」のリハーサルをが行われていた。要はミュージックステーションのような音楽番組をマルチカメラでスイッチングしながら生中継しようという試みだ。

スタジオにはスタジオカメラ ソニーHDC-1000やポータブルカメラHDC-1500、スタビライザーRonin RS2に載せられた小型カメラ キヤノンXA75など、局の音楽ライブ番組さながらに用意されており、照明は照明クリエイティブ科の学生が曲に合わせてプログラミングするという本格的なステージ。

コンパクトなスタジオだがクレーンまで用意されている。ペデスタルにのったスタジオカメラは前後左右の動きもかなり大胆にある様子。

今年から台本はiPadで表示することに。曲数が多くページ数が増えるだけでなく、カメラワークを検討していくうちに変更が加わるために、今回はじめてiPadが導入された。

iPadを見ながらカメラマンがオペレート。基本的に曲(歌詞)に合わせたスイッチング(使用カメラ)は決まっており、カメラワークは大体は決められているが、細かいところはカメラマンに委ねているという。カメラワークがどうなったかは、本番2日目2:31:50からを見てみてほしい。ちなみにモニターはブラウン管(トリニトロン)でここだけは懐かしい雰囲気だった。

ジンバルで自由に動きながら撮影するカメラも用意。

スタジオサブ(副調整室)はこちら

左がディレクター、右がスイッチャー。インカムでカメラマンに指示を出しながらリハーサル中。

一番右奥にカメラコントロールのパネルが。

 

 

3.80年代の4:3のSDと最新の4Kを比較できるスタジオ

これは学生からの発案だったとのことだが、80年代を思わせるような歌謡番組を学内にあるSDカメラで撮影。すぐそのあとに、16:9で最新の4Kカメラで撮影してみるという試みも。二十歳前後の学生にとって、SD解像度で4:3のアスペクトは生まれる前のテレビ番組。ある学生に話をきくと、サカナクションの「忘れられないの」というMV(2019年)を見て、「これはエモい!」となったのだそうで、あの映像の甘さやノイズなどが学校にある機材で再現できるとあって、この企画になったのだそうだ。

2000年くらいのソニーのシステムカメラBVP-E10WSで撮影。ただしセンサーは16:9だったので、4:3にカット。入力はマルチフォーマット対応したローランドのビデオスイッチャーに入れて処理した。

1曲終わると、その余韻が冷めやらぬうちにセットチェンジ。カメラをソニーのSDカメラから、ブラック・マジックデザインのBlackmagic URSA Broadcast G2に。

4KのスイッチングはブラックマジックデザインATEM Mini Extremeで。

ちなみにステージ背後のLEDウォールも学校に導入したもので、コンテンツは学生が制作。学生は物覚えが早く、一度セッティングを覚えると、次から自分たちでLEDのセッティングができるようになるという。

4Kで撮影された映像。

一方、SDで撮影された映像はこちら。

 

4. 学生企画でYouTubeライブ配信も

基本的にはテレビの業界を目指す学生が集う学校ではあるが、現在はテレビの制作スタッフがYouTube番組に多く携わっている。学生のなかにも、YouTubeなどウェブで活躍したいという思うタイプも多いそうで、映像技術をきちんと学んでから、YouTubeをやりたいと思っているのだそうだ。

教室のなかを自宅の部屋のようにしてYouTube番組をライブ配信。

機材はYouTube番組ということで、カメラはソニーのPMW-100。これが学内に30台ほどあるという。

スイッチャーはもちろんATEM。マルチ画面のプレビューできるのは便利。

モバイル伝送装置Smart-telecaster Zao-Sを用いて学内から簡易生中継を実施。教職員企画で「フランクフルト」を販売している様子を生中継した。

 

5. 配信ルーム

連続5時間の配信を行なっているのはこちら。学生が約1時間ごとに交替して担当する。できるだけ多くの学生に体験させようという意図もあるのだろう。

配信のマシンがこちら。eスポーツ中継などはvMixを使うことが多いので、現場に出ても困らないようにとvMixも教えている。

 

6.ラジオ番組にもカメラを入れて

中継番組は何本かのラジオ放送を挟むかたちで行われた。学内にはラジオ用のブースがあり、そこにカメラを入れてYouTubeで配信。ラジオ番組の配信オペレートは放送音響科が担当。

 

7.配信のフィナーレを飾るBlackmagicCameraで制作したメイキング

今年はじめての取り組みとして、2日間の学園祭のメイキングを制作し、番組内でエンディングとして放送した。素材の撮影に使用したのはブラックマジックデザインから提供されているカメラアプリBlackmagic Camera。約20人ほどの学生が撮影時間を分担し、DaVinciResolveで編集した。

メイキングの映像を抜粋
各学生が自分のスマホにアプリをインストールし、メイキング素材の撮影を行なった。
編集に使用したのはDaVinci Resolve。アプリを通じてリアルタイムで素材が送られてくるため、編集も当番制にして複数人で映像をつないでいった。

最終的な編集を担当した放送技術科2年の山田さんはこれほどの人数で編集をしたことがなかったので苦労する点もあったそう。編集していて足りない素材は随時、カメラマンと情報を共有して撮影を進めてもらった。

取材に協力してくれた東放学園専門学校 放送技術科主任の 松本侑樹さん、放送技術科2年の大塚ナデアさん、安間あおいさん、山田伊吹さん(左から順に)。

撮影は準備期間から始まり放送当日まで。本番30分前に編集が終わり、書き出し作業が放送直前までかかりハラハラしたという。メイキングは全体で10分ほどの長さで、学生たちの思い出がぎゅっと凝縮された作品となった。

 

東放学園専門学校 放送技術科
テレビ・ラジオの番組制作スタッフを育成する東放学園専門学校。“エンターテインメントの現場から生まれた学校” ならではの教育ノウハウと業界との太いパイプを武器に、多くの卒業生を輩出。今回取材した放送技術科は、テレビカメラマンや映像エディターなど “映像技術スタッフ” を育成。放送局と同等の最新機材を使った実習を数多く実施し、カメラワークや編集技術、映像センスを磨いている。

東放学園専門学校では放送技術科以外に、ディレクターやマネージャーなどを輩出する放送芸術科、コンサート、演劇、テレビなどの照明スタッフを輩出する照明クリエイティブ科、大道具、小道具、衣装などのスタッフを輩出するテレビ美術科、ラジオやテレビ、アニメなどの音響技術者を輩出する放送音響科がある。

https://www.tohogakuen.ac.jp/toho/technique/