VIDEO SALON9月号「ライブ配信特集」のスピンオフ企画として、「Wirecast対談」をお届けしたいと思います。特集では、加藤優真さんがアドビCC道場の事例として、Wirecastを紹介していだきまして(WEB転載記事はこちら)。泉 悠斗さん(神成株式会社AVC事業部)には、「ライブ配信映像強化計画」として、NDI&PTZカメラ入門というウェビナーをやっていただきました(告知ページはこちら)。泉さん、加藤さんともにふだんから、業務ではWirecastを使われているということで、今日は、おふたりの対談を「どうしても僕たちはWirecastを使っているのか?」と題して、お届けしたいと思います。(対談はZoomで行われました。司会進行は編集部 一柳)

 

高校の放送部のこと

ーーよろしくお願いします。

加藤 よろしくお願いします。

ーーおふたりは初めましてという関係ではないんですよね? 実は高校放送部出身という共通項があって、しかもNHK杯(全国高校放送コンテスト)の常連高校ということで、すこし時代はずれているのですが、その関係もあってお知り合いということで。まずは、そのあたりから話をしたいのですが。

 え、そこからですか?(笑)

ーーそうですよ。最初に泉さんがわれわれビデオサロンに関わったのも放送部の活動ですよね。富山国際大学附属高校出身で、NHK杯に合わせてメーカーさんとか我々メディアにも声をかけて機材展を始めたという首謀者ですけど(笑)、NHK杯はドラマ部門とかアナウンス部門のイメージが強くて、機材情報については直接は関係がないかと思ったのですが。

 NHK杯には校内放送研究発表というのがあって、番組制作とは別に研究して発表するということをやるんですよ。私が最初に出たときはちょうどブラックマジックデザインがATEMシリーズを出したときで、これが学校の現場に入ると変わるんじゃないかというような発表をしたりしましたね。大体、放送部の男子は機材オタクが多くて、他の高校の代表ともカメラの話とかPCのスペックの話になったりして。全国から濃いオタクが集まる感じですね。

加藤優真さん(左)と泉 悠斗さん(右)

ーーNHK杯は加藤さんも出たことあるんですか?

加藤 はい。私がいた高校は機材周りの発表はやってなかったんですけど、番組制作では、ドキュメンタリー、ドラマだったりをやっていましたね。

ーーちなみにどちらですか?

加藤 僕は放送部が全国大会の常連校という理由で、千葉県立検見川高等学校を選びました。顧問の先生が熱心で経験値も高い方だったので。

ーー放送部優先で高校を選ぶという(笑)。

さて、さっそく機材の話をしていきたいのですが、泉さんの時代の放送部の機材というのは?

 今から10年近く前で、高校1年のころにちょうど作品の提出がHDになったタイミングです。NHK杯に先駆けて高校総合文化祭の提出がHDになって、富山県で開催されるということもあって、積極的にHD化を進めなければいけなかった。そのタイミングでちょうどATEMのスイッチャーが発表されて、これしかない! ということで、それを買って運用し始めました。地方のビデオ業者よりも早く入れてましたね。そのころの写真があります。

ーー結構本格的ですね。これってPROTECHのリグですか? 

 いやそれは買えないから、生徒が自作してるんです。うちの高校はないものは作るというのがモットーで、溶接して作っています。顧問の先生が電気溶接の道具を買ってきて(笑)。当時はHDVなんで、アナログコンポーネント信号しか出ない。だからアナログからSDIへのコンバーターがここについているという(笑)。

ーーSDIにして光に変換して送っていた。

 タリーも光るんですよ。光を受信してテールランプが光るというクルマ用の部品を応用してタリーにしていました。

 

学校での配信は?

ーー当時は配信はやっていたんですか?

 いや収録ですね。マルチカメラで収録して、取り込んで編集するという。

ーー今は配信しているんですかね?

加藤 私の高校でも配信までは求められていなくて、マルチカメラ収録して編集していましたね。そのあたりは今も変わっていないかもしれません。

 高校放送部のライブ配信は、個人情報の観点からやっていないところが多いんですが、なぜか中学校だとやっているところがあるんですよね。小学校、中学校はタブレットが配られていて、クローズドな環境で配信するシステムがあって、ライブ配信しているということは聞いたことがあります。

ーーということは、これから学校でライブ配信されることは増えていきそうですね。

 私の会社(神成株式会社)ではスイッチャーの販売をしているんですが、最近学校の先生が買っていくことが多いんです。8入力のATEM Mini Extremeとか買っていくんですよ。マルチカムで卒業式とかを配信するのに、Exreamくらいの入力数がないとと言うんですよ。

ーー泉さんはいわゆるソフトウェアの配信ツールというのはいつくらいから使い始めたんですか?

 OBS歴はそんなに長くないです。Wirecastのほうはかなり古いですね。Ustream Producerというのがあって、それはWirecastをUstream用にカスタマイズしたもので、私はそこから使っていました。

ーーそこからのWirecastなんですね。

 7、8年ぐらい前は、配信をやるとなったら、みんなこぞってWirecastを使っていました。そもそもハードウェアのLiveshellか、FMLE、Wirecastしか選択肢がなかった。

ーー加藤さんはどのタイミングでWirecastを使うようになったんですか?

加藤 もともとアドビのCC道場は私が入る前から、Wirecastを使っていたんですね。大学生になったころだから3年ちょっと前ですかね。そこで、ああこういうソフトでやっているんだなあということを知って、そこが出会いですね。

 

長時間配信での安定度と視認性の良さ

ーー泉さんはあらゆるツールを比較検討していると思いますが、Wirecastは何がどう違うんですか?

 2、3年前からOBS STUDIOも選択肢として出てきて、いったいどれが安定して配信できるんだろうということを検証したんです。WirecastもOBSともに4Kを扱えるんだけど、実際はどれくらい配信できるんろうと。テスト検証で長時間回したときに、OBSは先に落ちて、Wirecastが配信できていた。安定ということではWirecastが有利な気がしています。

ーー長時間というのは?

 3日くらい回しました。OBSは1日いかないくらいで落ちましたね。Wirecastはやはり長年業務で使われている意味はあるなと思いました。

ーー加藤さんは比較検討しましたか?

加藤 はい。OBS、V-Mixを現場で触ったことがあるのですが、それぞれ操作感覚が違うなあということを感じました。OBSもV-Mixも仕込みの時間がかかるという印象です。それぞれしっかり仕込めば本番対応できるのですけど、Wirecastはもちろん仕込みもできるんだけど、パーツ単位で切り替えて画面を構成していくといことをその場でやりやすい。たとえばパソコンの画面と人の組み合わせとか、人の片方だけを消したいとか、サイズを変えたいという要望が配信中におきてきて、それに対応するのがライブ配信の面白さだと思うのですが、Wirecastはそういう作業がやりやすいんです。だから、臨機応変を活かそうとするとWirecastに落ち着くと思います。

ーー泉さんはいろいろなものを使われていますけど、Wirecastはどういうケースで使われますか?

 PCベースで配信するときは、基本的にWirecastですね。最近は現場にいかないでリモートで配信するということも多いのですが、そこでサクサク動くのがWirecastです。OBSはどうしても重いんです。

 業務ではTricasterによる配信が多いのですが、その概念としてME、つまりレイヤー構造があるんですが、Wirecastはその概念を踏襲しているのがいいなあと思います。どうしてもOBSは概念が違うので。

ーーTricasterも使っている人には分かりやすい?

 Tricasterだけでなく、ハードウェアのスイッチャーを使っている人には分かりやすいんですよね。

ーーWirecastはベテランユーザー、ライブ配信業者が使っているというイメージですが、これから使おうとういう人にも分かりやすいですか? つまり今や多くの人はOBSから入ると思うんですが、そこからWirecastはハードルは高いということはないですか?

加藤 CC道場の場合、リモートになる前は学生スタッフがかわるがわる担当していて、スイッチング操作なども映像制作の学生じゃなくて美大系の学生がやっていたんです。Wirecastは視覚的に設定が見えるので、映像系の勉強してきた人でなくても操作しやすいというのはあります。少し教えればすぐに使えるようになっていました。映像制作のプロじゃなくても使えるということころがありますね。

 そうなんですよね。OBSだとレイヤーを組んでいっても中身が見えなくなっちゃうんですよね。中身は名前では分かるけどビジュアルで分からない。NDIで入れてもそれが来ているのかどうかわからない。プレビューに入れれば分かるけど。

加藤 一覧はできないですよね。

 Wirecastは横並びで見られるスタイルがいいです。

加藤 そのとおりだと思います。大学などは行事、たとえば学祭もライブ配信する場合、お金をかけて業者を呼んで来ることが多いのですが、それを学生でできるというのはいいと思います。業者にかけていたお金を別のところで使える。そもそもライブ配信は自分達でできたほうが楽しいですし。

 まさしくそうで、私の会社は学祭の仕事をしてるんですが、自分たちでやればいいのにと思うんですよ。カメラは自分たちでやりますよという感じだし、スイッチングも切るだけなら自分たちでできるはず。学生はやりたいイメージはあるんだから、自分たちでやったほういいと思います。

加藤 中途半端な予算なので、カメラマンを何人も呼べないんですよね。カメラの台数に対して人が足りないから、学生がやることになる。それなら全部学生がやればいいのにと思う。

 カメラはあるんだけど、スイッチャー、エンコーダーなど配信の機材がないんですよね。

加藤 配信だとネットワークの知識も必要になってくるので、そこはフォローが必要かもしれないけど、スイッチャーは繋げば画が出るのでそのあたりはハードルは低いですね。

ーースイッチャーは安くなってきましたが、PCベースで配信できればもっと始めやすいですね。

では、おたがいのWirecastでのプロジェクト画面を見せていただけますでしょうか?

PTZカメラのコントローラーとして秀逸

 うちで配信するときの基本的なプロジェクトです。対談を配信したいということが多いのでNDIのPTZカメラで入れています。Wireastの場合は、PTZカメラのコントローラーがデフォルトで出せるというのがいいです。

 画角ごとにプリセットしたものをカメラの1ソースのように扱える。たとえばズームで引いたカメラが1カメ、寄りのカメラが2カメといったように。このコントローラーがよくできていて、単純に配信じゃなくてコントローラーとしてもWirecastは便利に使えます。このコントロール自体はNDIに対応していなくても、各プロトコルに対応しているので、大抵のPTZカメラは使えます。

加藤 各ソースのズーム位置とかまで含めてプリセットできるのはポイント高いですね。一台のカメラで何台分もの働きをさせられる。

 そう、シャッターとかアイリスも一緒にプリセットできるので。

加藤 かねてからWirecastで使ってみたいと思っている機能です。ただPTZカメラをもっていないので。実際にみてみるといいですね。

 このPTZカメラコントローラーを使うだけでも意味があります。

ーー他にポイントになるところは?

 レイヤーごとに色分けしてわかりやすくしています。それから配信設定でエンコードのプリセットを組んでいくつも登録できるので、そこはいいところかなという感じがします。たとえばVimeoだとこのエンコード、YouTubeだとこれ、みたいな感じで追い込んで作っておくことができます。

そもそもプリセット自体がびっくりするくらい多い。しかもツボを押さえた設定がある。たとえば最近増えている配信としてはYouTubeの1440という選択肢も結構数多くプリセットされています。このあたりに敏感というか、他社よりも先んじて採用しているのはいいですね。

ーー1440がいいというのは?

 YouTubeの場合、フルHDで配信すると、720の画質に落ちてしまうことが多いんです。1440で配信すると、ちょうどフルHDくらに落ちる。ということで、裏技として私の会社では1440で配信することが増えていますね。

 あとクラウドサーバーを利用して配信することも多い。そこに対してのプリセットも組んで配信することができます。

 それから、プレビューの段階で音のモニタリングできるのがいいです。どれくらいのボリュームかを確認できます。もちろん最終的にどれくらいかのボリュームかも確認できますし。

 

Zoomでリモート出演してクロマキー合成

ーーでは次は加藤さんのほうの画面です。

加藤 こちらは9月の配信イベント、Adobe XD Trail 部屋キャンプ https://xdtrail.com/workshop/ で使ったものです。先生役、生徒役ともにリモートなのですが、ふたりともクロマキーで抜いています。結構このクロマキー機能が操作しやすいんです。Zoomごしですが、それぞれ背後にグリーンバックを貼ってもらって、こちらでクロマキーで抜いています。このあたりの操作はわりと直感的にできるのがいいなと思います。

 

 上に重ねるレイヤーのテロップ、いわゆる蓋絵ですけど、たとえば5分後に再開しますというときでも簡単にテキストを打ち替えてテロップとして出せるのがいいです。もちろんパワーポイントを打ち替えるというのもありでしょうけど、同じソフト上でできてしまうのがいい。

 このショットレイヤーには焚き火の音を仕込んでおいて、後は消しておくと、休憩時間中は蓋絵と焚き火の音にできます。

 各ソースのなかに細かくまたソースが入っていくという概念を理解すれば分かりやすい。そこがハードウェアのスイッチャーにない概念だと思いますから。

 また、次の素材が準備できているかどうかがサムネイルでもわかるんですよね。まだ出してダメかどうか、判断がつく。それはポイント高いかなと思います。どうしてもソース数が多くなるので、マルチビューで出そうとすると、細かい画面になるので、現実的じゃないと思うんです。

ーーZoom経由の映像は直接読めるんですか?

加藤 Zoomをベースに、出演者それぞれが画面共有、メインの先生役がZoomで画面共有してもらって、生徒役とサポート役は別にTeamsのURLを発行して、そこで画面共有して、それを受け取ってNDIで入れています。TeamsだとNDIは純正で入れられるのですが、Zoomは公式にはNDI出力に対応していないので、VideoCom Zoom Brigde for NDIというアプリがあって、これを使うとNDI出力ができ、多くの出力を追加することができます。この人のカメラをピン留めしておくとか、ひとつのソースにひとつのBridgeを紐付けられる。

 

たとえば4つ立ち上げて、それぞれを別々にNDIで出力することができます。このアプリを見つけてから、Zoomのソースを配信に使うようになりました。それまではパソコンがZoom参加者の数だけ必要になっていた。個人でやるには現実的ではなかったんです。これならパソコンのリソースに余裕があれば追加していくことができます。

スイッチャーをまだ持っていない人に

ーーさて、最後にWirecastをどういう使ってもらうといいかということを、おひとりずつお願いできますか?

 スイッチャーを持っていない人はここから入るといいと思います。ライブ配信というとハードウェアのスイッチャーが必要だとどうしても思ってしまいがちですが、今はNDIのスマホ版もありますから、カメラやスイッチャーがなくても、スマホとWirecastを組み合わせて配信する。それこそ初心者でも使えます。Wirecastは今まではプロが使うソフトのイメージがありましたけど、これから始める人にこそ使ってもらいたいと思います。

加藤 泉さんと同意見ですね。初めて触る人でも使いやすいということ。しかもハードウェアほど制限がないということ。今、多くの人がいろんな配信を見ていて、こういうことをやりたいというイメージは持っていると思うんです。Wirecastはそれが簡単に実現できるソフトだと思います。なので、多少値は張るんですけど、初めてだけど良さげな配信をしたいという人にはわりと向いている。スマホだけの配信から脱却したい人には手頃なアプリケーションじゃないかと思っています。

ーー価格が高いのでつい業者用と思ってしまっていましたが、インターフェイスが分かりやすいということは初心者にこそ向いているということですね。それからハードウェアのスイッチャーを持っていない人ですか。9月号ではソフトウェアの配信ツールをメインに紹介しましたけど、NDIが普及するとそれがさらに加速しそうですね。今日はありがとうございました!

 

Telestream Wirecastの取り扱いは株式会社 アスク メディア&エンタープライズ事業部 (アスク・エムイー) https://www.ask-media.jp

Wirecastのオンライン購入は、Telestream認定オンラインストア「NEXXT.TOOLS」 https://nexxt.tools/products/detail/4

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