Report◉金川雄策
10分のWEBドキュメンタリーを個人名で発信するプラットフォーム、一言で表せばそれがYahoo! JAPAN CREATORS Program(以下、クリエイターズ)の「ショートフィルム」ジャンルだ。クリエイターズは、2018年11月に産声をあげた。世の中の才能と情熱を持ったクリエイターの制作活動をサポートし、Yahoo! JAPAN上での発信を通じてユーザーに「明日の行動」につながる良質なコンテンツを届けるプログラムとして発足した。
クリエイターズが誕生して以来、海外映画祭で約40のノミネートを記録したり、テレビ番組化や映画化する前例も出てきた。いま注目のプラットフォームと言える。
10分ドキュメンタリーを扱う「ショートフィルム」ジャンル以外にも、「トレンド/カルチャー」「モノ/ガジェット」など30秒〜2分程度の短尺5ジャンルも存在する。ドキュメンタリーコンテンツは現在114本(2020年7月31日現在)だが、短尺カテゴリーも合わせると約2万本以上の動画が公開されているので、ぜひサイトをチェックしてほしい。
企画を募集している
ショートフィルムジャンルは「パッションプロジェクトを応援するプラットフォーム」と自認していて、クリエイターが伝えたいという情熱の込もった企画を募集している。
これには、理由がある。私自身、かつて前職の新聞社でWEBドキュメンタリーに携わっていたときから、ドキュメンタリー動画を公表できる場所がほとんど存在しないと感じていた。テレビは非常に限られた狭い世界で作られており、応募する門戸すら開いていない。今もその状況は続いており、私たちがクリエイターにとってその受け皿になり、WEB上でドキュメンタリーを多くの人に届ける。ひいては、テレビとの橋渡しをする存在になりたいと願っている。
クリエイターズは、これまで多くのドキュメンタリー関係者と対話しながら、構想を練って目指す方向を探ってきた。その中でわかったことは、テレビ制作会社で働く優秀なディレクターたちさえも、自分の情熱をもった企画の発信場所に困っていることだ。今は、インディペンデントのクリエイターだけでなく、制作会社に所属するクリエイターもプラットフォーム上にアカウントを作り、個人の名前を前面に出して発信している。
クリエイターズでは、1本につき20〜100万円の制作費(交通費等経費込み)を支援している。制作される10分のコンテンツは「苗木」であるとよく例える。クリエイターがこの苗木を太い幹へ育てられるように、テレビ番組や映画へと発展させることを応援している。これまで企画書という「形になっていないもの」で判断されてきた業界の常識を、映像で判断する方向へ少しだけシフトしたいと思っている。シフトした先には、実力ある人たちが発信のチャンスを得られる、よりエキサイティングな未来があるに違いない。良い作品がユーザーの目に触れることで、ドキュメンタリーの人気にも再び火が付くはずだと思っている。
伝えたいことがあっても、取材費もなく伝える場所すらない現状を、私たちは大きく変えたい。社会に大きな影響を与える可能性もあるプラットフォームに成長させて、クリエイターのための「社会インフラ」になるよう活動している。
クリエイターをサポート
クリエイターズプログラムの大きな特徴は、次の3つだ。①発信に際して様々なサポートが受けられること、②個人名のアカウントからYahoo! JAPANの発信力を使って作品を発表できること、③社会課題解決を掲げていることだ
クリエイターズでは、多くのサポートを充実させてきた。キヤノンマーケティングジャパンのサポートを受け、クリエイターにキヤノンのシネマカメラを貸し出す機材提供や、Audio networkという17万曲を誇る音楽ライブラリーの無料利用。また、作品の視聴データをグラフ化してレポートとしてフィードバックしたり、各界の著名人を呼んで、編集や音効、配給、PRなどの勉強会も毎月実施を重ねてきたりしてきた。そして何よりも、第三者的なアドバイスがもらえるのが、このプログラムの大きな特徴だ。個人制作だと、企画・撮影・編集を一人で行う場合が多い。そうしたケースでは、冒頭に何を整理して伝えなければいけないのか、メッセージを効果的に伝えるためにどのような構成にしていけばよいのかなど、客観的な視点が絶対に必要になる。そこでヤフーのプロデューサー陣がアドバイスをして、よりクオリティの高い作品へと仕上げていく。
個人名とメッセージを出す
2つめの、個人名を出すことは、SNS全盛の時代に何も珍しいことではないが、私たちは、クリエイターが伝えたいメッセージは何か? に焦点をあてて製作を進めている。個人の想いをのせたドキュメンタリーは、日本でも最大規模のトラフィックを誇るプラットフォーム上で発信できる。テーマによっては、「ヤフートピックス」に取り上げられることもある。そうなれば、社会に大きなインパクトを及ぼす。
社会問題を解決する
最後に、ショートフィルムのミッションを紹介したい。私たちは「人々の心を動かして、社会課題を解決する」と掲げている。今年3月には、「DOCS for SDGs」という特別企画を立ち上げた。SDGs(持続可能な開発目標)をドキュメンタリーで知るというコンセプトで、大和証券グループにサポートいただいている。ヤフーだけでなく、他の企業とともにSDGsという大きな目標に向かってソーシャルチェンジを目指すことでお金も集まり、そのお金がクリエイターへ還元し、それをみたユーザーがよりよく社会を変えていく。大和証券グループは、クリエイターの制作意図に多大な理解を示してくださり、編集に対してノータッチだ。こうした支援が広がることで、日本のクリエイティブは劇的に変わっていくかもしれない。
この特別企画では、10分のドキュメンタリーを使った学校教育プログラムもセットで行われている。授業内で映像を見てもらい、アクティブ・ラーニングにつなげてもらう。心を動かされた生徒たちが、進んで社会課題を発見し、調べていく。そんな導線になれたら嬉しい。様々な施策を通じて、社会を動かし、未来を担うクリエイターとともに、世界のドキュメンタリーシーンで最も輝く場所にしていきたい。
まず見てほしい4作品
上のアドレスから「ショートフィルム」を選び、作品を見てほしい。どの作品も10分程度。冒頭から引き込まれ、あっという間に最後まで視聴し、そして次の作品も見たくなるはずだ。
Butterfly
最愛の妻、3人の子供、華々しいキャリア。でも夫には隠し続けてきた秘密があった。「俺は本当は女性なんだ。」40半ばで女性に生まれ変わったトランスジェンダーが得たものと失ったものとは? 深田志穂監督作品。
https://creators.yahoo.co.jp/fukadashiho/0200037266
Complete woman
世界で2億人の女性が受けている儀式がある。Female Genital Mutilationー女性器切除。シエラレオネで、FGMをなくそうと戦う二人の女性、ファタマタとアジャイを追った2作品。伊藤詩織監督。
https://creators.yahoo.co.jp/itoshiori/0200036444
パンデミックとコメディアン
“コロナ禍”の今、コメディに何ができるのか——。アメリカの「お笑いの街」として知られるシカゴで、コメディの新たな可能性を追求する27歳の日本人スタンダップコメディアン柳川朔を追った土生田晃監督作品。
https://creators.yahoo.co.jp/habutaakira/0200064515
“消えた”芸人
世間から「消えた」と言われる芸人がいる。ウーマンラッシュアワーの「村本大輔」だ。今、彼が挑戦するのは、コメディの最高峰であるアメリカの舞台。挑戦する村本さんの姿を追った日向史有監督作品。
https://creators.yahoo.co.jp/hyugafumiari/0200053903
金川雄策プロフィール
Yahoo! JAPAN CREATORS Program 短編ドキュメンタリー部門責任者。2004年より全国紙の映像報道記者として、東日本大震災、熊本地震、パリ同時多発テロ事件、ブラジル・リオパラリンピックなど国内外の現場で取材。情報をより早くわかりやすく伝えることに重点が置かれるニュースの限界を感じ、より深く伝えられるストーリーや映像の可能性を信じて、NY でドキュメンタリーフィルムメイキングを学ぶ。1年間の休職留学中に監督や撮影監督をした作品が、SXSWなど海外映画祭にノミネートされた。2017年ヤフージャパンに入社し、日本に新しいショートドキュメンタリー市場を作ろうと活動中。
●VIDEOSALON 2020年9月号より転載