「暮らしの映像」入門 第5回 〜 実践編その1.企画書づくり


●今井友樹(ドキュメンタリー映画監督)

◉第4回はこちらから  https://videosalon.jp/serialization/kurashi_4/

 

どんな映像作品も企画書から

これまで無形民俗文化財の映像記録を簡単に紹介しました。今回からは実際の映像作品がいかに作られていくのか、紹介していきたいと思います。

まずは企画書づくり。どんな映像作品も企画書から作品作りがはじまります。企画書をもとに、設計図となる構成台本を書き、実際に撮影を行い、撮りためた映像素材を編集して作品が完成する流れです。

企画書の書き方は様々です。企画書の読み手によって変わるからです。例えば、とある民俗芸能の映像記録をしたいとき、企画書を読む相手は民俗芸能の事情を知らない映像スタッフの場合もあれば、事情をよく知る保存会や行政の関係者の場合もあり、読み手によって書き方が変わってきます。また映像制作に必要なお金を得るために補助金や助成金申請を行うこともあります。その場合は、申請書(企画書)のフォーマットが用意されており、文字数や書くべき内容が決まっています(下の写真参照)。

 

 

何を撮りたいのか

企画書を書くにあたり、まずは何を撮りたいのかをはっきりとイメージしておく必要があります。そのイメージは資料集や調査を行うことで、具体的に膨らませていくことができます。そして企画書に書くべき内容は、主に主旨・目的・内容です。例えば、民俗芸能を映像記録するために、何を撮りたいのか(主旨)。この民俗芸能をなぜ撮るのか(目的)。そして、いかに撮るのか(内容)。また、どういう視点や切り口で描くのかを記載することも重要です。ただし情報を全て書き込む必要はありません。長々と書くより、簡潔に短くポイントを押さえて書いたほうが、より相手に伝わります。

2018年に制作した『坂網猟 人と自然の付き合い方を考える』(石川県加賀市で伝承されている野生のカモを捕まえる坂網猟の映像記録)は、はじめに保存会の人たちから映像記録の可能性について相談を受けました。そこで、事前に地元の人々にヒヤリングをおこない、350年以上の歴史があるとされている坂網猟の背景はなんなのか。継承にどのような変容がみられるのか。またどんな記録が求められているのかを調査して企画書を書きました。坂網猟は片野鴨池という小さな池の周囲で行われます。その片野鴨池は水鳥などの生き物の生態を守るラムサール条約湿地でもありました。その中で、坂網猟は乱獲をせず、猟師が冬の間池の環境保全につとめてきました。ラムサール条約では、その猟師の取り組みが賢明な利用法(ワイズユース)として評価されていました。ワイズユースを言葉ではなく、いかに映像で説明できるのか。そこを撮りたいと考えていました。

 

身近に溢れている企画書

企画書は、実は身近に溢れています。映画館でよく見かけるチラシ。これは読み手に“この映画を観てみたいと思ってもらうために書かれた企画書と言えます。チラシの裏面には、ストーリーや映画の見どころ、要素が簡潔にわかりやすく書かれています。僕は、今でも先輩映画監督たちの映画チラシの裏面を参考にしながら、企画書作りのヒントを得ています。良い作品は企画者の撮りたいが、読み手の観たいと一致しているように思います。

 

まずは書いてみよう

企画書がよく出来ていても、実際に現場で予想や期待が裏切られるのは、当たり前のこと。その状況下で悩みながら向き合い、作品の方向性を導き出すのは楽しい作業です。自分自身の頭を整理しておく意味でも、まずは企画書を書くところからはじめてみましょう。

実は僕は企画書を書くのがあまり得意ではありません。特にはじめは長文でだらだらと書いてしまう悪い癖があります。そんな時は、いつも仲間やスタッフ企画書を読んでもらいます。そしてアドバイスを受けながら何度も手直しを重ねて、伝えたい情報を凝縮していきます。また煮詰まったら、12日距離を置くようにもしています。そうすると今まで気づかなかったアイデアや視点に気づくことがあります。自分は何を撮りたいのか。ぜひ想像を膨らまして企画書を書いてみてください。

次回は、企画書を書く上での事前リサーチについて紹介していきます。

 

民俗の映像記録作品紹介

今回から随時民俗の映像記録作品を紹介していきます。今回は、昨年46日沖縄県八重瀬町で行われたコロナの厄除けを願って行われた獅子舞の映像です。制作会社は、海燕社さんです。

 

◉海燕社制作映像「志多伯獅子加那志演舞 無病息災悪疫退散願」

 

海燕社さんよりコメント

沖縄県八重瀬町教育委員会委託で平成23年度に同町志多伯の獅子舞の年忌行事八月十五夜の豊年祭記録『獅子加那志の沈まれる村』を製作した。今年、志多伯獅子頭製作工程の映像記録を依頼され、現在製作中。今回の作品は、八月十五夜と年忌の豊年祭にのみ舞う志多伯の神獅子が、コロナ禍の厄除けのために特別に舞った貴重な映像。県内外に志多伯神獅子の厄除けを届けようとYouTube公開となった。

 

海燕社プロフィール

2010年に沖縄県で設立。「残しておきたい沖縄」をテーマに映像製作に取り組む。主に市町村委託作品を製作。2012年自主製作の短編ドキュメンタリー『ふじ学徒隊』は映文連アワード文部科学大臣賞。自社作品『イザイホウ』『ふじ学徒隊』の上映、配給、DVD販売の活動を進めるなかで、2015年から自社作品普及のために 「海燕社の小さな映画会」という上映会活動を開始。今では、自社作品だけでなく一般の人には観る機会のすくない県内外のすぐれた映像を紹介し、映画と文化の視野と裾野を広げる貴重な映画会として認知され高く評価されてきた。今年はクラウドファンディングで資金を募り 新しい自主製作映画に取り組む予定。

 

今井友樹監督プロフィール

1979年岐阜県生まれ。日本映画学校(現・日本映画大学)卒。2004年に民族文化映像研究所に入所し、所長・姫田忠義に師事。2010年に同研究所を退社。2014年に劇場公開初作品・長編記録映画『鳥の道を越えて』を発表。2015年に株式会社「工房ギャレット」を設立。https://studio-garret.com/

 

◉第1回はこちらから  https://videosalon.jp/serialization/kurashi_1/

◉第2回はこちらから  https://videosalon.jp/serialization/kurashi_2/

◉第3回はこちらから  https://videosalon.jp/serialization/kurashi_3/

◉第4回はこちらから  https://videosalon.jp/serialization/kurashi_4/