中・高・大と映画に明け暮れた日々。あの頃、作り手ではなかった自分がなぜそこまで映画に夢中になれたのか? 作り手になった今、その視点から忘れられないワンシーン・ワンカットの魅力に改めて向き合ってみる。

文●武 正晴

愛知県名古屋市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後フリーの助監督として、工藤栄一、石井隆、崔洋一、中原俊、井筒和幸、森崎東監督等に師事。『ボーイミーツプサン』にて監督デビュー。最近の作品には『百円の恋』、『リングサイド・ストーリー』、『銃』、『銃2020』、『ホテルローヤル』等がある。ABEMAと東映ビデオの共同制作による『アンダードッグ』が2020年11月27日より公開され、ABEMAプレミアムでも配信中。現在、NETFLIXでオリジナルシリーズ『全裸監督』シーズン2が配信中。2023年1月6日より『嘘八百 なにわ夢の陣』が公開!

第98回 冒険者たち

イラスト●死後くん

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原題: Les Aventuriers
製作年 :1967年
製作国:フランス/イタリア
上映時間 :112分
アスペクト比 :シネスコ
監督:ロベール・アンリコ
脚本:ロベール・アンリコ/ジョゼ・ジョヴァンニ/ピエール・ペルグリ
原作:ジョゼ・ジョヴァンニ
製作:ジェラール・ベイトー/ルネ・ピニェア
撮影 :ジャン・ボフェティ
編集 :ジャクリーヌ・メピエル
音楽 :フランソワ・ド・ルーベ
出演 :アラン・ドロン/ リノ・ヴァンチュラ/ジョアンナ・シムカス ほか

ジョゼ・ジョヴァンニの同名小説をロベール・アンリコ監督、アラン・ドロン、リノ・ヴァンチュラ主演で映像化した作品。それぞれの夢に破れた3人の男女が、アフリカの海底に眠る宝探しの冒険へ旅立ち、財宝を得ようとした結果の悲愴な運命を描いている。

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99本目の映画は、僕の父親が人生で一番好きな映画と言っていた『冒険者たち』を紹介したい。僕が小学生の時に聞き及んだので、新たに一番好きな映画があるかもしれないが。僕が生まれた年の1967年作品。父が29歳の時に観ていることになる。

いかに素晴らしい映画かを父は幾度となく語ってくれた

僕が最初に観たのは高校2年の時で、名古屋のシネマテークの会員だった父が仕事のため上映会に行けず、代わりに観に行けと言われた。学校は明日もあるが、上映会の上映はその日限り。学校を休んで観に行くしかない。小学生の時に父と一緒に風呂に入っている度に『冒険者たち』がいかに素晴らしい映画かを父は幾度となく語ってくれた。アラン・ドロンが操縦する複葉機が凱旋門をくぐろうと飛行する場面。潜水服を着たヒロインが海の底に沈んでいく、美しい映像のことなどをタオルを風呂底に沈めながら語ってくれた。

ジョアンナ・シムカスという僕のファム・ファタル

成程、学校の授業を休んだ甲斐ある素晴らしい映画だった。ただ、父の記憶違いで、アラン・ドロンの複葉機は凱旋門の下をくぐれなかったし、劣化した古いプリントのため、潜水服のヒロインが沈んでいく場面の美しさは損なわれ、父が語ったほどではなかったように思われた。それでも僕は大好きなアラン・ドロンが益々好きになり、リノ・ヴァンチェラという素晴らしい俳優に出会い、ジョアンナ・シムカスという僕のファム・ファタルとの邂逅を父に感謝した。

水中シーンはとてつもなく美しかった

後に東京の名画座のスクリーン、DVDで観た水中シーンの美しさは父が語ったようにとてつもなく美しかった。撮影は名匠ジャン・ボフェティ。『愛と哀しみのボレロ』も素晴らしかった。

凱旋門をくぐる映像を撮る2500万フランの仕事を受けおった、パイロットのマヌー(アラン・ドロン)と相棒の中年自動車技師のローラン(リノ・ヴァンチュラ)、前衛彫刻家のレティシア(ジョアンナ・シムカス)の3人が主人公。凱旋門をくぐれずに失敗したマヌーは飛行ライセンスを停止させられ、ローランは開発したエンジンが爆発してテストに失敗。レティシアは勝負をかけた自分の個展を新聞で評論家にコテンパンに酷評され自信喪失、将来の道を閉ざされる。そんな3人がコンゴ動乱の際に脱出に失敗して海に墜落した飛行機に積まれている莫大な財宝を探しにいくという物語だ。

3人の失敗をパリという都市を寒々としたルックで見せながら描き、突然の灼熱のコンゴの冒険譚、レティシアの故郷アイクス島とナポレオンが作った要塞島フォール・ボヤールでの美しく哀しいラストシーン。3幕の舞台設定と撮影設計が3人の俳優の変化のコントラストを見事に生んで計算され巧みだ。 

ジョヴァンニの描く作品に随分と育てられた

監督はロベール・アンリコ。この監督の『追想』という戦争映画が凄まじかった。脚本にジョゼ・ジョヴァンニ。この人の監督、脚本の『ラ・スクムーン』『暗黒街のふたり』『ル・ジタン』『掘った奪った逃げた』の一連の犯罪映画は僕は大好きで、中でも実際の銀行強盗の事件を描いた『掘った奪った逃げた』は「日曜洋画劇場」で観て以来の大好きな映画で、井筒和幸監督の『黄金を抱いて翔べ』でも参考にさせてもらった。DVDになっておらず、劇場で一度でいいから観てみたい傑作。強盗殺人で死刑宣告されたほどのアウトロー(後に大統領恩赦で釈放)、ジョヴァンニが描く原作、脚本、監督作品に僕は随分と育てられた。

原作者のジョヴァンニは『冒険者たち』がソフトすぎると、気に入らず、自らリメイクして『生き残った者の掟』を制作、監督している。日本では斎藤耕一監督が『無宿(やどなし)』という高倉 健と勝 新太郎、梶芽衣子で『冒険者たち』をモチーフにした作品も撮っている。

フランソワ・ド・ルーペが遺してくれた名曲

夭折した天才音楽家、フランソワ・ド・ルーペが遺してくれた名曲、レティシアのテーマは今でも口笛で時々吹いてしまう。映画のオープニング、ジョアンナ・シムカスがこの曲と共に登場するタイトルクレジットシーンには毎度魅せられてしまう。

ジョアンナ・シムカスが若くハンサムなアラン・ドロンではなく中年男のリノ・ヴァンチュラといっしょに暮らしたいと愛の告白をするのが僕はとても気に入った。僕もリノ・ヴァンチュラの演じるローランが好きになっていたからだ。元プロレスラーのヴァンチュラは決して美男子ではないが、愛嬌のある表情と演技が素晴らしく『現金に手を出すな』のギャング、『死刑台のエレベーター』の刑事、『シシリアン』の刑事、『影の軍隊』のレジスタンスでは主役。僕はリノ・ヴァンチュラを追っかけた。フランス映画でジャン・ギャバン、アラン・ドロンにリノ・ヴァンチュラの共演は鉄板の組み合わせだ。

僕のファム・ファタル、ジョアンナ・シムカスはこの一本で永遠に名を残した。後に共演したシドニー・ポワチエと結婚して、長年アカデミー賞の舞台に夫婦で仲の良い姿を見せてくれていた。ポワチエは昨年亡くなったが、シムカスは未だ健在だ。

人生においてかなり重要な位置を占める作品

財宝を手に入れ1億フランずつを山分けした3人にハッピーエンドは訪れない。それでもその金の使い道を模索する、アラン・ドロンとリノ・ヴァンチュラの男気と友情とロマンに満ちた生き様に僕は共鳴を受けた。

パリから離れ、ナポレオンが造った要塞島で波の音を聞きながら暮らしたいという3人の主人公の願いは映画の中では叶えられなかったが、ラストシーンの要塞島の空撮に波の音が延々と聞こえてくる演出が素晴らしく心にくい。レティシアのテーマがもう一度流れるタイミングが絶妙で、エンドクレジットに毎度胸が熱くなる。僕にとってもこの映画は人生においてかなり重要な位置を占める作品となっている。

●VIDEO SALON2023年6月号より転載