リポート:井上卓郎(Happy Dayz Productions)
協力:日本サムスン株式会社/ITGマーケティング株式会社


2024年7月にニコンから発売された新しいカメラ、Z6III。まさか中級機であるZ6IIIにRAW動画収録機能が搭載されるとは思わなかった。そこで今回は、Z9やZ8に続き、Z6IIIでも汎用SSDとCFexpressコンバーターの組み合わせが使えるのかを検証した記事となる。

念のために、「メーカー保証の対象外になる可能性があるので、自己責任でお願いします」

●これまでの記事
【SAMSUNG SSD WORLD】 ニコン Z 8の撮影時間を延ばす! CFexpressカードの代替として汎用SSDは使えるか?https://videosalon.jp/pickup/samsung_z8_inoue/

【SAMSUNG SSD WORLD】8K RAW時代到来! CFexpressカードの代わりに汎用SSDが使えるのか? 第3弾【ニコン Z 9編】
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【SAMSUNG SSD WORLD】CFexpressカードの代わりに汎用SSDが使えるのか?第2弾【ニコン Z 9編】
https://videosalon.jp/pickup/samsung-ssd_inoue3/

【SAMSUNG SSD WORLD】CFexpressカードの代わりに汎用SSDが使えるのか?キヤノンEOS R5の8K RAW収録で検証
https://videosalon.jp/pickup/samsung-ssd_inoue2/

画質は最高だが、メリットとデメリットが同居するRAW動画収録

Z6IIIは、最大6K/60pのN-RAW形式と6K/30pのProRes RAW形式で収録することができる。RAW動画の魅力は、なんといってもその圧倒的な表現力。高い解像感とビット深度を活かした映像は、まさに圧巻の一言だ。しかし、その代償としてデータサイズが非常に大きくなってしまうのが悩ましいところ。必然的にビットレートも高くなるため、収録に使用するメディアにも高い性能が要求される。

記録メディアの選び方

メディア選びの際に重要な点は、「書き込み速度」「連続した書き込み速度の維持」「低発熱」の3点だ。まず、メディアの書き込み速度は非常に重要で、速度が遅いと収録ができなくなってしまう。また、高速書き込みを謳っていてもキャッシュが切れた途端に速度が遅くなってしまうメディアでは、長時間の収録が難しい。そのため、「連続した書き込み速度の維持」も重要なポイントとなる。最近のCFexpressカードにはVPGという規格があり、最低持続書き込み速度が保証されているものも存在する。さらに、長時間記録する場合、カメラが高温になると熱停止を起こす可能性があり、その要因のひとつに記録メディアの発熱がある。

最も確実なのはメーカーが推奨しているメディアを使用することだが、安定して書き込みができるCFexpressカードは依然として高価だ。そこで今回は「Samsung 990 PRO」という汎用SSDの2TB/4TBと、CFexpressカードスロット経由でNVMe M.2 SSDを接続するコンバーター「ZITAY CS-305」を使用して、コストを削減しながら記録時間を延ばすことができるかを検証してみよう。


Samsung 990 PRO
990 PROは、NVMe M.2対応のSSDで、PCIe 4.0 x4インターフェースをサポートしており、メーカー公称のシーケンシャル読み出し・書き込み速度は、それぞれ最大7,450MB/秒、6,900MB/秒に達する。990 PROは、効率的な電力管理機能により発熱を抑えつつ、安定したパフォーマンスを維持することが可能だ。

収録フォーマット収録可能時間(4TB)収録可能時間(2TB)
N-RAW 6K/60p(高画質)2時間20分1時間10分
N-RAW 6K/30p(標準画質)9時間9分4時間35分
ProRes RAW 6K/30p1時間46分53分
H.265 4K/24p39時間6分19時間33分

ZITAY CS-305
CFexpress Type BスロットにNVMe M.2 SSDを接続できるコンバーターだ。高価なCFexpressカードの代わりに、大容量でお手頃なSSDを使用可能にする。

熱停止するまでの時間を計測

前回までの検証で、CFexpressカードの熱が記録時間に影響を与えることが分かっている。Z9、Z8では8.3K RAWでのテストを行なってきたが、Z6IIIでは最高6Kまでの対応だ。そこで今回は、以下の設定でテストを行なった。

・6K/60p N-RAW(高画質)
・6K/30p N-RAW(標準画質)…私が普段使用している画質モード
・6K/30p ProRes RAW
・H.265(解像度フレームレートは後述)

計測条件

・各計測の間隔は2時間以上空け、カメラとSSDが冷えた状態で行なった。
・室温はおおよそ25℃程度の室内で実施
・ニコンのカメラは2時間5分で収録が停止するので、停止直後に収録を再開
・H.265は収録可能時間が長いため2時間5分まで計測

収録フォーマット記録可能時間(4TB)実測(4TB)結果
N-RAW 6K/60p(高画質)2時間20分2時間21分熱停止せず
N-RAW 6K/30p (標準画質)9時間9分9時間10分熱停止せず
ProRes RAW 6K/30p1時間46分2時間35分熱停止せず (VBRのため実収録時間と誤差あり)
H.265 4K/24p39時間6分2時間5分4K/60p以上は数秒で停止

テスト結果は表の通りである。

N-RAW、ProRes RAWともに、SSDの4TBを停止することなく書き込むことができた。SSDは容量の残りが逼迫すると転送速度が落ちる場合があるが、問題なく最後まで収録することができた。ここまでは何度もテストしてきたため想定通りの結果であり、RAW動画収録において汎用SSDとコンバーターの組み合わせの有用性が改めて確認できた。しかし、今回は初めて問題が発生した。

H.265でもテストを行なったところ、4K/60p以上の解像度やフレームレートで収録しようとすると、数秒で記録が停止、もしくはカメラがフリーズしてしまう現象が発生した。SSDの個体差かとも考えたが、4TB、2TBともに停止した。また以前のテストで使用した980 PROでも試してみたが、同様に停止してしまった。そこでZ9やZ8でも試してみたところ、問題なくH.265での収録ができたため、Z6III特有の問題であると思われる。

Z6III ファームウェアのアップデート

この記事を書いている最中に、Z6IIIのファームウェアVer.1.02が公開された。更新内容には「一部のCFexpressカードにおいて、動画が正常に記録できない場合がある。」と記載されていたので、「はは〜ん、これだな」と思いファームウェアアップデートを行なった。しかし、結果は変わらず、H.265では安定した記録ができなかった。メーカー推奨ではないアングラな収録方法なので、こういう時は諦めも肝心だ。H.265はファイルサイズも小さいので、わざわざ外付けSSDに記録する必要もない。

CFexpress 4.0のリーダーで読み出し速度は高速化するか?

高速メディアのメリットは、撮影時だけではない。撮影後に膨大な映像データをオフロード(バックアップ)する際の転送時間を短縮することができる。現場でバックアップを取る必要がある場合、この作業時間は意外と無視できない。前回まではCFexpress 2.0のカードリーダーを使用して転送速度の計測を行なってきたが、今回は新しい規格であるCFexpress 4.0に対応したカードリーダーでも計測を行なった。今回使用したカードリーダーは、従来の2.0のものに比べ、理論上2倍の4GB/sの転送速度を持つものだ。

これまで、ZITAY CS-305 + Samsung SSDで収録したデータをオフロードする際、USB 3.2 Gen2(10Gbps)接続やThunderbolt 3接続のCFexpress Type Bカードリーダーを使用していたが、今回CFexpress 4.0Type B(32Gbps)に対応するUSB4接続のカードリーダーを試す機会があったので、転送速度に差があるのか検証してみた。

過去にCS-305をThunderbolt 3接続のカードリーダーで転送した際に1,500MB/s程度だったため、CFexpress 2.0 Type B(16Gbps)がインターフェース上限であれば速くても2,000MB/s程度だろうと予想していたが、予想に反し読み出しで3,000MB/sを超える結果となった。

USB 3.2 Gen2接続のカードリーダーでは1,000MB/s弱の速度の読み出し速度だったので、カードリーダーをCFexpress 4.0 Type Bに対応するUSB4接続のリーダーに替えるだけで3倍以上高速化できることになる。

CFexpress 4.0カードリーダー(USB4接続)
CFexpress 2.0カードリーダー(USB3.2 Gen2接続)

ZITAY CS-305がCFexpress 4.0 Type Bに対応しているのかは製品仕様などに記載がないため断定はできないが、いずれにしても今後はオフロード元、オフロード先のストレージ速度や、接続するパソコンのUSBインターフェース速度などに留意する必要がますます出てくることになりそうだ。

CFexpress 4.0とは?

CFexpress 4.0はPCIe 4.0インターフェースを採用しており、2レーンのType Bの最大転送速度は理論値で約4GB/秒に達し、CFexpress 2.0 Type Bの2倍の転送速度を実現している。高速なデータ転送が可能で、8K映像やRAWデータの高速処理に対応した最新の高速メモリカード規格だ。

PCIe 4.0の採用など、Gen4 SSDであるSamsung 990 PROと共通している部分も多い(共通というより、Gen4をベースに策定されているのだろう)。ただし、まだCFexpress 4.0に対応しているカメラはなく、今後の展開が期待される次世代メディアだ。

コスト比較

Z6IIIの推奨メディアにも含まれているNextorage CFexpress 4.0 Type B 1330GBは約168,000円。また、推奨メディアには入っていないが、おそらく問題なく使えるProGrade Digital CFexpress 2.0 Type B GOLD 2TBは約72,000円だ。

一方、今回の検証に使用したSamsung 990 PRO 4TBは約62,000円、2TBは約26,000円、ZITAY CFexpress to SSDコンバーターアダプターCS-305が約20,000円で、合計82,000円(4TB)、46,000円(2TB)となり、CFexpressカードと比べて圧倒的なコストパフォーマンスを実現している。

まとめ

ニコンZ6IIIでRAW動画収録を行う場合、CFexpressカードの代わりに汎用SSDとCFexpressコンバーターの組み合わせが使えるかどうかを検証した。結果は、N-RAWとProRes RAWの収録において、SSDの4TBを停止することなく書き込むことができた。しかし、H.265での収録では、4K/60p以上の解像度とフレームレートで収録しようとすると数秒で停止してしまった。これはZ6III特有の問題である可能性が高い。

また、CFexpress 4.0のリーダーを使用して読み出し速度を計測したところ、CFexpress 2.0のカードリーダーと比較して書き込み速度が約2.5倍、読み出し速度が約3倍と非常に高速で現場での作業効率アップに有効だ。

コスト比較では、CFexpressカードと比べて汎用SSDとCFexpressコンバーターの組み合わせのほうが非常にコストパフォーマンスに優れている。

今回の検証結果から、RAW動画収録においては汎用SSDとCFexpressコンバーターの組み合わせが有用であることがわかったものの、H.265での収録では注意が必要である。

◉Samsung 990 PRO (4TB)
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHRSJ4LR/(Amazonサイト)

◉Samsung 990 PRO (2TB)
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BPXRY7N2/(Amazonサイト)

◉ZITAY CFexpress to SSD Converter Adapter CS-305
https://www.zitay.com/Search-cs-305/list-r1.html(メーカーサイト)

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