キヤノン主催の文化支援プロジェクト「写真新世紀」の2021年度(第44回公募)グランプリ選出公開審査会が11月12日に東京都写真美術館で行われ、賀来 庭辰氏の『THE LAKE』(動画作品)がグランプリを受賞した。

「写真新世紀」2021年度(第44回公募)は、2021年3月17日〜5月31日の期間で募集を行い、過去最多となる2,191名(組)が応募。これらの数多くの応募の中から7月の優秀賞選出審査会で、優秀賞受賞者7名と佳作受賞者14名が選出された。

11月12日に行われたグランプリ選出公開審査会では、優秀賞受賞者7名がそれぞれプレゼンテーションおよび審査員との質疑応答に臨み、その後、審査員の合議により賀来氏のグランプリ受賞が決定した。賀来氏は2017年の佳作に続く受賞となった。

賀来氏には、奨励金として100万円および副賞としてキヤノンのミラーレスカメラ「EOS R5」/交換レンズ「RF24-70mm F2.8 L IS USM」が贈呈され、次年度における新作個展開催の権利が授与さる。グランプリ選出公開審査会の様子は、今後「写真新世紀」ホームページにて紹介予定。

 

受賞作品の制作意図について

標高1,000mを超える山々に囲まれた湖。
冬の3か月間、湖を眺める部屋に滞在し、湖が凍ってから解けるまでを記録した。
風が吹くと海のように波を立て、雨が降ると霧が舞い込んでくる。
そして冬の最も寒い頃、徐々に湖は氷結していく。
湖が凍る夜、その場所には特別な音が鳴り渡る。
やがて湖が解けたとき、
「それはそこにかつてあった、が、確かにそこにまだある」という感覚を覚える。
私はただ自然の生活(変化)を見つめ続けることに身を任せることにした。

本作は、日記のようであり、写真のアルバムのようでもある。
幾度も湖の周りを歩き、時に石を投げ、舟を漕ぐ。
それは、3か月にわたる湖と私との言葉なき対話でもある。
ただそこに境目などはなく、すべては見る人にひらかれている。

 

受賞者のコメント

グランプリを受賞した賀来氏は、受賞の感想を次のように述べた。

「今この場所に立てることを非常に嬉しく思っています。僕がこの作品でグランプリを獲るためにずっと支えてくれた友人や大切な人たちがいて、そのような方々に恩返しができたかなと思っています。写真新世紀2017で佳作をいただいて、また今回優秀賞をいただいたことで非常に救われました。写真新世紀がなくなってしまうことを聞いた時は本当に驚いて、悲しい気持ちになりました。この写真新世紀が忘れられないように、作家である僕たちが頑張らなくてはいけないと思っています。また、両親とは隔たりがありますが、今回グランプリを受賞したことはしっかり伝えたいと思います。本日会場に来ていただいた皆さま、審査員の皆さま、本当にありがとうございました」

 

審査員のコメント

審査員の清水 穣氏は、賀来氏のグランプリ受賞および今年の「写真新世紀」について、次のように述べた。

「グランプリを受賞された賀来さん、本当におめでとうございます。アナログ写真のコンクールとして始まった写真新世紀の最後で動画作品が受賞したことは非常に象徴的で、写真の概念や撮影技術がここまで変化してきたことの表れだと思います。先ほど賀来さんがおっしゃっていた2017年の佳作受賞時はご自身のルーツをたどった作品であり、今回は私小説の作家が傷を癒しに湖へやってきたというような、非常によくできたフィクションでした。これから映像作家や写真家としてまったく別の作品を作っていく可能性を感じ、グランプリに選出しました。

今回の総評としては、「人間と自然の関係性」において自然の脅威をかつてないほど感じ、私たちが生きている文明の脆さや、家の床の下には水がすぐそこまで押し迫っているのではないかといった、人間と自然を分けていたテクノロジーがそこまであてにならないという危機意識の象徴として「水」がほとんどの優秀賞作品のテーマとして共通していた点が面白かったです。また、根源的な条件について考えを巡らせるという点でも今回の優秀賞作品は共通していて、時間と空間、世界と自己など、シンプルだけれども深い問題に写真で立ち向かうという点が共通していたことも、最後の写真新世紀にはふさわしかったと思います」

 

写真新世紀とは

「写真新世紀」は、写真表現の可能性に挑戦する新人写真家の発掘・育成・支援を目的としたキヤノンが主催する文化支援プロジェクトで、1991年にスタートし今年で31年目を迎える。キヤノンでは受賞作品展の開催や受賞作品集の制作、ホームページでの情報発信など、受賞者の育成・支援活動を総合的に行うことで、次世代の写真表現を切り開く新しい才能を発掘し、写真界に新風を吹き込む活動を展開。これまでの応募者総数は35,550名(組)に上り、国内外で活躍する優秀な写真家を多数輩出するなど、新人写真家の登竜門として認知されている。「写真新世紀」の公募は、30周年の節目をもって今年度で終了する。

 

◉写真新世紀
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キヤノン株式会社
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