リポート:井上卓郎(Happy Dayz Productions)
協力:日本サムスン株式会社/ITGマーケティング株式会社
さて、再び挑戦です。CFexpressカードの代わりに汎用SSDを使って、コストを削減し、記録時間を延ばすという試み。今回は話題のカメラ、Nikon Z 8を使って試しました。
念のために、「メーカー保証の対象外になる可能性があるので、自己責任でお願いします」
●これまでの記事
【SAMSUNG SSD WORLD】8K RAW時代到来! CFexpressカードの代わりに汎用SSDが使えるのか? 第3弾【ニコン Z 9編】
https://videosalon.jp/pickup/samsung-ssd_inoue4/
【SAMSUNG SSD WORLD】CFexpressカードの代わりに汎用SSDが使えるのか?第2弾【ニコン Z 9編】
https://videosalon.jp/pickup/samsung-ssd_inoue3/
【SAMSUNG SSD WORLD】CFexpressカードの代わりに汎用SSDが使えるのか?キヤノンEOS R5の8K RAW収録で検証
https://videosalon.jp/pickup/samsung-ssd_inoue2/
●関連記事
ニコンZ 9ファームアップで可能になった8K RAW動画のワークフローを検証する
https://videosalon.jp/report/z_9_8kraw/
ニコンZ 8は、ニコンのフラグシップ機Z 9の機能をほぼそのままに、体積比で約30%、重量で430gコンパクトに。機材の重さを少しでも軽減したい私のような人にとっては、待ち望んでいたカメラだ。Z 9から縦グリップを取り除いただけと思われがちだが、Z 9の縦グリップ内にはバッテリーが入っていて、排熱にも役立っていたので、コンパクト化するには設計が難しかったはず。実際、サイズ感と排熱性能のバランスの影響からか、Z 9に比べて動画の記録時間が短くなっている。
さらに、バッテリーが大容量のEN-EL18dからZ 6 / Z 7で使用しているEN-EL15cになり、動画撮影時間や静止画の撮影枚数が減っている。
それ以外はZ 9と同等。どのくらいの時間止まらずに動作するかの検証は、現場で運用する際の指標になる。今回も「ZITAY CFexpress to SSD Converter Adapter CS-305」とSamsungのSSD「980 PRO 2TB」の組み合わせで検証した。また、メーカー推奨のCFexpress、Nextorage B1 Proでも同様の検証を行い、汎用SSDと比較してみた。
前回までの検証で、CFexpressカードの熱が記録時間に影響を与えることは分かっている。
CFexpressカードはPCIeインターフェースが採用されており、現行のCFexpress2.0ではPCIe3.0(Type Bの場合は2レーン)ベースとなる。Type BのCFexpressの転送速度が2,000MB/s以下なのは、このインターフェース速度の上限のため。現在、SSDの主流はTLCタイプのNANDベースだが、スペックに記載されている書き込み性能はSLCキャッシュが有効な場合の速度がほとんどで、キャッシュ切れ後は書き込み性能が落ちる。一般的に、低容量のSSDはキャッシュ切れ後の書き込み速度が遅い傾向にあるため、最低でも1TB以上のSSDを選ぶのが無難。また、より安価なQLC NANDベースのSSDも出てきているが、キャッシュ切れ後の性能低下幅はTLC NANDよりも大きいため、安定した書き込み性能が求められる場合には避けたほうが良い。
今回テストする「Samsung 980 PRO 2TB」は、PCIe 4.0 x4に対応したTLCタイプのSSDである。
●「Samsung 980 PRO 2TB」
▲PCIe 4.0 x4対応しているNVMe M.2タイプのSSD。最大転送速度 : 読出7,000MB/秒 書込5,100MB/秒
実売2万円程度
●「ZITAY CFexpress to SSD Converter Adapter CS-305」
▲CFexpressカードスロット経由でNVMe M.2 SSDを接続するコンバーター。実売2万円程度。
▲CS-305に980 PROを組み込む。裏面の蓋を開けSSDをセットする。普通のエンクロージャー(SSDケース)と同じだ。
▲Z 9ではカードスロットの蓋が取り外せたが、Z 8では取り外せない。
▲そのままだとコンバーターがプラプラしているのでSmall RigのLプレートに固定
▲フォーマットはクイックフォーマットではなく物理フォーマットで初期化を行った。
熱停止するまでの時間を計測
前回までは最高解像度(Nikon Z 9 8.3K/60p 、Canon EOS R5 8KUHD/30p)で検証をしてきたが、今回は解像度とフレームレート、記録方式などの組み合わせを変えて計測を行なった。メディアの容量いっぱいに記録ができた場合は一度フォーマットを行い、続けて2回目の計測を行うことでZ 8の熱耐性をみることにした。2回フルに書き込みができた場合は熱に対する耐性は充分ということでそこで終了にしている。
また計測の間隔は2時間以上空け、カメラ、SSDともに冷えた状態で行なった。室温は大体25℃程度の室内。真夏の炎天下などの撮影では結果が変わる可能性がある。
またメーカーの推奨メディアを使った比較も行なった。CFexpressも年々性能が上がっている。持続書き込み速度、熱対策などが施され、SSDを外部に記録するのとどのくらい差が出るのか比較してみた。今回比較に使用したCFexpressカードは最近推奨メディアに追加されたNextorage B1 Pro 1330GB 実売価格14〜16万円程度。
HOT CARDとHOT CAMERAの警告について
HOT CARD警告:カードが熱くなっているので取り出す時に火傷に注意という警告
HOT CAMERA警告:カメラが熱くなっている。まず温度計のアイコンが表示され、次にHIGHの文字が加わり、最後に記録停止のカウントダウンが始まる。
どちらの表示が出てもすぐに停止するということはないので慌てる必要はない。
N-RAW最高解像度 8.3K(12bit)での測定
60pの場合、画質が高画質、標準共にSSDの場合60〜65分で熱により停止、CFexpressカードでは40分前後で停止したのでSSDのほうが20分ほど連続記録の時間が長い。カードの発熱が原因と思われる差が出た。
30pの場合はSSD、CFexpressともに途中で停止することなく2セットフルに記録できた。
以下のグラフでは、途中停止した際の残り記録可能時間を緑色(Remain)で表している。緑色がないグラフは2回の記録とも完走したということになる。
メディア使用順実撮影時間比較
通常このような使い方をすることはないと思うが、N-RAW 8.3K 60p高画質を記録する際にメディア使用順を変えて検証してみたところ、1回目SSD、2回目CFexpressのほうが 熱停止までの時間が長かった(74分 vs 51分)。
Apple ProRes RAW HQ(12bit)での測定
Z 8はN-RAW以外に、解像度は4.1K/60pまでとなるがApple ProRes RAW HQでの収録も可能だ。こちらもSSD、CFexpressともに途中で停止することなく2セットフルに記録できた。SSDを使った収録ではHot Cameraの熱警告が出ることはなかった。ProRes RAWは画像エンジンへの負荷が小さいのかもしれない。
H.265(10bit)での測定
H.265では最高解像度の8K UHD/30pおよび4K UHD/60p(オーバーサンプリングの拡張※オン/オフ)で測定をした。結果としてオーバーサンプリングの拡張を使用した4KUHD 60pが40分程度で熱停止をした。8K UHD/30pも熱により停止はしたが、123分の記録ができていることから、オーバーサンプリングの拡張を使うと画像エンジンに高い負荷がかかり、熱が発生すると想定できる。
※オーバーサンプリングの拡張 8Kで読み出したデータをオーバーサンプリングして、4K UHD動画を生成、解像感が高く見える高画質な映像を記録できる。
コスト比較
昨年検証した時は4万円だった980 PRO 2TBだが、今年に入りSSD価格が下落したおかげで2万円前後で購入することができる。さらに高性能な990 PROも出たがとりあえず8K映像の収録には980 PROで充分な性能を発揮している。比較のために使用したNextorage B1 Pro 1330GBは最近発売され、Z 8の推奨メディアにも入っている。Z 9 やEOS R5で使用していたProGrade CobaltやAngel Bird AV PROより発熱が抑えられている感覚がある。実売価格が14〜16万円程度となかなかお高い(私はセールの時に約10万円で購入)。
Samsung 980 PRO 2TB(実売2万円)とZITAYのコンバーター(実売2万円程度)の組み合わせは4万円とCFexpressカードと比べて圧倒的なコストパフォーマンスだ。
まとめ
Z 9はアンストッパブルを謳い、熱による停止はなかったが、Z 9に比べて小型軽量化したZ 8は熱による停止があることはメーカーからも告知されている。どのような条件でどのくらいの収録ができるのか目安がわかれば運用もしやすいと思うので、今回の記事が参考になれば嬉しい。
購入してからかなり使い込んでいるが、今回のように連続した収録でなければ熱で停止することはほぼないだろう。またZ 8は熱で停止しても数分、間を置けばすぐに撮影が再開できる。不安要素を少しでも減らして長時間連続撮影をしたい場合はZ 9のほうが安心ではあるが、Z 8のコンパクトさはそれ以上にとても魅力的だ。
汎用SSDとコンバーターの組み合わせの使用はCFexpressに比べ撮影時間が延びるのと圧倒的なコストパフォーマンスという点でとても優れている。私はSamsung 980 PROを編集用のメディアとしても使用しているが今のところトラブルは一度もなく安心して使用することができている。データの大容量化が進む最近の動画撮影・編集においてSSDの活用は選択肢のひとつとして考えても良いのではないだろうか。
資料としてHot Camera、Hot Cardの警告が出た時間も含めて記載した表組を添付した。リンクはこちらから
◉Samsung 980 PRO (2TB)
https://www.amazon.co.jp/dp/
◉ZITAY CFexpress to SSD Converter Adapter CS-305
https://www.zitay.com/Search-