DJIから発売になったMavic Air 2。全モデルでのカジュアルなデザインから一変し、Mavic 2 Proに近いデザインへと変更された。199gのMavic MiniとProとの中間に位置する機体として発売されたAir 2だが、TVCM・映画・MVなどの現場で活躍するドローンパイロットである遠藤さんの視点から見た、このドローンの魅力をレポートしてもらった。
レポート●遠藤祐紀(AIR FLEET)
DJIからMavic Airの後継機種となるMavic Air 2が、2020年4月28日に発表され、5月21日よりデリバリーが開始されました。「Air」や「Mini」というモデル名からして、iPadを意識していることは明らかですが、昨年199gの小型・軽量ドローン Mavic Miniが登場したことで、各モデルの機体サイズや性能など、立ち位置が今一歩マッチしていない状況から、Air 2の登場によって、モデル名に合ったラインナップに整理された感じがします。とはいえ、新しくリリースされた機種が性能アップし、新しいテクノロジーを搭載したとしても、より高額である上位モデルを追い越してはいけないという暗黙のルールがある筈なので、搭載、装備されているテクノロジーや性能は、まさにMavic 2 ProとMavic Miniの中間に位置するモデルということになります。
4倍お得なクアッドベイヤー配列センサー
まずは撮影クオリティーを左右するセンサーサイズを見てみましょう。センサーサイズは、前モデルからほんの少し大きくなって、クアッドベイヤー配列の1/2インチCMOSがチョイスされ、写真では最大4800万画素(8000×6000ピクセル)を得られます。「1/2インチで4800万画素?」って思いますが、クアッドベイヤー配列によって内部処理をしているようです。
上位機種のMavic 2 Proのセンサーは1型で有効画素数は2000万画素。Mavic Zoom、初代のAirや現行のMiniは、1/2.3型で有効画素数1200万画素ですので、センサーサイズの大型化とクアッドベイヤー配列の採用で上位機種を超えずに性能アップを実現しているということになります。クアッドベイヤー配列センサーというのは、1つの色(シングルフレーム)が4画素に分割されていて、1回の露光で異なる露出を得たり、複数の補完的な読み出しを行えるというテクノロジーで、1/2型CMOSであっても4800万画素(初代Airは1200万画素なので4倍)、4K/60pやHDRが得られるという理屈。最大ビットレートは少し上がってコンシューマー向けでは最大の120Mbpsとなっていまして、初代のAirからは大きくクオリティーアップしています。
▲Mavic Air 2のHDR動画、テスト撮影
とはいえ、Mavic 2 Proのように、ギミックなしの等倍で読み出せる1型センサーと比べるのは少し酷ではあります。Air 2の撮影データを意地悪して等倍サイズまで拡大してみると、1回の露光で複数の露出を得るHDRは別としても、初代のInspire X3のようなアニメチックな絵作りが若干と、僅かなノイズとチリチリとした圧縮ノイズを感じますが、普通に見ている分にはそんなに気になることはありません。
▲4K/30pのテスト映像
▲4K/60pのテスト映像
ノーマル動画の4K、2.7K、1080pの場合は60pまで撮影できますが、HDR動画を撮影する場合は各解像度で30pまでで、このことからもクアッドベイヤー配列のシングルフレーム4画素で「コマ数を稼ぐか露出を処理するか」の補完処理していることがわかります。
また、今回スローモーションに関しては1080/240pまで撮れるようになりましたが、様々な設定を追い込んでいかないと、他の機種のHSと同様にジャギーが目立ってしまうので、今後、オマケ機能ではない形で搭載されることを期待しています。
▲1080/240pのスロー映像。
8000ピクセルを超えるパノラマ写真は優秀
他の機種にも搭載されていますが、Air 2に搭載されている各種「パノラマ」はとても優秀で、生成されるデータは8,000ピクセルを超え、とても美しいです。プリセットとしては「スフィア」「180°」「広角」「垂直」と4種類で、各プリセットでは専用のレンズを用意したかのような素晴らしい画角が得られます。この「パノラマ」はクアッドベイヤー配列を利用するのではなく、機体がオートで複数枚の撮影を行い、ステッチまで自動でやってくれるタイプです(ステッチの内部処理状況によって生成サイズが若干変わります)。上空の風速や、ジンバルの水平キャリブレーションの精度によってはステッチが乱れたりもしますが、この機能だけで考えても、旅行に出た際に絶景撮影を行うには最適なガジェットだと言えます。
障害物検出センサーは前後下方のみ
障害物回避システム用のビジョンシステムは、前方と後方、下方のみで、左右と上方は装備していません。障害物が多い場所でのフライトは注意が必要。バッテリーのロック位置に電子的なスイッチが追加されています。充分にロックされていない場合は、アラートが出て知らせてくれるようになりました。純正のNDフィルター(別売)が用意されているため、カメラフロント部分が簡単に脱着できます。
サイズアップした機体とモーター対角
機体の性能を左右する機体サイズ、モーター対角を見てみましょう。新しく発売されたAir 2のモーターの対角は302mmとなっています。現行機種のMavic 2 Pro/ZoomとPhantom 4 Proシリーズは、354mmと350mmとなっていまして、今回のAir 2はそれらに割と近いサイズまで大型化しています。
それに対して初代Airのモーター対角は、たった213mmしかなく、信じられないことに199gのMavic Miniと全く同じサイズです。初代のAirは、モーター対角が小さかったため傾斜角度に対しての重心移動に物理的な限界があり、結果、耐えられる最大風速は小さくなり、機体の傾きに対してカメラジンバルのリミットがすぐに来てしまうという弱点がありましたが、Air 2では上位機種に近い所まで大型化されたため様々な面で性能アップしています。
※展開時のAir2外形寸法は幅253×奥行183×高さ77 mm。初代Airは幅184×奥行168×高さ64mm。
Mavic Miniからステップアップしたユーザーは、若干ピーキーな印象を受けるかもしれませんが、外圧に対する補正速度や限界運動性能、コントローラーのスティックフィーリングなど、総合的な味付けは完成の域に来ていると感じます。
OcuSync2.0となって最大飛行時間は34分
初代Airのコントロールやダウンリンク伝送系が特別弱かったわけではないのですが、OcuSync2.0になったことで心理的な安心感は格段に上がり、上位モデルのMavic 2 Proと遜色ないレベルになっています。旧LBシステムでは、電波環境の悪い場所で途切れがちだったダウンリンク伝送も別次元の安定性を見せてくれます。
Air 2の機体重量は、初代Airの140g増しで、Mavic 2 Proの63%程度となる570g。3,500mAh 40.02Whのバッテリーによって、最大飛行時間は34分(カタログ値)を確保しています。普段の撮影で25分を超えるようなフライトはあまり行いませんし、「Smart RTH」が用意されているためバッテリー残を意識しなくなった昨今でも、絶対的に余裕のある飛行時間は大きな安心材料になります。今回Air 2には、エネルギーを節約しながら帰還する「Power Saving RTH」が搭載されたことで、最終的にランディングするまでの余裕も大幅に増えています。
「Power Saving RTH」は、ホームポイントまでの距離と高度を鑑みて、帰還までの最適な降下角度(水平方向に16.7°)を計算するロジックで、ホームポイントの上空50mに到達すると、着陸シーケンスに入ります。ドローンの初期から関わっている者たちからすれば、自然と行なっていた帰還方法(水平方向に16.7°が最適というのは知りませんでしたが)ですが、日々人間の知恵が盛り込まれて賢くなっています。
気をつけたいプロペラの取り付け位置
海外のフォーラムなどでも、いち早く話題となっていましたが、クイックリリースプロペラの取り付け仕様の問題があります。クイックリリースプロペラは脱着が容易であるにも関わらず、間違えて装着できないようにプロペラの位置を逆に装着できない仕様に工夫されていましたが、今回のプロペラはどちらにも装着できてしまいます。
これは知的財産権関連のリスクヘッジのための措置なのかもしれませんが、うかつに扱うと痛い目に遭うので注意が必要です。基本的にはマークを合わせて装着すれば良いのですが、ドローンが飛行する理屈をご存知ない方は、うっかり装着してしまう可能性があります。そこはDJIも認識しているのか、モーターを起動しようとするとプロペラの取り付け位置確認を促すアラートが出るようになっていますので、自信のない方は再度チェックをお勧めします。
コントローラーはシンプルながら必要なボタンがしっかりと備わっている
今回のコントローラーではスマートフォンを装着する方法が少し変わりました。従来からの手前で左右から挟み込むお馴染みのタイプから、コントローラーの奥側で縦に挟み込むタイプに変更。さらに、今までのホイップアンテナは廃止になって、スマートフォンホルダーとアンテナが一体型となっています。マニュアルにもありますが、指向性の高いパネルアンテナのようなイメージですので、アンテナ面を常に機体方向に向ける必要があるのは、今までのホイップアンテナと同じです。ホイップアンテナがなくなってしまったため、経験の浅いユーザーさんには電波の飛んでいる方向感覚をイメージしにくくなったように思いますが、電波の弱い方向やデットポイントは常に意識してもらいたいです。
初代Airのフライトモードのスイッチは右側サイドに、MiniではAppのソフトウェアスイッチのみで物理的なスイッチが省略されていましたが、Air 2のコントローラーでは、正面中央にわかりやすく配置されました。左側奥には好みの機能割り当てられる「Fn」ボタンと、右側奥には静止画と動画を切り替えるボタンも用意されました。物理的なスイッチは手探りでも押せるので、よく使用するスイッチやボタンは入門機であっても最小限残してもらいたいと考えていたので、ここは評価したいところです。
夏場はバッテリーの熱に注意
テストフライトで長時間飛行させた際、バッテリーの温度がかなり高温になったことが気になりました。カメラヘッドの裏側には、非常に深い放熱用フィンが用意されていますので、大量の情報を処理する事で熱処理が厳しいのは容易に想像がつきます。プロペラ形状や機体の軽量化でエネルギー効率が良くなり長時間のフライトが可能になりましたが、夏場の放熱処理は追いついていない印象があります。充分な数のバッテリーを用意し、放熱し切れていないバッテリの追加充電をしない工夫や、連続飛行をできる限り控えることは必要かと思います。
Mavic 2 Proに手は出ないけれどというユーザーにおすすめ
Mavic 2 ProまたはZoomそれとも両方必要なのか? 「用途に合わせて両方揃えるべき」と言いたいところですが、そう考えるユーザーは、きっとドローンを生業としている方だと思います。初代Airから考えるとAir 2は別次元の機体になっています。もちろん贅沢を言えば上位の機種が良い訳ですが、4800万画素の静止画、4K/60p、8Kハイパーラプス、パノラマ写真等々Mavic 2シリーズにはない様々な機能を備えています。価格面を考えた場合、Mavic Air 2は手が届きやすく、良い選択になると思います。これからドローンの導入を考えている方やMini、初代Airからの乗り換えであれば、充分な選択肢としてお勧めしたい機種です。
●製品情報